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183 水晶と魔法陣
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「アールカは、地下洞窟の水晶の中で見つかった。ヴェルドリンから近い位置の森林地帯にあった洞窟だ。冒険者が見つけて、ヴェルドリンの冒険者ギルドに報告されたことが発端さ」
億劫そうに杖をついて歩くラズリーズさんは、商店街の現場へ向かう途中で言った。
「それで城塞伯軍と冒険者の精鋭たちが合同で調査に入った。私もそれに同行していた。くだんの水晶の中には魔法陣があったが、それがだんだん痩せ細った少女の裸体に変化していたところだった。体が形成されきったところで、水晶は砕けた」
水晶に刻まれた魔法陣か……羊皮紙に刻まれていた《神格タキオナの召喚》と少し似ているな。
「当時は特一級ほど機密性の高いものだとは誰も理解していなかったよ」
「まあ、古代の魔法的な何かってくらいですよね」
「ああ。それでも機密性は第二級クラスだと見積もられて、私がとりあえず引き取って調査をすることになったんだ。工房で私が事情を聞くと、彼女は自ら《神格アルカヘストの召喚》だと名乗った。だが魔法の名前と効力以外はなにもわからなかった」
アールカという人格は、最近生まれたということだろうか。
そしてリンゴを増やしたとき魔法を使ったように見えなかったのは、彼女自身がそもそも発動している魔法だったからか。
「でも、なぜそんなことに?」
「今まで水晶に刻まれた魔法陣だったものが、なぜ突然そのようなことになったかは、よくわからんね。ただ、タイミングとしては、辺境伯領の『時計塔』に関する事件と一致する。関係あるかどうかは辺境伯領の報告を耳にする限りは不明なんだが、何か心当たりはないかい?」
「……うーん」
俺は冷や汗をかきながらうなった。
秘匿されてはいるが、それは《神格タキオナの召喚》を巡る戦いでもあった。《神格召喚》という禁忌の魔法は、何か共鳴し合うような影響があるのだろうか。少なくとも、辺境伯領の事件と無関係であるとは考えがたい。
「末端の魔法薬術士である俺としては、なんとも」
「謙遜かねえそれは。……まあいいさ。私たちは『世界を一変しかねない大魔法』という常軌を逸したバトンをそちらに渡せればそれでいいんだからね」
「やはり危険という認識ではあるんですよね」
「そりゃそうだろう。……聞くところによれば種類の違う《神格召喚》らしき魔法が辺境伯領に眠っているというじゃないか」
言われて、俺は反応に困った。まさしく《神格タキオナの召喚》のことだ。
ランドラック卿からある程度聞いてはいるんだろうけど、俺から話せば藪蛇になりそうだからやめておこう。
「臭いものはすべて辺境伯領に埋めて蓋をすればいいって理論さね。世界を揺るがす大魔法があんなド田舎に集まってるなんて誰も思わんし、危険地帯『異邦』と隣り合わせだから何が見つかっても不思議じゃない」
「でも、わざわざ危険を冒してまで辺境伯領にそのバトンを託そうとしているのは気にかかります。こんな鉄壁の守りを誇る城塞都市より安全な場所なんてなかなかないんじゃないですか?」
しかも秘密裏に、最小限の人員でそれを行うほどの徹底ぶりだ。
……まあ、俺はこうして失敗してしまったので人選ミスだったと思う。アールカを狙う敵をあぶり出す、という目的は達成してはいるが。
「……城塞伯にもいろいろ事情があるのさ。この件が解決したなら聞いてみればいい」
「そうですね」
俺がうなずいたところで、反応があった。アールカの一部が、近くにいる。
「こういう、ぬいぐるみみたいな感じで落ちているんでしょうか」
「ぬいぐるみだけとは限らんだろうさ」
反応の近くを探していると、赤く丸いリンゴが落ちていた。リンゴは、さまよっているかのように自らの意思で転がっているように見える。
「あれだ」
まさか食べ物になっていたとは。風もないのに自分から転がっている様はかなり不気味だ。
