『婚約破棄された公爵令嬢ですが、王国を救ったので新しい王太子に求婚されました

しおしお

文字の大きさ
7 / 32

第七話 集まる商人たち

しおりを挟む
第七話 集まる商人たち

アルヴァーン領の港町――アルディナ。

北方最大の港として知られるこの街は、かつては軍港としての役割が強かった。だが今、その様子は大きく変わり始めていた。

港には船が並び、倉庫には荷物が山のように積まれている。

そして街の通りには、王都では見かけないほど多くの商人たちが行き交っていた。

その中央を、ノクティス公爵家の馬車がゆっくりと進んでいく。

人々が次々と振り向いた。

「あれは……」

「ノクティス家の紋章だ」

「公爵令嬢の馬車だぞ」

ざわめきが広がる。

リーゼは窓から外を見て、思わず声を上げた。

「お嬢様!」

「みんな見てます!」

ルシエラは落ち着いた様子で答える。

「そうね」

その声には、特に驚きはなかった。

グラハムが外から報告する。

「商人ギルドの代表が到着しております」

リーゼが目を丸くする。

「もうですか!?」

グラハムは淡々と言った。

「噂はすぐに広がります」

馬車は港町の中心にある大きな館の前で止まった。

アルヴァーン家が用意した客館だった。

扉が開く。

ルシエラがゆっくりと降りると――

そこには十数人の商人が並んでいた。

全員が深く頭を下げる。

「ノクティス公爵令嬢様」

先頭に立つ壮年の男が言った。

「ようこそアルディナへ」

リーゼが小さく囁く。

「お嬢様、歓迎されてます」

ルシエラは穏やかに礼を返す。

「ありがとうございます」

男は胸に手を当てた。

「私はアルディナ商人ギルドの長、バルクと申します」

「お話ししたいことがございます」

ルシエラは少しだけ考えた。

「ここで?」

男は首を振る。

「いえ」

「商人たちが集まっております」

リーゼが目を丸くする。

「えっ」

バルクは続けた。

「王都から来た商人も多くいます」

「皆、あなたにお会いしたがっている」

ルシエラは静かにグラハムを見る。

執事は小さく頷いた。

「問題ございません」

ルシエラは答えた。

「分かりました」

館の大広間。

そこには多くの商人が集まっていた。

王都の有名商会の主人たち。

港の組合長。

銀行の代表。

数十人はいる。

ルシエラが入ると、全員が立ち上がった。

そして一斉に頭を下げる。

リーゼが思わず息を呑む。

「すごい……」

バルクが前に出る。

「皆、あなたを待っておりました」

ルシエラは落ち着いた声で言った。

「なぜでしょう」

その言葉に、商人たちが顔を見合わせる。

やがて一人の老人が口を開いた。

「理由は簡単です」

「あなたがノクティス家だからです」

別の商人も言う。

「王都の商売は、ほとんどノクティス家の信用で成り立っていた」

「そのあなたが王都を離れた」

「ならば」

男は肩をすくめる。

「我々も動くしかない」

リーゼがぽかんとする。

「そんな理由なんですか」

バルクが苦笑した。

「商人とはそういうものです」

「利益と信用を追う」

彼はルシエラを見る。

「あなたの信用は王国一です」

部屋が静まり返る。

ルシエラは少しだけ困ったように微笑んだ。

「過大評価です」

そのとき。

扉が開いた。

重い足音。

振り向いた商人たちがざわめく。

「辺境伯だ」

「ローデリック様」

部屋に入ってきたのは――

ローデリック・アルヴァーン。

黒い外套を羽織った辺境伯だった。

彼は集まった商人たちを一瞥し、ルシエラを見る。

「予想通りだな」

ルシエラは軽く礼をする。

「辺境伯閣下」

ローデリックは短く言った。

「歓迎する」

そして商人たちを見回す。

「この港は使っていい」

「倉庫も土地も用意した」

商人たちがざわめく。

一人が言った。

「辺境伯様、本当にいいのですか」

ローデリックは肩をすくめた。

「困る理由がない」

そしてルシエラを見た。

「むしろ」

その声は低く、はっきりしていた。

「王都より豊かになる」

商人たちが息を呑む。

王都より豊か。

それは大胆すぎる言葉だった。

だが誰も笑わない。

ルシエラがいるからだ。

ローデリックはさらに言う。

「商売は自由だ」

「ここでは王太子も口を出さない」

その言葉に、商人たちの目が輝く。

バルクが静かに言った。

「ならば決まりですな」

「我々はここで商売をする」

次々と声が上がる。

「我々も」

「王都には戻らん」

「ここで商会を作る」

リーゼは呆然としていた。

「お嬢様……」

「なんかすごいことになってます」

ルシエラは窓の外を見る。

港。

船。

倉庫。

集まる商人。

静かに言った。

「本当に困りましたね」

リーゼが首を傾げる。

「え?」

ルシエラは少し笑う。

「静かに暮らす予定だったのですが」

ローデリックが聞いていた。

彼は小さく笑う。

「無理だな」

そして言った。

「あなたがいる限り」

「人は集まる」

その頃。

王都ではさらに大きな衝撃が走っていた。

商人ギルドが正式に発表したのだ。

王都最大の商人連盟が、アルヴァーン領へ移転する。

その知らせは、王宮を完全に混乱させることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...