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魔法学院〜入学編〜

第29話 いざ、出発!①

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 前期も終わりに近づき、魔法対抗試合がいよいよ間近に迫って来た。期末テストも無事に終わり、後はその日を待つのみだ。

 季節も真夏になり、外に出ただけでも汗が出る。ジリジリと照りつける太陽の下、俺達は大量の汗をかきながら試合に向けた訓練を行っていた。

「……暑い」
「だな。夏は苦手か?」
「……普通。ルルよりは得意」

 ナナにそう言われてルルを探すと、木陰でぐったりと座り込んでいる姿が目に入る。

「大丈夫か? あれ」
「……夏はいつも。だから、平気」
「それは平気な事になるのか……逆にあいつは元気だな」

 校庭の真ん中に目を移すと、そこではクラスメイトと無邪気に魔法を撃ち合うゼルの姿があった。このくそ暑い時期に火魔法を使いまくるあいつの近くは間違いなく地獄だ。絶対に近付きたくたくない。

炎の大精霊イフリートの守護があるとやっぱ暑さに強いもんなのかな」
「……多分。ナナとルルは氷魔法が得意。冬の寒さには強い」
「そういうもんか」
「……そういうもん」

 そんな雑談をしていると、リーダーのセシルから集合がかかった。

「皆、お疲れ様。いい感じで仕上がってるね。これなら万全の状態で試合に臨めそうだ」

 爽やかな笑顔でセシルがそう声を掛けると、皆嬉しそうにガッツポーズで自信を露わにした。やはり絶大な信頼が有るリーダーの言葉は効力が違う。

「さて、僕はこれから組み合わせ抽選会に行ってきます。結果は来週報告するとして、いよいよ試合本番が目前だ。訓練も大詰めに入るから明日の休日はしっかり休息を取っておいてね」

 そして今日の訓練はこれで終了となり、このままここで解散という事になった。

「そんじゃ、俺は真っ直ぐ騎馬部に行くとするかな。お前は?」
「着替えるのも面倒だし、荷物だけ取ってそのまま帰る。ルル、お前も今日は帰って休んだ方がいいぞ」
「ええ、そうするわ。早くシャワーを浴びたいし。ナナは部活に行くんでしょ? ちゃんと時間には帰ってきなさいね」
「……ん。分かった」

 別れを告げ、それぞれ別の方向へ歩いて行く。他のクラスメイト達も更衣室に行く者、部活に行く者、教室に行く者と皆バラバラに散っていった。

 ――にしても暑いな……帰る前に顔だけでも洗って行くか

 そう思い、俺は校庭の隅に備え付けられた水飲み場へと向かう。
 夏場にだけ取り付けられる冷却の刻印が施された蛇口を捻り、冷たい水を頭からかぶる。一気に熱が冷やされ、最高に気持ちがいい。

 しばらくその心地に浸った後、水を止め、前髪をかき上げながら顔を上げると、ニコニコと笑う一人の人物が目の前にいた。

「やぁ!」
「――――っ⁉」
 
 思わずその場で固まった。
 さらにその人物の後ろから、不敵な笑みを浮かべた人物が現れる。

「待ちくたびれたから研究も兼ねて稽古をつけに来てやったぞ」
「……はい?」
「魔法対抗試合が近いからな! 特訓だ!」
「え……」
「許可はとってある。思う存分、こいつとやり合え」