「誰かに拾い食いされたらどうするつもりだったんだ。まったく」
俺はリンゴを拾い上げた。
残りのアールカは、あと一つ。
億劫そうに杖をついて歩くラズリーズさんは、商店街の現場へ向かう途中で言った。
「それで城塞伯軍と冒険者の精鋭たちが合同で調査に入った。私もそれに同行していた。くだんの水晶の中には魔法陣があったが、それがだんだん痩せ細った少女の裸体に変化していたところだった。体が形成されきったところで、水晶は砕けた」
水晶に刻まれた魔法陣か……羊皮紙に刻まれていた《神格タキオナの召喚》と少し似ているな。
「当時は特一級ほど機密性の高いものだとは誰も理解していなかったよ」
「まあ、古代の魔法的な何かってくらいですよね」
「ああ。それでも機密性は第二級クラスだと見積もられて、私がとりあえず引き取って調査をすることになったんだ。工房で私が事情を聞くと、彼女は自ら《神格アルカヘストの召喚》だと名乗った。だが魔法の名前と効力以外はなにもわからなかった」
アールカという人格は、最近生まれたということだろうか。
そしてリンゴを増やしたとき魔法を使ったように見えなかったのは、彼女自身がそもそも発動している魔法だったからか。
「でも、なぜそんなことに?」
「今まで水晶に刻まれた魔法陣だったものが、なぜ突然そのようなことになったかは、よくわからんね。ただ、タイミングとしては、辺境伯領の『時計塔』に関する事件と一致する。関係あるかどうかは辺境伯領の報告を耳にする限りは不明なんだが、何か心当たりはないかい?」
「……うーん」
俺は冷や汗をかきながらうなった。
秘匿されてはいるが、それは《神格タキオナの召喚》を巡る戦いでもあった。《神格召喚》という禁忌の魔法は、何か共鳴し合うような影響があるのだろうか。少なくとも、辺境伯領の事件と無関係であるとは考えがたい。
「末端の魔法薬術士である俺としては、なんとも」
「謙遜かねえそれは。……まあいいさ。私たちは『世界を一変しかねない大魔法』という常軌を逸したバトンをそちらに渡せればそれでいいんだからね」
「やはり危険という認識ではあるんですよね」
「そりゃそうだろう。……聞くところによれば種類の違う《神格召喚》らしき魔法が辺境伯領に眠っているというじゃないか」
言われて、俺は反応に困った。まさしく《神格タキオナの召喚》のことだ。
ランドラック卿からある程度聞いてはいるんだろうけど、俺から話せば藪蛇になりそうだからやめておこう。
「臭いものはすべて辺境伯領に埋めて蓋をすればいいって理論さね。世界を揺るがす大魔法があんなド田舎に集まってるなんて誰も思わんし、危険地帯『異邦』と隣り合わせだから何が見つかっても不思議じゃない」
「でも、わざわざ危険を冒してまで辺境伯領にそのバトンを託そうとしているのは気にかかります。こんな鉄壁の守りを誇る城塞都市より安全な場所なんてなかなかないんじゃないですか?」
しかも秘密裏に、最小限の人員でそれを行うほどの徹底ぶりだ。
……まあ、俺はこうして失敗してしまったので人選ミスだったと思う。アールカを狙う敵をあぶり出す、という目的は達成してはいるが。
「……城塞伯にもいろいろ事情があるのさ。この件が解決したなら聞いてみればいい」
「そうですね」
俺がうなずいたところで、反応があった。アールカの一部が、近くにいる。
「こういう、ぬいぐるみみたいな感じで落ちているんでしょうか」
「ぬいぐるみだけとは限らんだろうさ」
反応の近くを探していると、赤く丸いリンゴが落ちていた。リンゴは、さまよっているかのように自らの意思で転がっているように見える。
「あれだ」
まさか食べ物になっていたとは。風もないのに自分から転がっている様はかなり不気味だ。
「誰かに拾い食いされたらどうするつもりだったんだ。まったく」
俺はリンゴを拾い上げた。
残りのアールカは、あと一つ。
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