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第7話 立ち上がる仲間たち
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『ねぇねぇ、さっきからあいつって誰? 私達の知ってる人?』
「アミナスも! 流石!」
いつもの調子で能天気に敵の正体を聞くアミナスにまたノアは顔を綻ばせる。そんなノアに仲間たちは白けた視線を向けてくるが、ノアはそんな事は全く気にしない。
『いいや、お前達は知らないだろう。お前達の両親たちでさえ直接には知らん筈だ。ただ、一度だけあいつの仕業でお前達の両親たちは窮地に追い込まれた。あの最後の戦いの時にな。そしてあいつはあの時にアリス達を認識した』
スマホから聞こえてきた声にリアンがゴクリと息を飲んだ。
「まさか……だよね?」
「いや、そのまさかだと思う……最悪だ」
ノアはため息をついて珍しく頭を抱える。そんなノアの耳にやっぱり能天気なアミナスの声が聞こえてきた。
『誰、誰?』
『元妖精王だ。あいつは教会の人間と手を組みアリス達を襲わせた。恐らくその他にも色々手を貸していたんじゃないだろうか。あれはそういう男だ。あいつは万物を愛する妖精王には相応しくなかった』
『ふーん、私達の知らない人か。あ! ラーメン出来た! ね、ね、皆も食べる? 食べるよね?』
『アミナス、お前はさっき一袋食べてたじゃないか。流石に夕飯が入らなくなるぞ』
『ライアン様の言う通りです。お嬢様、ラーメンは! 一日! 三袋まで! そういう約束ですよ!』
『一日三袋も食ってんの⁉ 毎食じゃん! 流石だな、アミナス!』
『ルーク様、お嬢様が調子に乗るので褒めないでください』
『そうだぞ、アミナス。それは我の味噌ラーメンだ!』
「……」
子供達と同レベルで喧嘩を始める妖精王の声が聞こえた途端、ノアは真顔でスマホを切った。
「とりあえず妖精王は元気そうだね。ああ、でも今は猫だからラーメンなんて食べさせちゃ駄目だと思うんだ。カイン、ルードさんに頼んで至急キャットフード送ってって言っといて」
「お前……妖精王にキャットフード食べさせる気なの?」
「当たり前でしょ? だって、今は猫だよ」
そう言ってノアはニコッと笑う。内心では子供達を巻き込んだ妖精王に腸が煮えくり返りそうなほど腹が立っている訳だが、事情が事情なだけに怒れない。
だが、これぐらいの意趣返しは許されるはずだ。
「アミナスってば、私でもラーメン一日に二袋までって言われてるのに……」
「アリス、怒る所はそこではないと思うの。今回の事もまた絵を描いて説明してあげる」
「ライラマジ神! お願いします! ところで兄さま、次の敵は元妖精王って事?」
「みたいだね。どうしたもんかね」
大きなため息を落としたノアに、ずっと黙っていたアランが口を開いた。
「妖精王が代替わりをするのは、先代が消滅した時だと聞いています。ですが、今の妖精王は既に存在している。これはどういう事なんでしょうか」
「分からん。こういう話はシャルルが一番詳しそうだが」
「なんちゃって妖精は今相当忙しそうだよ。フォルスの人達が妖精王が消えた事に気づき始めたらしくって、それの対応に追われてるって」
冷えたミックスジュースを飲みながらそんな事を言うリアンに、キャロラインはギョッとしたような顔をしている。
「ど、どうしてリー君がそんな事を知っているの?」
「え? 本人に直接聞いたからだよ。この間ブルーベリージャムの注文が入ったんだけど、その連絡をしてきたのがシャルル本人だったんだ。その時に色々教えてくれたの。相当参ってたよ。珍しく暴言吐いて愚痴ってた」
先代王の腰巾着だった貴族達に向かって、あの無能共が! なんてシャルルの口から飛び出した時には流石に驚いたリアンである。そしてそれを聞いた瞬間、シャルルもやはり人の血が流れているのだな、と実感出来た。
それを伝えると、ルイスとカインがおかしそうに笑う。
「何だ、シャルルもリー君に相談するんだな。まぁ言いたくなる気持ちは分かるぞ。王なんてやってると、この俺でさえまだまともだと思える事が多々あるからな。キリなんかがやったら発狂するんじゃないか」
