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【江戸帰還編】
105 江戸に帰ろう
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(福ってば、ど、どうしちゃったのさ……)
まだ宴は始まったばかり、だのに中座してもいいというのか。
秀忠に確認も取らず、春日局は家光を連れ宴会場を後にする。
宴会場を出る前に、ちらりと秀忠に視線を投げると、秀忠がにこにこと手を振っていた。
その隣に丁度居た政宗が家光の身を案じる様に見るのだが、秀忠に何か云われ酒を注ぐ。
政宗の注いだ酒に秀忠は嬉しそうに破顔し、機嫌が良さそうだった。
(おじさまの注いだお酒、私も飲みたかった……。あ、そういや、まっちゃん(※弟)とちょっとしか会えなかったな……)
弟、和は家光が戻って来た際に、僅かだけ顔を出しただけで、二の丸御殿を出て後水尾天皇の元へと戻っている。
お母様の機嫌、まっちゃんや、おじさまのお陰で悪くないから早々に抜けても怒られないかな……?
正直、助かるや……。
宴会場を出ると、家光は春日局の胸に身体を預けるように倒す。
とくとくとくと、
規則正しい春日局の心音が心地良い。
家光は春日局らしくなかったなと思いつつ、身体が辛いことには変わらないので甘える事にしたのだった。
◇
「もう、お休み下さい」
「……ありがとう」
部屋に戻ると、家光は褥に寝かされる。
ぽんぽんぽん、
と、春日局は布団越しに家光のお腹辺りを優しく叩いたのだった。
「ふふっ、何それ。もう子供じゃないんだけど?」
「……ふ。江戸に帰るまでは、こうして寝かしつけて差し上げますよ」
ぽん……、ぽん……、ぽん……。
と、春日局の手がゆっくりと動く。
「何それ」
「……江戸に帰れば、祝言です。家光様は、人妻になられます」
「っ、…………ひとづまぁあああ!!(何たる淫靡な響き!!)」
家光は急に身体を起こすと頭を抱え、つい大声を出してしまった。
「…………、……そんなに御嫌ですか?」
「はい、嫌です」
「…………家光様……」
家光の即答に春日局が眉を顰め、呆れた顔をする。
「……っ、孝は嫌なの」
「……仕方ないことです。それに、もうそういう御歳頃なのです。御解かりですよね?」
家光が目蓋を固く閉じ、ふるふると頭を抱えたまま嫌々するが、春日局の声は淡々としていた。
そして、家光を褥に再び寝かせ、捲れた布団を掛けてやると、
ぽん、ぽん、ぽん、
と春日局の手が再び家光をあやす様に調子を取るのだった。
「っ、わかってるけどっ!! 孝は嫌だ」
「……孝様は……、少々不器用では御座いますが、悪い御方では御座いません」
「……孝は嫌だ。絶対嫌だ。あいつ私の自尊心を傷付けるから嫌い(ていうか、福だってあいつが何したか知ってるじゃんっ!!)」
家光は瞳を潤ませ訴えかける。
「自尊心……。家光様」
「っ、何?」
「……祝言を挙げるだけでいいのです。それだけでも御出来になられませんか?」
「挙げるだけ……って、形だけでいいの……?」
「…………、…………ええ。そこまで家光様が孝様を嫌われるのでしたら、仕方がありません。どうか考えてみてはもらえませんか?」
ぽん、ぽん、ぽん、
春日局の手が少しだけ、早くなる。
「…………祝言を……、挙げるだけ……。形だけ……」
