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第七話 集まる商人たち
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第七話 集まる商人たち
アルヴァーン領の港町――アルディナ。
北方最大の港として知られるこの街は、かつては軍港としての役割が強かった。だが今、その様子は大きく変わり始めていた。
港には船が並び、倉庫には荷物が山のように積まれている。
そして街の通りには、王都では見かけないほど多くの商人たちが行き交っていた。
その中央を、ノクティス公爵家の馬車がゆっくりと進んでいく。
人々が次々と振り向いた。
「あれは……」
「ノクティス家の紋章だ」
「公爵令嬢の馬車だぞ」
ざわめきが広がる。
リーゼは窓から外を見て、思わず声を上げた。
「お嬢様!」
「みんな見てます!」
ルシエラは落ち着いた様子で答える。
「そうね」
その声には、特に驚きはなかった。
グラハムが外から報告する。
「商人ギルドの代表が到着しております」
リーゼが目を丸くする。
「もうですか!?」
グラハムは淡々と言った。
「噂はすぐに広がります」
馬車は港町の中心にある大きな館の前で止まった。
アルヴァーン家が用意した客館だった。
扉が開く。
ルシエラがゆっくりと降りると――
そこには十数人の商人が並んでいた。
全員が深く頭を下げる。
「ノクティス公爵令嬢様」
先頭に立つ壮年の男が言った。
「ようこそアルディナへ」
リーゼが小さく囁く。
「お嬢様、歓迎されてます」
ルシエラは穏やかに礼を返す。
「ありがとうございます」
男は胸に手を当てた。
「私はアルディナ商人ギルドの長、バルクと申します」
「お話ししたいことがございます」
ルシエラは少しだけ考えた。
「ここで?」
男は首を振る。
「いえ」
「商人たちが集まっております」
リーゼが目を丸くする。
「えっ」
バルクは続けた。
「王都から来た商人も多くいます」
「皆、あなたにお会いしたがっている」
ルシエラは静かにグラハムを見る。
執事は小さく頷いた。
「問題ございません」
ルシエラは答えた。
「分かりました」
館の大広間。
そこには多くの商人が集まっていた。
王都の有名商会の主人たち。
港の組合長。
銀行の代表。
数十人はいる。
ルシエラが入ると、全員が立ち上がった。
そして一斉に頭を下げる。
リーゼが思わず息を呑む。
「すごい……」
バルクが前に出る。
「皆、あなたを待っておりました」
ルシエラは落ち着いた声で言った。
「なぜでしょう」
その言葉に、商人たちが顔を見合わせる。
やがて一人の老人が口を開いた。
「理由は簡単です」
「あなたがノクティス家だからです」
別の商人も言う。
「王都の商売は、ほとんどノクティス家の信用で成り立っていた」
「そのあなたが王都を離れた」
「ならば」
男は肩をすくめる。
「我々も動くしかない」
リーゼがぽかんとする。
「そんな理由なんですか」
バルクが苦笑した。
「商人とはそういうものです」
「利益と信用を追う」
彼はルシエラを見る。
「あなたの信用は王国一です」
部屋が静まり返る。
ルシエラは少しだけ困ったように微笑んだ。
「過大評価です」
そのとき。
扉が開いた。
重い足音。
振り向いた商人たちがざわめく。
「辺境伯だ」
「ローデリック様」
部屋に入ってきたのは――
ローデリック・アルヴァーン。
黒い外套を羽織った辺境伯だった。
彼は集まった商人たちを一瞥し、ルシエラを見る。
「予想通りだな」
ルシエラは軽く礼をする。
「辺境伯閣下」
ローデリックは短く言った。
「歓迎する」
そして商人たちを見回す。
「この港は使っていい」
「倉庫も土地も用意した」
商人たちがざわめく。
一人が言った。
「辺境伯様、本当にいいのですか」
ローデリックは肩をすくめた。
「困る理由がない」
そしてルシエラを見た。
「むしろ」
その声は低く、はっきりしていた。
「王都より豊かになる」
商人たちが息を呑む。
王都より豊か。
それは大胆すぎる言葉だった。
だが誰も笑わない。
ルシエラがいるからだ。
ローデリックはさらに言う。
「商売は自由だ」
「ここでは王太子も口を出さない」
その言葉に、商人たちの目が輝く。
バルクが静かに言った。
「ならば決まりですな」
「我々はここで商売をする」
次々と声が上がる。
「我々も」
「王都には戻らん」
「ここで商会を作る」
リーゼは呆然としていた。
「お嬢様……」
「なんかすごいことになってます」
ルシエラは窓の外を見る。
港。
船。
倉庫。
集まる商人。
静かに言った。
「本当に困りましたね」
リーゼが首を傾げる。
「え?」
ルシエラは少し笑う。
「静かに暮らす予定だったのですが」
ローデリックが聞いていた。
彼は小さく笑う。
「無理だな」
そして言った。
「あなたがいる限り」
「人は集まる」
その頃。
王都ではさらに大きな衝撃が走っていた。
商人ギルドが正式に発表したのだ。