「俺がやったら間違いなく一人二人は見せしめに殴りそうです。ちなみにノア様が王様をやると確実に恐怖政治になると思います」
「酷いな、キリ」
とは言うものの、間違いなくそうなるのだろう。ノアは納得したように頷いてルイスに憐憫の目を向ける。
「ほんとに良かったよ。君達とは一緒に仕事しなくて」
「……それを俺に直接言うのか。止めろ! そんな目で見るな!」
「ルイスなんかまだいいじゃん。とりあえず矢面に立って判子押すだけの簡単なお仕事だろ? それに比べて俺は……」
あちこちからの嘆願書に書かれた事を調べる為に自ら見に行き、良い様に領主や領民を言いくるめて宥めて出来るだけ不満が出ないように立ち回るカイン。気が付けば学生時代よりも体力がある気がする。
「ま、まぁな。それは本当にそう思う。いつもすまんな、カイン」
「いやほんっと感謝してよ!? ああ、胃が痛い。ていうか、あの戦いの時に俺たちを認識したってどういう事だろうな。どっかから俺たちを見てたって事か?」
カインの言葉を聞きつけてライラのポシェットから飛び出してきたグリーンの手にはしっかりと胃薬が握られている。それを受け取ったカインは苦笑いを浮かべてお礼を言った。
「恐らくは。もしかしたらあの時に戦っていた兵士の中の一人に紛れてたのかもね」
「でもとりあえず妖精王が無事で良かったわ。ただ、魔力を封印されたと言うのがちょっと気になるわね……元妖精王のお姿も私達は知らないし……そんな相手と戦うのは流石に無理があるわ」
キャロラインの言葉に仲間たちが全員頷いた。
「まずは元妖精王の事を調べなくてはならないな。また忙しくなるぞ」
真顔でルイスが言うと、アリスが勢いよく立ち上がって腰に手を当ててニカッと笑った。
「大丈夫です! ループを抜け出した私達に怖い物なんて何もないです! あの時みたいに、また皆で未来の為に頑張るだけです! キメッ!」
この世界がループしていると気付いた日から色んな事があった。
でもそれは決して辛い事ばかりでは無かったはずだ。そして全てを終えた時に振り返って得た物の何と多かった事か!
それを聞いて、それまで震えていたキャロラインが拳を握りしめて顔を上げて立ち上がった。
「そうね。そうよ、アリスの言う通りだわ。私ったら何を迷っていたのかしら。大人になって家族を持っていつの間にかすっかり保守的になっていたけれど、もう一度大切なモノを守るために私達はまた立ち上がるべきなのよ!」
「キャロ……アリス……」
二人のヒロインが立ち上がった事で何だか急にあの頃に戻ったような気がしてルイスの目に涙が浮かんだ。
二人の言う通りだ。もう一度、あの時の仲間たちと共に戦おう。家族の為に、友人の為に、国の為に、そして未来の為に。
ルイスも何か一言言おうと立ち上がろうとしたその時、向かいの席からノアがニコッと笑って言った。
「あのさ、盛り上がってるとこ悪いんだけど、そういう暑苦しい宣言はまた後でやってもらってもいいかな? アリスの演説は超可愛かったけど、とりあえず僕達は今聞いた事を全く知らない振りをしながら行動しなきゃいけないんだよ。でもね、子供って案外勘が良い訳。そこをどう乗り切るかが大事だと思うんだけど」
「ノアはほんっとにどこまでもアリス厨だな。まぁでも俺もノアに賛成かな。ノエルにレオ、後リー君とこの娘は異常なほど勘が良いぞ。そこをどう突破する?」
「ノエルはね、もう分かってると思う。だからあんな質問したんだよ。アミナスのは完全に興味本位だろうけどね。そしてノエルの質問を聞いて恐らくレオも気付いたと思うよ。あの二人は僕が言うのも何だけど、侮ると痛い目見ると思う。だからあえて利用するよ」
「ですね。向こうもそのつもりで動いてくると思います。心配なのはお嬢様とアミナスですよ。絶対にポロっと迂闊な事言いそうです」
「言えてる。この二人をどう制御するかにかかってると思う。もう最終的には二人をゴーだよ」
