王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

文字の大きさ
77 / 124
二章~親交会・対立~

夢世界

しおりを挟む

心地よい微睡みの中…遠い遠い記憶が甦ってくる。

〈ちさとちゃんは、家を継ぐんだよね?〉

これは…誰だ?

〈名前は…ありません〉

名前は、私が…つけてあげた?

〈…王子様?馬鹿じゃないのか〉

何で…そんな事を言うんだ…。

〈この花、大嫌いなんですよ〉

スゴく綺麗な花だね。

〈僕は…生まれなければ良かったの?〉

どうしたの?泣いてるの?

〈僕を、捨てないで……!〉

心が、揺れた。とめどなく、流れていく滴。

ああ…思い出した。
ゆっくりと、ゆっくりと記憶の扉を開けていく。

『本当に、お嬢様はお可愛いらしく優秀でございますね!』

そう言われるのなんて、物心ついた頃から慣れていたが、いつもの様に素直に受け止めて笑う。
あれはいつ頃だったか…。いつもの様にお客様に大袈裟な程誉められた少し後、帰る間際のお客様と誰かの会話を立ち聞いてしまった。

『でも…もう奥様は、子どもを産めないのでしょう?』
『ええ…お体が丈夫で無いらしくて。』

まるで世間話の一貫の様な口調であった。

『…娘が優秀でも、所詮は女でしょう?』

ドキン…と胸が痛む。周りの者には言われた事は無かったが、薄々とは感じていたのだ。

『ええ、なまじ優秀でしょう?ご当主も養子を取るのも悩んでいらっしゃるみたいで…。』
『まあ!どうせ何処かに嫁に出すのだから、勉学よりも女性のたしなみを教えれば、少しは控えめになさるのでは?』
『そうよね。良家の子女として、控えめに男性を立てる様になればご当主も決心がつくのではないかしら。』

自然と手の指先が震えてくる。寒くは無いのに。

『お可哀想に。ご当主も奥様も、男の子が良かったでしょうにね』

その言葉を最後に、私は駆け出していた。庭の花壇の繁みの中で、声を殺して泣いた。

私は、女だから駄目なの?お父様も、お母様も困ってるの?勉強もスポーツも何でも頑張ったけど、それは出過ぎているの?私は、必要ない…? 

泣いている所を爺やに見つかったが、何を聞かれても私は理由を口にする事は出来なかった。ただ、そのお客様は二度と私の前には姿を見せなかったが。

…何だろう?これは、僕の記憶? 
ふわふわと、場面が切り替わる。

『ちさとちゃんは、家を継ぐんだよね?』

そう聞かれた時、何て言えば良いか分からなかった。悪気の無い相手の言葉に、呼吸が苦しくなったのだ。

『もし家を継ぎたくなかったなら、僕の家に来ていいよ』

続けてそう言われた時、初めて心が揺れる。この男の子なら、私を助けてくれるかな?逃げてもいいのかな?

昔見た物語みたいに、私を連れて逃げてくれないかな?王子様みたいに、お城に連れて行ってくれないかな?そんな事は、無かったけれど。もし、手を引かれていたら…一緒に行きたかった。

ふっと景色が映り変わる。

『王子様…馬鹿じゃないのか?』

そう言って呆れる男の子に、それでも居るかもしれないと言い返すが、頭を振られるだけだった。

『じゃあ、探しに行くか?』

頭を掻きながら戸惑う男の子は、手を差し出してきた。
一緒に…行こうかな?

ふいに『男の子が欲しかったでしょうね』と頭の片隅に過る。
王子様を求めたら…私は男に屈した事になるのだろうか。やっぱり良いと男の子の手を振り払い、駆け出した。涙で視界が霞み、景色が変わっていく。

『…僕は、生まれなければ良かったの?』

泣きじゃくる男の子に、微笑む。
そんな事は無い。誰だって、産まれた意味はあるのだと。

『…せめて、女に生まれたら良かった!』

あべこべだ。私は、男に産まれたかったのに。
それ以上聞くと、その男の子に暴言を吐きそうで、私は何も言わず立ち去った。

私は…生まれて良かったのかな?
父様は、何で後継者としての勉学を学ばせてくれる?母様は、好きな様に生きて良いと言うけれど何で?私は…春宮に居ても、居なくてもどちらでも構わないの…?

何でもする
何でもする
何でもする、から

『私を捨てないで!』





「…………り、千里?」

柔らかな声が、微睡みの覚醒を促していく。

「…………智?」

眠っていた事に気付き、働かない頭をフル稼働して視線を映す。

そうか。智の部屋に泊まりに来ていたのだったっけ。
それなりに親しくしていたとは言え、不用意に眠ってしまった事に内心反省し、相手へやっと微笑む。

「ああ、すまない。眠ってしまったみたいだね?」
「…ううん。千里、疲れて、た?もう…寝る?」

心配そうにそう言ってくれるが、まだ早い時間なので丁重にお断りをする。

「いや、それより早く…君の手作り料理が食べたいな?とても楽しみだよ。」

瞳を細めてにこりと笑みを向ければ、何度も頷かれ直ぐに準備に取りかかってくれた。

…よく思い出せないが嫌な、夢だったな。

一度腕を伸ばし伸びをすると、鼻孔を擽る匂いに気付く。にこにこと皿を並べ出す智を見ていると、みるみるテーブル狭しと並べられる。

一度手伝うと言ってみたが、絶対に良いと断られてしまった。というよりも、普段から千里を働かせるのを嫌がるのだ。

「…美味しそうだね。」

並んだ料理に、思わず目を奪われる。 
ローストチキンのサラダに、トマトのコンソメスープ、カリカリのフランスパンの上にサラミとチーズが乗り、大皿に数種類のパスタとピザが乗っていた。

いやいや…食べきれないと思う。 
それでも嬉しそうに此方を見てくる智に何も言えず「いただきます」と言い、箸を取り口に運び料理に挑む事となる。

「…あ、美味しい。」
「よかった…これも、食べて?」
「ああ、ありがとう。うん、良い味。…ん、これも美味しい。」

気がつくと普通に堪能し、久しぶりに満腹になるまで食べてしまった。

「ご馳走さま、美味しかったよ。」
「…嬉しい、また…いつでも、作る。」

ここまで自分の口に合う物は中々無いしな。深く考えず、軽い調子で思ったままを口にする。

「智にお嫁に来て欲しいくらいだよ?」

嫁、と呟き固まる相手に、いくら智が中性的でも嫁は嫌だったか?と思うが、直ぐにそれは杞憂に変わった。

「千里、なら…良い。」

目元が赤らみ、艶のある笑みを返されれば、千里も何となく色香に喉がなる。そっと手を重ねられ、鼻先が触れあう様な距離になった時、流石に危険を感じ相手の頬にキスをし耳元に囁く。

「…お楽しみは後でね?シャワーを浴びても良いかい?」
「……っん。うん、良い。」

とりあえずその場を納め、智は片付けを始め、千里はお風呂を借りる事になったのだった。脱衣場で衣服を脱ぎ捨て、うーんと眉が寄っていく。

…正直、大丈夫だろうか?
好意を持たれた者の部屋に泊まりに行く、という事は何もしないのは良いのだろうか?いや、智なら大丈夫………………いやいや。まあ、少しだけなら?大丈夫?か?

もしもの時にと、携帯は夏雪の番号でキープしていたりもする。
熱いシャワーを浴びて浴槽に浸かった時だった。
本当に油断をしていたのである。風呂場の扉がガラリと開く。

「…千里、背中…流そうか?」


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...