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第二話 止まる王国
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第二話 止まる王国
王立学園の卒業舞踏会から三日後。
王城の執務室では、ただならぬ空気が漂っていた。
「……どういうことだ」
低い声が響く。
机の向こうに座るのは、ヴァルドール王国の国王――グレゴリウス・ヴァルドール。
壮年の王は一枚の報告書を机に叩きつけた。
その前に立つのは財務官と軍務官、そして商務官だった。
誰も顔色が良くない。
国王はゆっくりと報告書を持ち上げた。
「軍の補給契約が停止?」
財務官が震える声で答える。
「は、はい……」
「理由は」
「ノクティス公爵家による契約終了でございます」
国王の眉がぴくりと動いた。
「……続けろ」
軍務官が口を開く。
「西方軍の食料補給も停止しております」
「港の輸送契約もです」
商務官が続ける。
「王都の商会が三つ、撤退しました」
「なぜだ」
重苦しい沈黙。
財務官が恐る恐る答える。
「すべて……ノクティス公爵家の系列でございます」
国王はゆっくりと椅子に背を預けた。
「……まさか」
そして静かに呟く。
「ノクティス家が王家への支援を止めたのか」
誰も否定できなかった。
そのときだった。
執務室の扉が乱暴に開いた。
「父上!」
入ってきたのは王太子エドガルドだった。
国王はゆっくりと顔を上げる。
「ちょうどいい。説明してもらおう」
「何をです」
「お前は三日前、何をした」
エドガルドは当然のように答えた。
「ルシエラとの婚約を破棄しました」
「なぜだ」
「真実の愛を選んだからです」
国王のこめかみがぴくりと動いた。
「……そうか」
静かな声だった。
だがその目には怒りが浮かんでいる。
「お前はその令嬢が何者か理解していたのか」
エドガルドは眉をひそめる。
「ノクティス公爵家の娘です」
「それだけか」
国王は机を叩いた。
重い音が部屋に響く。
「ノクティス家は王国最大の財閥だ!」
エドガルドが一瞬言葉を失う。
国王は続ける。
「王家の軍資金の三割」
「王都の交易路の半分」
「王宮の銀行資金」
「すべてノクティス家が関わっている」
エドガルドは顔をしかめた。
「それは大げさでしょう」
その言葉に、財務官が思わず口を挟む。
「い、いえ殿下……」
「事実でございます」
商務官も続ける。
「王都の物流はノクティス家の商会が支配しています」
軍務官が言った。
「補給が止まれば、西方軍は三ヶ月も持ちません」
エドガルドは苛立った。
「それがどうした」
全員が凍りつく。
王太子は続けた。
「たかが一つの公爵家でしょう」
国王はゆっくりと立ち上がった。
そして静かに言った。
「……愚か者」
次の瞬間。
国王の拳が机を叩いた。
「お前は王国を揺るがす婚約を壊したのだぞ!」
部屋の空気が震えた。
エドガルドは顔をしかめる。
「父上は大げさです」
「ルシエラなどいなくても王国は回る」
その言葉を聞いた財務官の顔が青くなる。
商務官は額の汗を拭いた。
軍務官は黙っている。
国王はしばらくエドガルドを見つめていた。
やがて深く息を吐く。
「……まだ分からないか」
王はゆっくりと椅子に座った。
「報告を続けろ」
財務官が新しい書類を差し出す。
「王都銀行が融資停止を発表しました」
「理由は」
「ノクティス銀行の資金撤退です」
エドガルドの表情がわずかに変わる。
「銀行まで?」
商務官が続ける。
「港湾商会も契約終了しました」
「南方交易が停止しています」
軍務官が言う。
「軍の武器契約も止まりました」
国王は静かに言った。
「これが現実だ」
エドガルドは眉をひそめた。
「ならば命令すればいい」
「ノクティス家に従わせろ」
その瞬間。
部屋の空気が凍った。
国王はゆっくりと首を振る。
「できん」
「なぜです」
「契約だからだ」
王は静かに言う。
「すべて合法的な契約だ」
「ノクティス家には王家に従う義務はない」
エドガルドは苛立った。
「そんな馬鹿な」
そのとき、執事が入ってきた。
「陛下」
「何だ」
「王都商人ギルドから報告です」
国王が目を細める。
「読め」
執事は紙を広げた。
「本日付で、三十六商会が王都から撤退します」
財務官が青ざめる。
商務官が声を失う。
国王は静かに言った。
「理由は」
執事は答えた。
「すべてノクティス公爵家の関連商会でございます」
エドガルドは初めて言葉を失った。
王都最大の商会群。
それが一斉に消える。
それが意味することは一つだった。
王都の経済が止まる。
国王は息を吐いた。
「……これでもまだ分からないか」
エドガルドは拳を握る。
「ルシエラがやったのか」
国王は答えた。
「違う」
「彼女は何もしていない」
「ただ契約を終わらせただけだ」
そして静かに言った。
「お前が捨てたのは」
「ただの婚約者ではない」
国王の声は低かった。
「王国の柱の一つだ」
その言葉を聞いたとき。
エドガルドの胸に、初めて小さな不安が生まれていた。
