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魔法学院〜入学編〜
第35話 最終試合、優勝決定戦①
しおりを挟む闘技場への入場口で、俺達はその時を待っていた。
試合の無い他クラスの全生徒に加え、観客席には今までよりも遥かに多いギャラリー達が集まっている。イグナスとシエンの横にはラフィカと数人の生徒会メンバーが、そしてその後ろにはサイラスとクライヴまでもが観戦に訪れていた。俺達の世話をしてくれている施設の人々の姿もあり、この魔法対抗試合が新入生の一大イベントである事を再確認する。
――自分の実力、存在を知ってもらうには確かにいい機会だな
学院でも中継をしているらしく、他の教師や生徒達もこの優勝決定戦は見ている事だろう。学年でも注目を集める生徒達が揃っているこの試合、俺もそれなりに爪痕は残さなければならない。
『只今より優勝決定戦を開始致します――生徒、入場』
「よし、皆、胸を張って行こう」
リーダーのセシルに続き、闘技場の中央に用意されたフィールドへと歩を進める。大勢の拍手に迎えられ、俺達は自陣に並び立った。
「さぁ、泣いても笑ってもこれが最後だ。仲間を信じて、自分を信じて、勝ちに行こう!」
「「「おーー‼」」」
リーダーの鼓舞に全員が気合を入れる。そして各々が配置に着いた。
『Ⅰグループ代表Hクラス対Ⅱグループ代表Aクラス――これより試合開始です!』
威勢のいいアナウンスと共に、開戦の火蓋が切られた――
******
まずはいつも通りセシルが城へ結界を施す。同じように相手クラスもアデルが結界を施した。そして両チームとも最終戦らしく、一斉に敵陣へ向けて駆けて行く。
「闇ノ纏――“地獄の炎”」
「“聖なる水精霊”!」
アデルの闇魔法とセシルの聖魔法が最初から激しくぶつかり合う。互いに城の頂上に立ち、邪魔がいない上空で高度な魔法の撃ち合いが始まった。
――凄いな……どっちも誰彼と使う事の出来ない上級魔法だ
共に大精霊の守護持ち、そして特別な力を持つ者同士の戦い――これが学年トップの力なのかと感嘆する。
――俺も負けてられないな
自然と口元に笑みが零れ、俺は目的の人物へ向けて駆けて行く。定めた視線の先に、同じく俺へと視線を定め、一直線に駆けてくるカグラの姿があった。
フィールドの中央で、俺はそいつと対峙する。
「手合わせ、願おうか」
「俺は自分と同等以上の奴しか相手にしない。お前はその自信があるか?」
「まぁ道場破りに遭っても破られない自信はあるかな」
「フッ……その言葉、確かめさせてもらおう」
そう言って、カグラは何も無い地面に向けて手を翳した。
「神器創造――“火之迦具土”」
円を描くように赤黒い炎が立ち上り、その中から一本の刀が現れる。カグラが柄を握り一閃させると、その炎は一瞬にして掻き消えた。
ただならぬオーラを感じさせる見事な刀を肩に担ぎ、ふてぶてしい態度でカグラが口を開く。
「俺と安易に戦おうとすれば一振りで決着がつくぞ。まぁその方が楽でいいが」
「ならその一振りを全力でしてみろよ。受け止めてやるから」
「……ほんと、お前はいちいちああ言えばこう言うな」
「お前にだけは言われたくないっ」
イラっとした俺を他所に、カグラが肩に置いた刀を構え、膝を曲げて重心を落とす。グッと足に力が込められるのを見て、俺も迎撃の構えを取った。そして技が撃ち出される瞬間、魔法を発動させる。
「侵蝕しろ――“暗黒物質”」
「神足剣技――閃」
目にも留まらぬ速さでカグラが眼前へと迫り、剣圧による暴風が俺との間で巻き起こる。
その場から一歩も動かない俺を見てカグラの眉間に皺が寄り、振り抜いた刀が途中で止まっている事に気が付いてその目が大きく見開かれた。
