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そして迎えた夜会当日――といっても、正式な夜会ではなく“秘密の深夜茶会”に近い形。アリスが提案し、父グラントが条件付きで許可し、エリックが護衛として段取りを組む。そしてフローレンスが証人兼おしゃべり仲間として参加する。
時刻は深夜0時頃。シャーベット家の裏口からクライヴがこっそり入る手はずになっている。人目を避けるため、馬車は使わず、クライヴは公爵家から一人で徒歩か軽装馬を隠してくるらしい。
アリスはキッチンで侍女とともに準備をしながら、「本当にクライヴさま、来るのかな……」とソワソワしていた。寝るのが嫌いな体質ゆえに深夜は自然に目が冴えるが、今日ばかりは緊張で胸が高鳴る。
「ふぁ……わたし、こんなにドキドキして夜更かしするの初めて。クッキーの材料は万全だけど、クライヴさまが引かなければいいな」
「お嬢様、きっと大丈夫ですよ。エリック様も来られますし、フローレンス様も二人きりにならぬよう動いてくれますし」
侍女が励ましてくれる。アリスは頷いて「よし、落ち着こう」と言い聞かせる。今日はレモンピール入りのクッキーと、チョコチップにスパイスを混ぜた“大人味”の二種類を用意する予定だ。
少し経つと、シャーベット家の裏口でエリックがクライヴを出迎えたという報告が入り、まもなく二人がキッチンへやってくる。アリスはエプロン姿で待ち受ける形になり、思わず自分の姿が恥ずかしくなる。
「お、お待ちしてます……ふぁ……」
いつものあくびまじりの声が出てしまうが、クライヴはそれを見て笑みを浮かべる。
「やあ、アリス。こんな時間に呼ばれて驚いたけど、無事に来られたよ。まさか夜中のシャーベット家に入る日が来るとは……」
「クライヴさま、本当に……ありがとうございます。寝るの嫌いなわたしを笑わないでくださいね」
アリスは赤面しながら頭を下げる。クライヴは「もちろん」と優しく返す。エリックは少し距離を置いて立ち、まるでボディガードのように腕を組んでいる。
続いてフローレンスがキッチンへやってきて、「わあ、クライヴさま、本当に来たのね!」とあざとい笑顔を振りまく。クライヴは苦笑しながら「ローベル嬢も一緒とは」と呟くが、証人がいることに安堵もしているようだ。
「さあ、眠らない夜のクッキー作り、始めましょうか? わたし、レモンピール入りのやつに挑戦するんです。クライヴさまも一緒にやってみませんか?」
アリスが笑顔で手を差し伸べ、クライヴはエプロンを受け取る。エリックは相変わらず無表情だが、必要があれば手伝うつもりだ。フローレンスはあくまで見学メインだが、「途中で飽きたら手伝うかも」とニヤニヤしている。
かくして、異例の深夜キッチンが稼働し始める。アリスはチョコチップ入りの生地、クライヴはレモンピール入りの生地を担当して混ぜ込む。フローレンスが冷蔵庫の時間を計り、エリックが粉をふるう手伝いをする――何とも不思議な光景だ。
「ふぁ……いつもエリックと二人でやってるんですけど、人数が多いと早いですね。クライヴさま、混ぜるの上手いです」
「そうかな? 初めてだよ、こんな時間にお菓子作りなんて。……意外と楽しい」
クライヴは照れくさそうに笑い、エプロン姿が似合わないと自嘲気味に言うが、アリスには妙にかっこよく見えてしまう。フローレンスが「こりゃあアリス、惚れ直しね」と囁いてくるのを、耳を真っ赤にして無視する。
エリックは淡々と作業を進めつつ、アリスとクライヴのやりとりを見守る。夜に集まるこの光景を、どう判断すべきか迷っているが、護衛としても友人としてもアリスが楽しそうなので口出しはしない。
---
やがて生地を冷蔵庫に入れて寝かせる待ち時間がきて、アリスたちはキッチンのテーブルで小休止。フローレンスが「あとは焼くだけねー」とダルそうに言い、クライヴは「そうか、もう一度冷やすんだな」と頷く。
「ふぁ……夜のキッチンでこうしてみんなで待ってるの、すごく不思議な感じ。……クライヴさま、眠くないですか?」
アリスが心配そうに尋ねると、クライヴは軽く首を振る。