「はい、そうです。形だけでいいんですよ。家光様は御婚姻されても、今まで通り……いえ、中奥、表にて政に入っていただくようになりますか……」
「あっ、そっか。私将軍になったんだもんね」
「はい。私は政には詳しくありませんが……、秀忠様もいらっしゃいますし、優秀な老中達が手取り足取り御教示して下さるかと」
「……っ、うん、何とかやってみる」
「その場には正勝もどうぞお連れ下さい。何かと役に立つはずです」
「正勝が一緒なら心強いね」
「…………、…………まぁ、……はい。そう、……ですね」
春日局は口を濁しながら頷いたのだった。
「ん……?(何か浮かない顔……)」
「……だからどうか……、江戸に着くまでは今の家光様のままで……」
「う、ん……?」
「……いえ、せめてもの親心です。江戸に着くまではこうして寝かし付け致しますよ」
ぽん、ぽん、ぽん。
春日局の手は再び優しく音を刻む。
「うん? ……も~、何かよくわかんないなぁ……。……けど……、へへっ……何か、昔を思い出すや。よくこうして寝かし付けてくれたもんね?」
「そうですね。…………おやすみなさいませ、家光様」
春日局は目を細め穏やかに微笑むと、家光の瞳が薄っすらとまどろんで……、
「うん……、おやすみ、福……」
家光は優しいリズムに意識を奪われていった。
◇
――次の日から江戸へと帰路についたのだが、春日局は江戸に戻る間中、宣言した通り毎晩寝かし付けにやって来ては、穏やかな笑みを浮かべて家光をあやしていた。
そして、家光が休んだ後は正勝や風鳥、月花に寝ずの番をするよう厳しく言い付け、隣の部屋にて一仕事してから身体を休める。
帰りの旅は春日局が徹底的に予定を管理し、秀忠や家光が脱線する隙を与えることはほぼなかった。
ちなみに、途中までは大名達も同行したため、非常にスムーズに事が運んでいる。
ただ、どうしてもあの二人は自由なものだから、全て予定通りには行かず……。
「……ここを、もう少し早く渡れないものか……。いや、ここを通過すれば……」
春日局は、河川の渡し舟などでどうにか時間を調整できないか、はたまた、寄る宿場町を一つ飛ばせないかと、試行錯誤し続けたのである。
「ああ……、家光様はどうにかなるとして、何か秀忠様の気を引くものは無いか……?」
秀忠はお菓子が好きなので、名物で釣ろうとあれやこれやと考えてみる。
自分よりも上の者に対して何とも失礼な話ではあるが、気を抜くと直ぐに隙をついて何か事件を起こしかねないため、春日局は大真面目だった。
……そんなこんなで、なんと!
何と……!
以下、次回に続きます……。
まだ宴は始まったばかり、だのに中座してもいいというのか。
秀忠に確認も取らず、春日局は家光を連れ宴会場を後にする。
宴会場を出る前に、ちらりと秀忠に視線を投げると、秀忠がにこにこと手を振っていた。
その隣に丁度居た政宗が家光の身を案じる様に見るのだが、秀忠に何か云われ酒を注ぐ。
政宗の注いだ酒に秀忠は嬉しそうに破顔し、機嫌が良さそうだった。
(おじさまの注いだお酒、私も飲みたかった……。あ、そういや、まっちゃん(※弟)とちょっとしか会えなかったな……)
弟、和は家光が戻って来た際に、僅かだけ顔を出しただけで、二の丸御殿を出て後水尾天皇の元へと戻っている。
お母様の機嫌、まっちゃんや、おじさまのお陰で悪くないから早々に抜けても怒られないかな……?
