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第175話  新しい……仲間?

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「すまん、全く気づかなかった」
「いいって、で、今日の反省会の集まり? それとも種明かし?」

 カインは皆の前にグラスを置いて意地悪な笑みを浮かべると、ラルフとオルトが苦笑いを浮かべた。

「種明かしだ。すまなかったな、二人とも」
「いいえ。ヒヤヒヤしましたが、何か考えがあっての事だろうと思っていたので」

 にっこりと微笑んだシャルルを見てラルフもオルトもその美しすぎる笑顔に思わず目を逸らした。
 

「お嬢様! こっちです!」

 ミアは中庭に繋がる廊下の柱の影から顔だけ覗かせてキャロラインに向かって小さく手を振った。

「ミア! 遅れてしまってごめんなさい!」
「とんでもありません! ここでは目立つので場所を移動しましょう」

 そう言ってミアはゆっくりと歩き出した。時折振り返ってはキャロラインに笑顔を向けてくるミアは、もうすっかりレヴィウスのメイドだ。

「あら、ミアどこへ行くの? そちらは迎賓館よ」
「ルーデリアのキャロライン王妃さまが中庭で迷っていらしたのでご案内しているんです」
「まぁ! それは大変! では私が代わりましょうか。あなたはまだ入ったばかりでそんな役は荷が重いでしょう?」

 そう言って古株のメイドが言うと、それをキャロラインが止めた。

「私のメイドとこの子はとてもよく似ているの。もう少しこの子とお話がしたいわ」
「そ、そうでらっしゃいましたか! ではミア、お願いします。粗相のないようにね」
「はい!」

 嬉しそうに顔を綻ばせたミアを見て古株メイドは困ったように笑って踵を返していく。

 一足先にレヴィウスに到着していたミアは事情を聞いている数人のメイドと手を組んで情報を集めていた。

「優しそうな方ね。あの方が上司なの?」
「ええ。とても良くしてくださるんです」

 振り向いたミアの顔にはもう笑顔は浮かんでいない。何だかそれが不思議でキャロラインが首を傾げると、ミアはそんなキャロラインの視線に気づいて苦笑いを浮かべた。

 キャロラインに与えられた部屋はルイスと兼用の寝室とは別に気兼ねなく過ごせるようにとの配慮からか個室も用意されていた。

「こちらでございます、キャロライン王妃」
「ありがとう。もう少しお付き合いしてほしいのだけれど、時間は大丈夫かしら?」
「はい! 私の本日の業務はもう終えておりますので」

 わざと大きな声で話す二人だが、周りには誰も居ない。居ないけれどどこで誰が聞いているかは分からない。

 二人はそんな小芝居をしつつキャロラインの個室に入ると、しっかりと施錠した。

 キャロラインはミアがお茶の用意をするのを待っている間、アランが今日のために作った『盗聴防止君』を部屋の至る所に運び反応を見る。

「ふぅ、大丈夫そうね」

 呟いてソファに腰を下ろしたキャロラインを見て、お茶の準備を終えたミアが戻ってきた。

「お待たせしました、お嬢様」
「ええ、ありがとう、ミア。私が淹れるからあなたも座ってちょうだい」

 ミアが持ってきたのは熱いお湯と茶葉とキャシーのバターサンドだ。ミアが淹れた紅茶をこの時間に飲むには流石に勇気がいる。

「すみません……成長がなくて……」
「構わないわ。ルイスがね、美味しいお茶の淹れ方を教えてくれたのよ。せっかく習ったのに誰にも振る舞わないのは勿体ないでしょう? だからミア、私の実験台になってくれる?」
「もちろんです!」

