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第458話 アリスも天才?

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 残り日数が無さ過ぎてもう何も作戦を立てる暇がない。皆を逃がすのに精一杯だ。オズワルドをどうにかこの星に残す方法も思いついていないのに、ここに来てレックスの事まで考えなければならなくなってしまった。

「はぁ……妖精王に頼んで体作ってもらえないのかな。シャルとかオリジナルアリスみたいにさ」

 何気なく言ったアリスの言葉に、突然ノアとシャルがハッとした顔をした。

「それだ! アリス! それだよ! やっぱり君は天才だ! シャル、手伝って!」
「もちろんです。ノアは先に槇さんに手紙を」
「すぐ書く!」

 そう言ってノアは自室に走り去って行った。

「お、おい。何か解決しそう……なのか?」

 今のアリスのセリフの中にどんなヒントが隠れていたのかさっぱり分らないルイスが言うと、シャルは真顔でコクリと頷いた。

「体を作って来ます。あなた達のように」
「は?」
「ど、どういう事なの? シャル」
「そのまんまです。レックスのアバターを制作して、レックスがディノに魔力を返還したらすぐに魂をそちらに移してもらうんですよ」
「だ、誰に?」
「もちろん妖精王にです。その為にノアが今、あちらでの唯一の友人に手紙を書きに行ったんです」
「ですがそれを作る設備はこの世界にあるんですか?」
「あります。観測者の所に」
「観測者!」

 はっきりと断言したシャルに仲間たちは全員が声を揃えた。

「ま、待ってください! 観測者の所には僕も行きましたが、そんな事が出来そうな物なんて何も……」
「いいえ、確実にありますよ。何故なら彼は3Dプリンターを使っていましたから。あれを使うにはパソコンは必須のはずです」

 アランの疑問にシャルが答え終えたのと同時にノアが手紙を持って部屋に戻ってきた。

「さ、シャル行こう!」
「ええ。では皆さん、また後ほど」
「え? あ、おい! ちょっと……行っちゃった……」

 二人は適当な挨拶だけをしてさっさと姿を消してしまった。

「ちょ、大丈夫なの? 放っといて」
「分からん……」

 シャルの言ってる意味の半分も理解出来なかった仲間たちは青ざめるが、そんな中アリスとキリだけはいつも通りお菓子を隠した、隠してない、などとどうでも良い事で喧嘩をしている。

「絶対にもっとあったもん! 絶対に隠したでしょ!? ちょっとそこで飛んでみなさいよ!」
「あなたが食べたんですよ。俺は何も持ってません。それにそんな下っ端小悪党のようなセリフで俺が本当に飛ぶと思いますか?」
「お、お前ら……どうして動揺しないんだ!」

 いつも通りすぎて不安になるアリスとキリに業を煮やしたルイスが言うと、二人はキョトンとして言う。

「え、だって兄さまだもん。絶対どうにかしてくるよ」
「それにシャル様も元を辿ればノア様と同じ思考回路なのですよ? 実質ノア様が二人です。失敗する要素がどこにあります?」
「そ、それは盲信しすぎなんじゃないっすか?」
「盲信とは違いますね。これは経験です。ノア様は確実に出来るという確信がないと動きません。何故なら失敗リスクがあるのに動く奴は馬鹿だと思っているような人だから」
「そうそう。兄さまはそういう人。だからルイス様なんてい~っつもそんな風に思われてるよ、きっと!」

 そう言ってニカッと笑ったアリスをルイスが思い切り睨みつけてくる。

「何故俺を引き合いに出すんだ!」
「だって、パパの事黙ってたでしょ!? おが屑の癖に! あんなにも大根役者の癖に!」
「あ、根に持ってたんだ」
「しかもルイス限定っすか。そんなに悔しかったんすかね」
「まぁそりゃね、王子に騙されてたって知ったらそこそこショックだよね」
「それとこれとは関係無いだろうが! 大体もう学生の頃の話だし、あの時はああするのがお前の為だと思ったんだ!」

 勢い任せにルイスが言うと、アリスは一瞬目を見開いて小さく笑った。

「そういうのに時効とか無いから! でも……まぁ、ありがとう」
「ん」

 仲直りの証としてルイスがアリスに向かって手を差し出すと、アリスは何を思ったかその手をペチリと叩いた。

「何でだ!?」
「パパの事はもう良い! でも、やっぱりキャロライン様の事だけは拙者、どうしても許せんのです! どうして兄上はこの二人をくっつけたのか! きぃぃぃ!」
「それこそ横暴だ! キリ、なんとかしてくれ!」
「無理です。この状態のお嬢様を俺がどうにか出来た事が今までに一度でもありましたか?」
「くそ! 俺に味方は居ないのか!」
「まぁまぁルイス、落ち着いてちょうだい。アリス、あなたもよ。何にしてもあなた達はノアとシャルがしようとしている事を何も心配していないのね?」
「はい!」
「ええ」
「じゃあ大丈夫なんでしょう、きっと。ノアはちょっとあれだけど、この二人は嘘をつかないもの」
「キャロライン様! ハグゥ!」

 アリスはキャロラインに勢いよく抱きついた。ついでに久しぶりのキャロラインに頭を擦り付ける。そんなアリスにキャロラインは困ったように笑って抱き返してくれた。本気で聖女である。

「ま、そんじゃ俺たちはもう後は待つばかりだな。ノアとシャルが何言ってんのかほぼ分かんなかったけど、俺たちは出来る事して待つか」
「そうだな。ではキャロにカイン、俺たちは緊急退避用の宝珠を作ろうか」
「ええ、そうね。行きましょう、ミア」
「はい! キリさん、私ちょっと行ってきます」
「ええ、頑張ってきてください」
「じゃ、俺らも用意するか。アラン、頼むわ」
「はい」
「あ、それじゃあ私も一緒に作ります。シエラを呼ばないと」

 それだけ言ってシャルルは部屋を出ていく。そんなシャルルの後に続いてルイスとキャロラインとカイン、そしてミアも行ってしまった。

「……そして誰も居なくなった……」
「いや、結構居るんすけど!? 俺たちはどうするんすか?」

 オリバーの言葉にリアンが腕組をしてポンと手を打った。

「僕たちは一旦商会に戻ろ。日用品とか、かき集めた物あっちに送らないと。あと今後の予定も話さないとね」
「そっすね。それじゃ、俺たちも行くっす」
「それじゃあね、アリス。また後で。気をつけてね」
「うん! ライラも気をつけてね!」

 バイバ~イ、と手を振ったアリスは部屋の中でキリと向かい合って座った。

「で、俺達はどうします?」
「どうしますったってやる事無くない?」
「そうなんですよね。仕方ないので先にバセット領に戻って明日の準備でもしていましょう」

 どうせ最後の晩餐になるかもしれないとか何とか言い出してバーベキューをするはめになるのだ。

 キリの言葉にアリスは身を乗り出して頷き、すぐさま妖精手帳に行き先を書き込んで、キリの手を掴んで領地に戻ったのだった。
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