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第354話 ルカ様のお気に入りはサシャ?
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「地下ではお金がいらなかったとかじゃなくて?」
「外に出入りはしてたはずだよ? だって、あちらには食料を入手する術が今はもう無いんだから。それを誰が買い出しに行くって、アンソニーやカール達がやるわけないよね?」
「……確かに」
言われてみればコインが1枚も無かったのは変だ。リアンは納得したように頷いた。
「て事は考えられるのは?」
ノアが言うとしばらく考え込んでいたアーロがポンと手を打った。
「先に眠らされていた可能性が高いな。そして全ての金を盗んだ奴が居る」
「そう。そんな事するのは誰だろうね?」
「え? そんなのリリーさんをボートに乗せて流したユアンかスルガじゃないんすか?」
「違うよ。あの二人にそんな事をするメリットが無さすぎるよ。そんな事するのはもうアメリアとモルガナしか居ないでしょ?」
「……後ろ盾がもう無い……から?」
「うん。あの二人はもう自分たちには居場所が無いって事が分かったんじゃないかな。もしくはアンソニーとカールがあの二人を姉妹星に連れていく気なんてさらさら無いって事が分かったか。どちらにしてもあの二人があの兵士達に飲ませたのがただの眠り薬ならいいけど、遅効性の毒だったりしたら厄介だよ。キリ、すぐにシャルルに連絡をして医療チームを用意するよう言っておいて」
「はい」
ノアの指示にキリはすぐさまその場を離れてシャルルに連絡を取りに行く。
「俺も兵士たちの容態を見てこよう」
医師免許を持つアーロはそう言ってキリの後を追った。そんな二人の後ろ姿を眺めながらアリスが言う。
「ねぇねぇ兄さま、それじゃあこの居住区のどこかにアメリアとモルガナが居るって事?」
「いや、もう居ないと思うよ。アメリアはまだ金のピンを持ってるから地下を自由に行き来出来るしね。まぁそれも時間の問題だと思うけど」
あの金のピンが使えるのはあくまでもディノの地下の恩恵を受けていたからだ。
そのディノの加護が今は地下では使えなくなっているとなると、恐らくアメリアとモルガナは既に地上に出ているか、次の地下道にいるだろう。
「まぁここで考えてても仕方ない。妖精王にアメリア達が地上と地下のどちらに居るかだけは聞こうか」
「そだね。僕、聞いてくる」
リアンはそう言ってキリと同じようにその場を離れた。
「で、つぎはどこなんすか?」
「次は大本命、メイリングだよ。カインから連絡があったんだ。モルガナはメイリングの南にある孤児院の出身だったって」
「そうなんすか?」
「みたいだよ。で、今もルカ様が居るから合流してくれってさ」
ノアの言葉にオリバーは嫌そうに顔を顰めた。
「ルカ様っすか……」
「そう、オリバーの苦手なルカ様」
「はぁ……あの人めっちゃ世話焼いてくるんすよ。一体何なんすか?」
何故かルカは王を退位してからというもの、やたらとオリバーに構ってくる。最近は特にサシャへのプレゼント攻撃が凄くてドロシーといつもルカからの荷物が届く度に心臓がギュっとなる。
リアンやノアを構うならまだ分かるのだが、何故オリバーなのだ。これはずっと謎である。
「ははは! いやぁ~そりゃオリバーが一番愚痴でも何でも聞いてくれるからじゃない? あとはサシャかな」
「は? なんでサシャ?」
「え? ルカ様はサシャの事めちゃくちゃお気に入りでしょ? 何かサシャが大きくなったらオーロラと……とか目論んでるって聞いたけど?」
「はあ!? 俺は何も聞いてないんすけど!? ていうか、年齢差いくつあるんすか!」
「んー……10? 11? そこらへんでしょ?」
「……」
ノアの言葉にオリバーはとうとう黙り込んだ。それぐらいの年齢差なら全然許容範囲内だ。しかし何故サシャなのだ!
