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第498話 秘密兵器?
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「ノア様、もしかしてこれでしょうか」
キリは指導者の家の地下に隠してあった大きな水晶を指さして言った。水晶はレヴィウスのシュタのラピスラズリのようにガラスのケースに入った状態で厳重に守られている。
「ああ、これだね、きっと。よいしょっ!」
ノアはキリの後ろからしばらく水晶を舐めるように見回していたが、それが目当ての物だと分かった瞬間、ガラスケースを派手にぶち破った。
「……ノア様、そんな所はお嬢様にそっくりですね」
「えー? アリスが僕に似てるんだよ。それに水晶は硬いからこれぐらいじゃどうにもならないよ。大丈夫大丈夫」
呆れたようなキリを横目にノアは水晶を取り出すと、それをリュックに無造作に放り込んだ。
「そんな風に扱っても大丈夫なのですか? エネルギーを蓄えている可能性があるんですよね?」
「大丈夫だよ。確かにこの水晶にはエネルギーが蓄えられてるかもしれないけど、そのエネルギーを取り出す装置が無いとどうにも出来ないから。持ってるだけじゃただの水晶だよ」
「そうなのですか。で、それをどうするんです?」
「これ? これは最後の秘密兵器だよ。よし! それじゃあレヴィウスのシュタにも探しに行こう」
くるりと振り返ったノアは、ふと自分のスマホが光っているのが見えて立ち止まると、メッセージを読んで珍しく顔を歪めた。そんなノアに気づいたキリも顔をしかめる。
「緊急ですか?」
「まぁ緊急と言えば緊急だけど……これは僕に言われてもなぁ」
メッセージを読んだノアはのほほんと妖精王にメッセージを送る。妖精王が今はこの星の管理者ではないとノエルからメッセージが送られてきたのはつい先程の事だ。
「お嬢様ですか」
真顔でキリが言うと、ノアはゆるく首を振る。
「アリスがわざわざ僕に戦闘中にメッセージなんて送ってこないって。リー君だよ。しかもまた無理難題を言うんだ、あの子は」
苦笑いをしながら妖精王にメッセージを送り終えたノアは、予定通りレヴィウスのシュタに向かった。
レヴィウスのシュタの入り口では、ノアに無理やり呼びつけられた妖精王が仁王立ちをして立っている。
「お前という奴は! どうしてこんな時でも焦った素振りを見せないのだ!?」
妖精王は作戦会議中に届いたノアからのメッセージを見て憤っていた。星の終わりかもしれないと言っているのに、ノアからのメッセージはいつも通り呑気なものだったのだ。
そんな妖精王にノアはニコッと笑って自分の足元を指さした。
「ん? なんだ?」
「これ、外してくれない? ついでにキリのも」
「……は?」
ノアの言っている言葉の意味が分からなくて妖精王が思わず首を傾げると、ノアはやれやれと言った様子で腕を組む。
「リー君からヘルプ要請が来たんだよ。でも僕達はここでまだしなきゃいけない事あるから妖精王、僕たちの影をリー君達の所に送ってほしいんだ」
「お、お、お前何を言ってるんだ!?」
「アリスが居るのにヘルプが来るって事は、アリス達がオズに見つかっちゃったって事だよ。で、アリスは何らかの事情でリー君達の側に居ない。もしあの二人に影アリスが襲いかかってるとしたら、僕にヘルプ要請してきたのも頷ける。違う?」
「それはそうだが……」
「でしょ? でも僕たちは行けない。だったら僕たちの影を送るのが一番早いと思わない?」
「う、うむぅ……」
ノアの言う事は一理ある。納得しかけた妖精王に来が真顔で言った。
「妖精王、悩んでいる暇などありません。影とは言えお嬢様を止められるのは恐らくノア様だけかと。そうこうしているうちに影お嬢様がリアン様とモブさんを倒してこちらにやってくるかもしれません」
