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第176話 無自覚な精神攻撃と意図的な精神攻撃
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「ありがとう、アドラ」
言いながらオズオズと手を伸ばしたキャロラインに、アドラは指先に微かに触れるぐらいのキスを鼻先でしてくれた。
「さて! では本題に入ろう。私は平気だが、お前たちはいつまでもバルコニーに居ては体を冷やすぞ」
「そうでした! すぐにお茶の準備をします! アドラにもバターサンドをおすそ分けしますね」
ペガサスは基本的には何でも食べると聞いている。人間界の馬とは違って妖精界は馬でさえも不思議で溢れているのだ。
「よっしゃ~~~! これで最後ぉ!!!!」
どれぐらい山の中を走り回っていたのか、とうとう岩陰に隠れていた最後の一人を見事な一本背負いで地面に叩きつけたアリスは、失神してしまった覆面の首根っこを掴んでズルズルと引きずり小屋まで戻った。
小屋の周りには下着一枚にひん剥かれた覆面達がリアンとライラの手によって縛り上げられ、ぐったりと項垂れている。
「リーくぅん! ライラぁ! これで最後だよぉ~!」
アリスは覆面を引きずったままようやく見えてきたライラとリアンめがけて走り出した。まるで麻袋を引きずるような感覚で覆面を引きずって走るアリスを見て小屋の前に居た覆面達は一様に青ざめている。
「あいつが何かするだけでコイツらの士気がゴリゴリ削られてくんだよね、いっつも」
「それがアリスよ、リー君。私達人間が大地の化身に敵う訳がないのに、アリスに勝とうだなんておこがましいにも程があるわ」
「ライラ、いっつも言うけどあいつも一応は人間だからね? 何百回も言うけどさ」
呆れたように言うリアンにライラはにっこり微笑んだだけだ。ライラにはもしかしたらアリスの見えない何かが見えているのかもしれない。
アリスが戻って来たと同時に四方八方から仲間たちがゾロゾロと戻ってきただした。
「はぁ~つっかれた。お風呂入りたい」
ノアは言いながら覆面達の前にドサリと大量の何かを投げ捨てる。それに続いて他の仲間達もそこに持ち帰った物を雑に投げ捨てた。
「っ!!!!」
それを見た途端覆面達は声にならない声を上げて驚いたような顔をしてノアを見上げるが、ノアはニコッと笑っただけだ。
「どうしてこれが、って思ってる?」
「……」
ノアの言葉に覆面達は黙り込んだ。ここで余計な事を言って口を割ってしまったら、それはメイリングへの裏切り行為と同義だ。
「まぁ別に黙っててもいいんだけどね。一つずつ見ていこうか。まずこれ、テーザー銃。そしてこれが手榴弾、地雷、リボルバー。どれもこれもどこででも使えそうな奴ばかりだね。もしかしたらこれ以外のは大きくて簡単には持ち運べなかったのかな?」
「っ」
「当たりみたいですね。という事は、他にも開発している可能性があるという事でしょうか?」
覆面達の反応を見てキリが言うと、ノアはコクリと頷いた。
「……なぜ、お前たちが未来の武器を知っているんだ。これはメイリングだけ伝わる秘術のはずだ」
「未来の武器? ははは! どうやら君たちの所に現れた転生者は随分と過去からやってきたみたいだね。銃や地雷なんてそれこそ未来の武器でもなんでもないしむしろもう古い。未来の最も脅威になる武器は情報だよ」
「な、何を言ってるんだ? 転生者? 一体何の話しをしているんだ!」
「君たちは姉妹星からやってきた転生者によって良いように操られてるって事だよ。君たちが崇拝する転生者はずっと過去の人で、その人は神様でも何でも無い。むしろこんな物を持ち込んだ時点で立派な戦犯だよ。そしてそれに手を貸した君たちももちろん、裁かれるべきなんだけどね。ていうか、いつまでその覆面被ってるの? 女王は消えた。その覆面の意味ももうないはずだけど?」
