ディスティニーブレイカー~最強の白魔法使いを兄に持つ黒魔法使いの俺。使える魔法は四つのみだが実はその内の二つがチート級!?〜

夏蜜柑

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魔法学院〜入学編〜

第40話 その後

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 魔法対抗試合が終わった翌日、俺達は午前中の内にラクシュウェル魔法学院へと戻って来ていた。そのままの足で教室に荷物を置きに向かい、終業式が行われる大講堂へと移動する。
 道すがら、前期テストの結果が張り出された掲示板へと立ち寄った。

「やっぱりセシルが一位かよ。案の定だぜ」
「……オール、満点」
「隙が無さ過ぎて可愛気がないわね」
「はは、それは褒めてくれてるのかな?」
「さあね。どうかしら」
「それにしても皆さん流石ですね。私とミサは載る事すら出来ませんでした……」
「掲示されるのは半分の人数だからなぁ。でも気落ちする事ないぜ、リファちゃん! 一年の前期は貴族連中にとって復習期間みたいなもんなんだ。勝負は夏休み明けの中期からだぜ☆」
「そうよ。見なさい、出てる名前のほとんどが貴族の者達でしょう?」
「言われてみれば確かに……」
「じゃ、じゃあここに載ったクロス君は凄いんですねっ!」
「運良くギリギリだけどな!」
「ゼル、それは俺が自分で言うセリフだ」

 何故か勝ち誇ったように言うゼルに対し、俺はジト目を向けて突っ込みを入れる。その横でミサが可笑しそうにクスクスと笑う。

「運も実力の内、ですっ」
「確かに、こいつは運が強そうだぜ」
「おい、それだと俺の実力が全部運みたいだろうが」
「順位がちょうど半分の位置なんだからあながち間違ってないんじゃない?」
「……あと一人、上がいたら、載ってない」
「まぁそれはそうだが……」

 ――平均になるよう回答してピッタリ真ん中の順位にくるとは俺も思ってなかったな

 目立たないようひっそりと過ごす計画を企てていた俺にとって、残された唯一の計画が成功し、その喜びを誰にも気付かれぬよう心の中で嚙み絞める。優秀過ぎず、ダメ過ぎず、今後もしばらくは平均点を取り続けようと心に誓った。

「運って言うなら回答率を上げる事をお勧めするよ。この学院は連休中に出す課題って一つしかなくて、それが学期末テストの間違い訂正なんだ。とにかく解答欄を埋めておけば、運が良ければその課題を減らす事が出来る」
「えっ⁉ そ、そうなんですか? 分からない箇所は全部空欄で出しちゃいました……」
「わ、私もです……」
「けど自分のためにはちゃんと復習して理解を深める事が大切だと思うけどね」
「で、ですよね~! あはは……」
「ちゃ、ちゃんと勉強します……」

 笑って誤魔化す二人の横で、俺は密かにがっくりと肩を落とした。全教科の間違いを解き直すなど面倒臭い事この上ない。

 ――答えを書くだけじゃきっと許されないんだろうな……

「満点のセシルは課題無しか……羨ましい」
「はは、今回はね。けど、もし皆で課題をやるなら僕で良ければ手伝うよ」
「マジか! 調べる手間が省けて助かるぜ☆」
「セシル、絶対に楽させちゃダメよ。自力で解かせなさい」
「それはもちろん」
「えぇ……そりゃないぜ……」
「ゼル、それも俺やリファ達のセリフだ」

 そんな掛け合いをしながら講堂へと移動する。
 全学年の生徒が揃って行われる終業式だ、中にはすでに大勢の生徒が集まっていた。

「……何か、人数がいる割に静かだな」
「き、気のせいかな……皆こっちを見てる気がする……」
「う、うん……ちょっと怖いね……」

 リファとミサの言う通り、講堂内に入った俺達を待っていたのは無言の圧と冷ややかな視線――

「私達のせいでしょうね」
「……うん。間違いない」

 ルルが冷めたように言い放ち、ナナは無表情のまま相槌を打った。辺りを見渡せば、確かに大多数の視線が二人へと注がれている。

「チッ、年上が年下を威嚇すんなってーのっ!」
「ちょっ、ゼルディア君っ⁉ 煽っちゃダメだよっ」
「向こうがあんな態度なんだ、別にいいんじゃないか?」
「もぉ、クロス君まで……けど、何だか私も腹が立ってきちゃった」
「リ、リファちゃんっ??」

 迎え撃つように睨み返す俺達三人の後ろで、ミサがおどおどしながら慌てふためく。
 それを見てか、ルルとナナが申し訳なさそうに視線を落とした。

「皆、大丈夫だから。さ、僕達は自分達の席に行こう」

 セシルが穏やかな声でそう諭し、何を気にするでもなく先頭をきって歩いていく。
 それに俺達も続き、席へと向かった。

 程なくして終業式が始まる。


「――さて諸君、早いもので明日から夏休みが始まる。校長である私からの願いはただ一つ、“ラクシュウェル魔法学院の生徒として自覚を持って過ごすように”、以上だ。怪我無く、事故無く、有意義な休みを享受してくれたまえ」

