王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

お部屋訪問

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午前中は普通に授業を受けて、午後は親交会の簡単な会議を行う。
月宮とは一度も会話をしないが、教室内では僕と月宮のどちらにもつかない者は、様子を伺っている様だ。

少しずつ1学年の校内も、雰囲気が変わってきた様に感じる。
春宮側と月宮側…僕は変わらず接しているが。気のせいとも思えないが、見知らぬ生徒がチラホラと増えて来た様だ。
…月宮が何かをしようとしている? 

不穏な雰囲気もあるからか、夏雪かDクラスの10名の執事の内誰かは常に控え、美景か歩は側に居る事が増えた。

直久は直久で、春宮側を増やしてくれているらしい。本人は、やはり家の事で何かあるのかあまり眠れていない様だ。それでも、疲れた姿は見せない直久は流石だと思う。桐埼は心配しているけれど。

ゆっくりと息を吸うと、寮へと足を進める。今日は智の退院日であるし、都丸弟のお願いの件もある。
智の部屋に泊まる事。簡単な着替え等を持ち、気楽に寮の庭の木々を眺めた。

「千里ちゃん!」
「明日霞?君も帰る所かい?」

ふいに掛けられた声に気付き振り返ると、見知った相手に笑みを向ける。

「うん。良かったら、一緒に帰らない?」

珍しく親衛隊の子とは一緒では無く、嬉しそうに笑う明日霞を拒めないが、この後の事を思い出せば頷くのも難しい。

仕方ないか。

「ああ、途中までで良いならね。今日は智の退院する日で、顔を見に行く予定だから。」
「そっか~……。じゃあ、良いや。」

そう言って僅かに視線を下げて、そのまま一人で帰ろうとする明日霞。

え?いつもなら、着いていくとでも言いそうなのに。
いつも明るい笑顔で誰とでも気安く接している明日霞なのに、背中に寂しげな色を感じた。

やはり、鈴木の事だろうか?僕の為とは言え、影ながら支えてくれていた者を失うのは辛いだろう。まだ、鈴木に頼んだ事は明日霞に伝えていない。いや、教えられないのだ。

「…明日霞。」

後ろから相手の手を取ると、驚いて目を見開き振り向く。

「そういえば、僕との約束は守れているかい?」

千里の質問に一度首を傾げるが「ああ」と気付いたのかパッと笑みを見せる。

「うんうん!聞いてくれる?俺さ、ここ数日間マジで普通のエッチしてるんだよ~。」

凄くない?とへらりと笑う様は、普段の明日霞に戻っていた。

「そう、偉いね?」

優しく微笑む千里に嬉しそうに笑みを返す明日霞だが、直ぐに瞳をつと細める。

「…うん。だから、ご褒美貰えるよね?」

一瞬で夜の空気を出す相手に、千里は考えていた事があった。彼の性癖を変えていくに辺り、やり方を変えていこうかと。

「そうだね、明日霞…おいで?」

にこりと微笑み、両手を広げれば、一瞬固まるが直ぐに飛び込んで来る。明日霞の方が背が高いからか、千里の肩に顎を乗る形となった。

…明日霞って体温低いな。

それでも早まる相手の鼓動は、高まる緊張を感じさせるには充分だ。

「…千里ちゃん?」
「うん?」
「えーっと……嬉しいけど、これがご褒美?」

千里に抱き締められるという役得を得ているが、やはりこれだけだと物足りないらしい。

さてと…。
少し体を離し、相手の両頬を両手で挟み、目を合わせる。

(うわっ…千里ちゃんマジで肌綺麗だな~。唇も綺麗だし)

勿論、邪な視線は気にせずに、額をコツッと触れあわせ瞳を閉じた。

「約束を守ってくれて嬉しい。本当に君は、僕の騎士にふさわしいよ。でも、まだ足りないかな?」
「…へ?えーっと、つまり?」

誉めて誉めて突き落とされた為か、僅かに赤い頬は直ぐに色を無くし狼狽え出す。もう一度「明日霞」と優しく呼んでやる。

「…一月頑張れるかい?もし、出来たら。」
「出来たら…?」

期待と不安に揺れる明日霞の瞳をじっと見上げると、ごくりと生唾を飲み込む音が響く。

「一緒に何処かに遊びに行こうか?」

スッと体を離し、ヒラリと体を反転する。

(それって、デートじゃね?!)

