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第179話 覆面の処刑場

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 どこまでもアリス信者のライラはアリスの勝ちを信じて疑わない。というよりも、アリスが負けるということは大地が死ぬのと同義だとすら思っている。

 そんなライラにリアンとキリは白い目を向けつつ話を戻した。

「で、仲間割れを始めたからあんた達は下りてきた、と? 要は泳がせてるって事でいい?」
「そういう事。最後の一人になるまで多分終わらないと思う。あそこは覆面の処刑場だから」
「こわ。何それ、どういう事?」

 青ざめるリアンにノアが山の中であった事を簡潔に話す。

「そういう訳だから最後の一人になるまでしばらく待って、騎士団からの連絡が入り次第行動開始だね」
「ねぇねぇ兄さま、私達は結局これから何をするの?」

 最初の目的はアーバンの両親を探すことだったが、実際にここまでやって来たら火山に何かを投げ入れてたり、覆面の処刑場があったりしてもう訳が分からない。

「とりあえずアーバンの両親が最優先だよ。二人を助けたら一旦ここから離脱する。この二人はメイリングが何をしようとしているのかを知っている可能性がかなり高いからね」
「ふんふん。それで?」
「その後はルイス達と合流して作戦会議だね。今回は皆バラバラに動いてるから、ちゃんとすり合わせていかないと」
「だったらぁ、子どもたちとも一回ちゃんと話し合った方がいいかもぉ」
「どういう事だ? ユーゴ」

 ルーイの言葉にユーゴはシレッとした顔をして話しだした。

「あの子達さぁ、なぁんか色々隠してるっぽいってセイ君から連絡あったんだよねぇ。で、注意して見てたらぁ、やっぱレックスの事に関して色々知ってるっぽいよぉ」
「そうなのか?」
「うん。俺ってばちょいちょいサボってたじゃん? そん時にぃアミナスと遊んだんだけどぉ、レックスについて話してるとたまにハッとした顔すんだよねぇ。その顔がさぁ、まんまアリスちゃんが隠し事してる時の顔っていうかぁ~痛いっ!」
「サボってた事を堂々と語るな! おまけにアミナス嬢に遊んでもらってただと!? いつの話だ! 冗談も大概にしろ!」
「ぶぅ~! だぁ~って小屋でじっと待ってるだけなの暇だったんだから仕方ないじゃ~ん。それにぃ秘密屋敷の屋根裏で昼寝してたら、たまたまアミナスが探検だ~! とか言って来たんだってばぁ~」

 殴られたユーゴは頭をさすりながら唇を尖らせた。

「あの子達が地下に行く前って事か。確かに定期的にあの子達は傍受を切ってはいるけどね。多分レックス自身の事を黙ってたいんだろうね」

 普段から人の秘密をベラベラと話さない! と叱られているアリスを見ているからか、ノエルもアミナスも人の秘密には敏感だ。

「あんまり無理に聞き出すような事はしたくないんだけど、今回は仕方ないかもね。レックスが全ての鍵になってるみたいだし」

 ノアは呟いてチラリとアリスを見ると、アリスも珍しく難しい顔をして頷いている。

「ねぇ兄さま、そろそろ子どもたちにもお願いした方がいいんじゃないかな」
「お願い?」
「うん。だって、今って何も言わずに私達が勝手にあの子達を盗聴してるんだよ。それってさ、なんかやっぱりあんまり気分良くないよね。巻き込みたくないって言いながらしっかり巻き込んじゃってるんだもん。それならさ、ちゃんと謝って協力してって言っちゃった方がいいと思うんだ」
「そうだねぇ。まぁどのみち今世界で何が起こってるのかはもうあらかた知ってるだろうしね。だからあの子達はあの子達なりに考えてこちらに都合良く動いてくれてるんだろうし」

 そろそろ正義感の強いライアン辺りが自ら名乗りをあげてきそうではある。

「戦闘には絶対に参加させないと言うのであれば、俺も賛成です」
「だね。そこは大人がやるよ。でも確かに子どもたちが持ってる情報は欲しいよね。嘘ついて聞き出すにはもう限界があるよ」
「特にうちの娘達は勘が異常に良いのでうまくはぐらかされてしまうし……」