「ふっ」
ノアの言葉を聞いて覆面のリーダーは鼻で笑った。どこから得た情報かは知らないし何を言いたいのかさっぱり分からないが、どうやらメイリングの情報がどこからか漏れているようだ。
「そんな作り話を誰が信じる。確かに預言者様は星の外からやってきたと聞いている。その叡智はお前たちになど計り知れないだろうな! 何せ裏妖精王を引き寄せるほどなのだから! 世界の覇者になるのは未来の武器を作り出す事が出来る預言者様の末裔のアンソニー王と、偉大なる指導者カール様なのだ! そして女王もまだ生きている! 我々が今も忠誠を誓うのは女王ただ一人。何故なら今も選ばれた者だけがこの覆面を被る事を許されているのだからな!」
どうだ! と言わんばかりのリーダーに他の覆面達も士気を取り戻したかのように頷いた。
「ふーん、なるほどね。やっぱりオズワルドを呼び寄せたのはその二人か。転生者の末裔がアンソニー王でその右腕がカールって事ね。それにしても君さぁ、僕たちが何も知らないと思ってペラペラ話したんだろうけどね? 僕が君たちが持ち込んだ武器を知ってる時点でこちらがどこまで事情を把握してるのかとか考えないのかなぁ? ちょっと頭を使えば分かりそうな事なんだけど、まぁ君たちに渡された武器がこの程度の武器だったって時点で下っ端だろうなって事は分かるんだけどさ。あまりにも浅慮すぎない?」
いつものようにニコッと笑うノアを見てリーダーは引きつった。
「地雷にしても銃にしてもさ、誰でも使える簡単な武器だよ。君たちがこの武器を渡された事でどう解釈したのかは知らないよ? 知らないけど見当はつくよね。君たちは恐らくこの山を見張る役目を負っていた。誰かがこの山に侵入してきたら排除しろと言われていた。この山には大掛かりな結界が張ってあって何故か攻撃系の魔法は使えなくなっている。それはここで魔法を使うと何か不都合があるからだよね? 選ばれた自分たちは、だから武器を渡された。そう思ってるよね? でもさ、それ多分違うから。僕がもしも支配者であれば、街で噂になっている覆面の男たちの噂は邪魔でしか無い。隠れて事を進めたいのにいつまでもその覆面を被っているような輩ははっきり言って邪魔なんだよ。だからこそその武器を君たちに渡す。互いに潰し合ってもらうためにね」
ノアの言葉に覆面はおろか仲間たちもギョッとする。
「に、に、兄さま? 何でそうなるの?」
「だってね、アリス。この計画はそれこそ転生者がやってきた頃から始まってる。それはもう何百年も前の話だよ。それだけの長い年月をかけて練り上げた作戦をこんなバカな人たちに潰される訳にはいかないよね? だからこそテーザー銃に地雷、手榴弾にリボルバーなんだ。どれもこれも自殺や事故に見せかけていくらでも仲間を始末出来るからね。つまり、この中にたった一人それを持ちかけられた人が居るって事だね」
ニコッと笑ったノアは何を思ったか、覆面の男たちの縄を解き出した。そんなノアの行動を見てキリとルーイ、そしてユーゴも手伝い出す。
「ちょちょちょ! どうして縄解くの!?」
思わず声をかけたリアンにキリが小声で話しだした。
「ノア様は自分の手は汚したくないのです。リアン様、ライラ様を連れて山を下りていてください。モブさんもこの二人と一緒に下りてください」
「っす」
何となく何を始めようとしているのかが分かったオリバーは頷いてリアンの腕を掴んだ。そんなオリバーに引きずられながらリアンは抵抗する。
「え!? で、でも」
「リアン様、キリの言う通り麓には騎士団が居るのでそこに合流するんだ。そして今ノア様が話した事をゾルに伝えてきてほしい」
「分かった。気をつけて。行くよ、ライラ」
「うん!」
何をしようとしているのかは分からないが、とりあえず何かをしようとしている事だけは理解出来たリアンは、ライラの手を掴んでオリバーと共に急いで山を下りた。