 相変わらず優しいキャロラインを思わず拝んだミアは、キャロラインが丁寧に淹れてくれるお茶をじっと見ていた。

「さて、それでは話を聞かせてちょうだいな」
「はい。メイリング王と王妃はお嬢様が来られる2日ほど前から滞在されていたのですが、その間は朝から晩まで城下町の散策をしていたそうです」
「城下町を散策? 随分と余裕ね」
「私も最初はそう思ったのですが、それがそうでもないようなんです。護衛としてついて行った騎士の言うことには、まるで何かを探しているようだった、と」
「何かを探していた? レヴィウスで?」
「はい。それを聞いて私も変だなと思って、翌日お二人が立ち寄った店に行って王妃が忘れ物をしてしまったようだと言ってそれぞれの店の店主に話を聞いてきたのですが、どうもお二人が探していたのは物ではなくて人だったようなのです」
「……あなたは相変わらずアリスと同じぐらい行動力があるわね。まさかとは思うけれど、一人で向かったりはしていないわよね?」
「もちろんです! 多分もうすぐ来ると思うのですが……」

 そう言ってミアが窓の外に視線を移すと、闇夜の空に突如真っ白な馬が現れた。馬は月をバックにこちらに向かって真っ直ぐに闇夜を駆け下りてくる。馬の背中には立派な翼が生えていて肢体は月光のように淡く輝いてとても美しい。

 妖精界で最も美しく気高い動物とされるペガサスだ。その数は年々減っていて、妖精界でも今では数える程しか生息していないという。そんな気高い馬を操れる者などあの人しか居ない。

 その馬を見てキャロラインが思わず立ち上がった。

「ティナ!」

 窓に駆け寄ったキャロラインは急いで窓を開けてバルコニーに出ると、ティナに向かって手を振った。

「久しいな、キャロ。相変わらずお前は美しい」

 バルコニーにペガサスと共に下りてきたティナは、そう言ってキャロラインの頭を撫でる。そんなティナの言動にキャロラインは頬を染めてはにかんだ。

「ありがとう、ティナ。あなたもとても美しいわ。アドラも綺麗ね。ペガサスを夜に見るのは初めてだわ」

 言いながらキャロラインはアドラから一歩距離を取ると、そんな様子を見てティナはおかしそうに笑った。アドラも歯を見せているので、もしかしたら笑われているのかもしれない。

「相変わらずだな! アドラは美しいが大きいしな。お前が怖がるのも無理はない。だがもう少しでアドラに子馬が生まれるんだ。その頃からなら触れるのではないか?」
「まぁ! 赤ちゃんが生まれるのね? それはお祝いしなきゃいけないわね! でも……触れるかどうかは別問題だと思うの……」

 何せ赤ちゃんだったドンも触れなかったぐらいである。かろうじてブリッジのお尻は触ることが出来るようになったのだが。

 視線を伏せたキャロラインを見てティナはとうとう声を出して笑った。

「はははは! 物は試しだ。どのみちうちは既に厩舎が一杯で困っていたんだ。アドラの子が生まれたらルーデリア王妃に妖精界の高位貴族からペガサスを贈ろう! 構わないか? アドラ」
「ブルルン!」

 もちろんだ! とでも言いたげにアドラは鼻を鳴らした。

「えぇ!? アドラまで……こ、断れないじゃない」

 妖精界でも大変貴重なペガサスである。それをいとも容易くこんな事を言ってのけるティナは間違いなく本気だし、アドラもお墨付きとなれば断れない。

「お嬢様、いいじゃありませんか! ここらへんでお嬢様の動物恐怖症も克服する良いチャンスです!」
「ミ、ミアまで……あなたはペガサスと遊びたいだけでしょう?」

 引きつった笑顔でキャロラインが言うと、ミアがすかさずアリスのようにテヘペロをするのでそれを見て、何だかキャロラインもどうでも良くなってしまった。ミアの言う通りだ。いつまでも動物が怖いと言って逃げ回っているのもどうかと思う。

「分かったわ。ありがとう、ティナ、アドラ、私が責任を持って大切に育てます」

 キリリとした顔をしたキャロラインを見てティナとアドラは同時に頷いた。

「ああ。ペガサスはその人の本質を見抜く。アドラもたとえお前がアドラに触ることが出来なくても、お前の事を好いている。我が子を預けてもいいと思うほどお前のことを信頼しているぞ」
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