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第358話 新しい秘密基地

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 食事が終わり皆は小屋に入って円になり、今まであちこちから入手してきた情報を全てテーブルの上に広げた。

「お待たせ……狭い」

 それとほぼ同時にレヴィウスからレヴィウス騎士団を引き連れたセイがやってきたのだが、小屋は既にルーデリアの騎士団で一杯だ。おまけにもう少ししたらシャルルがフォルス騎士団を伴ってやってくる予定なのだが、どう考えても入り切らない。

「よし! 妖精王にまたあの部屋作ってもらお!」

 小屋の外に溢れてしまった騎士たちを見てアリスが立ち上がると、すぐさまスマホを取り出して妖精王に話をつけた。

「ねぇ変態、ずっと思ってたんだけど、あの戦争の時妖精王は僕たちに部屋を貸し出したりしたよね? あれは大丈夫だったの?」
「問題ないよ。部屋を作ることでどちらが有利になるとかは無かったでしょ? 妖精王はあくまで中立の立場を貫かなきゃいけないみたいだけど、部屋を作ってその部屋を僕たちが見つけて勝手に使う分には問題ないんだよ」
「なんか……それってただの揚げ足取りみたい」

 呆れたリアンを見てノアが小さく笑う。

「リー君、何でもそうだよ。揚げ足取りっていうか、ルールってそうなってるんだ。抜け道が絶対にある。ていうか抜け道を作らないと本当にがんじがらめになって何も出来なくなるでしょ? それに気づくか気づかないかってだけ」
「へぇ。流石悪知恵ばっか働く奴は違うね」

 白い目をノアに向けてリアンが言うと、ノアは苦笑いを浮かべる。

「言っとくけど僕だって普段からそんな事ばっかしてないよ。でも今は緊急事態だから。何よりそんな事したら一発でアリスにボカ! だよ」
「確かに。あいつはしょうもないルールは沢山破るけど大原則はいつでもどんな時でも守るもんね。そういう意味ではあいつのが大分人間が出来てるね」
「そうかも。僕なんて悪知恵ばっかの小童だよ。アリスはだから僕には眩しいよね、すごく」

 そう言ってノアは嬉々として妖精王に部屋を作って欲しいと懇願しているアリスを見て目を細めた。

「はいはい、惚気ごちそうさま。で、これからどうすんの?」
「簡単な作戦会議をして大本のダムを破壊するよ。まだ地上に誰も出てないなら、次で出てくるんじゃないかな」
「兄さま~! 妖精王が作ってくれるって~!」

 アリスは渋る妖精王に全部終わったらこの世界で初めてのカツ丼を振舞うと約束をしてどうにか了承してもらった。

「そっか、ありがと。アリス」
「いいよ! そんじゃあ皆、隣の人と手を繋いでね! ゴー!」

 アリスはそう言って意気揚々と妖精手帳に『秘密基地』と書いてちぎると次の瞬間、何もないだだっ広い広場に放り出された。

「あれ? 今回は会議室じゃないんっすね」
「前は会議室だったのか?」

 辺りを見渡してアーロが言うと、オリバーがコクリと頷いた。

「そうなんすよ。ここ、どこだろう」

 オリバーがポツリと言うと、どこからともなく妖精王の声が聞こえてきた。

『集まったか、皆の者。ん? なんだ、会議だと言うからてっきり全員かと思えば、お前たちだけか』
「妖精王!? ど、どこに居るの!?」

 アリスは突然聞こえてきた声にキョロキョロと辺りを見渡したが、妖精王の姿はどこにも無い。そんなアリスをどこから見ているのか、妖精王の笑い声が聞こえてくる。

『そこは星のレプリカだ。もう誰かから聞いているかもしれんが、戦いが始まったらそこへ我の愛すべき者たちを一旦そこに避難させるつもりだ。その前にお前たちに下見をさせようと思ったのだ。どうだ? 良い所だろう?』
「そうなんだ! すっごいね! 空気がすっごく綺麗! まだ花とかしかないの? 木もないんだね」
『ああ、まぁレプリカだからな。そこにある植物は生きているようで生きてはいない。だから出来る限りの食料はそれぞれ持って行ってもらわなければならない。どれだけ戦いが長引くかは……分からないが』
「何か手があればいいと思ってたけど、これは予想外。どうなってるの?」
『うむ、いい質問だ。そこは我ら妖精王の言わばコレクションルームなのだ。妖精王が星を創造する前に一度そうやってレプリカを使って実験をするのだが――最後まで聞け!』