言いながらオズオズと手を伸ばしたキャロラインに、アドラは指先に微かに触れるぐらいのキスを鼻先でしてくれた。
「さて! では本題に入ろう。私は平気だが、お前たちはいつまでもバルコニーに居ては体を冷やすぞ」
「そうでした! すぐにお茶の準備をします! アドラにもバターサンドをおすそ分けしますね」
ペガサスは基本的には何でも食べると聞いている。人間界の馬とは違って妖精界は馬でさえも不思議で溢れているのだ。
「よっしゃ~~~! これで最後ぉ!!!!」
どれぐらい山の中を走り回っていたのか、とうとう岩陰に隠れていた最後の一人を見事な一本背負いで地面に叩きつけたアリスは、失神してしまった覆面の首根っこを掴んでズルズルと引きずり小屋まで戻った。
小屋の周りには下着一枚にひん剥かれた覆面達がリアンとライラの手によって縛り上げられ、ぐったりと項垂れている。
「リーくぅん! ライラぁ! これで最後だよぉ~!」
アリスは覆面を引きずったままようやく見えてきたライラとリアンめがけて走り出した。まるで麻袋を引きずるような感覚で覆面を引きずって走るアリスを見て小屋の前に居た覆面達は一様に青ざめている。
「あいつが何かするだけでコイツらの士気がゴリゴリ削られてくんだよね、いっつも」
「それがアリスよ、リー君。私達人間が大地の化身に敵う訳がないのに、アリスに勝とうだなんておこがましいにも程があるわ」
「ライラ、いっつも言うけどあいつも一応は人間だからね? 何百回も言うけどさ」
呆れたように言うリアンにライラはにっこり微笑んだだけだ。ライラにはもしかしたらアリスの見えない何かが見えているのかもしれない。
アリスが戻って来たと同時に四方八方から仲間たちがゾロゾロと戻ってきただした。
「はぁ~つっかれた。お風呂入りたい」
ノアは言いながら覆面達の前にドサリと大量の何かを投げ捨てる。それに続いて他の仲間達もそこに持ち帰った物を雑に投げ捨てた。
「っ!!!!」
それを見た途端覆面達は声にならない声を上げて驚いたような顔をしてノアを見上げるが、ノアはニコッと笑っただけだ。
「どうしてこれが、って思ってる?」
「……」
ノアの言葉に覆面達は黙り込んだ。ここで余計な事を言って口を割ってしまったら、それはメイリングへの裏切り行為と同義だ。
「まぁ別に黙っててもいいんだけどね。一つずつ見ていこうか。まずこれ、テーザー銃。そしてこれが手榴弾、地雷、リボルバー。どれもこれもどこででも使えそうな奴ばかりだね。もしかしたらこれ以外のは大きくて簡単には持ち運べなかったのかな?」
「っ」
「当たりみたいですね。という事は、他にも開発している可能性があるという事でしょうか?」
覆面達の反応を見てキリが言うと、ノアはコクリと頷いた。
「……なぜ、お前たちが未来の武器を知っているんだ。これはメイリングだけ伝わる秘術のはずだ」
「未来の武器? ははは! どうやら君たちの所に現れた転生者は随分と過去からやってきたみたいだね。銃や地雷なんてそれこそ未来の武器でもなんでもないしむしろもう古い。未来の最も脅威になる武器は情報だよ」
「な、何を言ってるんだ? 転生者? 一体何の話しをしているんだ!」
「君たちは姉妹星からやってきた転生者によって良いように操られてるって事だよ。君たちが崇拝する転生者はずっと過去の人で、その人は神様でも何でも無い。むしろこんな物を持ち込んだ時点で立派な戦犯だよ。そしてそれに手を貸した君たちももちろん、裁かれるべきなんだけどね。ていうか、いつまでその覆面被ってるの? 女王は消えた。その覆面の意味ももうないはずだけど?」
「ふっ」
ノアの言葉を聞いて覆面のリーダーは鼻で笑った。どこから得た情報かは知らないし何を言いたいのかさっぱり分からないが、どうやらメイリングの情報がどこからか漏れているようだ。
