【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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調査と広がる噂

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クライヴがシャーベット家を訪れた翌日。アリスは少しだけ落ち着かない様子で、庭園のテラスに腰掛けていた。  
いつもなら「ふぁ……」と気の抜けた息を漏らすところだが、今日は妙に神経が研ぎ澄まされている。なぜなら、クライヴが「もう一度話がしたい」と再訪を予告しているからだ。

「……うーん、どうしよう。わたし、あんまり深く考えてなかったけど……」

考え事をしていると、華やかな足音が聞こえた。すぐにわかる。友人のフローレンス・ローベルがやってきたのだ。  
アリスは椅子を立ち上がり、フローレンスを迎える。

「フローレンス、こんにちは」

「やあ、アリス。あなたが気にしてそうだから、ちょっと調査してきたわよ」

フローレンスはにこりと笑って言う。「調査」とは一体何だろう。アリスが首をかしげると、フローレンスは鼻歌でも口ずさむかのような軽い調子で話し始めた。

「クライヴさまの最近の様子を、いろいろ聞き回ってみたの。実は私、ローベル家の人脈を使って、公爵家の周辺に知り合いがいっぱいいるから」

「あ……なるほど」

「そしたらね、クライヴさまったら、アリスのことを聞かれると困った顔をするくせに、『あの子とはもう終わったはずだ』みたいに言いながらも、いつも言葉を濁すんですって。かなり複雑な気持ちを抱えてるみたい」

アリスはフローレンスの言葉を静かに聞いている。クライヴが戸惑っているのは、彼が屋敷に来た時の態度からも何となくわかったが、フローレンスがそこまで動いてくれているとは思わなかった。  
フローレンスはさらに続ける。

「それにね、クライヴさまは最近、ほかの令嬢からのアプローチを全部スルーしてるって。夜会でも一切踊らなかったり、『僕に結婚の話は不要だ』みたいな態度を取ったりしてるみたい」

「そうなんですか……」

「おかしいと思わない? 公爵家の次男で、普通なら縁談はいくらでもあるはずなのに、全部断ってるらしいわ」

アリスはフローレンスの言葉を噛み締める。クライヴは、一度は婚約破棄を告げてきたくせに、なぜ今さら自分の周囲を閉ざすような態度を取っているのか。  
考えてみても答えは出ない。アリスはふと、クライヴが言った「君と改めて話がしたい」という言葉を思い出す。あのときの彼は、確かに真剣だった。自分の中にある葛藤をさらけ出そうとしていたようにも見えた。

「……クライヴさまは、本当にわたしともう一度向き合う気があるんでしょうか」

「そうみたいよ。噂じゃ『破棄したものの、気になってしょうがない』ってさ。まったく、当人が一番落ち込んでるんじゃないかしら」

フローレンスは楽しげに微笑むが、アリスの表情はどこか曇っている。エリックとの板挟み状態や周囲の求婚騒ぎもあり、頭がごちゃごちゃしているのだ。

「ねえ、アリス。あなたはどうしたいの? 流されちゃダメよ。自分の意見をはっきりさせないと、また変な誤解を招くわ」

「わたしは……クライヴさまがイヤとかじゃないんです。ただ、寝るのが嫌いだから……結婚ってピンとこないんですよね」

「またそれ? もう少し別の角度から考えなさいよ」

フローレンスは呆れながらも、その奥底にあるアリスの本心を読み取ろうとする。結婚がどうとか以前に、アリスは“自分にとって本当の幸せ”をまだ見つけていない。それが「寝るの嫌い」という独特のこだわりにも繋がっているのではないか――フローレンスは薄々感じている。

「やっぱり子どものころの何かが関係してるの? 眠りに対して嫌な思い出とか、そういうのがあるんじゃないの?」

「え……わたし、そんなこと言ってましたっけ」

「昔から急に『寝るの嫌い』って言い出したじゃない。きっかけが何かあったのかなって思って」

アリスは少しだけ沈黙する。その瞳がいつも以上にぼんやりして見えるのは、単に眠そうなだけではない。何かを思い出しかけているのだ。  
だが、記憶は曖昧で、言葉にするには難しい。結局アリスは曖昧な笑みを浮かべる。

「わたしにも、よくわかりません。でも、ひとつ言えるのは……寝るより起きてるほうがいいんです。そうしてると、現実がはっきり見えるから」

「ふうん……まあ、無理に聞き出すつもりはないわ。でも、クライヴさまがまた訪ねてくるなら、それを機に色々話してみてもいいんじゃない?」

「話してみる……そうですね、そうしてみます」

アリスは小さく頷く。フローレンスは「それでよし」と言わんばかりに満足げな表情を浮かべ、手鏡を取り出して自分の髪を整える。  
一方で、アリスの心はまだ定まらない。クライヴが何を考えているのか、エリックがどう思っているのか。ましてやディーンやほかの貴族たちも、まだアリスを諦めていないかもしれない。  
騒ぎは広がるばかりだが、その渦中でアリスは自分の本音を見つけられずにいる。フローレンスの“調査”によって、クライヴの動向はある程度わかったものの、それが解決策になるわけではない。

「ちなみに、ディーンという子爵様がまた手紙を送ってきたんでしょう? どうするの?」

「また来ました。熱い内容でした。……『シャーベット家を支え、あなたと築く未来を』って」

「ふふ、それもまた厄介ね。どんどんアリスの周りが賑やかになるわ。……まあ、退屈しなくていいじゃない?」

アリスは苦笑しながら、「寝るのが嫌いで退屈しないのは助かるかもしれない」と呟く。フローレンスは「あなたらしいわね」と笑い合うが、その笑みの裏には一抹の不安がよぎる。  
このままアリスがふわふわと流されていると、誰かにかっさらわれるか、あるいは大きなトラブルに巻き込まれるかもしれない。フローレンスは微妙な予感を抱えつつも、アリスを見守ることしかできなかった。

――そして、この日もアリスは早めにベッドに入ることはしない。部屋でお茶を飲みながら、もう少しだけ夜更かしを楽しむつもりだ。そんな彼女の明日は、さらに賑やかになりそうだ――
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