 よくぞ聞いてくれました! とばかりに語りだした妖精王だったが、既に仲間たちはレプリカの星に興味津々で誰も話を聞いていない。それどころか。

「レプリカか。随分精巧。ちょっとビックリした」

 セイが足元にあった見たこともない植物を撫でながら言うと、そんなセイにユーゴがからかうように言う。

「セイさんでもビックリする事なんてあるんすねぇ~」
「僕だって人間。驚く事もある。そもそも嫁見ていつも驚いてる」
「そう……だったのか? あなたは表情が無さ過ぎてそうは見えないが」
「アーロに言われたくない。それで、どこで会議する? 時間もないしそこらへんに座っていい?」
「セ、セイさんそれはちょっと! ルカ様もいるので流石に地面は――」

 ルーイが座りかけようとしたセイを止めて慌てて言うと、後ろからやっぱりオリバーをがっちり掴んだルカが笑い声を上げて言う。

「俺はどこでもいいぞ。少しの時間も惜しいしな」
「ちょ、あっついんで離して欲しいんすけど!?」
「ははは! 気にするな! 年寄りは労るものだぞ」
「あんた絶対自分の事を年寄りだなんて思ってないっしょ!? はっ!」

 いつもの調子で突っ込んだオリバーは相手がルカだと言うことを思い出して慌てて口を噤んだが、ルカはそんなオリバーに何故か嬉しそうだ。

「これはとうとうモブにも王族の親戚が?」
「リー君! その先は聞きたくないっす! 考えたくもないんで黙っててもらっていいっすか!?」
「いいじゃん。うちだってこのまま言ったらテオとジャスミンをくっつけられそうなんだよ。僕だけそんな目に遭うなんて嫌だから、これからも仲良くしようね? モブ」
「い、嫌っすよ! 絶対に嫌っす!」

 どこまでもオリバーを道連れにしようとするリアンを軽く睨んだオリバーは、とうとう諦めたようにルカの隣に腰を下ろした。

「で、後はシャルルなんだけど――」

 ノアが言いかけたその時、辺りが光った。シャルルだ。

「これはこれは、今度の秘密基地は随分美しい所ですね」
「シャルル、遅かったね」
「すみません。急ぎの案件だけをとりあえず済ませてきたんです。しばらくは謁見も出来そうにありませんしね」

 うっかり自分でもたまに忘れそうになるが、シャルルはこう見えて大公だ。戦争ももちろんだが、国の事もギリギリまで考えなければならない。

「シャルル大公はいつも忙しそうだな。ルイスが心配していたぞ」
「ルカ様、ご無沙汰しております。父がまたあなたと飲むのを楽しみにしていましたよ」
「おお! そうかそうか。では全てが終わったらまた旅行にでも行こうと伝えておいてくれ!」
「はい。喜ぶと思います」

 いつの頃からか前大公レンギルと前王ルカは気づけば共に旅行をするほどの仲になっていた。彼らの間に何があったのかは分からないが、趣味が何も無かったレンギルには丁度良いと前公妃のナターシアも喜んでいる。

 旅行前に興奮して眠れないと言って深夜まで酒に付き合わされるイライジャは本当に可哀想だが。

「それでは始めましょうか。まずこちらは今クルスさん達が最後のスルガさんからのヒントを元に場所を割り出してくれています。それが終わったら一斉にダムの水を放流するので、各自出口で流れてきた者の回収をお願いします」
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