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二章~親交会・対立~

着信2件

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親睦会が終わり、簡単な反省会を終えた夜、千里はベッドに倒れ込んでいた。後日打ち上げも行うらしいが。

つ…疲れた。
しかし、これで大きな行事の一つが終わったのだろう。暫くはのんびり出来るかな?

リラックスしようとクラシックの音楽を聴きながら、携帯電話を開く。

ん?着信があったのか。

二件の着信に気付き、たぶん重要では無い方は後回しにして、先に気になる相手の為折り返し掛ける。

プルルル……。
さして間を置かず返答が得られた。

『もしもし。私でございますが、若君様でしょうか?』
「うん。久しぶりだね、爺や。どうかしたの?」

聞き慣れた相手の声に、気負い無く話しを続ける。

『お時間を取らせ、申し訳ありません。少しだけ、申し上げて置きたい事がございまして…。』
「何だか恐いんだけど…?何だろう。」

態々前置きする爺やに疑問に思う。自分が生まれる以前より、千里の祖父の時代から春宮家に仕えてくれた人物だ。千里もとても信頼している。孫の様に思っているお嬢様(若君)の心配そうな声に、爺やはゆっくり「いえいえ」と否定を返す。

『恐い事ではございませんよ。…若君様、夏雪青薇の事ですが。』
「ああ、知っているの?」

夏雪の名前が出て驚く。

…まさか爺やの知り合いだろうか?

その疑問の答えは、ある意味正解であったようだ。

『はい。青薇は私の弟子の一人でして。』
「…へえ。驚いた。ん?だから、頼むって事?」

夏雪の言っていた師匠って、爺やの事だったのか。
ふーん。なるほど師弟愛か…爺やの頼みなら断れ無いし。

『いえいえ。青薇は使えるだけ使って下さい。執事というのは、その為にいるのですから。』

意外と冷たいんだな?じゃあ…一体何だろう。

無言の千里の気持ちが伝わったのか、爺やは直ぐに意図を理解する。

『では無くて、敵に回してはならぬ三人目の事です。』
「三人目?僕は、夏雪がそうじゃないかと思ったけど。」

味方にした途端、Dクラスを手に入れたも同然というのは、かなり凄い。ふむ、と爺やの感心した頷きが聞こえた。

『当たらずとも遠からずですな。三人目の推測は概ね宜しいかと。ただ…。』
「ただ…?」

爺やの含みのある言葉に、千里は首を傾げて続きを待つ。

『今の青薇は恩を感じて、若君様についている様です。しかし、それは本当の忠誠ではございません。』

ふむふむ。言いたい事が分かった気がする。

「つまり、夏雪…三人目を手に入れるには、しっかりと心を得る必要があるのか。」
『流石、ご聡明でいらっしゃいます。』

ニコニコと相手の笑顔が見えそうだ。

「えーっと。それって、父様に言われたの?」
『いえ。前ご当主様にでございます。』
「…お祖父様が。」

まさか、お祖父様だったなんて。…幼い頃に数回会っただけなのに。

『若君様は愛されておられますね。勿論、御当主様と奥方様…私もですが。』
「うん。ありがとう、爺や。話せて嬉しいよ。」

知らず笑みが溢れる。普段張り詰めている心が、少し解れていくようである。その後は、少し世間話をして電話を切るのだった。


なるほど。どうにか、夏雪の忠誠を得ないとならないね。
淹れたコーヒーを口にし、軽い気持ちでもう1つの着信を思い出して発信ボタンを押す。

…プルルル……。

『もしもし…。』

何ヵ月ぶりかな?

「もしもし。久しぶりだね、元気だった?」

千里ちさと!良かった、ええ。勿論元気よ!』

相手の通る声に、相変わらずだと微笑む。

千里せんりだよ。良かった、変わってないみたいだね。早苗さなえ。」

早苗は、千里と幼稚舎から中学まで同じクラスだった人物である。唯一、中学までの人生を捨てた千里に最後まで食らい付き、連絡先だけは教えた相手だ。

『変わったわよ。貴女が居なくなってから、学校なんてとっても退屈。テストで競う相手もいないしね?』

確かにつまらなそうな口調の相手は、言い終えると少し間を置いてため息を洩らす。

「…いつ出られるか分からないから、電話は期待しないで…って言った僕にかけてきたんだ。何があったの?」

ええ、と早苗の落ち着いた声音で返される。

『…私、まだ大丈夫と油断していたのだけど。』
「うん?」
『……………お見合い、する事になったの。』

お見合い…と胸中で繰り返す。早苗も名家の令嬢だ。あり得ない話しでは無いだろう。

「そっか。嫌がってるという事は、断れない家柄で、好きじゃない相手かい?」
『…ええ。一度はお会いしないといけないけれど。冷たい人だって聞いて不安で。…その人の学校が千里と同じみたいだから、聞いてみようと思ったの。』

同じ学校?嫌な予感がするな…。いや、学年が違うかもしれないし。

逸る気持ちを抑え、敢えてゆっくりと聞いてみる。

「名前は?」

問いに答えた名前を耳にし、千里は聞いた事を後悔するのだった。

『ああ、言って無かった?冬宮直久さんって言うらしいの。』


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