「なんだ、それは……」
「お前だけ武器有りはずるいだろ? だから俺も、創造した」
カグラの刀を受け止めているのは漆黒の刃。俺が自分の腕を媒体に暗黒物質創造で創り出した刀剣だ。
「まぁ折れたら俺の腕もただじゃ済まないんだけどな」
「随分と奇怪な事をする。面白い魔法が使えるじゃないか」
「思い付いたのは昨日だけどな」
そう、俺はこれが出来るかを確認するため、昨夜訓練場に行ったのである。
・
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・
試合中以外で唯一魔法の使用を許可されているのがこの訓練場だ。俺は新たな戦闘方法を模索しにここへ来たかったのである。
中に入るとエミリアとガルムの姿があった。どうやら監視員のようである。そしてなぜか保険医のレイフロもそこに居た。
「おっ! 坊主、久し振りだな」
「相変わらずその呼び方ですか……お久し振りです。その節はどうも」
「リーリウム君、今から訓練ですか? ここの使用時間は間も無く終わりですよ」
「ええ、知ってます。他の生徒が居なそうな時に来たかったんです。すぐに済みますんで使用許可、頂けますか?」
するとガルムがワクワクした様子で話し掛けてきた。
「肩慣らしか? 俺が軽く組み手でもしてやろうか♪」
「ちょっと、ガルム先生。まだ試合が控えてる生徒に個別指導はいただけませんよ。贔屓になります」
「組み手なんて準備運動だろう。ったく、エミリア先生は頭が固ぇなぁ」
ギロッと鋭い目付きで睨まれ、ガルムは口笛を吹く素振りを見せながら明後日の方へと視線を逸らした。そんな二人に苦笑いしつつ、俺はここで行いたい事の内容を説明する。
「実は、今から“暗黒物質”を自分に使いたいんです。構いませんか?」
そんな俺の言葉に、三人はキョトンとしたまま固まった。いち早く意味を理解したエミリアが慌てた様子で口を開く。
「な、何を言ってるんですか? 侵蝕の闇魔法を自分に掛けて、いったい何をしようと?」
「自分の体を武器に出来るか試したいんです。やった事が無いんで試合前に確認した方がいいと思って。多分、大丈夫だと思うんですけど」
「おぉ、あの希少魔法を遂に明日使うんだな!」
「それはまだ分かりませんが……俺には武器となる魔法がこれしかないんで、使えるようにしておきたいんです」
「リーリウム君、その魔法を対人に使うつもりは――……」
「無いです。絶対にダメだと師にも言われてますから」
それを聞いてエミリアがほっとしたように胸を撫で下ろした。
「ですが、自分に使うなとは言われてません。だから試してみたいんです」
「具体的な事を聞いても?」
「この暗黒物質は他の物質に侵蝕する事で形を変えて物体化します。前に木刀へ侵蝕させて闇の刀を創り出したように、自分の腕に侵蝕させて刀剣を創り出せないかと考えました。魔法を解けば元に戻りますし、使用者の俺自身を呑み込むなんて事は無いはずなんで、問題は無いかと」
「なるほど……面白い発想ですね」
エミリアは少し考えた後、「いいでしょう」と小さく頷いて了承を出してくれた。
「そもそも私達に可否を下す権限は無いんです。己の力をどのように使うかは生徒個人に委ねられている。だからリーリウム君のやりたい事を私達がどうこうは実は言えないの。偉そうにしてごめんなさいね」
「いえ、何かあったら面倒を掛けるのは俺なんで」
「それについては俺達学院側の保護責任だ。お前達の安全や命を守る仕組みはしっかりと備えられているから、坊主は思う存分力を発揮すりゃあいい」
「ただし、その力の使い方は必ず誰かが見ているからな。道理から外れるような行いはご法度だぞ!」
「ええ、よく知ってます」
「おっと、お前はそうだったな」