「た、確かにそうだな。よし、そこに並べ、二人共!」
妖精王はそう言って二人を並ばせると、魔法の記憶を読み解く。
あの時オズワルドが自分に預けたのはオズワルド自身の力だった。この力のおかげでディノの管理する地下に入る事が出来たし、膨大な地下を維持する力もここから賄う事が出来た。もしかしたらオズワルドはこうなる事も既に予測していたのかもしれない。
オズワルドの力の源を辿っていけば、彼がどんな魔法を使ったのか読み解く事が出来る。それを辿って妖精王はオズワルドが影を盗んだ時に使った魔法を突き止めた。
「行くぞ!」
オズワルドが使った魔法は実に単純な魔法の組み合わせだったけれど、それは生物の根幹を知る者にしか使えない魔法だ。こんな魔法をたやすく使えたということは、やはりオズワルドは追い出されたとは言え妖精王の一人で、決して愛がなかった訳ではないのだ。生物を愛していなければ生物の根幹は理解する事が出来ないはずなのだから。
短い詠唱をした妖精王は両手でノアとキリの影を触った。すると、途端に二人の影は自らの意志を持ったかのように主人とは別々の動きをし始める。
「改めて見ると気味が悪い現象ですね」
「そうだね。でも便利だなぁ。これもう自由にしとこうかな」
もう一人自分が居ると思うと、それはとても便利なのでは? そんな事を考えたノアとは裏腹にキリはコイツマジか、の視線を送ってくる。
「それは勘弁してください。ノア様はともかくお嬢様の影は一刻も早く葬るべき――いえ、戻すべきです」
「そなた、今ナチュラルに葬ると……」
キリの言葉に青ざめた妖精王にキリはやはり真顔で返してくる。
「言葉のアヤです。それよりも出来上がりましたか?」
「あ、ああ。最後にこの糸を切れば――よし! 完成だ」
影とノアとキリが繋がっていた細い糸を切ると、影は色あせたノアとキリになった。そんな影を見てノアはニコッと笑う。
キリは指導者の家の地下に隠してあった大きな水晶を指さして言った。水晶はレヴィウスのシュタのラピスラズリのようにガラスのケースに入った状態で厳重に守られている。
「ああ、これだね、きっと。よいしょっ!」
ノアはキリの後ろからしばらく水晶を舐めるように見回していたが、それが目当ての物だと分かった瞬間、ガラスケースを派手にぶち破った。
「……ノア様、そんな所はお嬢様にそっくりですね」
「えー? アリスが僕に似てるんだよ。それに水晶は硬いからこれぐらいじゃどうにもならないよ。大丈夫大丈夫」
呆れたようなキリを横目にノアは水晶を取り出すと、それをリュックに無造作に放り込んだ。
「そんな風に扱っても大丈夫なのですか? エネルギーを蓄えている可能性があるんですよね?」
「大丈夫だよ。確かにこの水晶にはエネルギーが蓄えられてるかもしれないけど、そのエネルギーを取り出す装置が無いとどうにも出来ないから。持ってるだけじゃただの水晶だよ」
「そうなのですか。で、それをどうするんです?」
「これ? これは最後の秘密兵器だよ。よし! それじゃあレヴィウスのシュタにも探しに行こう」
くるりと振り返ったノアは、ふと自分のスマホが光っているのが見えて立ち止まると、メッセージを読んで珍しく顔を歪めた。そんなノアに気づいたキリも顔をしかめる。
「緊急ですか?」
「まぁ緊急と言えば緊急だけど……これは僕に言われてもなぁ」
メッセージを読んだノアはのほほんと妖精王にメッセージを送る。妖精王が今はこの星の管理者ではないとノエルからメッセージが送られてきたのはつい先程の事だ。
「お嬢様ですか」
真顔でキリが言うと、ノアはゆるく首を振る。
「アリスがわざわざ僕に戦闘中にメッセージなんて送ってこないって。リー君だよ。しかもまた無理難題を言うんだ、あの子は」
