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びば学園生活12

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夕陽に照らされて輝く銀の髪は見事の一言に尽きる。

「…シュタルト様からの心からの賛辞に、私の冷たく凍っていた心は、溶かされてしまいました。正直に申し上げますと、あまりタチの御方に心惹かれる事はありません。コション様にハレムに入れられそうなあの時、成り行きならば諦めようと思っていました。」

それなのに…。握られた手が離れ、その手がキャベンディッシュ自身の胸元に触れる。

「…此所で、もう2度と会えないのだと、他人へと戻ると思ったら、まるで心臓がわし掴まれたようだったのです。どうか、愚かなネコの戯言だとお聞き流し下さい。」

どちらかと言うと騎士団長の子息だという張り詰めた雰囲気を纏ってた。清廉で、何処か近寄りがたくて。キャベンディッシュの浮かべたのは、1人のネコとしての笑顔。年相応で、人生で初めて欲しいものを探し当てた様だった。

「お慕いしております。この想いは、生涯大事に胸にしまって生きて行きたいと思います。」

タチに対して、ネコが個人的な想いを伝えるのはマナー違反で、はしたないと言われる行為。数少ないタチが、多くのネコから自分のハレムを選び増やしていく。そこには、ネコの気持ちなどいらないのだから。
見初められ、選ばれてこそのネコが幸せとなる道標。そんな常識を投げ捨てて、みっともなく自分の想いをさらけ出す。他のネコが見たら、非難や嘲笑の的だとしても。

生涯胸にしまって…?
アルフレッドの頭に疑問符が浮かぶ。これって告白だと思ってたんだけど、何で思いを告げられて満足ですって感じなの?

この世界は間違い無く、俺に優しくて。目が合った人全員が、好意を向けてくれると思える位で。 ファビアンをハレムに入れたのは、勿論きちんと好きになったけど成り行きに近かった。
だけど目の前の彼は、俺の言葉に行動に想いを返してくれた。 ネコから選んでくれた、それは本当に難しいことだろう。

それに、その笑顔は反則だ。
チラと周囲に人が居ないのを確認する。護衛二人が見ているのは、この際諦めるとして。

「しゃがんで。」
「…?はい。」

片膝を着いて此方を見上げる相手の頬に手を添え、顔を傾けると反射的にキャベンディッシュの目が閉じられた。重ねた唇は熱くて、溶けてしまいそうだと思った。

ゆっくりと唇を離し、目線を合わせる為に自分もその場にしゃがむ。恐ろしく整った顔は、今やおろおろと困惑して子どもみたいだ。普段は騎士科の生徒の憧れの人は、アルフレッドには愛しいネコへとなっていた。

「…俺から指輪を受け取ってくれないか?勿論、正室として。」

返事は無い。それでも、涙を流して何度も頷く反応を見れば一目瞭然だ。








用事があると言ったキャベンディッシュ…エドウィンを騎士科まで見送ってから、寮へと急ぐ。向かうのはファビアンの部屋だ。
気持ちは何故か、浮気をした後のよう。いや、ハレムに入れたから浮気じゃないぞ?何だろう…前世で、彼女に女友達との意味はないスキンシップを見られてしまった時みたいだ。

何となく痛む気がする胃の辺りを撫でて、アンリへファビアンを呼ぶよう伝える。俺が勝手に部屋へ突入しても問題は無いけど、プライバシーは大事にしたい。
タチとネコは寮の部屋は階が異なり、タチは最上階。後は、ネコのクラスによって使う階層が違うのだ。

直ぐに部屋から顔を見せてくれるファビアンは、予想とは様子が違う。普段通り落ち着いては居るが、部屋の中を気にしているみたいだ。
誰か居るのか?と聞こうとすると、直ぐに本人から返事を返される。

「いらっしゃって頂いて恐縮です。実はたった今、フェルナンド様の側室が来ていまして。アルフレッド様に伝言をお伝え頂きたいそうです。」

ああ、そうか。ネコがタチへ直接伝えに来れないから、まずは俺の唯一のファビアン(正室)の所に来たのか。

「へえ?ルークが何の用だろ。」
「はい、フェルナンド様がお話しされたい事があるようで、今日の夜はどうかと。」
「…何か緊急の用なのかな。分かった、21時に部屋に行くと言っといてくれ。」

今日が良いと言われたら、緊急事態かと少し不安になる。ルークには入学してから色々と教えて貰って世話になってるし、俺も力になれるならそうしたい。 頷いたファビアンは部屋に戻っていき、ルークの側室に伝えてくれているみたいだ。

…ファビアンと話しをしようと思ったけど、時間的に微妙だな。食事をして、直ぐにルークの所に行かないと。

時を待たずにファビアンの部屋から出ていく人物は、俺を見て慌てて深々と頭を下げてから帰って行く。それを見送るファビアンが、まだ廊下に居るアルフレッドに気付き目を丸くする。

「…アルフレッド様!申し訳ありません、お待たせしていたのですね。ええと…?」
「…ああ。話しが纏まって、エドウィン・キャベンディッシュをハレムに入れることにした。第2正室になるから。よろしく頼む。指輪を贈った後に、顔合わせもすると思うから。」

何の話しかと続きを待つ相手に、事実を簡単に伝えておく。一瞬目を伏せるファビアンだが、直ぐに微笑し穏やかに頷いてくれる。

「承知致しました。キャベンディッシュ卿は人柄も抜きん出ていますし、これから共に過ごせることが楽しみです。」

あ、やっばい。これ、結構傷付けちゃったか?

本心では無く、表面上困らせないよう合わせてくれているのは理解出来た。 それをさせてしまったのは、自分だ。ハレムの子を幸せにしたいと思っていたのに駄目だろ。

「…ファビアン。」
「はい。」
「23時に俺の部屋に来てくれ。」
「…………!」
「良いか?必ずだ。」
「はい……。」

俺の言葉の真偽が分からず、此方を伺うファビアンの頬に口づけてから自分の部屋へと向かう。決めたからには、ルークには悪いが話しは早く切り上げねば。
部屋に着き、日課である護衛のジレスとアンリを労ってから帰す。素早くシャワーをしてから、簡単に食事を終えたのだった。



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