起きたら伝説の正妃様になっていた件

伯王

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合い言葉は〇〇?

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  趙老人に案内され、500年前に亡くなった正妃の墓所を守る一族の隠れ里を訪れた僕はそこで、少年少女の熱烈な歓迎を受けた。

 一通りの自己紹介を済ませた後は、この隠れ里の村長である趙老人の指示を受けて子供達の中でも年かさな子供達が別の部屋に向かい退室していなくなった。

 今僕の前にいるのは10才以下の年齢の子供達だ。男女合わせて15~18人くらいいる。

 「姫兄さま、はいこれど~ぞ」

 1人の幼女がキレイな野の花を摘んで来て僕にプレゼントしてくれた。

 「わぁーキレイな花だね。 ありがとう」

 僕は、男が花をもらってもなぁーと、思いながら小さな子供が一生懸命に摘んでくれた物を無下にもできず、笑顔を顔に張り付けながらうけとった。

  それを見ていた他の子供達が、我も我もと花やツルツルピカピカの小石、蜥蜴、虫の脱け殻、蛇の脱け殻などを僕にプレゼントしてくれた。

 前半のプレゼントは女の子達、後半のプレゼントは、男の子達のプレゼントだ。
 男の子達のプレゼントは、生物や脱け殻が多いなーーー。

 
 子供達としばらく戯れる僕。

 それを趙老人が好々爺然と少し輪から離れた位置で見ている。
 たまに目尻に浮かぶ透明な物を袖口で拭いながら、いつの間に淹れたのかお茶をすすっている。 
 日中の縁側で飼い猫と日向ぼっこしている老人の姿が重なるような和やかな雰囲気だ。


元気な子供達と戯れていると僕の体が声を発した。


 ぐーーー。

 腹の声。
 空腹の合図だ。

 その音にいち早く反応したのは、趙老人だった。

 「おーー。正妃さ、ゴホン。 月狐様、食事の用意をさせておりますのでもうしばらくお待ち下さい」

 僕の事を正妃と呼びかけたと言うか呼んだよねー完全に・・・・まぁー、言い直したし名前呼びには徐々に慣れてもらおう。

 それよりご飯だ。

 日本では最期の数ヵ月間は、流動食。
 最期の数日間は、点滴だった。

 この世界(500年前)では、異母兄との晩酌中に襲撃を受けて酒しか口にしていない、目の前に酒のさかな兼、僕の晩御飯が在ったのに・・。

 因みに異母兄はお酒をとにかくかっ食らう人だった。

 「俺の飯は、酒だ!!」

 とは、異母兄の言だ。

 ご飯だーーー。 やっとまともなご飯!

 この世界も米が主食だ。もちろん味噌や醤油もある。

 よくやった、異世界の料理人達!!

 しばらくすると自己紹介の後に部屋から出て行った少年少女達が帰ってきた。
 その手には色とりどりの料理が盛り付けられた膳を持っている。

 膳を持っていない子達は、水差しやたぶんお酒の入っているであろう小さな木で作られた樽を持っている。

 部屋に入って来てからテキパキと食事の用意が整えられる。

 じーーーーーー。(複数の視線)

 食事の用意が出来て趙老人に席を進められた。

 食べにくい。

 僕の前には、美味しそうな料理の数々。
僕の前に・・僕の前だけに。

 「みんなはご飯は食べたの?」

 僕の回りに集まって並べられた料理を凝視している小さな子供達に話しかける。

 「まだだよ」

 最初僕に野の花をくれた幼女が首を横に振りながら答える。

 「じゃー皆で一緒に食べようか」

 「えっ?」

 幼女他、幼い子供達が嬉しそうな顔を一瞬浮かべて『バッ 』と趙老人を振り返る。

 趙老人は首を横にふる。

 それを見た幼い子供達が悲しそうな顔をして項垂れる。

 「?」

 僕は首をかしげる。

 「月狐様、儂らの事は気になさらずお召し上がり下さい」

 と、趙老人が言う。

 じーーーーーー。

 そんな事を言っても、皆の視線が気になるよー。

 「子供達もお腹をすかせているようですし、皆で一緒に食べましょう。 ねっ?」

 趙老人はちょっと考えた後わかりましたと、皆の食事を用意するように年長の子供達に指示をだす。

 すぐに皆での食事の用意が整えられる。

 「え?」

 子供達と趙老人の前に出された食事の少なさに僕は驚く。

ご飯は、器の1/3 しか入っていないし、おかずはシシャモ並みに小さい小魚と蕪の漬物2枚、汁ものは気持ち少し濁る程度に味噌が溶かされている野草が入ったほぼ水汁。味噌汁ではなく水汁。

