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26 墓地のポルターガイストと繰り返しの村
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最終的にユジュンたちが当たることになった都市伝説の舞台は、墓地だった。
夜ごと、ポルターガイスト現象が起き、手向けの花やお供え物が飛んで、朝にはひどい有様になるらしい。
『墓地を荒らすポルターガイスト現象』が最後の案件だった。
「最近では、参拝者にお供え物をするのは遠慮して頂きたいとお願いしているのですが……」
管理人は困り果てていた。げっそり、頬がこけている。
「いつからなんですか?」
いつも通り、テンが前に出て、対応に当たる。
「祖父の代からですから、もう、随分になります」
「うーん。分かりました。ちょっと、墓地内を探ってみます」
藁にも縋りたいのは、ここも同じらしく、ユジュンたちのような子供であっても、頼りにしたいらしかった。子供だから、と軽んじられたり見下げられることはない。
昼下がり。霊は大人しくしている時間だが、墓地内を走り回る子供がいた。
観察していると、墓石に登ったり、お供えのお菓子を摘まんで食べたり、好き放題している。
「あれやな」
テンの霊感センサーが反応した。
「フツーの、墓地で遊ぶ子供じゃないの?」
ユジュンがあまりにも景色に溶け込んでいるので、不思議に思って言った。
『ユジュンよ、よく見て見ろ。姿が透けている』
クーガーが耳打ちした。
「ここからじゃ、よく見えないや」
子供が、とある墓標の上に落ち着いたので、ぞろぞろと四人でそこまで行く。
「こんにちはー。君、ここで何してるん?」
テンが話しかけると、霊は驚きのリアクションを見せた。
ワンワン、とクーガーが少年に向かって吠えた。
『おまえら、オレが見えるのか?!』
「うん、見えてるよ。お墓、荒らしたら、あかんやん。生きてる人、困らせたらアカンで」
『やっぱり、オレ、死んだのか』
「気付いてなかったのかよ」
ヒースが突っ込んだ。
『誰も墓参りに来ねーし、誰にもオレの姿は見えてねーし。暴れるくらいしか出来ねーんだ』
少年の霊が腰を下ろしている十字架は、苔むしており、灰かなにかで黒ずんで汚れている。長い間、磨かれずに放置されていたようだ。
「八つ当たりすんなよ! 他の家族に迷惑だろうが!」
ヒースがくってかかった。
『だったら、なんで、みんなみたいに、オレの家族は墓参りに来ねーんだ!』
少年は怒って、辺りに風を巻き起こした。
「このままほっといたら、本格的に悪霊化してまう。何とか、収めな」
テンが三人にだけ聞こえる声量で説明した。
「家族がお墓参りに来てくれたら、気ぃすむんかな?」
『うん。もう一回会って、文句言いたい』
「自分の名前とか、分かる?」
同い年くらいの少年だ。ユジュンは努めて優しく接した。
『シュン・ガサラキ』
「家族の住んでる住所とか、覚えてる?」
少年はしばし考えてから、すらすらと住所を語った。テンがそれをメモしていた。
「ボクら、家族の人探して連れてくるから、その間、大人しくしといてくれる?」
『分かった』
少年の霊は存外聞き分けが良かった。
「霊には時間の概念がないから、どんくらい家族と離別してるか、分からんし」
墓地からの坂道を下りながら、テンが心配を口にする。
「この住所に今も住んでたら、ええんやけど……」
そして、テンの心配は的中する。
少年が言った住所には、別人が住んでいた。
「そちらさんが越してくる前に住んどった方、知りませんか?」
「さあ、ちょっと、分からないわねぇ」