半眼になってブツブツ言うオリバーをよそにノアはまだ流れ着いてきた物を色々物色している。
そこに砂浜でノアと同じように流れ着いてきた物を物色していたアリスが片手を振り回しながら走ってきた。
「兄さま~! これ見て~!」
「ん? 何それ。ペンダント?」
「うん! でね、中見てみて!」
そう言ってアリスがペンダントを開いて中を見せると、そこには幼い少女と青年アンソニーが描かれている。
「この女の子は……誰だろう?」
「分かんない。でもこのほっぺのホクロ見て! これ、レヴェナ王妃じゃない!?」
アリスは言いながらメモ帳にレヴェナ王妃の似顔絵を描いてノアに見せた。ノアはそれを見て苦笑いを浮かべて頷く。
「アリス、似顔絵を描く時にその人の特徴を誇張して描くのには賛成だけど、これはもう顔と言うよりホクロだよね?」
顔からはみ出したホクロは目どころか鼻と口まで覆い隠してしまっている。
「いや、突っ込むのそこじゃないんすよ! これ、どういう事なんすかね。レヴェナは小さい頃からアンソニーの婚約者だったって事っすか?」
「どうなんだろう。でもこれが流れ着いて来たって事はレヴェナ王妃も居住区に居たって事なのかな」
「でもキャロライン様の話だとレヴェナ王妃も意識を失ったって言ってたよ。だから誰かがこれをレヴェナ王妃から受け取ったか盗んだかしたんじゃない?」
「それはあり得るね。もしくはユアンかスルガがこれをわざと流したか、かな。だとしたら地上からユアンとスルガを手引してたのはレヴェナ王妃の可能性もあるね」
「ええ!? でもレヴェナ王妃はキャロライン達とめちゃくちゃ戦ってたっすよね?」
「そうだね。でも、もしもあれがレヴェナ王妃なりのヒントだったとしたら?」
「……とんだ策士っすよ。それじゃあユアン達に手を貸してるのがバレて生贄にされたんすかね……」
「かもね。単純にそれだけでも無いような気もするけど」
思っていたよりもあちらの事情は複雑だ。皆が皆同じ方向を向いていないのだから。誰がどういう意図を持って動いているのかが全く分からない。
「やっぱここはバシッと捕まえて本人に聞くしかないよね! よし! それじゃあ次の場所に出発だ~!」
「もうマジでそれしか無いっすね。リー君とキリが戻ってきたら移動しましょうか」
オリバーがそう言って振り向くと、丁度三人が戻ってくる所だった。
「ルイス王、バーリーとフォルスのダムが片付いたようです」
ルイスの執務室にやってきたのはトーマスだ。赤ん坊のおもちゃを届けてすぐにトーマスは戻ってきた。
キャロラインがティナの所へ行ったまま戻らないという話をチームキャロラインが話していたからだ。
「ああ、トーマスありがとう。次はいよいよメイリングか。本拠地だな」
「ええ。で、王妃から何か連絡はありましたか?」
「いや。だが俺はキャロを信じている。キャロだけではない。あちらにはライラもミアもティナもドロシーまで居るからな!」
「そうですか、それは良かったです」
てっきりキャロラインが帰って来ないと言って落ち込んでいるかと思いきや、ルイスの顔には不安の一欠片も浮かんでは居ない。そんなルイスを見てトーマスは微笑んで頷く。
「トーマス、ありがとうな。いつも支えてくれて」
「何を急に」
「いや、言っておかなければと思ったんだ。妖精王が全員に挨拶をして周ったと聞いてな、それはいいなと思ったんだよ」
そう言ってルイスは笑った。そんなルイスをトーマスは真顔で見つめてくる。
「そういう事は、全てが片付いたら直接言ってください。アリスさんに言わせると、そういうのは死亡フラグと言うそうですから」