 僕の前に置かれている料理との差。

 僕は趙老人に質問する。

 「この村では、この食事(貧食)が普通ですか?」

 「大人の男の働き手がいなくなったので少し困窮しておりますが、決してこの村が貧しい訳ではなく。 
 女達が買出しから帰ってきたらもう少しまともになるかと・・・・」


 趙老人に聞くまでもなかった。
自分を殴りたい。

 村の大切な働き手がほぼ全滅して、村を維持できる筈がないのに。村に入った時点で子供しかいないとわかった時点で気付くべきだった。

 趙老人によると街に出稼ぎに出ている者達と買出しに出ている者達で大人も結構生きているらしい。

 しかし、村の畑や家畜の世話などに手が回らないのが現状だとか。

 「わかった。 僕も手伝う」

 僕の一声に慌てる趙老人。

 「そんな月孤様に野良仕事なぞさせられません。 儂らは、月孤様の従者なのですから雑務は、儂らが・・・」

 趙老人の言葉に僕は反論する。

 「僕は従者など要らぬ。 僕は、正妃と呼ばれていた英雄の弟は500年前に亡くなったのだ。 
 ここにいるのは月孤、只の月孤だ」

 この世界で僕の出自を知るのはこの隠れ里の者だけだ。

 僕は普通の一般人としてこの世界を生きたいのだ。
 僕の夢は可愛い嫁さんを貰って寿命で死ぬ事だ。
 神様に自分のために生きると約束したし。

僕の気持ちを趙老人に伝える。

 「・・・・・・わかりました」

 渋々ながら首肯く趙老人。

 「だから僕はこの隠れ里の主でも客でもなく一員だ。 
 だからこの豪華なご飯は皆で食べよう!!」
 
 「「「ほんと?     やったーーーー!!」」」

 小さい子ども達が最初に歓びの声をあげた。
年長の少年少女達も嬉しそうな顔をしている。



   皆で美味しく晩御飯を頂きました。

 
 
 その晩は、お腹一杯ご飯を食べて皆で布団を村長宅の一番広い部屋に運んで1つの部屋で眠る事にした。

 ふだんは、日が暮れたら明かり取りの油や蝋燭・薪の節約のため、早めに寝る子供達が煌々と輝く光のもと今だに元気におしゃべりしている。
 光源は、正妃の墓所から持ってきた。石だ。

 話題は自分達の父や兄、隠れ里の男達の武勇伝。
 敵は、この世界で一番大きな国の屈強な兵、数も武器の質も段違い。

 それでも隠れ里の男達は立ち向かう、『勇気』と言うこの世界のどんな国の兵にも負けない武器を持って。

 子供達の話しに出てくる男達は、ふだんは妻の尻に敷かれる娘に甘く息子にちょっと厳しい父だったり、街に買出しに行った時に飯屋の看板娘に一目惚れしてけれど告白する勇気がなくて、コッソリ飯屋に通いつめただ娘を見つめるストーカー予備軍青年や体を鍛えるのが好きなMッケのある筋肉中年、若い者に対抗意識過剰な初老の男達だった。

 隠れ里に住んでいるだけでごく普通の人達 が、
命をかけて戦った。

 子供達は誇らしそうに語る。

 僕の目からはいつの間にか涙が溢れていた。

 男達の武勇伝。

 そもそも彼ら隠れ里の住民は、隠れ里とは別にある表向きに用意された村に住んでいて、この里は緊急時の避難場や体を鍛える為の修練場の意味合いがあったらしい。

 突然襲ってきた兵に村は攻め滅ぼされて、辛うじて子供達を隠れ里に避難させた後、自分達(男達)は正妃の墓所に立て籠り最期まで戦った戦士達。

 「姫兄さまどうして泣いているの?」

 僕の布団の横に引かれている布団の上の幼女が質問してきた。

 ここで男達に同情してとか憐れに思うことは失礼だ。

 だから僕は、幼女にこう言った。

   「ありがとうて、精一杯生きて戦って生きてくれてありがとうて思ったら涙が出てきた。
 君達の父や兄や叔父さん達は凄いな」

 「うん! 自慢の父ちゃんだよ。 デヘヘ」

 幼女は嬉しそうに笑う。

 彼らは決して悲しくない訳じゃない、でもそれよりも誇り高く戦った彼らを忘れない事をそれが・・忘れない事が大事だと知っているんだ。

 「正妃さまはねー。 わたしたちのご先祖さまの恩人なんだってだからわたしたちは恩を返すんだよ。 ネェーみんなそうだよねー」

 幼女は皆に問いかける。

 「「「            うん            」」」

 皆も同意した。

 幼女はみんなの同意に首肯くと右手を握り天に突きだし叫ぶ。


    「筋肉は、最高!!!」

 皆もつづく。

    「「「      筋肉最高!!!      」」」


 「え?」

  突然の筋肉最高発言に驚く僕。

 でもこのセリフ聞いたことがある。

 このセリフは、異母兄の元に集まった豪傑の一人の言葉だ。
 熊の如き容姿のその男は、根は優しくて力持ちを地でゆく男で奴隷だったところを解放した事に感謝して異母兄に忠義を誓った男だった。

 確かその男は、同じく奴隷になっていた幼馴染の女性と結婚していたな。

 そうか、この隠れ里の住民は彼の子孫の住んでる処か。

 みんなの言葉の掛け合いは続く。

 「「「「   筋肉は、最高!!   」」」」

 筋肉バカの総本山?


 「プッ。 アハハハハハッ。 イヒヒヒヒッ」

 何だかんださっきとは違う涙が出てきた。
笑い過ぎて腹が痛い。

 時は、流れても変わらない物がある。

 この隠れ里の住民に負けないように僕も一生懸命頑張ろう。
 
 死なないように ・・・・



 夜が明けて次の日。

僕は、宣言通り隠れ里の一員として朝食に使う予定の卵を採取する任務に着くことになった。
 
  正に働かざるもの食うベからずである。


 「しーぬー死ぬーヤバイって本気と書いてマジでと言うくらいーーーー」


  拝啓  神様・異母兄さま、そして地球の兄さん

 僕早くも生命の危機です。


 原因は、鶏です。


 コケコッコーーー!
 
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