 困ったように眉を下げたライラにリアンも頷いた。

「俺たちが思ってるよりも、あの子達もう子どもでもないんすよね。アミナス以外は」

 ポツリとオリバーが言うと、アリスとノアに同時に睨まれてしまった。

「言っとくけど、アミナスのパワーは凄いんだからね!」
「そうだよ、オリバー。アミナスはちょっとそこらへんには居ないぐらい可愛いんだよ!?」
「……お嬢様、ノア様、いい加減に現実をみてください。あと、今はパワーと可愛さの話はしていません」
「まぁあれだよ。結局さ、大人が思うほど子どもは子どもじゃないって事だよ。言いつけ真面目に守るほど単純でもないし、あの子達にはあの子達のコミュニティがあって、僕たちよりもずっと柔軟に物事考えてたりするしね」

 むしろ大人になっていくに従って柔軟ではなくなってきたりすものだ。そういう意味では自由な発想が出来る子どもたちの考えもきちんと聞くべきではないだろうか。

 リアンの言葉に全員が頷いた所で蒼の騎士団のイヴリンからルーイに連絡が入った。

「イヴリンか! 今どこだ?」

 ルーイが尋ねると、スマホの向こうから激しい雑音に混じってイヴリンのか細い声が届いた。

『見つ……けたわ……北、7、奥……ごほっ……』
「イヴリン? おい、イヴリン! 一体何があった!? イヴリン!」
『ッガガ……ピーーーーー』

 ルーイがスマホに向かっていくら叫んでもイブリンからの応答はそこで途絶えた。それどころかスマホもどうにかなってしまったのか、何かの機械音しか聞こえない。

 ルーイは急いでスマホを切ってイヴリンが示した場所に向かおうとした所をユーゴに止められた。

「隊長、まずは報告でしょぉ? あのイブリンがやられたって事は、何かあるって事だよぉ。何の対策もせずに行って皆で集団自決でもするつもりぃ?」

 案外冷静なユーゴに止められたルーイはハッとして話しだした。

「北の7つめの坑道の奥にいるみたいだが、不自然なノイズが聞こえた。あと、切れる前に何かの音がしたが、何の音かは分からない」

 それを聞いてノアは腕を組んだ。

「不自然なノイズ? あっちはやっぱり科学を使って何かしてるのかも。まずいな。とりあえず何を使ってるか分からない事には手も打てない」
「そんな事を言ってる間にイヴリンに何かあったらどうするんだ! ユーゴ、準備しろ! 行くぞ」
「隊長ぉ、ちょっと落ち着いてくださいってばぁ!」

 走り出そうとするルーイをユーゴが一生懸命止めようとするが、ルーイはその腕を振り切って単身で山を登って行ってしまう。

「もぉー! で、ノア君何か思いつかない?」
「今考えてる。ルーイさんが辿り着く前に何とかしないとね」

 とは言うものの、あちらが何を使っているのかが分からない以上、こちらもどうしようもないという事には変わりない。

 と、その時ふとアリスが言った。

「ねぇねぇ、もしさあっちが科学で何かしててもさ、科学と魔法って根本は一緒だよね?」
「そうだね。それがどうかしたの? アリス」
「だったらさ、カイン様の反射かけてもらったらどうかなぁ? 攻撃魔法じゃない奴なら効くんだよね?」

 アリスが言うと、ノアはパッと顔を輝かせた。

「カイン! そっか、カインがいたね! 攻撃魔法かどうかは分からないから反射は難しいけど、『解除』なら使えるかもしれない! そうと決まれば!」

 ノアは急いで妖精手帳に『カイン』と書きつけた。時間は既に遅いが、まだ流石に起きているだろう。

 ノアが辿り着いたのは、何やらとてつもなく豪華な部屋だった。入るなりノアは思わず眉をしかめる。
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