ため息を落としながらチラリとアリスを見ると、アリスは事の重大さを理解しているのかいないのか、いつも通り話を聞く振りをしながらお菓子に手を伸ばしている。もう既に心配しかない。
「アミナスも! 流石!」
いつもの調子で能天気に敵の正体を聞くアミナスにまたノアは顔を綻ばせる。そんなノアに仲間たちは白けた視線を向けてくるが、ノアはそんな事は全く気にしない。
『いいや、お前達は知らないだろう。お前達の両親たちでさえ直接には知らん筈だ。ただ、一度だけあいつの仕業でお前達の両親たちは窮地に追い込まれた。あの最後の戦いの時にな。そしてあいつはあの時にアリス達を認識した』
スマホから聞こえてきた声にリアンがゴクリと息を飲んだ。
「まさか……だよね?」
「いや、そのまさかだと思う……最悪だ」
ノアはため息をついて珍しく頭を抱える。そんなノアの耳にやっぱり能天気なアミナスの声が聞こえてきた。
『誰、誰?』
『元妖精王だ。あいつは教会の人間と手を組みアリス達を襲わせた。恐らくその他にも色々手を貸していたんじゃないだろうか。あれはそういう男だ。あいつは万物を愛する妖精王には相応しくなかった』
『ふーん、私達の知らない人か。あ! ラーメン出来た! ね、ね、皆も食べる? 食べるよね?』
『アミナス、お前はさっき一袋食べてたじゃないか。流石に夕飯が入らなくなるぞ』
『ライアン様の言う通りです。お嬢様、ラーメンは! 一日! 三袋まで! そういう約束ですよ!』
『一日三袋も食ってんの⁉ 毎食じゃん! 流石だな、アミナス!』
『ルーク様、お嬢様が調子に乗るので褒めないでください』
『そうだぞ、アミナス。それは我の味噌ラーメンだ!』
「……」
子供達と同レベルで喧嘩を始める妖精王の声が聞こえた途端、ノアは真顔でスマホを切った。
「とりあえず妖精王は元気そうだね。ああ、でも今は猫だからラーメンなんて食べさせちゃ駄目だと思うんだ。カイン、ルードさんに頼んで至急キャットフード送ってって言っといて」
「お前……妖精王にキャットフード食べさせる気なの?」
「当たり前でしょ? だって、今は猫だよ」
そう言ってノアはニコッと笑う。内心では子供達を巻き込んだ妖精王に腸が煮えくり返りそうなほど腹が立っている訳だが、事情が事情なだけに怒れない。
だが、これぐらいの意趣返しは許されるはずだ。
「アミナスってば、私でもラーメン一日に二袋までって言われてるのに……」
「アリス、怒る所はそこではないと思うの。今回の事もまた絵を描いて説明してあげる」
「ライラマジ神! お願いします! ところで兄さま、次の敵は元妖精王って事?」
「みたいだね。どうしたもんかね」
大きなため息を落としたノアに、ずっと黙っていたアランが口を開いた。
「妖精王が代替わりをするのは、先代が消滅した時だと聞いています。ですが、今の妖精王は既に存在している。これはどういう事なんでしょうか」
「分からん。こういう話はシャルルが一番詳しそうだが」
「なんちゃって妖精は今相当忙しそうだよ。フォルスの人達が妖精王が消えた事に気づき始めたらしくって、それの対応に追われてるって」
冷えたミックスジュースを飲みながらそんな事を言うリアンに、キャロラインはギョッとしたような顔をしている。
「ど、どうしてリー君がそんな事を知っているの?」
「え? 本人に直接聞いたからだよ。この間ブルーベリージャムの注文が入ったんだけど、その連絡をしてきたのがシャルル本人だったんだ。その時に色々教えてくれたの。相当参ってたよ。珍しく暴言吐いて愚痴ってた」
先代王の腰巾着だった貴族達に向かって、あの無能共が! なんてシャルルの口から飛び出した時には流石に驚いたリアンである。そしてそれを聞いた瞬間、シャルルもやはり人の血が流れているのだな、と実感出来た。
それを伝えると、ルイスとカインがおかしそうに笑う。
「何だ、シャルルもリー君に相談するんだな。まぁ言いたくなる気持ちは分かるぞ。王なんてやってると、この俺でさえまだまともだと思える事が多々あるからな。キリなんかがやったら発狂するんじゃないか」
「俺がやったら間違いなく一人二人は見せしめに殴りそうです。ちなみにノア様が王様をやると確実に恐怖政治になると思います」