「そんな作り話を誰が信じる。確かに預言者様は星の外からやってきたと聞いている。その叡智はお前たちになど計り知れないだろうな! 何せ裏妖精王を引き寄せるほどなのだから! 世界の覇者になるのは未来の武器を作り出す事が出来る預言者様の末裔のアンソニー王と、偉大なる指導者カール様なのだ! そして女王もまだ生きている! 我々が今も忠誠を誓うのは女王ただ一人。何故なら今も選ばれた者だけがこの覆面を被る事を許されているのだからな!」
どうだ! と言わんばかりのリーダーに他の覆面達も士気を取り戻したかのように頷いた。
「ふーん、なるほどね。やっぱりオズワルドを呼び寄せたのはその二人か。転生者の末裔がアンソニー王でその右腕がカールって事ね。それにしても君さぁ、僕たちが何も知らないと思ってペラペラ話したんだろうけどね? 僕が君たちが持ち込んだ武器を知ってる時点でこちらがどこまで事情を把握してるのかとか考えないのかなぁ? ちょっと頭を使えば分かりそうな事なんだけど、まぁ君たちに渡された武器がこの程度の武器だったって時点で下っ端だろうなって事は分かるんだけどさ。あまりにも浅慮すぎない?」
いつものようにニコッと笑うノアを見てリーダーは引きつった。
「地雷にしても銃にしてもさ、誰でも使える簡単な武器だよ。君たちがこの武器を渡された事でどう解釈したのかは知らないよ? 知らないけど見当はつくよね。君たちは恐らくこの山を見張る役目を負っていた。誰かがこの山に侵入してきたら排除しろと言われていた。この山には大掛かりな結界が張ってあって何故か攻撃系の魔法は使えなくなっている。それはここで魔法を使うと何か不都合があるからだよね? 選ばれた自分たちは、だから武器を渡された。そう思ってるよね? でもさ、それ多分違うから。僕がもしも支配者であれば、街で噂になっている覆面の男たちの噂は邪魔でしか無い。隠れて事を進めたいのにいつまでもその覆面を被っているような輩ははっきり言って邪魔なんだよ。だからこそその武器を君たちに渡す。互いに潰し合ってもらうためにね」
ノアの言葉に覆面はおろか仲間たちもギョッとする。
「に、に、兄さま? 何でそうなるの?」
「だってね、アリス。この計画はそれこそ転生者がやってきた頃から始まってる。それはもう何百年も前の話だよ。それだけの長い年月をかけて練り上げた作戦をこんなバカな人たちに潰される訳にはいかないよね? だからこそテーザー銃に地雷、手榴弾にリボルバーなんだ。どれもこれも自殺や事故に見せかけていくらでも仲間を始末出来るからね。つまり、この中にたった一人それを持ちかけられた人が居るって事だね」
ニコッと笑ったノアは何を思ったか、覆面の男たちの縄を解き出した。そんなノアの行動を見てキリとルーイ、そしてユーゴも手伝い出す。
「ちょちょちょ! どうして縄解くの!?」
思わず声をかけたリアンにキリが小声で話しだした。
「ノア様は自分の手は汚したくないのです。リアン様、ライラ様を連れて山を下りていてください。モブさんもこの二人と一緒に下りてください」
「っす」
何となく何を始めようとしているのかが分かったオリバーは頷いてリアンの腕を掴んだ。そんなオリバーに引きずられながらリアンは抵抗する。
「え!? で、でも」
「リアン様、キリの言う通り麓には騎士団が居るのでそこに合流するんだ。そして今ノア様が話した事をゾルに伝えてきてほしい」
「分かった。気をつけて。行くよ、ライラ」
「うん!」
何をしようとしているのかは分からないが、とりあえず何かをしようとしている事だけは理解出来たリアンは、ライラの手を掴んでオリバーと共に急いで山を下りた。
応援ありがとうございます!
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