【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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そして翌日。王宮主催の舞踏会当日。シャーベット家の馬車は、アリス・エリック・フローレンス(お友達として同乗)を乗せて、朝早くから王都中心部へ向かった。  
昼過ぎからの開催とはいえ、準備やリハーサルもあるため、早めに着いておくのが通例だ。アリスはきらびやかなドレスを纏い、フローレンスは赤を基調としたゴージャスなドレス。二人は馬車の中で最終的な化粧や髪型を整えつつ、エリックは護衛として厳かに立っている。

「ふぁ……舞踏会って、夜のイメージだったけど、昼間から始まるとまた雰囲気が違いそうですね」

アリスは車窓の外を見ながらぼんやり呟く。夜にイベントが多い社交界だが、王宮が主催するものは昼から夕方にかけて式典が行われ、夜にかけては舞踏や祝宴が続くスタイルだ。

「そうよ。初めに王族のお言葉があって、それから音楽隊の演奏、昼食に近い軽い食事が出て、夕方には本格的なダンスタイムって感じ。アリス、がんばりなさいよ?」

「はい……。クライヴさまもいるだろうし、エリックも護衛してくれるし。がんばります」

フローレンスはあざとい笑みを浮かべ、エリックは黙って頷く。馬車が王宮の敷地に近づくと、すでに多くの車両や騎士たちが出入りしており、壮観な景色が広がる。  
王宮の門をくぐり、立派な噴水のある中庭を進むと、豪奢な建物の正面に赤いカーペットが敷かれ、次々と貴族たちが降り立っている。アリスはそわそわした気分になりながら、馬車の停車を待った。

「到着しました」

御者の声で扉が開かれ、エリックが先に降りてアリスを手でエスコートする。フローレンスも華やかに後に続く。周囲の視線が彼女たちに集まり、どこかで「お、シャーベット家のアリス嬢だ」と囁かれている。

「……うわあ、やっぱり注目されてる」

アリスは小声で呟く。フローレンスが「堂々として」と言い、エリックが「俺がいるから大丈夫だ」と小さく告げる。アリスは深呼吸をして背筋を伸ばす。

「はい……行きましょう」

こうして三人は入口の受付へと向かう。名札や招待状を確認し、案内係に導かれるまま広いホールへ足を踏み入れると、すでに多くの貴族や関係者が集まっている。美しいシャンデリアが昼の太陽光と相まって眩い輝きを放ち、床には高価そうな絨毯が敷き詰められている。  
人々は華やかなドレスや正装を纏い、あちこちで会話を楽しんでいる。王宮の衛兵も警戒に目を光らせ、厳かな空気と社交界特有の浮ついた雰囲気が混ざり合って独特の世界が広がる。

「わあ……すごい」

アリスは改めて場の華やかさに圧倒される。フローレンスは「この程度、慣れればどうってことないわよ」と涼しげだ。エリックは護衛のため、アリスの近くから離れず、周囲を警戒する。  
さっそくフローレンスが「他の友人を探してくる」と言い残して姿を消し、アリスとエリックは二人きりの行動に。アリスが少し落ち着かない様子で辺りを見回すと、遠くのほうで銀髪の青年――クライヴがこちらを見つけたようで、軽く手を挙げて合図してきた。

「……クライヴさま、来てますね。うん、よかった」

アリスはエリックと目を合わせ、「行こうか」と互いに頷く。クライヴのもとへ向かおうと歩き出すが、途中でちょっとした人混みに引っかかり、なかなか前に進めない。

「ふぁ……意外と人が多い。すみません、通ります」

「失礼します」

エリックが先に声をかけ、アリスを守る形で人々の間を抜けていく。その間にも「あれがシャーベット家の……」などという囁きが聞こえ、アリスは改めて注目の的になっていると実感する。  
ようやくクライヴに近づくと、彼の隣には兄のギルバートがいた。二人は並んでアリスを迎え、ギルバートが先に口を開く。

「アリス嬢、お久しぶりですね。今回の舞踏会にいらっしゃるとは、嬉しい限りだ。……身体のほうは大丈夫か?」

「はい、ご心配ありがとうございます、ギルバートさま。すっかり元気です」

アリスは丁寧に挨拶し、続いてクライヴと目を合わせる。彼は心配そうに表情をやわらげ、「来てくれてよかった」と小さく呟く。

「アリス、昨日まで体調が優れないと聞いていたから……無理をしていないか?」

「大丈夫です。……クライヴさまこそ、お元気そうで安心しました」

ややぎこちなく微笑み合う二人。その様子を見てギルバートは「じゃあ、僕は別の方々に挨拶してくるよ」と席を外し、エリックも一応距離を取って立ち位置を後ろにずらす。  
こうしてクライヴとアリスが二人きりの会話ができる状況となる。周りには多くの貴族がいるが、直接耳を傾けるほど近くには寄っていない。

「アリス、君がここまでの気力を見せるとは思わなかった。……嬉しい驚きだ」

「ふぁ……そうですか? 寝るの嫌いなわたしも、たまにはしっかり寝て体調を整えるんです。今回の舞踏会でちゃんと意思を示したくて」

「意思……?」

クライヴは首をかしげる。アリスは恥ずかしそうに目を伏せるが、決心して話を続ける。

「わたし、ディーンさまのことや、再婚約の噂のこと……いろいろ混乱していたけど、もう少しはっきり断ろうと思うんです。クライヴさまにも、きちんと……」

「え……俺に?」

アリスは言葉を選びながら、しかし勢いで言ってしまう。

「……わたし、クライヴさまとの婚約がどうなるかはまだ分かりません。だけど、わたしはクライヴさまを嫌いじゃないし、むしろもっと知りたいと思ってます。そこを誤解されるくらいなら、もう少し勇気を出して、周囲に言い返してみようと思って」

クライヴは目を見開き、ほんの少し頬を染める。そして、破棄を申し出た以前の自分を思い返して複雑な感情に襲われる。今はそんな事情もひっくるめて、アリスが「嫌いじゃない」と言ってくれたのが本当に嬉しかった。

「アリス……ありがとう。俺のほうも、君を知りたいし、理解したい。……だから、焦らず少しずつで構わない。舞踏会では俺にできることがあれば何でも言ってくれ」

「はい。……よろしくお願いします」

二人は軽く微笑み合う。周囲の人目を考えれば、これだけ近距離で会話するのは目立ちそうだが、もはやアリスは気にしていられない。クライヴに“好き”と明言したわけではないが、「もっと知りたい」という表現だけでも、彼女にとっては大きな一歩だ。

(やっぱり、クライヴさまに会えてよかった……。わたし、寝るのは嫌いだけど、今日はがんばって長い舞踏会を乗り切るぞ)

アリスは内心で再度奮起し、クライヴに微笑みを向ける。そんな二人のやり取りを、エリックは距離を置きながら見つめ、いつものように胸の奥に複雑な感情を抱えていた。  
こうして、昼間の舞踏会が正式に始まった。王族のスピーチ、音楽隊の演奏、そして貴族たちが一斉に会場を動き回る華やかな空気――アリスたちがどんなドラマを紡いでいくのか、まだ幕は開いたばかりだ。
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