玄関先で、五十代とおぼしき主婦が、困ったように口もとを手で覆う。
「そうですかぁ……」
テンはお邪魔しました、と肩を落として踵を返した。
「役所に行ってよ、転居先とか調べたら、いいんじゃね?」
「ナイスアイディア、ヒース!」
テンが生気を取り戻して、ヒースの両手を握りしめた。
喜び勇んで役所へ。
そこで調べてもらうと、いとも簡単に転居先が分かった。ところが、そこは更地になっており、また、空振りだった。一行は役所へトンボ返りした。それを繰り返すこと四回、やっと現在の親族の住居の在処が割れた。
「今度こそ、当たりだろうなぁ」
ヒースが痺れを切らしそうだ。
呼び鈴を鳴らして、玄関から出てきたのは、中年の女性だった。訳を話すと、家の中へ招き入れてくれた。
挨拶もそこそこに、テンは本題に入った。
「ええ、確かに、うちの家系にシュン・ガサラキという子がいました。家の主人がシュンの甥の子供にあたります」
いわゆる又甥という立場だ。
「ご両親や、親族の方はおらへんのですか?」
「何しろ五十年近く前のことですから…祖父母はもちろん、両親も兄弟もとっくに死んでしまったし、親戚と呼べるのは私たちくらいかしらね」
「誰も墓参りに来ないことを、怒っていはるんです」
「まぁ。その子は不幸な横死だったと聞いています…シュンの両親はひどく悲しんで、塞ぎ込んでいたというわ。それで、お墓参りにも足が向かなかったんじゃないかしら」
少年の両親は泣き明かして暮らし、五十代という若さで天に召されたということだった。
「両親が死んだときに会わなかったのかよ、あのガキの霊はよ」
ヒースは出された紅茶に口を付けた。
「霊は自分の領域の中でしか存在でけへんから。自分の見てる世界がすべてやからなぁ。そういう、周りで起きてる不幸とか、分かれへんねん」
「なんだか、難しいね。ややこしい」
ユジュンが困っていると、
「霊は、自分の見たいもんしか見ぃひんってこと」
と、テンが付け加えた。
「彷徨える霊は、不幸だ」
イリヤがぼそっと呟いて、お茶請けのお菓子を、ぼりぼり貪っていた。
女性がシュンに頓着していないことを承知で、テンは無理なお願いを申し出た。
「あの、おばさん。シュンくんのお墓参りに行ってもらえませんか?」
「ええ。そういうことなら、私もいきましょう。主人も呼んでくるわ」
夫婦が準備を整え終わると、いざ、墓地を目指して出発した。
途中、夫婦が花屋で百合の花束と、菓子店でお供え物の生菓子を買い求めていた。
墓地に着く。
少年の霊は、別れたときと同じように、墓標の上に座っていた。
こちらに気付いて、顔を上げる。
『おばちゃん?』
夫婦が墓の前に来ると、少年は墓標から降りた。
少年の霊は、墓参りに来た夫婦を自分の叔父と叔母と混同したのか、そう呼称した。
「シュンちゃん、今まで放って置いてごめんなさいね。どうか成仏してちょうだい。お父さんとお母さんも天国で待っているわ」
「我が一族は短命で。不慮の死を遂げる者が多かった。それがあなたの呪いの仕業ではないかと、残された我々は皆、恐れおののいていました。だから、花の一輪も手向けにこなかった。どうか、どうか許して下さい」
『おじちゃん』
夫婦は墓標に花を手向け、生菓子を供えて膝を折り、手を合わせた。
『うわあああん!』
少年は夫婦に抱きつくような形で覆い被さり、大泣きした。
『嬉しい、嬉しい! オレ、忘れられてなかったんだ!』
そのとき、天から光が差して、光そのものが二体、降臨した。
『シュン。やっと、声が届いた。迎えに来たわよ』
『一緒にあの世へ還ろう、シュン』
降りて来たのは、天使だった。大きな羽根を背中に生やして、頭上には光の輪が乗っている。どこからどう見ても、天使だ。
