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第34羽
しおりを挟む本日は晴天に恵まれ、絶好のお宅訪問日和となりました。
この日の為に毎日練習してきたんだから、きっと美味しいお料理を空くんにお届け出来る、そう自分を信じよう。
そして今回も何とか、少しでも女の子らしく見てもらえるように苦肉のコーディネートで臨みます。
悩んだ末選んだのは、上から下までボタンが付いている、シャツがそのまま長くなったようなデニム地のシャツワンピで、エプロンは白とグレー、二色のストライプです。
これで大丈夫かな、また可愛いって言ってもらえるといいな。 ……なんて、胸を弾ませてばかりもいられないんだった、今回は。
ある意味自分の事より気なっちゃうのは、加藤さんがどんな格好で来るか……。
自力で圧倒的に負けてる上に、きっと私なんかよりオシャレだろうし、そもそもあんなに可愛かったら何着ても似合うに決まってる。
引き立て役になるのは元より覚悟の上だけど、やっぱり気になっちゃうよね……。
お料理は被らないように打ち合わせしたけど、それだって彼女がどれ程の腕前かわからないし、不安は募るばかりだ。
「どうしたの? 弱気な顔して」
「……お母さん」
リビングで佇む私に、お母さんが声をかけてきた。 弱気な顔、か。 弱気にもなるよ、相手はあの加藤さんなんだから。
「行くんでしょ?」
「うん」
行くよ、会いたいもん。
「そんな顔じゃ負けに行くみたいよ?」
「……うん」
だって……お母さんは知らないから、私の相手はアイドルみたいに可愛いコなんだよ?
「大丈夫、母さんの得意料理を伝授したでしょ?」
「……まあ」
それ、焼きそばね。 勇くんにオマケで作るやつだから。
「あんなに頑張ったんだから、自信を持ちなさい」
―――お母さん……。
「そ、そうだよね。 私、頑張ったもん」
「そうよ。 ここ数日それに付き合わされて、毎晩同じおかずを食べさせられた母さんと父さんは何も恨んでないわよ」
………言わなきゃ感謝もしますけどね。
「なにその顔、一緒に来る女の子はそんなに可愛いの?」
いや、この顔はそっと見守る事の出来ない母に残念がっているだけです。 でも、それも勿論あるよ……。
「クラス……ていうか、学校中で噂になるぐらい、可愛いよ」
「………あ、そう」
―――あれ? そ、それだけ?
「でも、お目当ての男の子がどんなタイプが好きかはわからないでしょ? その子はどんな男の子なの?」
「……その男の子は、すっごく可愛くて、優しくて………す、少し、小さい………かな」
「小さいって、どのくらいなの?」
――うっ……その質問は、ちょっと……。
「それは、その……こ、これくらい……」
私は手で、空くんの身長をお母さんにわかるように示した。
ちょっと、盛った……かな。
「………あ、そう」
な、なにその反応……!
「相手の女の子は?」
「……このくらい」
加藤さんも空くんよりちょっと大きいから………でも、私に比べたらその差は微々たるものですが……。
「………あ、そう」
―――も、もう我慢出来ない……っ!
「さっきからなんなの?! 娘の戦意を喪失させたいのっ?!」
「まさか、母さんは励まそうと……」
「全然逆効果なのっ!」
もう、こんな事ならさっさと出れば良かった……!
大体この母親に少しでも期待したのが間違いだったのよ!
「真尋」
「な、なによ」
急に真剣な顔して、どうせ気の利いたことなんて言えないんだから。
「恋愛はね、顔だけじゃないし、ましてや身長差でもないのよ」
「……じゃあ、なによ」
性格、とか? それは加藤さんより良いような……そんなのわかんないか、私は加藤さんをそんなに知らないもんね。
「それはね」
「うん」
なに? 価値観とか? 趣味が合うとか?
「………」
「お母さん?」
さてはこの母親………。
「いつかわかる時が来るわ」
「用意してから喋ってよね!!」
見切り発車が過ぎるっ……!
答えも持たずにカッコつけるからよ!
無責任な母親に強めの突っ込みを入れると、お母さんは私に背を向けて、
「今はまだ、その時じゃないの」
「もういいっ! この焼きそば専門店!」
付き合ってられないわ。 ホント、まったく無駄な時間だった。 もう出かけよう。
何も得るものがないと判断した私が玄関に向かうと、
「ま、待って真尋、わかったわ!」
「今思いついたんでしょ?! もういいって!」
そんなありがたみの無い言葉いらないわよ、もうっ!
「聞かないと後悔するわよ」
「その時じゃないんじゃなかったの?!」
思いついたから言いたい感丸出しなのよ、なんなのこの母親は……!
「それはね……」
「なによ」
靴を履きながら適当に返事をすると、母真由美は言った。
「身体の相性、これ大事」
―――私は力強く玄関のドアを閉めた。
ダメだ、うちの母は……。
大体身体の相性って何よ? そんなの恋愛成就後の話じゃない。
こっちはそれどころか、キスだって………
――――もし僕が真尋ちゃんの恋人になれたら………僕は背伸びしても、飛び上がってもキスするよ――――
「………うん」
そうだ、そう言ってくれた。
―――関係ない、身長差なんて。
見た目だって、お世辞でもいい。
空くんは “可愛い“ って言ってくれたんだから。
こっちは目一杯間に受けて頑張るしかない。
―――行こう。
待っててね、空くん。
今から、身長175センチの恋する乙女が、愛情たっぷりの手料理を作りに行くよ。
愛情だけは、加藤さんにも負けないんだからねっ。
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