王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

作戦遂行

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「どうぞ、楽になさって下さい。園原さん、伊井さん。」
「お構い無く…急な訪問で申し訳ありません。」

月宮が桜川家に訪問したきっかり5分後、堂々と正面から訪れた二人が居た。名門の園原家、伊井家の嫡男である二人を粗雑に扱う事など出来ず、丁重に邸に招かれて客間で過ごす。
月宮の姿は見えず、きっと別の部屋なのだろう。

それと同時刻、美景の側付の様に紛れて侵入を成功させたのは、千里、夏雪、黒鎖である。

小声とジェスチャーを交わし、なるべく人の少ない場所を探しながら身を潜めて進んでいく。
目指すは、桜川 恵の場所。

邸に恵が帰って大した時間も経っていないのに、恵の存在感を感じないな…。一体何処に?流石は資産家。部屋も多く使用人の数も至るところに見られる。

ふと、奥に進む為の外廊下に一人のメイドを見つけた。そのメイドさえ居なければ、奥に進めるのだが。何か考えに耽っているのか、中々居なくなる様子は無い。

5分近く経過し、思案する千里の後ろで黒鎖と夏雪が目配せをしていた。此の場を打破する方法。誰か、いや…どちらかがメイドの気を逸らし進むのだ。

「そこの方、少々お尋ねしたいのですが?」

普段とは事なり、執事服では無いカジュアルなスーツに身を包んだ夏雪が、メイドの前に現れる。

(…夏雪。)
(千里さん、ここは執事君に任せましょ?)

適材適所という物がある。此処から先、裏の稼業を行ってきた黒鎖の方が千里と動いた方が良いだろう。視線だけで、夏雪はそう判断したのだ。

年若いメイドは、突然現れた見知らぬ人物に驚き少し固まるも、直ぐに客人だろうと思い頭を下げる。
夏雪の整った容姿に一目で惹かれたのか、若干頬も赤い。

「ええと、何のご用件でしょうか?」

千里と黒鎖が通り易い様にメイドの前に移動する。自分の容姿の活用法を理解している夏雪は、計算された魅了する笑みを浮かべた。

「…申し訳ありません。道に迷ってしまい
、よろしければ案内をお願い出来ますか?」
「あ、ええと…。」

夏雪にすっかり心奪われるメイドだが、まだ何か命じられているのか躊躇している。こうしている間にも、時間は過ぎていっている。今は、一刻も無駄に出来ない。

元々真面目で、こういった事は得意では無かった。なかったが、主の為に気合いを入れる。人身掌握に長けた主の行動を思い返し、試してみる事にした。

(我が君の技を真似してみるか)

「…へ?え?」

メイドの手を取り、僅かに首を傾げて眉を下げて困った様に微笑する。灰色の艶やかな髪がさらりと揺れた。

「今までは運命なんて信じなかったのに…初めて会った貴方が私の鼓動を早める。…どうか、私から離れるなどと仰らないで下さい。」
「…あ、わわわっ…~~私も、運命を信じます…。」

真っ赤になったメイドが俯く間に、黒鎖がそうっと千里を引いてその脇をすり抜けていく。

(罪な男って奴ですね~?)
(黒鎖…笑い過ぎだよ)

上手く通り過ぎた二人は、余裕を残し囁き声で会話する。
というか、雪もよくあれだけクサイ台詞を言えるものだね。

自分を棚に上げ、そんな事を思いつつ更に奥へと進む。たどり着いた突き当たりの階段の入り口を見つめていると、一人の人物を見つけた。恵の面差しに似かよった20代半ば頃の男性は、上機嫌で階段を登って来ている。

恵の親族か?
ふいに、男性が一人笑う。

「やっと、やっと恵を駆除出来る…。」

…今、なんて?恵を駆除?恵を邪魔だと思っている者、恵の兄か。つまり、恵はあの階段の下にいる。
それも、危険な状態という訳だね。
察しの良い黒鎖も直ぐに行動を起こす。

「…千里さん。少し隠れて貰っていいですか?」
「ああ、分かった。」

彼の指し示す配管道に素早く体を潜める。あまり手入れされいないのか、埃っぽく思わず眉を潜めた。
千里が隠れたのを確認し、黒鎖は態とらしく足音を立てて走り出す。

「…誰だ!お前は?」

勿論男性に見つかり「うわあ」と情けない声を上げる。普段の黒鎖を知るものなら、驚いた事だろう。
姿はパーカーのフードを被り、サングラスにマスク。かなり怪しく見える相貌である。

「…っどうしよ~!見つかっちゃった。あ、あの、怪しい者じゃないですよ?」
「充分怪しいな?一体何の目的で…「う、うわあー!」

男性の言葉を待たず、黒鎖は大きな足音を立てて駆け出す。怪しい人物の逃亡に、男性は追い掛けつつも、携帯で応援を呼び始めた。
本来なら、黒鎖の腕をもってすれば足音も気配も無く、一瞬で逃げるなど造作も無い。態々目だつ理由など一つしか無い。千里の為だけ。

…よし。

足音が遠退き、配管から出た千里は若干崩れた髪も煤のついた顔も気にせず、ただ階段を目指す。 
この下に恵が。
階段下の扉に着いた。どうやら、アルファベットでのパスワード入力式らしい。 

困ったな。思い付いた物が当たれば良いけれど。
まず、鍵のボタンを押す。

『ニンショウヲハジメマス。ジュウモジイジョウノニュウリョクヲシテクダサイ。』

「10文字か。じゃあ、sakuragawaっと。」

ブブーと警戒音が鳴る。
違う?個人的な事なら、分からないな。取り合えず、恵の兄の名を入れてみるか。

「sakuragawa kai」
ブブー

「skuragawa kii」
ブブー

「sakuragawa kui」
ブブー

…あとは。

千里は当主、夫人の名、桜川をもじったりと何度も試してみた。しかし、どれも解除にならない。

「…あとは。sakuragawa kei。」
『ニンショウヲイタシマス。ロックカイジョシマシタ。』

ゆっくりと扉が開いていく。恵の名前が鍵?なぜ、嫌いな相手を。
千里の小さな疑問は、中に居る人物を見つけ消し飛んだ。





再開を喜び、抱き締め静かな時を分かち合う。恵の洗脳もどうやら解けているようで、安堵しざっと恵の体を観察する。

どうやら怪我も無いようだね。良かった。
それと、沸き上がった疑問を口にする。

「恵は、あまり暗い所は好きじゃない?」
「…うん、あのね千里。」

千里の疑問に体を揺らした恵だが、直ぐに息を吐いて視線を合わせる。

「学校に戻ったら、話しを聞いて…くれる?」
「うん。勿論。」

恵は「ありがとう」と嬉しそうに抱き付く。
僕こそ、恵と話さないと。星河の言っていた事を確認する為に。

「…でもね、その前に。」
「そうだね。」

恵の言わんとする事は分かっている。兄に閉じ込められたのに、此処で学校に帰る事は有り得ない。
千里だって。作戦を完遂しなけれな。

「じゃあ、一緒に行こうか?僕の可愛い人。」」
「…うん!」
(千里。僕の素敵な王子様。)

二人で仲良く手を繋ぎ、階段を登り出した。

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