『母さん! 父さん!』
『もう、一人で暴れなくていいのよ』
『最初から、おまえは一人じゃなかったんだ』
『うん、うん!』
少年の身体が光を放ち始める。両親から伸ばされた手を取って、天に昇っていく。
その途中、ユジュンたちを振り返って、
『ありがとうな、おまえら!』
と、お礼を言って雲間に消えていった。
「その手、二度と離したらアカンでー」
テンが手を振って見送った。
ヒースとイリヤも、まぶしさを手で庇いながら、少年が天に召されるのを眺めていた。
墓地は静寂を取り戻した。
「お迎えが来て、良かったね」
ふぅ、とユジュンは息をついた。
「今まで、攻撃的で悪相念が強かったから、両親の声が届かへんかったんや。姿も、見えへんかった。わだかまりが、そうさしてたってとこかな」
ふと、墓標を見ると、サファイアの塊が浮いていたが、間もなく、それは砕け散って、跡形もなくなった。
『第八ゲート、解放』
毎度お馴染みの電子音が響く。
これで、ユジュンたちの任務は完了した。
「あの……あなたたち?」
何も見えていないし、聞こえもしていない、何が起きているのか、見当も付いていない夫婦が、ぽかんとした顔でユジュンたちを見ていた。
ナユタとユーリが最後に訪れたのは、人々の記憶から消え去って久しい廃村だった。
村の通りは荒れ、家屋は朽ち果てている。
だが、フィルターを一枚通して見れば、そこには地獄絵図が広がっていた。
昼間だというのに、景色は夜へと変わり、次々と村人の断末魔がそこかしこから聞こえてくる。
一人の少年の霊が、村人を一人一人捕まえては、殺して回っていた。
刃物を振りかざし、逃げ惑う村人を執拗に追い駆けては命を奪う。
『殺す、殺す! おまえらはみんな殺す!』
などと、血走った目で、返り血まみれの少年が叫んでいた。
「犯人はあいつ、だね」
「そのようだな」
ナユタとユーリは、至って平常心で事の成り行きを見守っていた。
やがて、静かになる。
少年が村人を殺し尽くしたようだ。
だのに、しばらく時間を置くと、村人は蘇り、また日常の生活を送り始める。
ここは過去の因縁を繰り返す呪いにかかった村だった。
殺人鬼の少年もまた、スタートラインに立って、再び村人を襲いだした。
「いい加減にしてもらおう」
ユーリが、少年の腕をふん縛った。
「ナユタ、今のうちに」
「うん」
ナユタは頷くと、腰の前後に装備した二本の短剣を両の手に抜いた。
「セラフィはユーリとここにいて。僕、これからひどいことしに行くんだ。君に惨劇を見せたくはないよ」
「……分かったわ」
セラフィータは静かにナユタの肩を離れ、ユーリの側まで飛んで行った。
「じゃあ、行ってくるね」
ナユタは手始めに民家に押し入り、少年の代わりに村人を殺して回った。延々と、殺人鬼に殺されているというのに、短剣を振るうと、返り血が飛んできて、ナユタを血塗れにした。
「静かにお眠り」
少年の呪縛から解き放たれた魂は、浄化され、肉体が既に朽ちていることを知って、次々成仏して行った。
そうしてナユタは最後の一人になるまで、哀れな霊を殺して彼岸に送ってやった。
『俺の、俺の獲物だぁぁぁ! 離せ、おまえらぁぁ!』
少年はじたばたと必死の抵抗を試みるが、ユーリの腕はぴくりとも微動だにしない。
「ちょっと、黙ろうか」
ナユタは少年の側まで近寄ると、致命傷を避けて刃を振るった。とはいえ、瀕死の状態である少年は大人しくなった。
「トドメはみんなの前で刺そう」
「そうだな、その方が分かりやすいだろう」
ナユタはユーリの手から、少年を受け渡された。
手の空いたユーリが右手をかざすと、光が収束して、ダイアモンドの塊が姿を現した。
