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第295話 心友の座に殿堂入り

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「めんごめんご! で、他の皆は?」
「分かんない。あんたの真似して僕も言うだけ言って追いかけてきたから」
「そうなんだ。それじゃあもうちょっと待ってよっと」

 そう言ってアリスが大人しくその場に座り込むと、隣にリアンも座る。

「そもそもさぁ、あんたに目を付けられたのが僕の運の尽きだったんだよね」
「突然だね! 一体何の話が始まるの!? もしかして悪口!?」
「悪口か。まぁそれは普段から言ってるから今更だよね。たださぁ、色々あったなぁって思って。忘れもしないよ、あの宝珠見た時の衝撃」
「あれね……私、実はまだ見てないんだよ」
「そなの? てかさ、あれに僕出て来ないんだよ。ていうか、変態が書いたストーリーに僕だけは出て来ないんだよ」
「あー……そう言えばそうだよね」
「それがさぁ、何でこんな事になってんのかなぁ? ノアだってアリスの兄として設定だけはあったんでしょ?」
「うん、そうみたい」
「オリバーの事をモブモブって呼ぶけどさ、僕こそモブだよね。そもそも出てこないしね」

 そう言って笑ったリアンの肩を、何を勘違いしたのか突然アリスが思い切り掴んできた。そして珍しく真顔でリアンを怒鳴りつけてくる。

「それは違うよ! リー君はモブなんかじゃない! アリスバセットの受難には絶対に必要な超重要キャラなんだからね!」
「うん知ってる。ていうか痛いし最後まで聞きなよ。変態が書いたゲームシナリオでは僕はモブですら無かったけど、今は違うんだよね。いつかあんたが言ったじゃん。ここが現実だって。その通りなんだよ。僕の現実では僕が主役でヒロインはライラで、あんたは心友? とかなんでしょ。でもそれはきっと皆そうなんだよね。皆がそれぞれ違う話を持っていて、そこではその人が主役なんだ。バッドエンドにするかハッピーエンドにするかはその人次第なんだろうなって考えたらさ、ふと思ったんだ。あちら側の人たちもまた、自分のストーリーをハッピーエンドにしようとしてるだけなんだろうなって」
「それは……うん、そうだね」
「あんたよく言うじゃん。どんな悪事を働いてもきっと理由があったんだって。僕はそれをあいつらに聞いてみたいよ。どうしてここまでして姉妹星に行きたかったのか、そこまでする価値はあったのかって」
「それ聞いてもし価値無いって思ったら?」
「そん時はあんたをゴーだよ。遠慮なくぶん殴っていいよ。いっつもみたいにさ、皆を巻き込むなー! バッキャロー! ってさ」

 そう言ってリアンがおかしそうに肩を揺らすと、そんなリアンを見てアリスもニコニコしている。

「うん! やっぱリー君は心友だな! 私の自慢の心友だ!」
「……いや、そこは別に再確認してくんなくていいんだけど」

 これ以上仲良くなってたまるかという思いを込めるが、アリスはそんな話は聞いていない。

「無理ですよ、リアン様。残念ですが今のであなたは完全にお嬢様の心友の座に殿堂入りを果たしました。もう一生そこから外れる事はないでしょう」
「えっ!? 嫌な予言すんの止めてよ!」

 背後から聞こえた不吉なセリフにリアンが振り返って文句を言うと、さらにいつの間にかやってきたキリが続ける。

「予言ではありません。ステータスの更新なので確定事項です」
「や、止めて! 取り消す! 今の全部なしだから!」
「またまたぁ~! 夫婦揃って私の心に住み着くなんて、チャップマン夫妻は罪ですぞ! はは!」
「あとその変なキャラブレ止めて! イラッとするから!」
「リー君、諦めて。アリスはどうも推しの話をする時もこうなっちゃうみたいなんだ。それに、君は君が思ってるよりもずっと主人公気質だよ」

