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第359話 正直なアーロ

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 地図を開いて数か所に丸をつけたノアの手元を各騎士団の団長が覗き込んでくる。

「ノア、ここも?」

 セイが地図のとある場所を指差すと、ノアはコクリと頷いた。

「うん、ここも。ここは他のと違って全然目立たないし分かりにくいけど、漢文のメモと照らし合わせたら恐らくここが発祥なんだ」
「どれ? 見せて」
「はい」

 セイに詰め寄られてノアは漢文と古文を訳した手帳をセイに渡すと、セイはそれをパラパラと物凄い速さでめくり、パタンと閉じた。

「え!? もう読んだの!?」

 あまりの速さにリアンが目を丸くすると、セイは頷き、それをフォローするようにノアが苦笑いを浮かべた。

「セイ兄さんの特技なんだよ。速読」
「でも特に役に立たない」
「いや、めっちゃ役立つでしょ! で、どう? どうだった?」

 目を輝かせながら言うアリスにセイは淡々という。

「うん。確かにここは怪しい。ノア、ここは僕が行く」
「分かった。じゃ、ここはセイさんと……アーロ、行ってくれる? 今回は出口が多いから騎士団の人達をそこに回せないんだ」
「ああ、分かった」
「あ、一応アリスをそこに配置するよ」
「……ああ、分かった」
「あんたは表情乏しいけど、口調が全てを物語るよね。いっそ分かりやすいよ」

 リアンが言うと、キリも真顔で頷いた。

「アーロはとても正直者です。特に母さんの事に関しては。あとノア様、俺も行きます。お嬢様を野放しにする訳にはいきません」
「そうしてくれ」
「そうしてもらえると嬉しい」

 キリの言葉にアーロとセイが同時に言うと、途端にアリスの頬が見る見る間に膨らんでいく。

「ちょっと! アーロとセイお兄さんそれどういう意味!?」
「意味も何もない。嫁は僕じゃ制御出来ない」
「俺も自信がない。興奮したお前はノアかキリしか止められないだろう?」
「ははは、二人共なんだかんだ言ってアリスに手加減するから! 駄目だよ、アリスを落とすなら一発で仕留めないと!」
「それは最愛の嫁に言うセリフ?」
「ノア、お前本当にアリスを愛しているのか?」

 どう考えてもノアのセリフは狩りをする時のようだが、それでもノアは笑顔だ。これも愛……なのだろうか?

「とにかく、私はこの怪しい所を見張ればいいんだね!?」
「そうそう。多分ね、ここから誰かしらは出てくると思うんだよ。で、ルーイさんとユーゴはそれぞれの騎士団の指揮とってね」
「りょうか~い」
「分かった。力を尽くそう」

 胸に手を当てて返事をしたユーゴとルーイを見て満足げにノアが頷くと、シャルルが口を開いた。

「それでノア、私たちはどうします?」
「僕たちは水が引いたら中に入るよ。オリバー、リー君、二人はついてきてね」
「わかった」
「了解っす」
「後はここをレヴィウス騎士団、こっちをルーデリア騎士団、で、ここをフォルス騎士団で包囲しておいて。海には人魚達が居るから、彼女たちを上手く誘導してね。ルカ様とシャルルはこの3箇所を回ってください」
「分かった。指揮官は初めてだな!」
「私も他国の騎士を指揮するのは初めてですね。ルカ様、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」

 シャルルとルカは握手をして笑い合う。

「……」

 ワクワクした様子のルカと緊張気味のシャルルを呆れた顔で見ながらノアは地図のあちこちに決まった事を書き込んだ。

「そう言えばさ、他のとこはどうだったの? 前王様」
「ん? 他の所か? 子どもたちがまだわんさか居たぞ。ありがたかったのは地下は広い割に一箇所に子どもたちを集めておいてくれたことだな。これはその……ユアン、なのか?」

