『婚約破棄された公爵令嬢ですが、王国を救ったので新しい王太子に求婚されました

しおしお

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第六話 止まらない崩壊

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第六話 止まらない崩壊

王城、執務室。

重苦しい沈黙が流れていた。

机の上には報告書が山のように積まれている。

そのすべてが――

悪い知らせだった。

国王グレゴリウスは額に手を当て、ゆっくりと息を吐く。

「……続けろ」

財務官が震える声で報告する。

「王都銀行の資金がさらに流出しております」

「どこへだ」

「北方です」

国王の目が細くなる。

「アルヴァーン領か」

「はい……」

商務官も続ける。

「王都の商会がまた三つ撤退しました」

「理由は?」

「ノクティス商会の取引終了です」

軍務官が口を開く。

「軍の補給も問題です」

「西方軍が備蓄を使い始めました」

国王は静かに言った。

「三ヶ月持つか」

「……難しいでしょう」

部屋が静まり返る。

そのときだった。

扉が勢いよく開いた。

「父上!」

王太子エドガルドだった。

彼は苛立った様子で部屋に入ってくる。

「ノクティス商会の件、まだ収まらないのですか!」

国王はゆっくりと顔を上げた。

「むしろ悪化している」

エドガルドは机を叩く。

「信じられない!」

「たかが公爵家でしょう!」

財務官が思わず顔をしかめる。

国王は冷たい声で言った。

「まだ理解していないのか」

エドガルドは苛立つ。

「何をです」

国王は机の上の書類を投げた。

「これを見ろ」

エドガルドは書類を拾う。

そこには商会の一覧が並んでいた。

ノクティス商会。

ノクティス銀行。

ノクティス海運。

ノクティス鉄鋼。

ノクティス穀物。

エドガルドは眉をひそめる。

「それがどうした」

国王は低く言った。

「すべてノクティス家の企業だ」

「そして」

もう一枚の書類を出す。

「それぞれが王都の最大企業だ」

エドガルドの顔が少し曇る。

商務官が説明する。

「穀物の流通は六割」

「鉄は七割」

「海運は半分」

「銀行資金は三割」

財務官が付け加える。

「すべてノクティス系列でございます」

エドガルドは黙った。

国王は静かに言う。

「つまり」

「王都の経済は」

「ノクティス家に依存していた」

その言葉が重く落ちる。

エドガルドは顔を歪めた。

「……そんなはずは」

「ある」

国王は断言した。

「そしてそのノクティス家を」

「お前が追い出した」

エドガルドは拳を握る。

「追い出したわけではありません!」

「婚約を破棄しただけです!」

そのときだった。

執事が慌てて入ってくる。

「陛下!」

「何だ」

「王都商人ギルドから緊急報告です!」

国王が目を細める。

「言え」

「さらに二十の商会が移転を決めました」

財務官が青ざめる。

「どこへ」

執事は答えた。

「アルヴァーン領です」

エドガルドが声を上げた。

「またか!」

商務官が震える声で言う。

「どうやら辺境伯が港を整備したようです」

「商人たちはそちらへ移動しています」

国王は小さく呟いた。

「ローデリック……」

軍務官が言う。

「辺境伯は北方戦争の英雄です」

「軍だけでなく商人からの信頼も厚い」

エドガルドは歯を食いしばる。

「ルシエラの差し金だ」

国王は首を振った。

「違う」

「これは自然な流れだ」

エドガルドは叫ぶ。

「そんなはずがない!」

国王は冷たく言った。

「お前が婚約を破棄した」

「ノクティス家は王都に残る理由を失った」

「商人は利益を追う」

「だから移動する」

エドガルドは黙った。

国王は続ける。

「そして」

「アルヴァーン領には」

「ルシエラがいる」

その言葉に、部屋が静まり返る。

財務官が小さく言う。

「商人たちは……」

「彼女を追っているのかもしれません」

エドガルドは拳を握る。

「……あの女」

国王の目が鋭くなる。

「勘違いするな」

「彼女は何もしていない」

「ただ」

王はゆっくりと言った。

「お前が信用を捨てた」

エドガルドは何も言えない。

その頃。

北方の街道。

ノクティス家の馬車は、アルヴァーン領の街へ入ろうとしていた。

城壁の向こうには新しい港が見える。

大きな倉庫。

新しい市場。

そして――

多くの商人の馬車。

リーゼが驚いて声を上げた。

「すごい人です!」

グラハムも目を細める。

「商人が集まっております」

ルシエラは静かにその光景を見ていた。

商人たちはノクティス家の馬車を見ると、次々に頭を下げる。

まるで王を迎えるように。

リーゼが小さく言う。

「お嬢様……」

ルシエラは少しだけ微笑んだ。

「困りましたね」

「静かに暮らす予定だったのですが」

だが。

その静かな願いとは裏腹に。

彼女の周りには、すでに新しい王国のようなものが生まれ始めていた。
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