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第4話 強気な王子、動揺する
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「殿下、次の宴の準備がすでに始まっておりますが……」
エデンの側近である近衛騎士のイーサン・ナイツが、控えめに声をかける。王子は重々しく頷きながらも、どこか上の空だ。
「……ああ、分かっている」
エデンは書類に目を落としたまま、時々ため息をつくように視線を彷徨わせる。イーサンはそんな王子の様子に違和感を覚え、そっと問いかける。
「殿下、何かお悩みでも……?」
「別に」
そっけない返答だったが、その横顔にはどことなく焦りが浮かんでいるように見える。イーサンは長く王子のそばに仕えてきたからこそ、その微妙な変化に気づくのだ。
「(エデン殿下が、こんなに落ち着かない様子を見せるなんて珍しい……)」
イーサンは気にかかるが、下手に掘り下げるのも憚られた。
一方、エデンの胸中では、つい先日バルコニーで顔を合わせたリオンの姿がちらついていた。あの内気そうな青年が、意外にも自分に話しかけてきたことが妙に印象に残っている。
「……なんで、あんなに俺に……」
エデンは自問しては首を振る。王族として、慣れない人間からの積極的な接近は不快なはずだった。にもかかわらず、リオンの真っ直ぐな瞳が頭を離れない。
「殿下?」
イーサンが声をかけると、エデンは書類を放り出すように机に置き、椅子から立ち上がった。
「ちょっと外の空気を吸ってくる」
イーサンは慌てて後を追いかける。
「殿下、わたしもお供します!」
エデンは宮廷の廊下を早足で進み、どこか落ち着きのない様子。いつもは威風堂々としている王子とは思えない姿だ。やがて、中庭へ続く扉を開け放ち、外へ出る。
「ふう……」
夜風が吹き抜ける庭園。エデンはその場で立ち止まり、ひとつ深呼吸する。イーサンは少し離れたところで控えめに佇む。
「イーサン、お前は……仮にだが、誰かに真っ直ぐ想いをぶつけられたら、どう思う?」
突然の問いかけに、イーサンは一瞬言葉を失う。しかし真面目な性格ゆえ、正直に考えた上で答えを返す。
「……戸惑う、かもしれません。ですが、相手によっては……素直に嬉しいと感じることもあると思います」
エデンはその言葉に少しだけ目を伏せる。
「嬉しい、か。俺はそんな感情、どう処理すればいいのか分からない」
イーサンは心配そうにエデンの表情をうかがう。
「殿下は、王家の責務や周囲の期待で常に縛られておられます。でも、もし誰かが殿下を真剣に思うなら……」
そこまで言ったところで、エデンは手を軽く振り、イーサンの言葉を遮った。
「もういい。お前の言うことは分かった」
自分でも何を悩んでいるのか、エデンははっきりと言葉にできない。ただ一つ確かなのは、あのリオン・クレイドという青年を思い出すと、胸の奥が妙に落ち着かなくなるということ。
(……あいつ、本当にただの内気な男爵家の坊っちゃんか?)
そんな疑問を抱きながら、エデンは夜風を感じ続ける。イーサンは王子の背を見つめ、何も言わずにただ黙って仕えていた。
エデンの側近である近衛騎士のイーサン・ナイツが、控えめに声をかける。王子は重々しく頷きながらも、どこか上の空だ。
「……ああ、分かっている」
エデンは書類に目を落としたまま、時々ため息をつくように視線を彷徨わせる。イーサンはそんな王子の様子に違和感を覚え、そっと問いかける。
「殿下、何かお悩みでも……?」
「別に」
そっけない返答だったが、その横顔にはどことなく焦りが浮かんでいるように見える。イーサンは長く王子のそばに仕えてきたからこそ、その微妙な変化に気づくのだ。
「(エデン殿下が、こんなに落ち着かない様子を見せるなんて珍しい……)」
イーサンは気にかかるが、下手に掘り下げるのも憚られた。
一方、エデンの胸中では、つい先日バルコニーで顔を合わせたリオンの姿がちらついていた。あの内気そうな青年が、意外にも自分に話しかけてきたことが妙に印象に残っている。
「……なんで、あんなに俺に……」
エデンは自問しては首を振る。王族として、慣れない人間からの積極的な接近は不快なはずだった。にもかかわらず、リオンの真っ直ぐな瞳が頭を離れない。
「殿下?」
イーサンが声をかけると、エデンは書類を放り出すように机に置き、椅子から立ち上がった。
「ちょっと外の空気を吸ってくる」
イーサンは慌てて後を追いかける。
「殿下、わたしもお供します!」
エデンは宮廷の廊下を早足で進み、どこか落ち着きのない様子。いつもは威風堂々としている王子とは思えない姿だ。やがて、中庭へ続く扉を開け放ち、外へ出る。
「ふう……」
夜風が吹き抜ける庭園。エデンはその場で立ち止まり、ひとつ深呼吸する。イーサンは少し離れたところで控えめに佇む。
「イーサン、お前は……仮にだが、誰かに真っ直ぐ想いをぶつけられたら、どう思う?」
突然の問いかけに、イーサンは一瞬言葉を失う。しかし真面目な性格ゆえ、正直に考えた上で答えを返す。
「……戸惑う、かもしれません。ですが、相手によっては……素直に嬉しいと感じることもあると思います」
エデンはその言葉に少しだけ目を伏せる。
「嬉しい、か。俺はそんな感情、どう処理すればいいのか分からない」
イーサンは心配そうにエデンの表情をうかがう。
「殿下は、王家の責務や周囲の期待で常に縛られておられます。でも、もし誰かが殿下を真剣に思うなら……」
そこまで言ったところで、エデンは手を軽く振り、イーサンの言葉を遮った。
「もういい。お前の言うことは分かった」
自分でも何を悩んでいるのか、エデンははっきりと言葉にできない。ただ一つ確かなのは、あのリオン・クレイドという青年を思い出すと、胸の奥が妙に落ち着かなくなるということ。
(……あいつ、本当にただの内気な男爵家の坊っちゃんか?)
そんな疑問を抱きながら、エデンは夜風を感じ続ける。イーサンは王子の背を見つめ、何も言わずにただ黙って仕えていた。
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