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第499話 古代の本

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「ありがとう、妖精王。さて、出てきてもらってすぐで申し訳ないんだけど、どうやら影アリスがまた悪さしてるみたいなんだよね。ちょっと行ってきてもらえる?」

 ノアの言葉に影二人はコクリと頷いた。そんな影にノアはさらに言う。

「あ、でも傷はつけちゃダメだよ。多分影アリスはオズに操られてるから本気でかかってくると思う。それでも影アリスに何かあったら本体に影響出ちゃうから気をつけてね。はい、これ使って生け捕りにしてきて」

 そう言ってノアが二人に渡したのはアリス専用捕縛具だ。細いワイヤーで出来た大きな網と、同じように細いワイヤーを束ねて出来た縄である。持ち手の部分にはそれぞれスイッチがついていて、押せばアリスと言えども一発で感電して気絶させる事が出来る優れものだ。

「これは大変危険です。あなた達は決してワイヤーの所には触れないように」

 コクリ。

「クマもこれを喰らえば3日は気絶しています。ですが、お嬢様はほんの数分で目を覚ますので様子を見ながらスイッチを押してください」

 ……コクリ。

「……どうしてそんな物を作っているのだ……」
「これはバセット家では各部屋に置いてある必需品なんだよ。特に秋口のアリスとアミナスを拘束する為に必須なんだ」
「……バセット家は普段一体どんな生活を……いや、それは今はどうでもいい! では影達、リー君達を頼んだぞ!」

 妖精王はそう言って影二人をリアンとオリバーの所へ送った。そしてくるりと振り返りノアとキリを見上げる。

「ところでお前たちはここで何をしていたんだ?」
「うん? ああ、これを探してたんだ」

 妖精王の質問にノアはリュックから大きな水晶を取り出して見せた。それを見て妖精王は首を傾げている。

「なんだ? 水晶か? な、なんだ、これは……お前、これをよく平気で持てるな」

 ノアが持っている水晶からは何かとてつもない力が漏れ出している。思わず一歩後ずさった妖精王にノアは、何か確証を得たような顔をして頷く。

「あ、やっぱり妖精王には分かるんだね。そう、水晶。でもただの水晶ではないよ」
「どういうことだ?」

 ノアの言いたい事がよく分からなくて首を傾げた妖精王に、ノアはアンソニー達が作った装置の話を聞かせてくれた。

「なるほど……つまり、その水晶は大地のエネルギーを溜め込んでいると言うわけだな? しかし、一体誰が何の目的で?」
「それは僕にも分からないけど、少なくともスチュアート家はこの水晶の存在に気づいてた。場所までは探せなかったのか、知っていたけれど持ち歩くのは危険と判断したのかは分からないけど」

 スチュアート家で見つけた古書は生憎読めはしなかったが、挿絵がいくつか入っていた。その絵から推測するに、あの古書はこの星に関する文献だったに違いない。

 そこには水晶のイラストもあったので恐らく間違いはないはずだ。

「ふむ。その本を貸してくれんか? その本がリセット前の物だというのなら観測者には読めるはずだ」
「確かに観測者は読めるだろうね。貸すのはいいけど、妖精王、観測者がどこにいるか知ってるの?」

 妖精王と観測者の接点など今まで無かったはずだが? 首を傾げたノアに妖精王は苦笑いをして自分の足元を指さした。

「ああ、知っている。観測者は今、地下に居るのだ。子どもたちと楽しく作戦会議を開いているぞ」
「……え?」
「何でもソラからのお達しのようでな。ノエルから聞いたかもしれんが、この星の管轄は今、ソラが行っている。そのソラは観測者に直接命令を下したようだ」

 さらに意味が分からないと言いたげなノアに妖精王は観測者から聞いた話をするとノアはおかしそうに笑う。

「なるほど。で、観測者さんはこっち側についてくれた訳だ。まぁアメリア達が残ったとしてあの人達の子孫を追っても面白くなさそうだもんね」

 殺戮と悪行の限りをやりつくすであろうアメリア達を追っても、きっと楽しくなどないだろう。沢山のシナリオを書いてきたノアにはその気持は痛いほどよく分かる。

「そういうものか?」
「そういうものだよ。ソラはだから、観測者にあえてその二択を迫った事で観測者の自主性を確認したかったんじゃないかな」
「試されたという事か」
「そういう事。今回の件はソラにとっても凄くいい実験なんじゃないかな。星という生き物と、そこに住む生物、そしてそれを管理と監視をし続ける人達がこういう時にどういう動きをするのか。あっさりと捨てるのか、それとも守ろうと必死になるのか。だから観測者が言ったソラにとってはどちらが勝っても面白い、はあながち嘘じゃないと思うよ」
「ぐぬぅ……我々庶民を一体何だと思っているんだ、ソラは」
「それはそのまんま僕たちがあなたに思ってる事だよ、妖精王。権力がある人達は庶民を顧みる事なんてしない。今回はそれが身に染みて分かったでしょ?」

 ノアの言葉に妖精王は顔を歪ませて素直に頷いた。

 妖精王は今回の事で相当成長をしたとルイスが上から目線で言っていたが、あれはあながち間違ってはいなかったのかもしれない。

「星が戻ったら……今度こそ安定させなければな……その為にはもっと星と対話をするべきなのかもしれない」

 しょんぼりと俯いた妖精王の肩をノアが慰めるように叩いてニコッと笑う。

「まぁ、その反省は全部終わってからにしてね。今はとりあえず問題を片付けていかないと」
「ああ、そうだな。もう少し兵士が削れたら我も動くとしよう。しかし問題はバラの方だ」
「そっちはディノの役目だけど、僕たちはとにかく急いでアメリアを確保しないと」

 アメリア達が今どこに潜んでいるのか、皆目検討もつかなくてノアは困ったようにため息を落とした。

「ここで水晶を見つけたらノア様が先程仰っていたようにディノの坑道を探してみますか?」
「そうだね。それじゃあ妖精王、僕たちはここの水晶を見つけ次第アメリア確保に向かうよ。その間、子どもたちの事よろしくね」
「ああ、分かった。気をつけるのだぞ」
「分かってる。それじゃあね」

 ノアはそう言って妖精王と別れ、またあちこちで家探しを始めた。
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