辺りが夜が明けたかのように、明るくなる。
こうして、『悪夢を繰り返す村』は平穏を取り戻したのだった。
夜ごと、ポルターガイスト現象が起き、手向けの花やお供え物が飛んで、朝にはひどい有様になるらしい。
『墓地を荒らすポルターガイスト現象』が最後の案件だった。
「最近では、参拝者にお供え物をするのは遠慮して頂きたいとお願いしているのですが……」
管理人は困り果てていた。げっそり、頬がこけている。
「いつからなんですか?」
いつも通り、テンが前に出て、対応に当たる。
「祖父の代からですから、もう、随分になります」
「うーん。分かりました。ちょっと、墓地内を探ってみます」
藁にも縋りたいのは、ここも同じらしく、ユジュンたちのような子供であっても、頼りにしたいらしかった。子供だから、と軽んじられたり見下げられることはない。
昼下がり。霊は大人しくしている時間だが、墓地内を走り回る子供がいた。
観察していると、墓石に登ったり、お供えのお菓子を摘まんで食べたり、好き放題している。
「あれやな」
テンの霊感センサーが反応した。
「フツーの、墓地で遊ぶ子供じゃないの?」
ユジュンがあまりにも景色に溶け込んでいるので、不思議に思って言った。
『ユジュンよ、よく見て見ろ。姿が透けている』
クーガーが耳打ちした。
「ここからじゃ、よく見えないや」
子供が、とある墓標の上に落ち着いたので、ぞろぞろと四人でそこまで行く。
「こんにちはー。君、ここで何してるん?」
テンが話しかけると、霊は驚きのリアクションを見せた。
ワンワン、とクーガーが少年に向かって吠えた。
『おまえら、オレが見えるのか?!』
「うん、見えてるよ。お墓、荒らしたら、あかんやん。生きてる人、困らせたらアカンで」
『やっぱり、オレ、死んだのか』
「気付いてなかったのかよ」
ヒースが突っ込んだ。
『誰も墓参りに来ねーし、誰にもオレの姿は見えてねーし。暴れるくらいしか出来ねーんだ』
少年の霊が腰を下ろしている十字架は、苔むしており、灰かなにかで黒ずんで汚れている。長い間、磨かれずに放置されていたようだ。
「八つ当たりすんなよ! 他の家族に迷惑だろうが!」
ヒースがくってかかった。
『だったら、なんで、みんなみたいに、オレの家族は墓参りに来ねーんだ!』
少年は怒って、辺りに風を巻き起こした。
「このままほっといたら、本格的に悪霊化してまう。何とか、収めな」
テンが三人にだけ聞こえる声量で説明した。
「家族がお墓参りに来てくれたら、気ぃすむんかな?」
『うん。もう一回会って、文句言いたい』
「自分の名前とか、分かる?」
同い年くらいの少年だ。ユジュンは努めて優しく接した。
『シュン・ガサラキ』
「家族の住んでる住所とか、覚えてる?」
少年はしばし考えてから、すらすらと住所を語った。テンがそれをメモしていた。
「ボクら、家族の人探して連れてくるから、その間、大人しくしといてくれる?」
『分かった』
少年の霊は存外聞き分けが良かった。
「霊には時間の概念がないから、どんくらい家族と離別してるか、分からんし」
墓地からの坂道を下りながら、テンが心配を口にする。
「この住所に今も住んでたら、ええんやけど……」
そして、テンの心配は的中する。
少年が言った住所には、別人が住んでいた。
「そちらさんが越してくる前に住んどった方、知りませんか?」
「さあ、ちょっと、分からないわねぇ」
玄関先で、五十代とおぼしき主婦が、困ったように口もとを手で覆う。
「そうですかぁ……」
テンはお邪魔しました、と肩を落として踵を返した。
「役所に行ってよ、転居先とか調べたら、いいんじゃね?」
「ナイスアイディア、ヒース!」