だが。
まだ彼は理解していない。
自分がどれほどの過ちを犯したのかを。
王立学園の卒業舞踏会から三日後。
王城の執務室では、ただならぬ空気が漂っていた。
「……どういうことだ」
低い声が響く。
机の向こうに座るのは、ヴァルドール王国の国王――グレゴリウス・ヴァルドール。
壮年の王は一枚の報告書を机に叩きつけた。
その前に立つのは財務官と軍務官、そして商務官だった。
誰も顔色が良くない。
国王はゆっくりと報告書を持ち上げた。
「軍の補給契約が停止?」
財務官が震える声で答える。
「は、はい……」
「理由は」
「ノクティス公爵家による契約終了でございます」
国王の眉がぴくりと動いた。
「……続けろ」
軍務官が口を開く。
「西方軍の食料補給も停止しております」
「港の輸送契約もです」
商務官が続ける。
「王都の商会が三つ、撤退しました」
「なぜだ」
重苦しい沈黙。
財務官が恐る恐る答える。
「すべて……ノクティス公爵家の系列でございます」
国王はゆっくりと椅子に背を預けた。
「……まさか」
そして静かに呟く。
「ノクティス家が王家への支援を止めたのか」
誰も否定できなかった。
そのときだった。
執務室の扉が乱暴に開いた。
「父上!」
入ってきたのは王太子エドガルドだった。
国王はゆっくりと顔を上げる。
「ちょうどいい。説明してもらおう」
「何をです」
「お前は三日前、何をした」
エドガルドは当然のように答えた。
「ルシエラとの婚約を破棄しました」
「なぜだ」
「真実の愛を選んだからです」
国王のこめかみがぴくりと動いた。
「……そうか」
静かな声だった。
だがその目には怒りが浮かんでいる。
「お前はその令嬢が何者か理解していたのか」
エドガルドは眉をひそめる。
「ノクティス公爵家の娘です」
「それだけか」
国王は机を叩いた。
重い音が部屋に響く。
「ノクティス家は王国最大の財閥だ!」
エドガルドが一瞬言葉を失う。
国王は続ける。
「王家の軍資金の三割」
「王都の交易路の半分」
「王宮の銀行資金」
「すべてノクティス家が関わっている」
エドガルドは顔をしかめた。
「それは大げさでしょう」
その言葉に、財務官が思わず口を挟む。
「い、いえ殿下……」
「事実でございます」
商務官も続ける。
「王都の物流はノクティス家の商会が支配しています」
軍務官が言った。
「補給が止まれば、西方軍は三ヶ月も持ちません」
エドガルドは苛立った。
「それがどうした」
全員が凍りつく。
王太子は続けた。
「たかが一つの公爵家でしょう」
国王はゆっくりと立ち上がった。
そして静かに言った。
「……愚か者」
次の瞬間。
国王の拳が机を叩いた。
「お前は王国を揺るがす婚約を壊したのだぞ!」
部屋の空気が震えた。
エドガルドは顔をしかめる。
「父上は大げさです」
「ルシエラなどいなくても王国は回る」
その言葉を聞いた財務官の顔が青くなる。
商務官は額の汗を拭いた。
軍務官は黙っている。
国王はしばらくエドガルドを見つめていた。
やがて深く息を吐く。
「……まだ分からないか」
王はゆっくりと椅子に座った。
「報告を続けろ」
財務官が新しい書類を差し出す。
「王都銀行が融資停止を発表しました」
「理由は」
「ノクティス銀行の資金撤退です」
エドガルドの表情がわずかに変わる。
「銀行まで?」
商務官が続ける。
「港湾商会も契約終了しました」
「南方交易が停止しています」
軍務官が言う。
「軍の武器契約も止まりました」
国王は静かに言った。
「これが現実だ」
エドガルドは眉をひそめた。
「ならば命令すればいい」
「ノクティス家に従わせろ」
その瞬間。
部屋の空気が凍った。
国王はゆっくりと首を振る。
「できん」
「なぜです」
「契約だからだ」
王は静かに言う。
「すべて合法的な契約だ」
「ノクティス家には王家に従う義務はない」
エドガルドは苛立った。
「そんな馬鹿な」
そのとき、執事が入ってきた。
「陛下」
「何だ」
「王都商人ギルドから報告です」
国王が目を細める。
「読め」
執事は紙を広げた。
「本日付で、三十六商会が王都から撤退します」
財務官が青ざめる。
商務官が声を失う。
国王は静かに言った。
「理由は」
執事は答えた。
「すべてノクティス公爵家の関連商会でございます」
エドガルドは初めて言葉を失った。
王都最大の商会群。
それが一斉に消える。
それが意味することは一つだった。
王都の経済が止まる。
国王は息を吐いた。
「……これでもまだ分からないか」
エドガルドは拳を握る。
「ルシエラがやったのか」
国王は答えた。
「違う」
「彼女は何もしていない」
「ただ契約を終わらせただけだ」
そして静かに言った。
「お前が捨てたのは」
「ただの婚約者ではない」
国王の声は低かった。
「王国の柱の一つだ」
その言葉を聞いたとき。
エドガルドの胸に、初めて小さな不安が生まれていた。
だが。
まだ彼は理解していない。
自分がどれほどの過ちを犯したのかを。
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