 そう言って親指を立てたノアをリアンが睨みつけてくる。そんなノアの後ろには仲間たちが遠巻きにじっとこちらを伺っていた。

「来てんなら声かけなよっ! なんで皆して盗み聞きしてんのさ!」
「いや~何かつい……友情だなぁって。ごめん」
「っす。てか俺の名前ちゃんと覚えてたんっすねリー君……」

 何よりもそこに感動したオリバーにカインが苦笑いを浮かべる。

「お前たちみたいに言い合える友人が居ない俺からしたら、お前らの関係は羨ましいが」
「いやぁ、そりゃあんたはまずその性格どうにかしないとぉ」

 いつだってエリザベスに全力投球のアーロだ。まずはエリザベス以外にも人間は居るのだという認識から始めてほしい。

「ほら皆さん、そこらへんにしてください! アーロ、お願いします」

 シャルが手を叩いて言うと、その途端皆が表情を引き締めた。

「いいですか、ここで終わりではありません。これから始まるのです。次の満月と予言された通りであれば、恐らくもう誰にも止める事は出来ません。ですが、その引き金は私達が引きます。いいですね?」

 そう言ってシャルが見渡すと、仲間たちは全員しっかりと頷く。

「では、行くぞ」

 アーロは誰に確認も待たずに金色のピンをノブにさした。すると、過チャリと小さな音を立ててドアが現れた。

「私から入る」

 アリスは息を呑んで全員を庇うように立ちはだかると、勢いよくドアノブを回した。

「たのもーーーー!!!」
「……アリス……」
「……お嬢様……」
「いや、違くね?」
「掛け声……」

 全くいつも通りのアリスに仲間たちはガックリと肩を落としつつアリスの肩越しに中を覗き込んで息を呑む。

「ようこそ、と言うべきですか?」
「カール!」

 部屋の中央には白衣を着たカールが試験管を持って立っていた。少しも慌てた様子はなく、実に堂々としていて何だかそれがかえって薄気味悪い。

 カールは突然踏み込んできたアリス達を見て口の端だけを上げて薄気味悪い笑みを浮かべた。

「おや、私の正体まで流れていましたか。まぁでも今更構いませんがね。ネズミの一匹や二匹寝返った所でもうどうしようもありませんから」
「どうしようも無い、と言うことはもう何かが始まっていて、君たちにすら止められないという解釈でいいのかな?」

 にっこり笑ったノアが言うと、カールは鷹揚に頷いた。

「そうですね。もう誰にも止められません。私にも、妖精王の成れの果てにも、王にすら」
「なるほど。それじゃあ僕たちが今更出来る事と言えば、残りの少ない日数を楽しむ事ぐらいなのかな?」
「あなたはなかなか良いですね。実にこちら側の人間にふさわしい。絵美里の話通り、やはりあなたはこちらに欲しかったですね」
「普段から鍛えられてるからね。ただどんな話を絵美里から聞いていたのかは知らないけど、少なくとも僕はあなた達に興味も無い。ついでに言うと姉妹星にもね」

 この一言にカールが少しだけ眉を動かした。

「何故?」
「何故って? 絵美里に聞いていないの? 姉妹星がどんな所か」
「聞きましたよ。どの星にも良い部分と悪い部分がある。それを秤にかけた時、私たちはあちらの星が最善だと判断したのです」
「なるほど? じゃあ僕がそこから逃げ出してきた人間だと言うことも、もちろん聞いてるんだよね?」
「……逃げ出した?」
「そうだよ。あなた達のご先祖様は無理やりこちらに送られたみたいだけど、僕は違う。望んでこちらにやってきた。あちらの星に嫌気がさして。これは結構大きな違いだと思うけど?」

 カールの反応を見る限り、どうやら記憶が戻った絵美里は乃亜もまた初代メイリング王のように、何かの手違いでこちらの星にやってきたのだと告げていたようだ。実に絵美里らしい。どうやってもノアをあちらの世界に連れて帰るつもりのようだ。

「そうだったのですか。絵美里にはすっかり騙されてしまいました。後で春の庭に放り込みましょう。教えてくれてありがとう、ノア・バセット。いえ支倉乃亜、でしたか?」
「どちらでもお好きなように」
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