テンが生気を取り戻して、ヒースの両手を握りしめた。
喜び勇んで役所へ。
そこで調べてもらうと、いとも簡単に転居先が分かった。ところが、そこは更地になっており、また、空振りだった。一行は役所へトンボ返りした。それを繰り返すこと四回、やっと現在の親族の住居の在処が割れた。
「今度こそ、当たりだろうなぁ」
ヒースが痺れを切らしそうだ。
呼び鈴を鳴らして、玄関から出てきたのは、中年の女性だった。訳を話すと、家の中へ招き入れてくれた。
挨拶もそこそこに、テンは本題に入った。
「ええ、確かに、うちの家系にシュン・ガサラキという子がいました。家の主人がシュンの甥の子供にあたります」
いわゆる又甥という立場だ。
「ご両親や、親族の方はおらへんのですか?」
「何しろ五十年近く前のことですから…祖父母はもちろん、両親も兄弟もとっくに死んでしまったし、親戚と呼べるのは私たちくらいかしらね」
「誰も墓参りに来ないことを、怒っていはるんです」
「まぁ。その子は不幸な横死だったと聞いています…シュンの両親はひどく悲しんで、塞ぎ込んでいたというわ。それで、お墓参りにも足が向かなかったんじゃないかしら」
少年の両親は泣き明かして暮らし、五十代という若さで天に召されたということだった。
「両親が死んだときに会わなかったのかよ、あのガキの霊はよ」
ヒースは出された紅茶に口を付けた。
「霊は自分の領域の中でしか存在でけへんから。自分の見てる世界がすべてやからなぁ。そういう、周りで起きてる不幸とか、分かれへんねん」
「なんだか、難しいね。ややこしい」
ユジュンが困っていると、
「霊は、自分の見たいもんしか見ぃひんってこと」
と、テンが付け加えた。
「彷徨える霊は、不幸だ」
イリヤがぼそっと呟いて、お茶請けのお菓子を、ぼりぼり貪っていた。
女性がシュンに頓着していないことを承知で、テンは無理なお願いを申し出た。
「あの、おばさん。シュンくんのお墓参りに行ってもらえませんか?」
「ええ。そういうことなら、私もいきましょう。主人も呼んでくるわ」
夫婦が準備を整え終わると、いざ、墓地を目指して出発した。
途中、夫婦が花屋で百合の花束と、菓子店でお供え物の生菓子を買い求めていた。
墓地に着く。
少年の霊は、別れたときと同じように、墓標の上に座っていた。
こちらに気付いて、顔を上げる。
『おばちゃん?』
夫婦が墓の前に来ると、少年は墓標から降りた。
少年の霊は、墓参りに来た夫婦を自分の叔父と叔母と混同したのか、そう呼称した。
「シュンちゃん、今まで放って置いてごめんなさいね。どうか成仏してちょうだい。お父さんとお母さんも天国で待っているわ」
「我が一族は短命で。不慮の死を遂げる者が多かった。それがあなたの呪いの仕業ではないかと、残された我々は皆、恐れおののいていました。だから、花の一輪も手向けにこなかった。どうか、どうか許して下さい」
『おじちゃん』
夫婦は墓標に花を手向け、生菓子を供えて膝を折り、手を合わせた。
『うわあああん!』
少年は夫婦に抱きつくような形で覆い被さり、大泣きした。
『嬉しい、嬉しい! オレ、忘れられてなかったんだ!』
そのとき、天から光が差して、光そのものが二体、降臨した。
『シュン。やっと、声が届いた。迎えに来たわよ』
『一緒にあの世へ還ろう、シュン』
降りて来たのは、天使だった。大きな羽根を背中に生やして、頭上には光の輪が乗っている。どこからどう見ても、天使だ。
『母さん! 父さん!』
『もう、一人で暴れなくていいのよ』
『最初から、おまえは一人じゃなかったんだ』
『うん、うん!』
少年の身体が光を放ち始める。両親から伸ばされた手を取って、天に昇っていく。