「いや、逆に興奮して眠れそうにない。元々夜更かしは嫌いじゃないからね。兄上には“少し遅く帰る”と言ったが、こんな深夜までいるとは言えなかったな」
エリックは「公爵家の次男がこんなことしてるってバレたら大問題だな」と呟き、フローレンスは「大問題だからこそ刺激的で楽しいのよ」と笑う。
アリスは胸を撫で下ろしながら、「みんなに秘密にしてごめんなさい」と頭を下げる。でも、クライヴが「構わないよ、楽しければ」と言ってくれるのが何より救いだ。
(寝るの嫌いなわたしでも、こんな夜なら夢中になれる。クライヴさまとエリックとフローレンスがそばにいてくれるなら、怖い夢も見ないかも……)
しばらく休憩したあと、生地を取り出して型抜き作業に入る。アリスは慣れた手つきでハートや星、丸形を次々と抜いていく。一方クライヴは少しぎこちないが、集中力を発揮して形を整えている。
フローレンスは見学だけでは飽き足らず、「私もやるわ」と型を持ち、奇妙な形を作って「これクライヴさまへの特製クッキーよー」などと茶化す。エリックが「ぶっといハートとか、どんなセンスだ」と呆れるが、当人は楽しそうだ。
「ふぁ……こんなににぎやかな夜のキッチン、初めてかも。ディーンさまの夜襲なんて暗いイベントじゃなくて、もっと平和な夜を過ごしたかったんですよね」
「今は平和でよかったな。まさか俺がシャーベット家の深夜キッチンに立つなんて想像もしなかった」
クライヴがエプロン姿で生地をこねる姿は、本当に非日常だ。フローレンスは「写真に収めたい」と言わんばかりに手を叩いて盛り上がる。エリックは黙々と作業を手伝いつつ、心中でアリスへの複雑な感情を抑え込んでいる。
(アリスが望むなら、俺はそれを守る。クライヴが誠実に参加しているなら……まあ、良いだろう)
---
やがてオーブンにクッキーを投入し、しばし待つ時間が訪れる。アリスは椅子に腰掛け、少し汗ばんだ額をハンカチで拭う。普段夜にクッキーを作ってもここまで賑やかではないので、心地よい疲労を感じている。
「ふぁ……寝るの嫌いなわたしが言うのも変ですけど、ちょっと眠くなりそう。なんだかんだで深夜は疲れますね」
「仮眠をとるなら、俺が焼き上がりを見張っててもいいが?」とエリックが提案するが、アリスは「大丈夫、最後までがんばりたいです!」と拒否する。クライヴも同意して「これを完成させたい」と笑う。
フローレンスは「楽しそうでなにより。あと十分くらいで焼きあがるわよ」と声をかけ、みんなで再度チェック。オーブンの中から美味しそうな香りが漂い始める。
「わあ……クライヴさまのレモンピール入り、きっとさわやかな味になってますね。エリックはそろそろ焦げないか見てくれませんか?」
「分かった。温度計を確認しよう」
それぞれが役割分担をこなすなか、アリスはふとクライヴを見て微笑む。彼もアリスを見つめ、「ありがとう、こんな時間に呼んでくれて」と小さく囁く。フローレンスとエリックに気づかれないように控えめに。
アリスは心が温かくなるのを感じる。夜という特別な時間を共有できたことで、クライヴとの距離がぐっと近づいた気がする。一方でエリックの姿も視界に入っていて、胸がチクリと痛む。それでも、今はみんなで過ごす“寝るのが嫌いな夜”が心地よい。
「よし、そろそろ焼き上がり……。クライヴさま、どうぞ見てみてください!」
呼びかけに応じてオーブンを開けたクライヴが「おお……すごい」と声を上げる。焼きたての香りと、こんがりとした黄金色――アリスやエリック、フローレンスがそれぞれ笑顔で覗き込む。
こうして、念願の夜更かしクッキー作りが完成した。アリスは熱々のクッキーを皿に並べ、少し冷めるのを待つ。深夜にも関わらず、まるで小さなパーティーのようにキッチンが華やぐ。
(ふぁ……なんだか夢みたいだけど、寝るのは嫌い。起きてよかった……)
アリスは胸中でそう呟き、クライヴと視線を合わせる。エリックとフローレンスが作ったクッキーも混在するが、今はそれを含めて夜を満喫するしかない――苦いか甘いかは、これから味わうのだ。
時刻は深夜0時頃。シャーベット家の裏口からクライヴがこっそり入る手はずになっている。人目を避けるため、馬車は使わず、クライヴは公爵家から一人で徒歩か軽装馬を隠してくるらしい。