そして俺は三人に見守られながら、ダークマターを使った実験を開始した。
魔法を発動した手から漆黒の触手が溢れ出し、それをそのまま腕へと絡ませ侵蝕させる。するとまるで腕が鉛のように重くなり、俺は咄嗟にダークマターを解除した。
――制御が難しいな……これじゃ動かす事もままならない
「皮膚より厚く、筋肉を覆うように……」
イメージをしながらブツブツと呟く俺の側で、エミリア達が何やら感想を述べ合い出す。
「近くで見ると何て禍々しい……」
「ああ、これぞ正に闇の力って感じだな」
「稀年なだけあって稀子が多いねぇ」
そんな言葉を聞き流し、俺は魔法の発動に集中する。魔力操作で侵蝕範囲を制限し、暗黒物質創造を行った。
「……うん、悪くないな」
見た目的には腕に装着する刀剣と言った感じだろうか。俺の腕は武器となる漆黒の刃に形を変えた。
「ほんとにそんな使い方が出来るのね」
「はぁ~、見事なもんだな。切れ味も良さそうだ」
「でも折れるような事があれば腕ごと持っていかれそうなんですよね。一応表面までしか侵蝕はさせてないんですけど……これ、万が一があっても治せます?」
「そうだなぁ。刃を粉々に粉砕されて、風に吹き飛ばされでもしない限り大丈夫なんじゃないか?」
「……心配なんで折れたらすぐ解除します」
そして俺はダークマターを解いて腕を元の状態に戻した。
「ありがとうございました。確認が出来たんでもう大丈夫です」
「もうですか? あっと言う間ね」
「よくもまぁそんな簡単に操作できるもんだなぁ。坊主、契約の力がある訳じゃあないんだろ?」
「契約? そんなものある訳ないじゃないですか。先生達なら分かるでしょう」
レイフロの質問に、俺は思わずムッとする。
――契約は魔を統べる者達と結ぶモノの事だろう? セラフィナイトの人間が加護無しの契約持ちだなんて、冗談じゃない
「ん? 何か気に障ったか?」
「いえ、別に……それじゃあ俺はこれで」
「おう、明日は頑張れよ!」
「夜更かししないようにね」
「はい。失礼します」
こうして俺は試合に向けた準備を整えたのである。
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「とりあえず、一振りで決着をつける事は出来なかったな」
「ふん、受け止めただけで偉そうに」
「それじゃあ改めて、手合わせ願おうか」
「準備運動代わりぐらいで、相手してやる」
そして俺とカグラの剣術戦が始まった。
******
その頃、レミーラとヒューベルト=スペンサーは同じ従者としてのプライドを懸けて対峙していた。敬う相手が互いに世界でも有数な力有る貴族であるため、言葉を交わした事はないものの、互いに敬意を払う相手と認識している。そして二人は同じ風の守護持ちと言う事もあってライバル意識も持っていた。
「わたくしを相手に選んで下さった事、まずはお礼を申し上げます」
「私の相手は貴方しかいないと思っていました。宜しくお願い致します」
礼儀正しく挨拶を交わし、二人は同時に魔法を展開する。
「参ります――“風刃”!」
「受けて立ちましょう――“空切刃”!」
互いに放った風魔法は一刃の漏れもなく相殺し合い、空気中へと搔き消える。
二人は口元に笑みを浮かべ、守護を宿した手に魔力を込めると、レミーラの手には緑色に輝く風霊の槍が、ヒューベルトの手には銀色に輝く五本のナイフが現れた。
ヒューベルトが銀の眼鏡をクイッと上げ直し、レミーラは顔に掛かる長い金髪を後ろへと払う。そしてまたも同時に、相手へ向けて地面を蹴った――
同じ頃――ルルとナナ、そしてゼルはレイヴン=オーラント率いる部隊と対峙していた。黒みがかった灰色の髪と、つり上がった目に獲物を見据える濃ゆい琥珀色の金眼、獰猛に見える鋭い犬歯その全てが、彼が人狼である事を証明している。