「し、死亡フラグ!? そ、それはダメだな! よし、取り消そう。これからもよろしく頼む!」
「外に出入りはしてたはずだよ? だって、あちらには食料を入手する術が今はもう無いんだから。それを誰が買い出しに行くって、アンソニーやカール達がやるわけないよね?」
「……確かに」
言われてみればコインが1枚も無かったのは変だ。リアンは納得したように頷いた。
「て事は考えられるのは?」
ノアが言うとしばらく考え込んでいたアーロがポンと手を打った。
「先に眠らされていた可能性が高いな。そして全ての金を盗んだ奴が居る」
「そう。そんな事するのは誰だろうね?」
「え? そんなのリリーさんをボートに乗せて流したユアンかスルガじゃないんすか?」
「違うよ。あの二人にそんな事をするメリットが無さすぎるよ。そんな事するのはもうアメリアとモルガナしか居ないでしょ?」
「……後ろ盾がもう無い……から?」
「うん。あの二人はもう自分たちには居場所が無いって事が分かったんじゃないかな。もしくはアンソニーとカールがあの二人を姉妹星に連れていく気なんてさらさら無いって事が分かったか。どちらにしてもあの二人があの兵士達に飲ませたのがただの眠り薬ならいいけど、遅効性の毒だったりしたら厄介だよ。キリ、すぐにシャルルに連絡をして医療チームを用意するよう言っておいて」
「はい」
ノアの指示にキリはすぐさまその場を離れてシャルルに連絡を取りに行く。
「俺も兵士たちの容態を見てこよう」
医師免許を持つアーロはそう言ってキリの後を追った。そんな二人の後ろ姿を眺めながらアリスが言う。
「ねぇねぇ兄さま、それじゃあこの居住区のどこかにアメリアとモルガナが居るって事?」
「いや、もう居ないと思うよ。アメリアはまだ金のピンを持ってるから地下を自由に行き来出来るしね。まぁそれも時間の問題だと思うけど」
あの金のピンが使えるのはあくまでもディノの地下の恩恵を受けていたからだ。
そのディノの加護が今は地下では使えなくなっているとなると、恐らくアメリアとモルガナは既に地上に出ているか、次の地下道にいるだろう。
「まぁここで考えてても仕方ない。妖精王にアメリア達が地上と地下のどちらに居るかだけは聞こうか」
「そだね。僕、聞いてくる」
リアンはそう言ってキリと同じようにその場を離れた。
「で、つぎはどこなんすか?」
「次は大本命、メイリングだよ。カインから連絡があったんだ。モルガナはメイリングの南にある孤児院の出身だったって」
「そうなんすか?」
「みたいだよ。で、今もルカ様が居るから合流してくれってさ」
ノアの言葉にオリバーは嫌そうに顔を顰めた。
「ルカ様っすか……」
「そう、オリバーの苦手なルカ様」
「はぁ……あの人めっちゃ世話焼いてくるんすよ。一体何なんすか?」
何故かルカは王を退位してからというもの、やたらとオリバーに構ってくる。最近は特にサシャへのプレゼント攻撃が凄くてドロシーといつもルカからの荷物が届く度に心臓がギュっとなる。
リアンやノアを構うならまだ分かるのだが、何故オリバーなのだ。これはずっと謎である。
「ははは! いやぁ~そりゃオリバーが一番愚痴でも何でも聞いてくれるからじゃない? あとはサシャかな」
「は? なんでサシャ?」
「え? ルカ様はサシャの事めちゃくちゃお気に入りでしょ? 何かサシャが大きくなったらオーロラと……とか目論んでるって聞いたけど?」
「はあ!? 俺は何も聞いてないんすけど!? ていうか、年齢差いくつあるんすか!」
「んー……10? 11? そこらへんでしょ?」
「……」
ノアの言葉にオリバーはとうとう黙り込んだ。それぐらいの年齢差なら全然許容範囲内だ。しかし何故サシャなのだ!