「酷いな、キリ」
とは言うものの、間違いなくそうなるのだろう。ノアは納得したように頷いてルイスに憐憫の目を向ける。
「ほんとに良かったよ。君達とは一緒に仕事しなくて」
「……それを俺に直接言うのか。止めろ! そんな目で見るな!」
「ルイスなんかまだいいじゃん。とりあえず矢面に立って判子押すだけの簡単なお仕事だろ? それに比べて俺は……」
あちこちからの嘆願書に書かれた事を調べる為に自ら見に行き、良い様に領主や領民を言いくるめて宥めて出来るだけ不満が出ないように立ち回るカイン。気が付けば学生時代よりも体力がある気がする。
「ま、まぁな。それは本当にそう思う。いつもすまんな、カイン」
「いやほんっと感謝してよ!? ああ、胃が痛い。ていうか、あの戦いの時に俺たちを認識したってどういう事だろうな。どっかから俺たちを見てたって事か?」
カインの言葉を聞きつけてライラのポシェットから飛び出してきたグリーンの手にはしっかりと胃薬が握られている。それを受け取ったカインは苦笑いを浮かべてお礼を言った。
「恐らくは。もしかしたらあの時に戦っていた兵士の中の一人に紛れてたのかもね」
「でもとりあえず妖精王が無事で良かったわ。ただ、魔力を封印されたと言うのがちょっと気になるわね……元妖精王のお姿も私達は知らないし……そんな相手と戦うのは流石に無理があるわ」
キャロラインの言葉に仲間たちが全員頷いた。
「まずは元妖精王の事を調べなくてはならないな。また忙しくなるぞ」
真顔でルイスが言うと、アリスが勢いよく立ち上がって腰に手を当ててニカッと笑った。
「大丈夫です! ループを抜け出した私達に怖い物なんて何もないです! あの時みたいに、また皆で未来の為に頑張るだけです! キメッ!」
この世界がループしていると気付いた日から色んな事があった。
でもそれは決して辛い事ばかりでは無かったはずだ。そして全てを終えた時に振り返って得た物の何と多かった事か!
それを聞いて、それまで震えていたキャロラインが拳を握りしめて顔を上げて立ち上がった。
「そうね。そうよ、アリスの言う通りだわ。私ったら何を迷っていたのかしら。大人になって家族を持っていつの間にかすっかり保守的になっていたけれど、もう一度大切なモノを守るために私達はまた立ち上がるべきなのよ!」
「キャロ……アリス……」
二人のヒロインが立ち上がった事で何だか急にあの頃に戻ったような気がしてルイスの目に涙が浮かんだ。
二人の言う通りだ。もう一度、あの時の仲間たちと共に戦おう。家族の為に、友人の為に、国の為に、そして未来の為に。
ルイスも何か一言言おうと立ち上がろうとしたその時、向かいの席からノアがニコッと笑って言った。
「あのさ、盛り上がってるとこ悪いんだけど、そういう暑苦しい宣言はまた後でやってもらってもいいかな? アリスの演説は超可愛かったけど、とりあえず僕達は今聞いた事を全く知らない振りをしながら行動しなきゃいけないんだよ。でもね、子供って案外勘が良い訳。そこをどう乗り切るかが大事だと思うんだけど」
「ノアはほんっとにどこまでもアリス厨だな。まぁでも俺もノアに賛成かな。ノエルにレオ、後リー君とこの娘は異常なほど勘が良いぞ。そこをどう突破する?」
「ノエルはね、もう分かってると思う。だからあんな質問したんだよ。アミナスのは完全に興味本位だろうけどね。そしてノエルの質問を聞いて恐らくレオも気付いたと思うよ。あの二人は僕が言うのも何だけど、侮ると痛い目見ると思う。だからあえて利用するよ」
「ですね。向こうもそのつもりで動いてくると思います。心配なのはお嬢様とアミナスですよ。絶対にポロっと迂闊な事言いそうです」
「言えてる。この二人をどう制御するかにかかってると思う。もう最終的には二人をゴーだよ」
ため息を落としながらチラリとアリスを見ると、アリスは事の重大さを理解しているのかいないのか、いつも通り話を聞く振りをしながらお菓子に手を伸ばしている。もう既に心配しかない。
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