正直、助かるや……。
宴会場を出ると、家光は春日局の胸に身体を預けるように倒す。
とくとくとくと、
規則正しい春日局の心音が心地良い。
家光は春日局らしくなかったなと思いつつ、身体が辛いことには変わらないので甘える事にしたのだった。
◇
「もう、お休み下さい」
「……ありがとう」
部屋に戻ると、家光は褥に寝かされる。
ぽんぽんぽん、
と、春日局は布団越しに家光のお腹辺りを優しく叩いたのだった。
「ふふっ、何それ。もう子供じゃないんだけど?」
「……ふ。江戸に帰るまでは、こうして寝かしつけて差し上げますよ」
ぽん……、ぽん……、ぽん……。
と、春日局の手がゆっくりと動く。
「何それ」
「……江戸に帰れば、祝言です。家光様は、人妻になられます」
「っ、…………ひとづまぁあああ!!(何たる淫靡な響き!!)」
家光は急に身体を起こすと頭を抱え、つい大声を出してしまった。
「…………、……そんなに御嫌ですか?」
「はい、嫌です」
「…………家光様……」
家光の即答に春日局が眉を顰め、呆れた顔をする。
「……っ、孝は嫌なの」
「……仕方ないことです。それに、もうそういう御歳頃なのです。御解かりですよね?」
家光が目蓋を固く閉じ、ふるふると頭を抱えたまま嫌々するが、春日局の声は淡々としていた。
そして、家光を褥に再び寝かせ、捲れた布団を掛けてやると、
ぽん、ぽん、ぽん、
と春日局の手が再び家光をあやす様に調子を取るのだった。
「っ、わかってるけどっ!! 孝は嫌だ」
「……孝様は……、少々不器用では御座いますが、悪い御方では御座いません」
「……孝は嫌だ。絶対嫌だ。あいつ私の自尊心を傷付けるから嫌い(ていうか、福だってあいつが何したか知ってるじゃんっ!!)」
家光は瞳を潤ませ訴えかける。
「自尊心……。家光様」
「っ、何?」
「……祝言を挙げるだけでいいのです。それだけでも御出来になられませんか?」
「挙げるだけ……って、形だけでいいの……?」
「…………、…………ええ。そこまで家光様が孝様を嫌われるのでしたら、仕方がありません。どうか考えてみてはもらえませんか?」
ぽん、ぽん、ぽん、
春日局の手が少しだけ、早くなる。
「…………祝言を……、挙げるだけ……。形だけ……」
「はい、そうです。形だけでいいんですよ。家光様は御婚姻されても、今まで通り……いえ、中奥、表にて政に入っていただくようになりますか……」
「あっ、そっか。私将軍になったんだもんね」
「はい。私は政には詳しくありませんが……、秀忠様もいらっしゃいますし、優秀な老中達が手取り足取り御教示して下さるかと」
「……っ、うん、何とかやってみる」
「その場には正勝もどうぞお連れ下さい。何かと役に立つはずです」
「正勝が一緒なら心強いね」
「…………、…………まぁ、……はい。そう、……ですね」
春日局は口を濁しながら頷いたのだった。
「ん……?(何か浮かない顔……)」
「……だからどうか……、江戸に着くまでは今の家光様のままで……」
「う、ん……?」
「……いえ、せめてもの親心です。江戸に着くまではこうして寝かし付け致しますよ」
ぽん、ぽん、ぽん。
春日局の手は再び優しく音を刻む。
「うん? ……も~、何かよくわかんないなぁ……。……けど……、へへっ……何か、昔を思い出すや。よくこうして寝かし付けてくれたもんね?」
「そうですね。…………おやすみなさいませ、家光様」
春日局は目を細め穏やかに微笑むと、家光の瞳が薄っすらとまどろんで……、
「うん……、おやすみ、福……」
家光は優しいリズムに意識を奪われていった。
◇
――次の日から江戸へと帰路についたのだが、春日局は江戸に戻る間中、宣言した通り毎晩寝かし付けにやって来ては、穏やかな笑みを浮かべて家光をあやしていた。
そして、家光が休んだ後は正勝や風鳥、月花に寝ずの番をするよう厳しく言い付け、隣の部屋にて一仕事してから身体を休める。
帰りの旅は春日局が徹底的に予定を管理し、秀忠や家光が脱線する隙を与えることはほぼなかった。
ちなみに、途中までは大名達も同行したため、非常にスムーズに事が運んでいる。
ただ、どうしてもあの二人は自由なものだから、全て予定通りには行かず……。
「……ここを、もう少し早く渡れないものか……。いや、ここを通過すれば……」
春日局は、河川の渡し舟などでどうにか時間を調整できないか、はたまた、寄る宿場町を一つ飛ばせないかと、試行錯誤し続けたのである。
「ああ……、家光様はどうにかなるとして、何か秀忠様の気を引くものは無いか……?」
秀忠はお菓子が好きなので、名物で釣ろうとあれやこれやと考えてみる。
自分よりも上の者に対して何とも失礼な話ではあるが、気を抜くと直ぐに隙をついて何か事件を起こしかねないため、春日局は大真面目だった。
……そんなこんなで、なんと!
何と……!
以下、次回に続きます……。
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