半眼になってブツブツ言うオリバーをよそにノアはまだ流れ着いてきた物を色々物色している。
そこに砂浜でノアと同じように流れ着いてきた物を物色していたアリスが片手を振り回しながら走ってきた。
「兄さま~! これ見て~!」
「ん? 何それ。ペンダント?」
「うん! でね、中見てみて!」
そう言ってアリスがペンダントを開いて中を見せると、そこには幼い少女と青年アンソニーが描かれている。
「この女の子は……誰だろう?」
「分かんない。でもこのほっぺのホクロ見て! これ、レヴェナ王妃じゃない!?」
アリスは言いながらメモ帳にレヴェナ王妃の似顔絵を描いてノアに見せた。ノアはそれを見て苦笑いを浮かべて頷く。
「アリス、似顔絵を描く時にその人の特徴を誇張して描くのには賛成だけど、これはもう顔と言うよりホクロだよね?」
顔からはみ出したホクロは目どころか鼻と口まで覆い隠してしまっている。
「いや、突っ込むのそこじゃないんすよ! これ、どういう事なんすかね。レヴェナは小さい頃からアンソニーの婚約者だったって事っすか?」
「どうなんだろう。でもこれが流れ着いて来たって事はレヴェナ王妃も居住区に居たって事なのかな」
「でもキャロライン様の話だとレヴェナ王妃も意識を失ったって言ってたよ。だから誰かがこれをレヴェナ王妃から受け取ったか盗んだかしたんじゃない?」
「それはあり得るね。もしくはユアンかスルガがこれをわざと流したか、かな。だとしたら地上からユアンとスルガを手引してたのはレヴェナ王妃の可能性もあるね」
「ええ!? でもレヴェナ王妃はキャロライン達とめちゃくちゃ戦ってたっすよね?」
「そうだね。でも、もしもあれがレヴェナ王妃なりのヒントだったとしたら?」
「……とんだ策士っすよ。それじゃあユアン達に手を貸してるのがバレて生贄にされたんすかね……」
「かもね。単純にそれだけでも無いような気もするけど」
思っていたよりもあちらの事情は複雑だ。皆が皆同じ方向を向いていないのだから。誰がどういう意図を持って動いているのかが全く分からない。
「やっぱここはバシッと捕まえて本人に聞くしかないよね! よし! それじゃあ次の場所に出発だ~!」
「もうマジでそれしか無いっすね。リー君とキリが戻ってきたら移動しましょうか」
オリバーがそう言って振り向くと、丁度三人が戻ってくる所だった。
「ルイス王、バーリーとフォルスのダムが片付いたようです」
ルイスの執務室にやってきたのはトーマスだ。赤ん坊のおもちゃを届けてすぐにトーマスは戻ってきた。
キャロラインがティナの所へ行ったまま戻らないという話をチームキャロラインが話していたからだ。
「ああ、トーマスありがとう。次はいよいよメイリングか。本拠地だな」
「ええ。で、王妃から何か連絡はありましたか?」
「いや。だが俺はキャロを信じている。キャロだけではない。あちらにはライラもミアもティナもドロシーまで居るからな!」
「そうですか、それは良かったです」
てっきりキャロラインが帰って来ないと言って落ち込んでいるかと思いきや、ルイスの顔には不安の一欠片も浮かんでは居ない。そんなルイスを見てトーマスは微笑んで頷く。
「トーマス、ありがとうな。いつも支えてくれて」
「何を急に」
「いや、言っておかなければと思ったんだ。妖精王が全員に挨拶をして周ったと聞いてな、それはいいなと思ったんだよ」
そう言ってルイスは笑った。そんなルイスをトーマスは真顔で見つめてくる。
「そういう事は、全てが片付いたら直接言ってください。アリスさんに言わせると、そういうのは死亡フラグと言うそうですから」
「し、死亡フラグ!? そ、それはダメだな! よし、取り消そう。これからもよろしく頼む!」
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