『婚約破棄された公爵令嬢ですが、王国を救ったので新しい王太子に求婚されました

しおしお

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第十二話 偽りの涙

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第十二話 偽りの涙

王立学園、調査室。

机の上には証言書が山のように積まれていた。

調査官の一人が深く息を吐く。

「……これは」

もう一人が言う。

「完全に逆ですね」

書類には同じ内容が並んでいた。

ルシエラ・ノクティス。

模範生。

首席。

温厚。

教師の信頼も厚い。

一方――

ヴィオレッタ・アルディス。

問題行動。

課題未提出。

遅刻。

授業欠席。

調査官は腕を組んだ。

「これでは……」

もう一人が続ける。

「虐げられていたどころか」

「守られていた」

部屋の空気が重くなる。

その時、扉が開いた。

「次の証言者をお連れしました」

入ってきたのは男子学生だった。

調査官が言う。

「名前を」

「ローレン・カーティスです」

調査官は頷く。

「あなたは舞踏会当日、現場にいましたね」

「はい」

「ヴィオレッタ・アルディスがルシエラに虐げられていたという証言があります」

「あなたは見ましたか」

ローレンは即答した。

「いいえ」

調査官が顔を上げる。

「見ていない?」

「むしろ逆です」

調査官のペンが止まる。

「詳しく」

ローレンは言った。

「舞踏会の前です」

「ヴィオレッタ嬢がルシエラ嬢に言っていました」

調査官たちが身を乗り出す。

「何と?」

ローレンははっきり言った。

「あなたは全部持っている」

「だから嫌い」

部屋が静まり返る。

「その後です」

ローレンは続ける。

「ヴィオレッタ嬢は泣き始めました」

「突然です」

調査官の眉が動く。

「突然?」

「はい」

ローレンは言った。

「さっきまで普通に話していたのに」

「急に泣いたんです」

調査官はゆっくり書き込む。

「……なるほど」

そして聞く。

「それを誰かが見ていた?」

ローレンは頷いた。

「王太子です」

調査官たちは顔を見合わせる。

「エドガルド殿下が?」

「はい」

ローレンは苦笑した。

「殿下はすぐ怒りました」

「ルシエラ嬢を責めました」

調査官の一人が呟く。

「つまり」

「泣いたのは演技の可能性」

ローレンは肩をすくめた。

「そう見えました」

調査官たちは沈黙した。

机の上の証言書。

教師。

侍女。

学生。

すべてが同じ方向を示していた。

「ヴィオレッタの証言は信用できない」

その頃。

王城の庭園。

ヴィオレッタは優雅に歩いていた。

エドガルドが隣にいる。

「調査は気にする必要はない」

エドガルドは言う。

「君は被害者だ」

ヴィオレッタは弱々しく微笑む。

「ありがとうございます」

だが内心では。

(調査……)

ほんの少しだけ眉が動いた。

しかしすぐに消える。

(問題ないわ)

彼女は確信していた。

エドガルドが守る。

王太子が味方なら。

何も問題ない。

その頃。

アルヴァーン領。

港はさらに賑わっていた。

船が並び、荷物が積み下ろされる。

リーゼが驚いた声を出す。

「また船が来ました!」

グラハムが静かに言う。

「南方商会です」

「三つ目です」

リーゼは目を丸くした。

「王都より多いんじゃ……」

ルシエラは苦笑する。

「困りましたね」

その時。

ローデリックが言う。

「王都の商人は逃げている」

「王家より安全な場所へ」

ルシエラは首を傾げる。

「私の領地がですか?」

ローデリックは頷く。

「そうだ」

そして小さく笑う。

「王国一安全な場所だからな」

ルシエラは少し呆れた顔をした。

「そんな大げさな」

ローデリックは真面目な顔で言う。

「いや」

「事実だ」

その頃。

王立学園の調査室。

調査官たちは最後の書類をまとめていた。

机の上の報告書。

そこにははっきり書かれていた。

ルシエラ・ノクティス。

虐待の証拠なし。

むしろ被害者。

ヴィオレッタ・アルディス。

証言に矛盾多数。

虚偽の可能性大。

調査官は深く息を吐いた。

「……これは」

もう一人が言う。

「王家の問題になります」

そして静かに言った。

「王太子が」

「虚偽の証言で婚約破棄した」

重い沈黙が落ちた。

誰も口を開かない。

やがて調査官が言った。

「報告書を王城へ」

「すぐにだ」

その報告書が届くとき。

王宮は――

大きく揺れることになる。
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