 言いにくそうにルカが言うと、仲間たちが全員頷いた。それを見てルカは大きなため息を落とす。

「そうか……そうか」

 ユアンの処刑に関してゴーサインを出したのはルカだ。その事を今になってこんなにも後悔するとは思わなかった。

 分かりやすく落ち込むルカにルーイが言った。

「ルカ様、あれはあれで正解でした。もしもユアンが処刑されていなければ、彼は今も牢に居てあちらの行動が何一つ分からないままだったかもしれません。そういう意味では、我々はユアンに騙されていて良かったのです」
「そうかもしれんが、もう少し話を聞いても良かった。もう少し調べても良かったのではないか」
「話を聞いても彼は何も語らなかった。それはそういう計画だったからです。調べても同じこと。スチュアート家は徹底的にそれを隠していたのですから」
「そうだよルカ様! 終わっちゃった事後悔しても仕方ないから、今度はなんとしてもパパを助けよ!」
「……パパ?」
「うん! ユアンって私の本当のお父さんなんでしょ? だからパパ」
「!? き、聞いたのか!?」

 あれほど皆でアリスには告げずにいたというのに一体誰が!? ルカが急いでノアたちを見渡すと、ノアたちはこぞって明後日の方を見ている。それを見かねたのか口を開いたのはリアンだ。

「言っとくけど僕たちじゃないよ。こいつのパパのお仲間が頼んでもないのにペラペラ喋ったんだよ」
「そっす。で、アリスを懐柔しようとしたんすよ」

 あの時はヒヤっとした、とオリバーが付け加えると、ルカは何故かしょんぼりして項垂れる。

「そうか。アリス、辛かったろう?」
「え?」
「すまなかったな……私がユアンの処刑を了承したんだ。すまなかった」
「えー! なんで謝るの? だってそれがパパの計画だったんだし、パパは今もずっとママの事気にかけてくれてるみたいだからそれでいいよ!」
「マ、ママの話も聞いたのか」
「うん! ユアンとリズさんが美人で良かったよね~。テヘペロ!」
「そ、そうか……テヘペロ……」

 何が何だかよく分からないがアリスは今日も元気だ。ルカは思わずアリスに釣られてテヘペロをしてみたが、それを慌てたルーイとユーゴにすぐさま止められた。

「駄目ですルカ様! それはアウトです!」
「そうですよぉ~! 何やってんですかぁ~! あんまビックリさせないでくださいよぉ~!」

 ルカは元々ルーイにとってもユーゴにとっても仕えていた人物だ。そんな人のテヘペロは死んでも見たくない。

 慌てた二人にルカは何かを思い出したかのようにハッとして耳まで赤くする。

「す、すまない。つい釣られて。そうか、知ってしまったか。では我々が出来るのはあちらの犠牲者も出来るだけ出さぬようにする事だな。そして今度こそ適正な判断を下そう」
「うん!」

 アリスは笑いながらノアとキリの服を無意識に握りしめていた。そんなアリスに気づいたノアとキリは、無言でそれぞれ頭と背中をさすってくれる。それに気づいてアリスはようやくちゃんと笑う。

 それから細かい打ち合わせをしてそれぞれにまとまった数の妖精手帳を渡す。

「それじゃあ、作戦開始するよ。各自ホウ・レン・ソウだけはしっかりと! 特にアリス!」
「分かってるよぅ。でも今回はキリがいるからク~リア!」
「お嬢様、あまり調子に乗ると口に泥詰め込んで縫いますよ」
「ど、泥詰めるのは初めてだね」

 キリの脅しを聞いてアリスはヒクリと頬を引きつらせて急いでセイとアーロの後ろに隠れる。

「それでは行きましょう。アーロ、セイ様、お嬢様を捕らえてください」
「うん」
「ああ」

 キリに言われた通りアーロとセイはアリスの腕をがっちり掴んでキリの服をつまむと、それを確認したキリがすぐさま妖精手帳を使いその場から消えた。それに続いて各国の騎士団達とルカも消える。

 そんな様子を見ていたリアンがポツリと言う。
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