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二章~親交会・対立~
報酬は
しおりを挟む春宮家の別邸にて、城ヶ根家令嬢と春宮家子息が顔を合わせていた。
「…ち、千里!本当にありがとう、私…どうしたら良いか分からなくて。」
常は白百合の様に涼やかな少女は、瞳を潤ませて相手の腕のなかで俯く。
よしよし、と撫でる千里の優しい手付きに安心して身を寄せる姿は、まるで恋人同士の様である。
「…大丈夫。ほとぼりが覚めるまで此処に居て?爺やも居るから、何でも言って良いよ。」
「ええ。ありがとう。ところで…」
そこで早苗の視線が普段の服装に戻ったフードの男へ向く。暗に邪魔だと言っている様だ。
「ああ、僕が雇っている者だよ。黒鎖という。」
「…そうだったの。あの、黒鎖さん?」
「ん~?何ですか?」
扉近くのソファーに横になり、漫画雑誌を捲っていた黒鎖が顔も上げずに返すと、早苗は気にせず微笑む。
「御協力感謝します。それから、もう大丈夫ですので少し席を外して頂ける?」
あくまで穏やかに礼を述べつつ、部屋を出ていけと訴える早苗。
えーっと、早苗?黒鎖は護衛で居るのだと思うのだけど。
不思議そうな千里に構わず、更に言い募る。
「…よろしいでしょうか?黒鎖さん。」
(男装姿の千里って、なんて素敵なのかしら。ふふ、少しだけなら…)
「えー。お断りでーす。」
ニッコーと口元だけ笑う黒鎖は、その瞬間冷ややかに細まる早苗の視線と混じる。
(空気読めないのかしら?変な男)
(邪なオーラ出しまくりだなあ~この人)
しかし、そのピりついた空気を打ち消したのは、勿論千里である。
「黒鎖、早苗と話したい事があるから席を外してくれるかい?」
微笑みを向ける千里に「はーい」と言いつつも、ソファーから立ち上がり近付いて行く。
「では、先に報酬を貰っても良いですか~?」
「報酬?後日振り込む予定だけど。」
あくまで雇っている形にしている黒鎖には、金銭面の褒美は忘れずに行っている。だが、黒鎖の言い方では何やら違う様だ。
「…うーん。お金は要らないので~。1つ違う形で欲しいですね。」
「なるほど。まあ、僕に出来る事なら。」
僅かに躊躇う気持ちが生まれるが、今回はかなり危険な役目を任せたのだ。多少の無理は聞いてみよう。
黒鎖は嬉しげに口元を緩め、千里の耳に唇を寄せ囁く。
「今度、女性の格好を見せてくれる?」
勿論俺だけにですよ、と続けた相手に、一瞬思案するが直ぐに頷く。
「見せるだけなら構わないけれど、条件は付けるよ。」
二人きりは危険そうだ。夏雪か美景を待機させておこう。
「んふっふ~。良いですよ~。それじゃあ、楽しみにしています。」
鼻唄を歌い部屋を出ていく黒鎖を見送り、早苗に心配されるが何とか宥めすかす。
*
二人きりの空間、椅子に腰掛けどちらからともなく会話が生まれる。
「…私、父が謝るまで帰らないわ。」
「うん、その方が良い。僕も協力するよ。」
「ありがとう…ねえ千里?」
ふいに早苗の瞳は不安そうに揺れる。
いつも冷静に事を進める彼女には珍しい。
「冬宮さんって、どう思っているのかしら?怒ってる?それとも誰か好きな人が居て安心したのかしら。」
「冬宮…直久とは、高等部に入ってから親しくしているけど…真意は分からない。」
流石に、自分を好きだとは言えない。早苗の心配を増やせない。
「…そうなの。」
「うん。学園に戻ってから、彼とも話してみるつもりだよ。」
分かったわ、と頷くのを見て内心ホッと息を吐く。
早苗は幼馴染みで大事な友人、直久は好意を持ってくれて安心出来る存在。どちらも助けたいし、力になりたい。
少し間が空き、爺やがお茶を淹れてくれて女同士の話しに花を咲かせるのだった。
「ねえ、園原さんってどんな人?」
「ん?そうだね、とても綺麗で優秀な子かな。」
時折メモリに入った写真を見せつつ、大いに盛り上がる。早苗のお気に入りは、明日霞と美景の二人らしい。今度、また写真を送ると言ったら喜んでくれた。
穏やかに流れる時間の中、学園では星河が重大な秘密を知り得たなど、思いも寄らない千里であった。
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