そんなレイヴンから守るように、ゼルが一歩前へと躍り出た。
「お前の相手は俺達だぜ! でもまずは俺から倒してもらおうか」
親指を自分に向けて、ゼルが自信満々に宣戦布告を言い放つ。対してレイヴンは両手を腰に当て、愉快そうに笑いながら言葉を返す。
「ハッハー! ええねぇ、そのノリ、嫌いやないで! けどアカンわ……あんさんの相手はオレちゃうねん」
「それは困る。俺の相手がいなくなっちまうからな!」
「目の前におるやん。うちのクラスでいっちゃん可愛い子達、用意したさかい」
「…………へ?」
「美貌の精鋭部隊や。楽しんでな☆」
そう言ってレイヴンがにっこり笑うと、ゼルの前に五人の生徒が立ちはだかった。全員が綺麗に身だしなみを整えた女生徒だ。
「そう来るの……良く分かってるじゃない」
「……いい作戦」
「感心するところか⁉ てか、無理、無理だからっ!」
ゼルが大慌てでたじろぎ出すと、相手の女生徒達は一斉にゼルへと飛び掛かった。
「う、嘘だろっ⁉ 俺は女の子に攻撃なんて出来ねぇよぉぉぉ!」
繰り出される攻撃を必死に避けつつ、ゼルが逃げ惑う様に走り出す。その光景を見て、レイヴンは満足気な笑顔を見せた。
「やっぱり色男やなぁ。君のために一部隊作った甲斐があったわ」
「っに馬鹿な事言ってんだ! おわっ、ちょ、ストップ、ストーーップ!」
「うん、うん。楽しそうでなによりや。ほならオレらも遊ぼか? 麗しの双子ちゃん♪」
レイヴンの金眼がルル達へ向き、その色が一層濃く輝く。
「……一つ質問いいかしら。私達を相手しようとするのはたまたま?」
「どうやろなぁ。オレが相手せなあかん理由を確認するためやろか」
「そう……良く分かったわ」
「……やっぱり、って、感じ」
「アカンかったらちゃんと避けてくれな? 死なれでもしたらえらいこっちゃ」
顔に笑みを浮かべたまま、レイヴンが片腕を獣化した。髪色と同じ体毛を生やした逞しい腕と、鋭く長い爪を生やした獣の手が現れる。二度三度と指を開閉して調子を確かめるその姿を、ルルとナナは険しい表情で見詰めた。
「私達の本能が嫌がるわね……忌々しいわ」
「……仕方ない。狼人間の爪、ナナ達には猛毒だから」
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「……ナナ、無理はしないでちょうだいよ。掠るだけでも動けなくなるわ」
「……ん。でもやれるだけ、頑張りたい」
「そうね、隠れるのは今日で終わり。私達の力、見せつけてやりましょう」
ルルの言葉にナナが力強く頷き、二人は攻撃態勢に入った。ルルの瞳が魔眼となるのを見て、レイヴンの顔から笑みが消える。
「……ええんやな?」
「最初から隠す気は無いの。私達が貴方を天敵とするように、貴方だって私達が天敵なはずよ。油断しない事ね」
「ほな、確かめさせてもらうわ。どれくらいオレらの脅威となるのか、な」
「完全体になれない貴方に出来るかしら。楽しみね」
不敵な笑みを浮かべるルルに対し、鋭い犬歯を見せてレイヴンが獰猛な笑みを浮かべた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
あとがき
ここから一気に投稿していこうと思います。多分、書き終わる……はずです。。。
区切りのいいところまで残り四話~六話、順調にいけば五月中に一区切り(;'∀')頑張ります
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追記:2025/09/20
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