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第593話 ノエルもアリスの子
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「ライラ、大丈夫か?」
ティナは二人に運ばれてきたライラに近寄ると、ライラの口元に手を当てて胸を撫で下ろす。
「眠っているだけのようだ。空っぽになるまで魔力を使ったんだな、バカな奴だ」
「空っぽになるまで……」
そんな事はアリスでもしない。ノエルがゴクリと息を飲むと、ティナが苦笑いした。
「ああ。こんな事する奴は珍しいよ。それだけ私達を守りたかったんだな」
眠るライラの頭を優しく撫でたティナはライラが少しでも楽になれるように魔法をかけてやると、倉庫の入り口を見た。
「行こう。ライラが道を切り開いてくれたんだ。今のうちに早く」
「う、うん! レオ、カイ、ニケをお願いね!」
「分かりました」
「落ちないよう、押さえておきます」
ノエルの言葉に双子たちは頷いて両方からニケの上で惰眠を貪るアミナスを支えると、ゆっくり歩き出す。
「レックス、僕たちはライラを支えよう。ティナ、君はアドラに乗って」
「? 私も歩くぞ?」
「駄目だよ! ティナもそろそろ限界でしょ? せめてアドラの上で休んで!」
「はは、分かった。すまないな、そうさせてもらう。本当は飛べればいいんだが、ペガサスに乗って飛ぶほどの体力が私にも残ってなさそうだ」
子どもたちにまで気遣われてしまったのでは高位妖精の名が泣く。せめて自分もライラのように限界まで子どもたちを守りたい。
ペガサスは決して主人を落としたりはしないが、乗馬は乗馬だ。乗りこなすにはそれなりに体力を必要とする。
ティナは言いながらアドラに乗ると、そっとアドラの頬を撫でた。
「アドラ、もし私に何かあったら、迷わず子どもたちを助けるんだ。いいな?」
ティナの言葉にアドラは一瞬迷ったように視線を伏せたが、ティナの「お願いだ、アドラ」という声を聞いて小さく嘶く。
「ではお前たち、油断はするな。敵は恐らく居なくなった訳じゃない。あくまでも減っただけのようだから」
「分かった!」
ティナの言葉にノエルはしっかりと頷いて双子とレックスに視線を走らせると、三人も表情を引き締めている。大丈夫。自分はアリスの息子だ。アリスの豪運を引き継いでいるはずだ。
ノエルは自分に言い聞かせると、軽く頬を叩いて倉庫から出た。
どれほどライラは頑張ったのか、倉庫の周りには人形は一人も居なかった。それでも用心の為に武器はすぐさま取り出せるようにしておく。
ノエルは一歩一歩踏みしめるように慎重に歩いた。ライラを落とすわけにはいかなかったからだ。
「人形たちは全てライラの雷にやられたのでしょうか?」
しばらく歩いても人形たちは誰一人現れない。少しだけホッとしたようにカイが呟いたその時、小道の側道から何やら不穏な気配がした。
「来ます!」
カイは支えていたアミナスのドレスを離してすぐさま剣を抜いた。
カイはアミナスについていけるだけの身体能力がある事を買われて、セイから片手剣を譲り受けた。本当はキリと同じ短剣の二刀流で戦いたいが、殺傷能力という意味ではこの短剣の方がはるかに強い。
カイは片手剣を構えてレオとノエルが止めるのも聞かずに列から外れた。あの列に人形を近づける訳には絶対にいかない。ライラとティナがあれだけの魔力を使って守ってくれたのは自分たちだ。何よりも自分はバセット家の人々を守るという役目がある。そしてその事を誇りに思っている。
「ここから先へは通しません!」
カイはそう言って今にも列に飛びかかってきそうな人形の後ろに回り込み、その首を落とした。そこから人形は白い煙を上げて消えていく。ホッと息をついたのも束の間、後ろから自分と全く同じ片手剣を持った人形が数体姿を現した。
「罠、ですか?」
どうやら人形たちはライラの雷に怯えて逃げ出した訳ではなかったようだ。そう気付いた時には既に遅かった。カイはグルリと人形たちに囲まれていて、逃げ出すことも出来ないでいた。
いつまでも戻ってこないカイを心配してレオは珍しくソワソワしていた。双子だからかどうかは分からないが、やたらと先程から頭の中で危険信号が鳴り響いている。
「ノエル様」