王都最大の商人連盟が、アルヴァーン領へ移転する。
その知らせは、王宮を完全に混乱させることになる。
アルヴァーン領の港町――アルディナ。
北方最大の港として知られるこの街は、かつては軍港としての役割が強かった。だが今、その様子は大きく変わり始めていた。
港には船が並び、倉庫には荷物が山のように積まれている。
そして街の通りには、王都では見かけないほど多くの商人たちが行き交っていた。
その中央を、ノクティス公爵家の馬車がゆっくりと進んでいく。
人々が次々と振り向いた。
「あれは……」
「ノクティス家の紋章だ」
「公爵令嬢の馬車だぞ」
ざわめきが広がる。
リーゼは窓から外を見て、思わず声を上げた。
「お嬢様!」
「みんな見てます!」
ルシエラは落ち着いた様子で答える。
「そうね」
その声には、特に驚きはなかった。
グラハムが外から報告する。
「商人ギルドの代表が到着しております」
リーゼが目を丸くする。
「もうですか!?」
グラハムは淡々と言った。
「噂はすぐに広がります」
馬車は港町の中心にある大きな館の前で止まった。
アルヴァーン家が用意した客館だった。
扉が開く。
ルシエラがゆっくりと降りると――
そこには十数人の商人が並んでいた。
全員が深く頭を下げる。
「ノクティス公爵令嬢様」
先頭に立つ壮年の男が言った。
「ようこそアルディナへ」
リーゼが小さく囁く。
「お嬢様、歓迎されてます」
ルシエラは穏やかに礼を返す。
「ありがとうございます」
男は胸に手を当てた。
「私はアルディナ商人ギルドの長、バルクと申します」
「お話ししたいことがございます」
ルシエラは少しだけ考えた。
「ここで?」
男は首を振る。
「いえ」
「商人たちが集まっております」
リーゼが目を丸くする。
「えっ」
バルクは続けた。
「王都から来た商人も多くいます」
「皆、あなたにお会いしたがっている」
ルシエラは静かにグラハムを見る。
執事は小さく頷いた。
「問題ございません」
ルシエラは答えた。
「分かりました」
館の大広間。
そこには多くの商人が集まっていた。
王都の有名商会の主人たち。
港の組合長。
銀行の代表。
数十人はいる。
ルシエラが入ると、全員が立ち上がった。
そして一斉に頭を下げる。
リーゼが思わず息を呑む。
「すごい……」
バルクが前に出る。
「皆、あなたを待っておりました」
ルシエラは落ち着いた声で言った。
「なぜでしょう」
その言葉に、商人たちが顔を見合わせる。
やがて一人の老人が口を開いた。
「理由は簡単です」
「あなたがノクティス家だからです」
別の商人も言う。
「王都の商売は、ほとんどノクティス家の信用で成り立っていた」
「そのあなたが王都を離れた」
「ならば」
男は肩をすくめる。
「我々も動くしかない」
リーゼがぽかんとする。
「そんな理由なんですか」
バルクが苦笑した。
「商人とはそういうものです」
「利益と信用を追う」
彼はルシエラを見る。
「あなたの信用は王国一です」
部屋が静まり返る。
ルシエラは少しだけ困ったように微笑んだ。
「過大評価です」
そのとき。
扉が開いた。
重い足音。
振り向いた商人たちがざわめく。
「辺境伯だ」
「ローデリック様」
部屋に入ってきたのは――
ローデリック・アルヴァーン。
黒い外套を羽織った辺境伯だった。
彼は集まった商人たちを一瞥し、ルシエラを見る。
「予想通りだな」
ルシエラは軽く礼をする。
「辺境伯閣下」
ローデリックは短く言った。
「歓迎する」
そして商人たちを見回す。
「この港は使っていい」
「倉庫も土地も用意した」
商人たちがざわめく。
一人が言った。
「辺境伯様、本当にいいのですか」
ローデリックは肩をすくめた。
「困る理由がない」
そしてルシエラを見た。
「むしろ」
その声は低く、はっきりしていた。
「王都より豊かになる」
商人たちが息を呑む。
王都より豊か。
それは大胆すぎる言葉だった。
だが誰も笑わない。
ルシエラがいるからだ。
ローデリックはさらに言う。
「商売は自由だ」
「ここでは王太子も口を出さない」
その言葉に、商人たちの目が輝く。
バルクが静かに言った。
「ならば決まりですな」
「我々はここで商売をする」
次々と声が上がる。
「我々も」
「王都には戻らん」
「ここで商会を作る」
リーゼは呆然としていた。
「お嬢様……」
「なんかすごいことになってます」
ルシエラは窓の外を見る。
港。
船。
倉庫。
集まる商人。
静かに言った。
「本当に困りましたね」
リーゼが首を傾げる。
「え?」
ルシエラは少し笑う。
「静かに暮らす予定だったのですが」
ローデリックが聞いていた。
彼は小さく笑う。
「無理だな」
そして言った。
「あなたがいる限り」
「人は集まる」
その頃。
王都ではさらに大きな衝撃が走っていた。
商人ギルドが正式に発表したのだ。
王都最大の商人連盟が、アルヴァーン領へ移転する。
その知らせは、王宮を完全に混乱させることになる。
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