一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第26話 魔物がおかわりを求めてきた件について

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 王宮の昼下がり。厨房の前に、ふわりと香りが広がった。

 ――それは、シャーリーが新作スープを作っている合図。

「……あぁ、この匂い、危険だわ……」

 ナターシャは自室のソファから立ち上がり、無意識に魔力障壁を張った。

 理由はただひとつ。
 シャーリーの料理は、人を呼ぶ。いや、“何か”を呼ぶ。

 数分後。

 王宮の外壁が、どん、と揺れた。

「ま、また来たわね……!」

 騎士が駆け込んでくる。

「ナターシャ様ぁぁぁ!! 王宮に魔物が迷い込んでおります!!
 た、たぶん……スープの香りにつられて!!」

「そんなバカな話がある!? ……いや、シャーリーならあるかもしれないけど!」

 廊下を走り抜け、厨房へ。

 そこには――でっぷり太ったイノシシ型魔獣が、鼻をひくひくさせながら佇んでいた。

「ブホォ……!」

 まるで“おかわり”と言わんばかりの目で、巨大な体を揺らしている。

 シャーリーが振り返り、いつもの笑顔を向けた。

「あら、魔獣さん。あなたもスープ飲みたいの?」

「やめてぇぇぇ!! 魔王種かもしれないのよ!? なぜ話しかけるのよ!!」

 ナターシャは慌てて詠唱しようとする。しかし、

「ちょっと待ってね、魔獣さん。もう少しだけ煮込むから♪」

「聞いてない!! 絶対こいつ分かってるわよね!? 言語理解してる目してるわよね!?」

 魔獣はコクリと頷いた。

「頷いたぁぁぁ!?」

 騎士団が遠巻きに固まる中、シャーリーは優雅にスープを差し出した。

「はい、味見どうぞ」

「ブホォォォ……!(キラキラ)」

 魔獣は美味しそうに飲み干し、その場で“満足のゴロン”をかました。

 扉枠が軋むほどの巨体のくせに、嬉しそうに転がっている。

「……ねぇナターシャ。魔獣って、お腹いっぱいになると帰るのね?」

「知らないわよ!!
 ていうかあなた、どこまで生態系を破壊する気なの!?
 王宮に魔獣来訪とか聞いたことないわ!!」

 魔獣は満腹になると、ゆっくり立ち上がり……

 ――ぺこりと頭を下げて帰っていった。

 騎士たちは信じられないものを見たような顔で固まる。

「シャーリー様の料理……魔獣に通じる……?」

「いや、何語よそれ!!」

 ナターシャは頭を抱えたが、シャーリーは肩をすくめ、笑った。

「食べてもらえるのって、なんだか嬉しいわね~」

「魔物に“おかわり”させて喜ばないで!!
 私の心臓が限界なんですけど!!」

 再び、王宮は平和……?になった。


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