「うん。僕が見てくる。レックス、ライラをお願い」
「いけません! 俺が行きます」
「駄目だよ、レオ。君よりは僕の方が戦える。そうでしょ?」
「……」
それはその通りだ。レオは体術という意味ではカイとノエルには劣る。そんな自分に嫌気が差しそうになった時期もあったが、そんな時ノアはレオに言った。『君は賢い。参謀向きだから決して表には立たず、ノエルとカイを助けてやって』と。
レオはそれを思い出して考えを巡らせた。どうすべきか、どうすればいいのか。
ノエルがカイの元にたどり着いた時、カイは人形たちに囲まれていた。それを見たノエルの中で何かがブチっと切れる音がする。
ノエルは静かに背中の剣を引き抜くと、目を閉じて深呼吸した。
「僕だって、アリスの息子だ」
ポツリと言うと、不思議なことにどこからともなく力が湧き上がってくる。それは今までに感じた事のない感覚で、体中がまるで燃えるように熱くなってきた。
目を開けるとそこにはさっきまで居た人形たちではなく、何故か大量のゴリラが居る。それらは今にもカイに襲いかかりそうでノエルは咄嗟に駆け出した。
いつもよりも体が軽い。そう気付いた時には既にノエルは人形たちを端から切り倒していて、カイの隣に居た。
「ノ、ノエル、様?」
いつもとは違うノエルの動きにカイが思わずギョッとして言うと、ノエルはニコッと笑って言った。
「母さまがよくゴリラが見えるって言うんだけど、なるほど。これはゴリラだ」
「?」
カイの言葉が耳に入らないのか、ノエルの視線は人形たちに縫い留められているように動かない。
「カイ、僕多分、色々と制御が利かないと思うんだ。もしも僕が暴走したら父さまが母さまにするみたいに止めてね」
「は?」
言い終わるや否やノエルはその場に剣を突き刺すと、その剣を思い切り人形たちめがけて振り上げた。その途端、えぐれた土が人形たちにふりかかる。人形たちが一瞬怯んだその隙にノエルは気づけば駆け出していて、カイを取り囲んでいた人形たちはあっという間に空に還っていた。
「ノエル様が……奥様みたいな動きを……」
何が何だか分からないが、ノエルはまるでアリスのような動きをして人形たちを倒しだした。その姿はまるでアリスがノエルに乗り移ったようでカイはブルリと震える。
ティナは二人に運ばれてきたライラに近寄ると、ライラの口元に手を当てて胸を撫で下ろす。
「眠っているだけのようだ。空っぽになるまで魔力を使ったんだな、バカな奴だ」
「空っぽになるまで……」
そんな事はアリスでもしない。ノエルがゴクリと息を飲むと、ティナが苦笑いした。
「ああ。こんな事する奴は珍しいよ。それだけ私達を守りたかったんだな」
眠るライラの頭を優しく撫でたティナはライラが少しでも楽になれるように魔法をかけてやると、倉庫の入り口を見た。
「行こう。ライラが道を切り開いてくれたんだ。今のうちに早く」
「う、うん! レオ、カイ、ニケをお願いね!」
「分かりました」
「落ちないよう、押さえておきます」
ノエルの言葉に双子たちは頷いて両方からニケの上で惰眠を貪るアミナスを支えると、ゆっくり歩き出す。
「レックス、僕たちはライラを支えよう。ティナ、君はアドラに乗って」
「? 私も歩くぞ?」
「駄目だよ! ティナもそろそろ限界でしょ? せめてアドラの上で休んで!」
「はは、分かった。すまないな、そうさせてもらう。本当は飛べればいいんだが、ペガサスに乗って飛ぶほどの体力が私にも残ってなさそうだ」
子どもたちにまで気遣われてしまったのでは高位妖精の名が泣く。せめて自分もライラのように限界まで子どもたちを守りたい。
ペガサスは決して主人を落としたりはしないが、乗馬は乗馬だ。乗りこなすにはそれなりに体力を必要とする。
ティナは言いながらアドラに乗ると、そっとアドラの頬を撫でた。
「アドラ、もし私に何かあったら、迷わず子どもたちを助けるんだ。いいな?」
ティナの言葉にアドラは一瞬迷ったように視線を伏せたが、ティナの「お願いだ、アドラ」という声を聞いて小さく嘶く。
「ではお前たち、油断はするな。敵は恐らく居なくなった訳じゃない。あくまでも減っただけのようだから」
「分かった!」
ティナの言葉にノエルはしっかりと頷いて双子とレックスに視線を走らせると、三人も表情を引き締めている。大丈夫。自分はアリスの息子だ。アリスの豪運を引き継いでいるはずだ。
