王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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一章~新入生親睦会~

お食事タイム

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「……………。」

扉の破壊された音に部屋から出てきた守山と、怒りを露にする冬宮が睨み合う。秋道寺は千里が無事だと分かると、部屋のソファーに寝転びゲームを始めていた。

おい秋道寺…君が一番分からない。用がないなら帰ろうよ?内心げんなりしつつ、睨み合う二人をどうしたものかと思う。
因みに、壊された扉は直久と守山の親衛隊が片付けて簡易扉を付けてくれた。仕事が早いな…君達。

「…とりあえず、直久も守山も座らないかい?僕が此処にいた理由を説明するよ。」

殊更ゆっくりと言えば、守山は小さく頷き秋道寺の前にあるソファーに座るが、直久は鋭い目付きを止めない。

ふう。面倒だな。仕方のない。
千里も空いているソファーに腰を下ろし、隣を軽く叩き直久に目を向ける。

「ほら、早く?」

その行動に毒気を抜かれ、素直に腰を下ろす。

「そういえば、秋道寺は何で直久と一緒に?」

ん?と秋道寺がゲーム機から顔を上げる。

「うん。まあね~。」

へらりと笑う秋道寺に、千里は嫌な予感がした。直久も「まさか…」と呟き、守山すら怪訝そうに眉を寄せている。流石に秋道寺も妙な空気に気付き、慌てて千里に片手を振り言葉を返す。

「え?!何か疑ってる?何もしてないよ~?ただ親衛隊の子に情報貰ったから来ただけだよ~。」

いつも飄々としている秋道寺が焦るのは、千里の
訝しい表情を見たからだろう。

「本当?なら良いけど。…君の事、信じてるからね。」

盗聴機かとも思うが、そこまでは聞けない。むしろ、本当にそうだったらかなり嫌だ。信じてる、と笑みと一緒に言えば、秋道寺もウンウンと必死に頷く。

「勿論、期待は裏切らないよ!」
(冬宮にはどう思われても良いけど…千里ちゃんだけには、誤解されたくない。)

守山がお茶を淹れてくれ、やっと落ち着いた雰囲気で話しを始めた。守山としていた内容はぼかし、矢代の事だけを中心に口にし簡単に説明を終えた。

「…なるほどな。」
「ふーん?」

中等部から居る彼らにとって、あまり驚く内容では無かったようだが、それでもあまり気分の良い話では無かったらしい。直久は、以前から気になる事があったと言う。

「確かに、SクラスとAクラスは隣接してるが…B、C、Dは渡り廊下で離れている。何をしてるか分からねーな。」

僕もそう思う。

「うん。もしかしたら、犯罪まがいの事が起きてるかもしれないよね?」

この学校での教師の存在は頼りにならない。だからこそ、生徒の自治が必要となる。

「…一度風紀委員会と話してみようかな。秋道寺、一緒に行って貰えるかな?」

学校の風紀を管轄する風紀委員会と相談してみるか。Dへの扱いによっては、親睦会も安心して出来ないし。風紀委員への脅しとして、秋道寺を連れていこう。名指しされた秋道寺は嬉しそうに「勿論だよ~」とご機嫌だ。

よし、上手くいきそうだ。
話しが纏まったと思った頃、秋道寺がゲームをしながら一言。

「…つか、何かお腹減った~。」

確かに良い時間かもしれない。しかし食堂の時間は既に終了時刻を過ぎている。まあ、このメンバーで行けば飛び起きて開けてくれそうだけど。

「親衛隊でも呼ぶか?」

何か作らせようと思ったのか直久はそう言うが、守山はあまり良い顔をしない。

いや、わざわざ呼ぶの?扉を片付けさせて料理作らせるって、僕だったら殴るよ。というか、帰る気配無いな君達。

「僕が作ろうか?」

「え?」
「は?」
「……!」

ポカンとする一同に、千里はニコリ笑う。春宮のお坊っちゃまが料理をするなんて、普通ならあり得ないだろうが、完璧を求める千里は違う。

「まあ、口に合うかは分からないけど。」
「いや、絶対旨い。」

直久の断言に苦笑してしまう。秋道寺など「千里ちゃんの愛妻手料理~。」と浮かれている。愛妻は止めて欲しい。守山は…何だろう。表情は変わらないが、瞳は輝いている気がした。

Sクラスには、各部屋で風呂もキッチンも備え付けられている。守山に道具の場所を聞き、冷蔵庫を確認して置く。中には意外と調味料や野菜類も豊富だ。親衛隊が用意しているのだろうか。

よし、やるか。

まずは袖を捲り、シンプルなエプロンを身につける。ふりっふりなエプロンもあったが、絶対に無理。後で恵に着て貰おうかな?

髪は一度ほどき、ポニーテールにする。

何を作るか?デカイ男二人に、細身だが守山も食べるかもしれない。まずは、海老とアボカドのサラダを作り、小分けに盛る。メインは鶏肉をガーリックソテーに、野菜を添えて。春雨のスープを付けて完成。

「直久、少し良いかな?」

味見をして貰おうと声を掛けると、直ぐに姿を現す。

「…良い匂いだな…………!」
(っ可愛い!)

エプロン姿を目にし固まる直久には気付かず、上手く出来た千里は満足そうだ。

「ありがとう。スープを味見してくれるかい?」
「…ああ。」

小皿を受け取り飲み干す。少し薄いが、千里が作った時点で既に味は関係なかった。

「旨い。お前の作った物が旨くない筈が無いな。」
(後は邪魔者がいなけりゃ良かったが…)

ありがとうと答え、直久と共にテーブルに料理を運ぶ。守山と秋道寺は落ちゲーで対戦しており、意外と関係は悪くないらしい。ああ、確か秋道寺って自分より背が低い相手には、結構優しいよね。

「守山、秋道寺。出来たから食べようか。」

ポニーテールは戻したが、まだエプロンを着た千里を見て秋道寺が勢い良く近付く。

「千里ちゃん、エプロンめっちゃ似合う!今すぐ嫁に来て下さい!」

いやいや。マテマテ。

とりあえず、エプロンを脱いでソファーに置くと、ゆったり微笑む。

「…嫁?君が僕の所に来るの、間違いじゃないかな。僕の騎士さん。」

想定外の事にも、千里は動じず慌てない。絶対に隙は見せないつもりだ。秋道寺を放って食べ始めると「それも有りかも」と呟きが聞こえる。彼の脳内には、教会の前でスーツ姿の千里と秋道寺が見えているようだ。

守山と直久は完全無視で、美味しいと言いながら食が進んでいる。

…結構食べてくれるな。

その後、何だかんだと完食したのである。矢代の身柄はDクラスの生徒が引き取りに来た。その事は、後々千里と関わって来るのはまだ先の事であった。



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