王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

文字の大きさ
91 / 124
二章~親交会・対立~

報酬は

しおりを挟む

春宮家の別邸にて、城ヶ根家令嬢と春宮家子息が顔を合わせていた。

「…ち、千里!本当にありがとう、私…どうしたら良いか分からなくて。」

常は白百合の様に涼やかな少女は、瞳を潤ませて相手の腕のなかで俯く。
よしよし、と撫でる千里の優しい手付きに安心して身を寄せる姿は、まるで恋人同士の様である。

「…大丈夫。ほとぼりが覚めるまで此処に居て?爺やも居るから、何でも言って良いよ。」
「ええ。ありがとう。ところで…」

そこで早苗の視線が普段の服装に戻ったフードの男へ向く。暗に邪魔だと言っている様だ。

「ああ、僕が雇っている者だよ。黒鎖という。」
「…そうだったの。あの、黒鎖さん?」
「ん~?何ですか?」

扉近くのソファーに横になり、漫画雑誌を捲っていた黒鎖が顔も上げずに返すと、早苗は気にせず微笑む。

「御協力感謝します。それから、もう大丈夫ですので少し席を外して頂ける?」

あくまで穏やかに礼を述べつつ、部屋を出ていけと訴える早苗。

えーっと、早苗?黒鎖は護衛で居るのだと思うのだけど。
不思議そうな千里に構わず、更に言い募る。

「…よろしいでしょうか?黒鎖さん。」
(男装姿の千里って、なんて素敵なのかしら。ふふ、少しだけなら…)
「えー。お断りでーす。」

ニッコーと口元だけ笑う黒鎖は、その瞬間冷ややかに細まる早苗の視線と混じる。

(空気読めないのかしら?変な男)
(邪なオーラ出しまくりだなあ~この人)

しかし、そのピりついた空気を打ち消したのは、勿論千里である。

「黒鎖、早苗と話したい事があるから席を外してくれるかい?」

微笑みを向ける千里に「はーい」と言いつつも、ソファーから立ち上がり近付いて行く。

「では、先に報酬を貰っても良いですか~?」
「報酬?後日振り込む予定だけど。」

あくまで雇っている形にしている黒鎖には、金銭面の褒美は忘れずに行っている。だが、黒鎖の言い方では何やら違う様だ。

「…うーん。お金は要らないので~。1つ違う形で欲しいですね。」
「なるほど。まあ、僕に出来る事なら。」

僅かに躊躇う気持ちが生まれるが、今回はかなり危険な役目を任せたのだ。多少の無理は聞いてみよう。
黒鎖は嬉しげに口元を緩め、千里の耳に唇を寄せ囁く。

「今度、女性の格好を見せてくれる?」

勿論俺だけにですよ、と続けた相手に、一瞬思案するが直ぐに頷く。

「見せるだけなら構わないけれど、条件は付けるよ。」

二人きりは危険そうだ。夏雪か美景を待機させておこう。

「んふっふ~。良いですよ~。それじゃあ、楽しみにしています。」

鼻唄を歌い部屋を出ていく黒鎖を見送り、早苗に心配されるが何とか宥めすかす。





二人きりの空間、椅子に腰掛けどちらからともなく会話が生まれる。

「…私、父が謝るまで帰らないわ。」
「うん、その方が良い。僕も協力するよ。」
「ありがとう…ねえ千里?」

ふいに早苗の瞳は不安そうに揺れる。
いつも冷静に事を進める彼女には珍しい。

「冬宮さんって、どう思っているのかしら?怒ってる?それとも誰か好きな人が居て安心したのかしら。」
「冬宮…直久とは、高等部に入ってから親しくしているけど…真意は分からない。」

流石に、自分を好きだとは言えない。早苗の心配を増やせない。

「…そうなの。」
「うん。学園に戻ってから、彼とも話してみるつもりだよ。」

分かったわ、と頷くのを見て内心ホッと息を吐く。
早苗は幼馴染みで大事な友人、直久は好意を持ってくれて安心出来る存在。どちらも助けたいし、力になりたい。
少し間が空き、爺やがお茶を淹れてくれて女同士の話しに花を咲かせるのだった。

「ねえ、園原さんってどんな人?」
「ん?そうだね、とても綺麗で優秀な子かな。」

時折メモリに入った写真を見せつつ、大いに盛り上がる。早苗のお気に入りは、明日霞と美景の二人らしい。今度、また写真を送ると言ったら喜んでくれた。

穏やかに流れる時間の中、学園では星河が重大な秘密を知り得たなど、思いも寄らない千里であった。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

処理中です...