ノエルは自分に言い聞かせると、軽く頬を叩いて倉庫から出た。
どれほどライラは頑張ったのか、倉庫の周りには人形は一人も居なかった。それでも用心の為に武器はすぐさま取り出せるようにしておく。
ノエルは一歩一歩踏みしめるように慎重に歩いた。ライラを落とすわけにはいかなかったからだ。
「人形たちは全てライラの雷にやられたのでしょうか?」
しばらく歩いても人形たちは誰一人現れない。少しだけホッとしたようにカイが呟いたその時、小道の側道から何やら不穏な気配がした。
「来ます!」
カイは支えていたアミナスのドレスを離してすぐさま剣を抜いた。
カイはアミナスについていけるだけの身体能力がある事を買われて、セイから片手剣を譲り受けた。本当はキリと同じ短剣の二刀流で戦いたいが、殺傷能力という意味ではこの短剣の方がはるかに強い。
カイは片手剣を構えてレオとノエルが止めるのも聞かずに列から外れた。あの列に人形を近づける訳には絶対にいかない。ライラとティナがあれだけの魔力を使って守ってくれたのは自分たちだ。何よりも自分はバセット家の人々を守るという役目がある。そしてその事を誇りに思っている。
「ここから先へは通しません!」
カイはそう言って今にも列に飛びかかってきそうな人形の後ろに回り込み、その首を落とした。そこから人形は白い煙を上げて消えていく。ホッと息をついたのも束の間、後ろから自分と全く同じ片手剣を持った人形が数体姿を現した。
「罠、ですか?」
どうやら人形たちはライラの雷に怯えて逃げ出した訳ではなかったようだ。そう気付いた時には既に遅かった。カイはグルリと人形たちに囲まれていて、逃げ出すことも出来ないでいた。
いつまでも戻ってこないカイを心配してレオは珍しくソワソワしていた。双子だからかどうかは分からないが、やたらと先程から頭の中で危険信号が鳴り響いている。
「ノエル様」
「うん。僕が見てくる。レックス、ライラをお願い」
「いけません! 俺が行きます」
「駄目だよ、レオ。君よりは僕の方が戦える。そうでしょ?」
「……」
それはその通りだ。レオは体術という意味ではカイとノエルには劣る。そんな自分に嫌気が差しそうになった時期もあったが、そんな時ノアはレオに言った。『君は賢い。参謀向きだから決して表には立たず、ノエルとカイを助けてやって』と。
レオはそれを思い出して考えを巡らせた。どうすべきか、どうすればいいのか。
ノエルがカイの元にたどり着いた時、カイは人形たちに囲まれていた。それを見たノエルの中で何かがブチっと切れる音がする。
ノエルは静かに背中の剣を引き抜くと、目を閉じて深呼吸した。
「僕だって、アリスの息子だ」
ポツリと言うと、不思議なことにどこからともなく力が湧き上がってくる。それは今までに感じた事のない感覚で、体中がまるで燃えるように熱くなってきた。
目を開けるとそこにはさっきまで居た人形たちではなく、何故か大量のゴリラが居る。それらは今にもカイに襲いかかりそうでノエルは咄嗟に駆け出した。
いつもよりも体が軽い。そう気付いた時には既にノエルは人形たちを端から切り倒していて、カイの隣に居た。
「ノ、ノエル、様?」
いつもとは違うノエルの動きにカイが思わずギョッとして言うと、ノエルはニコッと笑って言った。
「母さまがよくゴリラが見えるって言うんだけど、なるほど。これはゴリラだ」
「?」
カイの言葉が耳に入らないのか、ノエルの視線は人形たちに縫い留められているように動かない。
「カイ、僕多分、色々と制御が利かないと思うんだ。もしも僕が暴走したら父さまが母さまにするみたいに止めてね」
「は?」
言い終わるや否やノエルはその場に剣を突き刺すと、その剣を思い切り人形たちめがけて振り上げた。その途端、えぐれた土が人形たちにふりかかる。人形たちが一瞬怯んだその隙にノエルは気づけば駆け出していて、カイを取り囲んでいた人形たちはあっという間に空に還っていた。
「ノエル様が……奥様みたいな動きを……」
何が何だか分からないが、ノエルはまるでアリスのような動きをして人形たちを倒しだした。その姿はまるでアリスがノエルに乗り移ったようでカイはブルリと震える。
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