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第395話 はしゃぐ子どもたち

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「……絵美里、喜んでましたけど?」
「うん、だからだよ。絵美里に父さまが散々迷惑かけられてるのは知ってるし、母さまだって絵美里のせいで珍しくお腹壊してたから。ちょっとした仕返しだよ」
「……ぬか喜びをさせたのですか?」
「うん。いけなかった?」
「……いえ」

 引きつりながらレオが言うとノエルは嬉しそうに笑っている。

「やはりノアの子はノアか……」

 ポツリと言った妖精王に子どもたちはゴクリと息を呑んだ。

「さて! それじゃあ次はどこに行く?」

 ちょっとした仕返しをしてスッキリしたノエルが言うと、レックスが手を上げた。

「核に行きたい。リゼの様子が気になるから。あと水がちゃんと増えてるかどうかも確かめたい」
「そうだね。そこは見ておいた方がいいかも。それに父さま達もきっと心配してる。あとオズも。オズと言えばジャスミン、そのぬいぐるみってもしかしてオズのスマホも登録されてたりする?」
「いいえ。リゼのは登録されてるんだけど、残念ながらオズのは登録されていないの」
「そっか。それも父さまに報告しとかないとね」

 言いながら子どもたちは意気揚々と妖精王の後に続く。しばらく歩いていると冬の庭のドアが見えた。

 入り口で立ち止まって中を覗き込みながらテオがポツリと言う。

「で、核に行くのはいいけど、核にはスルガさんとユアンが居るんじゃなかったっけ?」

 確か英雄たちがそんな事を言っていたような気がするが、果たしてそんな所に丸腰で行っても大丈夫なのだろうか。そんな心配をしているテオとは裏腹に、ノエルが少しだけはにかんで言った。

「うん、でも僕はユアンに会いたいんだ。だって、本当のお爺ちゃんなんだよね?」
「まぁ、そうみたいだけど……大丈夫なのかな? 襲いかかってきたりしない?」
「大丈夫だと思う。多分、そんな人じゃないよ」

 ノエル達からしたらユアン・スチュアートという人物自体生まれる前に処刑済みだったので両親から話を聞いた事もなかった。だから余計な先入観は一切無い。

 ここまで英雄たちの話をずっと盗聴していたけれど、どうもユアンという人物は子供が好きな口の悪い青年のようだった。

 ノエル達を見てユアンがどんな顔をするのか純粋に興味があったし、アリスの事をどう思っているのかも聴きたいノエルだ。

「ならいいけど。じゃ行こ。もうあんまり時間無いよ」

 テオが急かすと今度はカイがドアを開けた。すると目の前には一面の雪景色が広がる。

「すっご~い! 兄さま! あの崖スノボ出来そうだよ!」
「いや、あれはちょっと急すぎない? せめてあっちだよ」

 アミナスが指さした崖はほぼ垂直だ。アリスとアミナスは行けたとしても、多分普通の人間には厳しい。

「こんな吹雪いてなかったら今すぐにでもスキー場に出来るのにな~」

 まるで嵐のように吹き荒ぶ雪を払いながらローズが言うと、突然妖精王がそれを聞いてパチンと指を鳴らした。すると、途端に風が止んで雪がパラパラになったではないか!

「これぐらいか?」
「爺ちゃんすげぇ!」
「そうだろう!? 我は凄いのだ! よし、進むぞ。多分こっちだ!」

 孫に褒められて嬉しくなった妖精王は意気揚々と歩き出した。

 後ろからついてくる子どもたちは時折足元の雪を丸めて互いに投げあって喜んでいる。やはりいくら大人びて見えてもまだまだ子供なのだな。

 そんな事を考えながら微笑んでいると、突然後頭部に大きな雪玉がぶつかってきた。驚いて振り返ると、そこにはアミナスが自分の顔よりも大きな雪玉を作ってニヤニヤしながらこちらを見ている。

「隙あり!」
「ぶっ!!」

 文句の一つも言ってやろうと妖精王が口を開いたその時、アミナスは躊躇うことなく雪玉を妖精王にぶつけてきた。

 その仕返しをするべく妖精王はかがんで雪玉を作った所でノエルにぴしゃりと怒鳴られる。

「こらアミナス! 今忙しいんだから遊んでる場合じゃないんだよ! 妖精王も!」
「我はまだ何もしていないが……理不尽ではないか……?」
「仕返ししようとしたでしょ? もう! そんな事じゃいつまで経っても辿り着かないよ!」
「……やられ損か……全てが終わったら覚えていろよ、アミナス!」
「いいよ! その時また勝負だ!」
「一方的に襲っておいて何が勝負か! まぁいい。ほら子どもたち、核への入り口が見えてきたぞ」

 フンと鼻を鳴らしながら前方の切り立った崖の間にある切れ目を妖精王が指差すと、それを見て子どもたちは自然と早歩きになる。

 切れ目は遠目で見るよりも大きく、子供であれば二人で並んでも十分な幅がある。それぞれ二人一組に手を繋いで奥を目指していると、広場に出た。広場には砕け散った透明の氷があちこちに落ちている。

「ここにスーさん達が保護されてたのかな」

 ノエルはキラキラ光る透明の氷を見上げて言うと、レックスが頷いた。

「そう。ここは太古の動物達が眠っていた場所。あそこに彼らを蘇らせる為の石版が立っていたんだけど……壊れてる」
「ほんとだ。粉々だね。酷いな、誰がこんな事したんだろう」
「あれじゃないの。アリス達がここに来た時。こんな事すんのアリスぐらいでしょ」
「そうかなぁ。あの時ぬいぐるみ誰に繋いでたっけ?」
「覚えていません。もしかしたら充電中だったのかもしれませんが、俺も奥様がやったに一票です」
「俺もです」
「こら! 三人ともメッ!」

 子どもたちが集まって石版が粉々に砕け散ったのをアリスのせいにしていたその頃、ネージュでは突然襲ってきた原因不明のくしゃみに困ったリアンがティッシュを抱えて仕事をしていた事を誰も知らない。

「お前たち、そろそろ行くぞ」
「はぁ~い」

 妖精王の掛け声に子どもたちはまた手を繋いで歩き出す。広場の先には長い通路が続いていた。
 
 
 
 キャロラインはレプリカから戻ってから、またオーグ家の庭で今日も秘密の特訓をしていた。

 前回の戦争では氷魔法を散々使ったが、崖の上からだったので広範囲に氷を降らせる事が出来なかった。その後悔を念頭に今回の作戦を練ったキャロラインは、今日もティナとミア、そしてライラとドロシーと共に来る日に向けて特訓をしているのである。

「凄いじゃないかキャロ! 三メートルに記録は伸びたぞ!」

 肩で息をしながらその場で座り込んで胸を押さえているキャロラインにティナが駆け寄ると、キャロラインはこの世の終わりかと思うほど青い顔をしてコクリと頷く。

「でもダメよ……こんなペースじゃいつまで経っても……いっそアリスに魔法をかけてもらおうかしら」

 半べそをかきながらそんな事を言うキャロラインの頭をティナが優しく撫でた。

「私の夢は、お前と共にあそこを散歩する事だ。その度にお前はアリスに魔法を頼むのか?」
「ティナ……うぅ……頑張るわ! ミア、手伝ってちょうだい!」
「はい! お嬢様!」

 ティナに慰められて元気を取り戻したキャロラインを誇らしい気持ちで見つめていたミアは、キャロラインの腰を支える。

 その時だ。庭の隅で物凄い轟音と共にまたライラが雷神に進化しているのが見えた。
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