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第668話

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「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、あんたのそれ何なの?」

 リアンは砂漠に到着するなり、ずっと気になっていたアリスに問いかけた。

「これ? これはライラから託されたライラのお気に入りですぞ!」

 アリスの胸ポケットには、ライラから預かったキーホルダー型のぬいぐるみが顔を出している。

「いやそれは知ってるよ。たださ、何ていうかさ、今の雰囲気とかに異様に合わないから気になるんだよ! それ止めてくんない!?」

 リアンがそう怒鳴った途端、前方から轟音と共に派手に砂埃が上がった。そしてそれに追われるかのように、兵士たちが叫び声を上げながら散り散りになって逃げ惑っている。

「逃げろって合図は出てんすよね?」
「そのはずだけど?」
「なんでまだいるんすかね」
「少しでもアメリアの役に立ちたいんじゃない? 錫杖の餌食になるだけなのにね」

 アリスがこのままでは森が焼けると危惧した通り、砂漠までやってくる道中、リアン達は時々地上に出て辺りの状況を見ながらここまでやってきたが、大体の人たちは気絶してるだけの兵士がアメリアの錫杖によって体を失うのを見て逃げ出す中、一部の人達はそれでもアメリアを褒め称えた。あれを見ても逃げ出さないのであれば、もう救いようがない。

 流石のアリスもそう思ったようで、険しい顔をしていたものの、手出しはしなかった。

「あんたもよく我慢したね。いっつもみたいにバカチン! って飛び出すかと思ってた」
「飛び出さないよ。それしてたらいつまで経っても終わらないもん。優先順位なんて本当はつけたくないけど、原因を取り除かないとどうにもならない事もちゃんと分かってるもん」
「うん、偉い偉い。で、僕たちの目の前に居るの、あれは絵美里さんではないですか?」

 リアンは言いながら前方で兵士たちと共に逃げ惑う絵美里を見つけて言うと、オリバーも呆れた様子で頷いた。

「あの人こそ何やってんすか?」

 どうして何も出来やしない絵美里が先陣切って敵陣のど真ん中に居るのか、本気で理解出来ない。

「そりゃ自分は幹部だって信じてたのに、実際はただのトカゲの尻尾だった人だからでしょ」
「そういう意味ではアメリアはめちゃくちゃ独裁者っすね。周りに誰も置かなかったんすから」
「でなきゃあそこまで非情になれないでしょ。で、アリスどうすんの? 絵美里いるけど?」

 今ここで捕まえれば、あちらの内情が少しは見えてくるかもしれないが、恐らく絵美里も何も知らされてはいないだろう。

 そう言ってチラリとアリスを見ると、アリスは下唇を噛み締めて前方を睨みつけている。

「どしたの?」
「やっぱさ、助けに行っちゃ駄目かなぁ? 分かってる! ここで勝手しちゃ駄目って事も分かってるけど!」

 しばらくは大人しくしていたアリスだったが、やっぱり体がウズウズしてくる。もしかしたら助けられるかもしれない人たちをこのまま見殺しにしてもいいのか、それは自分自身を裏切る事になるのではないのか。

 アリスはその場で足踏みしながら唇を噛み締めて言うと、リアンが思いの外あっさりと返事を返してくれた。

「行きゃいいじゃん。それがあんたでしょ?」

 珍しくしたい事を我慢しているアリスを見てリアンが言うと、アリスはパッと顔を輝かせた。

「いいの!? 本当に!?」
「構わないよ、僕はね。ほら、早くしないと皆爆発に巻き込まれるよ」
「う……うん! 皆~! はやくどっか行け~~~~~~~!! アリスが来たぞ~~~!」
「あ、とうとう自分で言っちゃった」

 叫びながら一目散に駆けて行ったアリスを見てリアンが笑うと、オリバーが焦ったような顔をして早口で言ってきた。

「いいんすか!? 勝手な事して!」
「あいつが勝手なのは今に始まった事じゃないよ。それに、僕だって出来るだけ犠牲者は出したくないから。たとえうちの魔王様がどう思っていようともね」

 ノアは恐らくアメリアが自分の兵士を勝手に減らしていく分にはどうでもいいと思っていそうだが、リアンはそうは思わない。

 ふと顔を上げると、アリスは剣を抜いて絵美里を追い回していた。
 

「ふはははは! 逃げろ逃げろ! 逃げ惑えー!」

 アリスは笑いながら未だに砂漠に残っている絵美里と兵士たちを追い回した。言われた通り胸のワッペンを見ると、蛇たちは皆舌を出している。つまり、味方の兵士はここには一人も居ないという事だ。

「くそっ! 乃亜をどこに隠したのよ!」

 絵美里は反撃しようと掴んでいた砂をアリスに投げつけた。その途端、アリスは一歩下がってペッペッと砂を吐き出している。大口を開けて叫ぶからそんな事になるのだ。

 そんなアリスにほくそ笑みながら絵美里はアメリアから預かっていた不思議な水晶を取り出した。この水晶は願えば何でも出来る優れものだ。

「あんたはもうここでおしまいよ! これからは私がアリスになるのよ!」

 絵美里は叫びながらアリスに水晶を投げつけたが、水晶はあっさりとアリスに受け止められてしまう。

 それを見て絵美里が愕然としていると、アリスは受け取った水晶を弄りながら申し訳無さそうに言う。

「あのね、絵美里さん。この水晶さ、使い方違うんだよね」
「……」

 どうしてアリスがこの水晶の事を知っているのか。思わずアリスを凝視すると、アリスは何を思ったかその水晶を振った。

「お肉でてこーい! はい、どーん!」

 アリスが叫ぶと、目の前に大きな肉塊が現れた。それを見て絵美里はさらに驚いたような顔をして水晶とアリスを交互に見つめている。

「!?」
「こうやってね、使う物なの。これを誰かに投げつけたってどうにもならないし、これで人を殺そうとするのはまず無理だよ」
「ど、どうして……」
「これは大気中に漂ってる量子を集めて物体を作り出す装置なんだ。だからこれを上手に使うために色んな事を知ってなきゃならない。例えば武器とかそういうのを作りたいなら、武器の原材料と構造を知ってなきゃ」
「で、でもアメリアは……」

 ではどうしてアメリアはあんなにも次から次へと好きに出来るのか! 倒れた兵士は生きたまま体を失った。あれは水晶の力ではないのか!

「アメリアは特別。あの錫杖が色んな事をさせてるんだよ。でもあれは元々神様の力だよ。それを好き勝手に使って、絶対に無事でなんて居られない。たとえバラに願ってもね」
「な、何を言っているの? あれはただの飾りで、この水晶こそが本体よ!」
「そう信じ込まされてただけってまだ気づかない?」
「信じ……こまされてた……だけ?」
「そうだよ。アメリアに仲間は居ない。あの人は誰も自分の傍らに置こうとしない。だって、神になろうとしてるんだから」
「神に……なる?」
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