その途中、ユジュンたちを振り返って、
『ありがとうな、おまえら!』
と、お礼を言って雲間に消えていった。
「その手、二度と離したらアカンでー」
テンが手を振って見送った。
ヒースとイリヤも、まぶしさを手で庇いながら、少年が天に召されるのを眺めていた。
墓地は静寂を取り戻した。
「お迎えが来て、良かったね」
ふぅ、とユジュンは息をついた。
「今まで、攻撃的で悪相念が強かったから、両親の声が届かへんかったんや。姿も、見えへんかった。わだかまりが、そうさしてたってとこかな」
ふと、墓標を見ると、サファイアの塊が浮いていたが、間もなく、それは砕け散って、跡形もなくなった。
『第八ゲート、解放』
毎度お馴染みの電子音が響く。
これで、ユジュンたちの任務は完了した。
「あの……あなたたち?」
何も見えていないし、聞こえもしていない、何が起きているのか、見当も付いていない夫婦が、ぽかんとした顔でユジュンたちを見ていた。
ナユタとユーリが最後に訪れたのは、人々の記憶から消え去って久しい廃村だった。
村の通りは荒れ、家屋は朽ち果てている。
だが、フィルターを一枚通して見れば、そこには地獄絵図が広がっていた。
昼間だというのに、景色は夜へと変わり、次々と村人の断末魔がそこかしこから聞こえてくる。
一人の少年の霊が、村人を一人一人捕まえては、殺して回っていた。
刃物を振りかざし、逃げ惑う村人を執拗に追い駆けては命を奪う。
『殺す、殺す! おまえらはみんな殺す!』
などと、血走った目で、返り血まみれの少年が叫んでいた。
「犯人はあいつ、だね」
「そのようだな」
ナユタとユーリは、至って平常心で事の成り行きを見守っていた。
やがて、静かになる。
少年が村人を殺し尽くしたようだ。
だのに、しばらく時間を置くと、村人は蘇り、また日常の生活を送り始める。
ここは過去の因縁を繰り返す呪いにかかった村だった。
殺人鬼の少年もまた、スタートラインに立って、再び村人を襲いだした。
「いい加減にしてもらおう」
ユーリが、少年の腕をふん縛った。
「ナユタ、今のうちに」
「うん」
ナユタは頷くと、腰の前後に装備した二本の短剣を両の手に抜いた。
「セラフィはユーリとここにいて。僕、これからひどいことしに行くんだ。君に惨劇を見せたくはないよ」
「……分かったわ」
セラフィータは静かにナユタの肩を離れ、ユーリの側まで飛んで行った。
「じゃあ、行ってくるね」
ナユタは手始めに民家に押し入り、少年の代わりに村人を殺して回った。延々と、殺人鬼に殺されているというのに、短剣を振るうと、返り血が飛んできて、ナユタを血塗れにした。
「静かにお眠り」
少年の呪縛から解き放たれた魂は、浄化され、肉体が既に朽ちていることを知って、次々成仏して行った。
そうしてナユタは最後の一人になるまで、哀れな霊を殺して彼岸に送ってやった。
『俺の、俺の獲物だぁぁぁ! 離せ、おまえらぁぁ!』
少年はじたばたと必死の抵抗を試みるが、ユーリの腕はぴくりとも微動だにしない。
「ちょっと、黙ろうか」
ナユタは少年の側まで近寄ると、致命傷を避けて刃を振るった。とはいえ、瀕死の状態である少年は大人しくなった。
「トドメはみんなの前で刺そう」
「そうだな、その方が分かりやすいだろう」
ナユタはユーリの手から、少年を受け渡された。
手の空いたユーリが右手をかざすと、光が収束して、ダイアモンドの塊が姿を現した。
辺りが夜が明けたかのように、明るくなる。
こうして、『悪夢を繰り返す村』は平穏を取り戻したのだった。
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