苦笑いをしながら妖精王にメッセージを送り終えたノアは、予定通りレヴィウスのシュタに向かった。
レヴィウスのシュタの入り口では、ノアに無理やり呼びつけられた妖精王が仁王立ちをして立っている。
「お前という奴は! どうしてこんな時でも焦った素振りを見せないのだ!?」
妖精王は作戦会議中に届いたノアからのメッセージを見て憤っていた。星の終わりかもしれないと言っているのに、ノアからのメッセージはいつも通り呑気なものだったのだ。
そんな妖精王にノアはニコッと笑って自分の足元を指さした。
「ん? なんだ?」
「これ、外してくれない? ついでにキリのも」
「……は?」
ノアの言っている言葉の意味が分からなくて妖精王が思わず首を傾げると、ノアはやれやれと言った様子で腕を組む。
「リー君からヘルプ要請が来たんだよ。でも僕達はここでまだしなきゃいけない事あるから妖精王、僕たちの影をリー君達の所に送ってほしいんだ」
「お、お、お前何を言ってるんだ!?」
「アリスが居るのにヘルプが来るって事は、アリス達がオズに見つかっちゃったって事だよ。で、アリスは何らかの事情でリー君達の側に居ない。もしあの二人に影アリスが襲いかかってるとしたら、僕にヘルプ要請してきたのも頷ける。違う?」
「それはそうだが……」
「でしょ? でも僕たちは行けない。だったら僕たちの影を送るのが一番早いと思わない?」
「う、うむぅ……」
ノアの言う事は一理ある。納得しかけた妖精王に来が真顔で言った。
「妖精王、悩んでいる暇などありません。影とは言えお嬢様を止められるのは恐らくノア様だけかと。そうこうしているうちに影お嬢様がリアン様とモブさんを倒してこちらにやってくるかもしれません」
「た、確かにそうだな。よし、そこに並べ、二人共!」
妖精王はそう言って二人を並ばせると、魔法の記憶を読み解く。
あの時オズワルドが自分に預けたのはオズワルド自身の力だった。この力のおかげでディノの管理する地下に入る事が出来たし、膨大な地下を維持する力もここから賄う事が出来た。もしかしたらオズワルドはこうなる事も既に予測していたのかもしれない。
オズワルドの力の源を辿っていけば、彼がどんな魔法を使ったのか読み解く事が出来る。それを辿って妖精王はオズワルドが影を盗んだ時に使った魔法を突き止めた。
「行くぞ!」
オズワルドが使った魔法は実に単純な魔法の組み合わせだったけれど、それは生物の根幹を知る者にしか使えない魔法だ。こんな魔法をたやすく使えたということは、やはりオズワルドは追い出されたとは言え妖精王の一人で、決して愛がなかった訳ではないのだ。生物を愛していなければ生物の根幹は理解する事が出来ないはずなのだから。
短い詠唱をした妖精王は両手でノアとキリの影を触った。すると、途端に二人の影は自らの意志を持ったかのように主人とは別々の動きをし始める。
「改めて見ると気味が悪い現象ですね」
「そうだね。でも便利だなぁ。これもう自由にしとこうかな」
もう一人自分が居ると思うと、それはとても便利なのでは? そんな事を考えたノアとは裏腹にキリはコイツマジか、の視線を送ってくる。
「それは勘弁してください。ノア様はともかくお嬢様の影は一刻も早く葬るべき――いえ、戻すべきです」
「そなた、今ナチュラルに葬ると……」
キリの言葉に青ざめた妖精王にキリはやはり真顔で返してくる。
「言葉のアヤです。それよりも出来上がりましたか?」
「あ、ああ。最後にこの糸を切れば――よし! 完成だ」
影とノアとキリが繋がっていた細い糸を切ると、影は色あせたノアとキリになった。そんな影を見てノアはニコッと笑う。
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