「…二人で?」
「そうだね。二人で良いなら。」

勿論だよ!と、それまでと打って変わって年相応の明るい笑みになった明日霞に安堵した。

千里は考えていたのだ。享楽主義的でストレスなど溜まらない様に見えるが、こういったタイプは意外と繊細だ。夜の営みで鬱憤を発散させているのでは?と。

「俺、1ヶ月頑張ってみるよ~!」
「うん。明日霞なら大丈夫だよ。」

彼と普通の楽しみを見つけよう。
ご機嫌で手を振って去っていく背中を見送り、のんびりと智の部屋に向かう。





部屋のインターホンを押すと、扉から都丸兄が急いで顔を出す。

「春宮様!どうぞお入り下さい。お待ちしていました。」
「ああ、ありがとう。失礼するよ?」

リビングに通され、ソファーに座らせられると然り気無く室内を眺める。
智らしくシンプルな部屋の様だね。カーテンやテーブルも、寒色系で統一しているようだし。

都丸弟の持ってきた紅茶を口にした時、都丸兄弟がそわそわと落ち着かない様子で口を開く。

「…あーっと!忘れ物をしたから、取りに行かないと!」
「大変だ~!これは何時間かかるかも分からないな!」

わざとらしいが千里は特に何も突っ込まずに、兄弟は「それでは」と言い残し嵐の様に立ち去る。残された千里は、ソファーの隣に座る智を視界に入れると、直ぐに嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
既に智の瞳には、千里の姿しか映らない。

「退院おめでとう。もう怪我は大丈夫なのかい?」
「…うん。大丈、夫。来てくれて、ありがとう。」

他者に見せないだろうふにゃっとした笑顔に、彼の頬を優しく撫でておく。

退院祝いのお菓子の詰め合わせを渡すと更に喜ばれ、そのままお願い券の事は口にせずに、部屋に泊まりたいと言ってみる。

「…千里が、俺の部屋に?」

目を丸くして固まる智。
まあ、突然言われたらそうだろうね。

「いや、心配だったからね。無理にとは言わないのだけど、嫌だったら…。」
「い、嫌じゃない。」

苦笑を交えてそう言うと、間髪入れずに返された音は小さいがハッキリした物だった。

「心配してくれて…嬉しい。………あの、良かったら…」

はにかみ気持ちを表すと思っていたら、今度は少し戸惑う様におずおずと伺う様に見上げてきた。

「…あの…」
「…うん?」

口数の少ない智の言葉を邪魔せず、柔らかく微笑み待ってみる。すると、一度深呼吸をした智がやっと言葉を絞り出す。

「…俺の、作る料理…食べてくれる?」

思わず相手を凝視してしまった。智は自分と背が変わらなく、クールな雰囲気である。

しかし、こういった時の表情は時々千里の胸にクル物があるのだ。 

「智が作ってくれるのかい?楽しみだな。」

にこりと微笑むと、智の背後にパッと花が咲く様な錯覚に陥る。

「うん。…作る、から…待ってて?」

機嫌良く台所へと向かう智に可愛く思い、出されていたティーカップを手に取る。
以前僕が作ったのを見て、練習でもしてくれたのだろうか?ふと、胸中に暖かな物が溢れる。

学園に入っていつ以来だろう?直接誰かの手料理を味わえるなんて。
ソファーに凭れて、瞬きのつもりが一度目を閉じる。そのまま眠りに誘われるなんて、その時は思っていなかったのだった。


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