 高感度の高い端的で手短な校長の挨拶が終わり、次に生徒会と風紀委員会が壇上へと上がった。
 生徒会長のラフィカから夏休み中の注意事項が説明される。

「校長先生の話にもあったが、くれぐれも学院の名に恥る行動は取らないように、心掛けて生活をしてくれ。万が一反する行為を行う者が出た場合、一層厳しく厳罰に処するのでそのつもりで。宜しく頼んだよ」

 ハスキーボイスで凛々しくそう忠告するラフィカの姿に、うちのクラスでも何人かの女子が目をキラキラさせて頬を赤らめていた。やはり女子人気が凄まじい。
 と、そこに水を差すように一人の生徒が声を大にして質問を飛ばした。

「生徒会長! このまま誰も声を上げなければ黙殺するつもりですか?」
「さて、何の事かな」
「ふざけないで頂きたい! 今年の一年に吸血鬼ヴァンパイアがいる事は皆が知っている。貴方達役員会が今日まで待てと言うから我々は騒ぎを起こす事なく我慢していたんだぞっ!」

 その生徒の発言を皮切りに、次々と賛同の声が上がり始める。

「同じ学び舎に人敵がいるなど冗談じゃありませんっ!」
「学院側の対応に関して説明がないなんておかしいじゃないですかっ」
「どう対処するつもりです? 事と次第によっては学院の中の話じゃ収まりませんよ!」
「生徒会長と風紀委員長は速やかに説明責任を――……ひっ‼」

 騒ぎとなった講堂内に、突如として暴風が吹き荒れた。そして“ダァァンッ”と勢いよく足を踏み鳴らす音が響き渡り、それと共にピタリと風が止む。
 壇上には鮮やかな紅い眼に縦長の瞳孔を形作ったイグナスが、物凄い威圧感を発して仁王立ちで立っていた。

「ごちゃごちゃうるせー事この上ねぇな。馬鹿共が!」
「なっ――……⁉」
「イグナス、馬鹿だから説明が必要なのだ。諦めて相手をしてやれ」
「シ、シエン副委員長まで……失礼ですよ!」
「だからうるせぇって言ってんだろっ! そもそもな、お前らが言ってる事は何の問題にもなりゃしねーんだよ。どちらかってーと差別的発言をしてるお前らにこそ問題がある」
「どういう意味ですかっ!」
「イグナス、私が代わろう」

 そう言って、ラフィカが惚れ惚れする笑みを携え、話し始めた。しかし、その笑顔には凄みがある。

「今回、皆は吸血鬼ヴァンパイアと言う存在にのみ囚われているようだが、これは歴史による認識の危うさだ。悪しき者と決めつけ、その本質、人となりを見ようとしない。固定概念による迫害は必ず差別を生み出し、憎しみを生む。それでは人を守る存在になどなれはしない」
「しかし、過去と同じ事が繰り返されないと言う保証はないじゃないですか!」
「過去は過去、今は今、と言える現状を今の吸血鬼一族は何百年もかけて証明している。それに、君が言った事は他の者にも当てはまる。人は大なり小なり過ちを犯す」
「…………」
「ハッキリ言おう。この星を統べる重鎮達は現存する吸血鬼を人類の中の一つの種族と認めている。そうである以上、守人の卵である我々が差別をするなど言語道断。この学院にいる以上、私がそれを許さない」

 笑みを消したラフィカの気迫に、異を唱えていた生徒達は喉を鳴らして押し黙った。
 それを見て、イグナスが意地悪く笑いながら口を開く。

「くっくっ、これ以上は俺が引き受ける。まだ我を通したい奴がいれば直接俺に申し入れろ。いつでも判定決闘ジャッジメントバトルをやってやるよ」

 講堂内が静まり返り、今度はラフィカが可笑しそうに笑う。

「フッ、ではこの話しはこれで終いだ。ついでに終業式も終いとしよう。皆、充実した夏休みを――」
「おっと、言い忘れてたぜ」

 締めようとしたラフィカの言葉を遮り、イグナスがニヤッと口の端を上げた。
 さらっと発せられた次の言葉に、俺は目を見開いて驚愕する。

「今日より一学年のクロス=リーリウムと神楽カグラ伊弉諾イザナギを風紀委員会の一員として招き入れる。俺の言う事は絶対だからな、文句がある奴はそれこそ直接言いに来い。判定決闘ジャッジメントバトルはいつでも受け付けるぜ」

 場内が騒然とし、俺は愕然がくぜんとして固まった。

 体育会会長のサイラスと文科系会長のクライヴが抗議の声を上げて同時に立ち上がる。
 ラフィカは「聞いてないぞ……」と眉間に皺を寄せ、そんなラフィカを無視してイグナスは元に戻った紅い瞳を俺へと向けた。
 してやったり顔のイグナスとは対照的に、俺は能面のような顔をイグナスへと向ける。

 爆弾が投下された講堂内は一層騒がしくなり、前期最後の日は騒々しく幕を閉じた。


※前話、かなり書き直してます
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
あとがき

ここでいったん一区切りです。
次はここまでの人物紹介を載せて次章へと参ります('∀')
人数がすでに凄まじいのでかなり萎えてますが、なるべく分かり易く、頑張ります!
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