 サイラスが俺の肩をガシッと掴み、逃げれないようホールドする。それを確認したクライヴが歩き出し、俺は引きずられるように二人に連行されていった。

 まだ諦めていなかったのかと肩を落としつつ、訓練場へと連れて行かれた俺は、夏空が暗くなるまで実技演習とデータ収集に付き合わされる羽目になったのだった。

 翌日、肉体的にも精神的にも疲れ切った俺は、休日をただただ寝て過ごすはめになってしまったのは言うまでもない。




 ******




 週明けの朝、教室にて。
 セシルから魔法対抗試合の抽選結果が発表された。五泊六日で行われる合宿形式のイベント中は毎日が戦いとなる。

「僕達はⅠグループになりました。これが対戦表です」

 黒板に全試合の日程が書かれた表が貼り出された。以下、その組み合わせだ。


 Ⅰグループ:B、C、E、G、H組
 Ⅱグループ:A、D、F、I、J組
  ・一日目、第一試合 B対H、A対D
       第二試合 E対G、F対I
  ・二日目、第一試合 C対H、I対J
       第二試合 B対E、A対F
       第三試合 C対G、D対I
  ・三日目、第一試合 C対E、D対F
       第二試合 B対G、A対J
       第三試合 E対H、F対J
  ・四日目、第一試合 G対H、A対I
       第二試合 B対C、D対J
  ・五日目、決勝戦……Ⅰグループ勝者 対 Ⅱグループ勝者


 試合は同時に二試合ずつ行われ、四日間連戦の組と一日に二試合ある代わりに一日が休みとなる組とで分かれている。俺達Hクラスは毎日必ず試合のある連戦組だ。

「僕達は初戦第一試合から毎日休みなく試合が続きます。戦略を熟考できる時間は無いから、迅速な判断をその都度求められる事になる。なのでこれから本番さながらの実施訓練を行い、軸となる作戦を決めようと思います。皆そのつもりで、よろしくね」

 そしてセシルの言葉通り、この日から魔法対抗試合に向けた総仕上げの訓練が行われる事になった。

 ・
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 ・

 まずエミリアが城を二つ創造し、五人一組六部隊を二つに分ける。
 互いに本気で城を守り合うという模擬試合を行い、数日掛けて色んな戦闘方法と作戦、部隊編成を試していく。
 そして皆が精も根も尽きてヘトヘトになった頃、大まかな作戦と隊の編成が確定した。

 部隊長を務める六人にセシル、ゼル、ルル、レミーラ、リファ、そして俺が決まった。この六人を軸に対戦相手に合わせた部隊を編成していく。

 セシル、ゼル、ルルは当然の事として、ジャッジメントバトルの結果から俺も異論無しと言う事で部隊長へと推薦された。

 レミーラはつい先週までほぼ見学しか出来ず、訓練にはほとんど参加出来なかったのだが、元々の実力と貴族達からの信頼により部隊長へと決まった。例の一件以降、人柄が丸くなったためか、庶民のクラスメイト達とも何となくコミュニケーションが取れている気がする。

 予想外に武闘派だったのがリファだ。部活も武術部に入っているとの事で、近距離戦での戦闘能力はなかなかのものだった。人見知りしない明るい性格なのもリーダー向きで、彼女を慕っている者も多かったため、部隊長に任命される事になったのだ。
 本人は指名されて唖然としていたが、セシルに理由を説明された後、『期待してるよ』と微笑まれてからは顔を真っ赤にして力強い返事を返していた。

 ナナも部隊長候補に名が挙がったのだが、『ルルとナナは二人で一つ』と言って頑なにルルとの同チームを譲らないため、二人は必ず一緒の部隊と言う事が約束された。
 ついでにレミーラの取り巻きであるジョンとライラックだが、彼らも専属となる事を申し出たのだが、レミーラから我が儘を言うなと一蹴りされて彼女の部隊という事になった。



 そして出発前日――俺達は全員で弁当を買い、屋上へと集まっていた。一致団結するために、締めに皆でご飯を食べようとセシルが提案したのである。
 日除けのパラソルの下、数か月前では有り得ないような光景がそこにはあった。貴族と庶民が入り交じり、皆笑顔で食事をしながら会話を楽しんでいる。

「皆、ちょっといいかな」

 和気あいあいとした賑やかな場に、セシルの声が響いた。

「いよいよ明日が本番だ。僕達はしっかりと準備をしてきたし、こうして仲間と切磋琢磨しながら訓練にも励んできた。自信を持って行こう!」

 その言葉に、皆が威勢よく声を上げた。絶対的なリーダーへの信頼が、その表情に現れている。セシルは続けて、今日はしっかりと英気を養うよう忠告を出した。その言葉にも皆が笑顔で、返事を返した――





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