アリスはキッチンで侍女とともに準備をしながら、「本当にクライヴさま、来るのかな……」とソワソワしていた。寝るのが嫌いな体質ゆえに深夜は自然に目が冴えるが、今日ばかりは緊張で胸が高鳴る。
「ふぁ……わたし、こんなにドキドキして夜更かしするの初めて。クッキーの材料は万全だけど、クライヴさまが引かなければいいな」
「お嬢様、きっと大丈夫ですよ。エリック様も来られますし、フローレンス様も二人きりにならぬよう動いてくれますし」
侍女が励ましてくれる。アリスは頷いて「よし、落ち着こう」と言い聞かせる。今日はレモンピール入りのクッキーと、チョコチップにスパイスを混ぜた“大人味”の二種類を用意する予定だ。
少し経つと、シャーベット家の裏口でエリックがクライヴを出迎えたという報告が入り、まもなく二人がキッチンへやってくる。アリスはエプロン姿で待ち受ける形になり、思わず自分の姿が恥ずかしくなる。
「お、お待ちしてます……ふぁ……」
いつものあくびまじりの声が出てしまうが、クライヴはそれを見て笑みを浮かべる。
「やあ、アリス。こんな時間に呼ばれて驚いたけど、無事に来られたよ。まさか夜中のシャーベット家に入る日が来るとは……」
「クライヴさま、本当に……ありがとうございます。寝るの嫌いなわたしを笑わないでくださいね」
アリスは赤面しながら頭を下げる。クライヴは「もちろん」と優しく返す。エリックは少し距離を置いて立ち、まるでボディガードのように腕を組んでいる。
続いてフローレンスがキッチンへやってきて、「わあ、クライヴさま、本当に来たのね!」とあざとい笑顔を振りまく。クライヴは苦笑しながら「ローベル嬢も一緒とは」と呟くが、証人がいることに安堵もしているようだ。
「さあ、眠らない夜のクッキー作り、始めましょうか? わたし、レモンピール入りのやつに挑戦するんです。クライヴさまも一緒にやってみませんか?」
アリスが笑顔で手を差し伸べ、クライヴはエプロンを受け取る。エリックは相変わらず無表情だが、必要があれば手伝うつもりだ。フローレンスはあくまで見学メインだが、「途中で飽きたら手伝うかも」とニヤニヤしている。
かくして、異例の深夜キッチンが稼働し始める。アリスはチョコチップ入りの生地、クライヴはレモンピール入りの生地を担当して混ぜ込む。フローレンスが冷蔵庫の時間を計り、エリックが粉をふるう手伝いをする――何とも不思議な光景だ。
「ふぁ……いつもエリックと二人でやってるんですけど、人数が多いと早いですね。クライヴさま、混ぜるの上手いです」
「そうかな? 初めてだよ、こんな時間にお菓子作りなんて。……意外と楽しい」
クライヴは照れくさそうに笑い、エプロン姿が似合わないと自嘲気味に言うが、アリスには妙にかっこよく見えてしまう。フローレンスが「こりゃあアリス、惚れ直しね」と囁いてくるのを、耳を真っ赤にして無視する。
エリックは淡々と作業を進めつつ、アリスとクライヴのやりとりを見守る。夜に集まるこの光景を、どう判断すべきか迷っているが、護衛としても友人としてもアリスが楽しそうなので口出しはしない。
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やがて生地を冷蔵庫に入れて寝かせる待ち時間がきて、アリスたちはキッチンのテーブルで小休止。フローレンスが「あとは焼くだけねー」とダルそうに言い、クライヴは「そうか、もう一度冷やすんだな」と頷く。
「ふぁ……夜のキッチンでこうしてみんなで待ってるの、すごく不思議な感じ。……クライヴさま、眠くないですか?」
アリスが心配そうに尋ねると、クライヴは軽く首を振る。
「いや、逆に興奮して眠れそうにない。元々夜更かしは嫌いじゃないからね。兄上には“少し遅く帰る”と言ったが、こんな深夜までいるとは言えなかったな」
エリックは「公爵家の次男がこんなことしてるってバレたら大問題だな」と呟き、フローレンスは「大問題だからこそ刺激的で楽しいのよ」と笑う。
アリスは胸を撫で下ろしながら、「みんなに秘密にしてごめんなさい」と頭を下げる。でも、クライヴが「構わないよ、楽しければ」と言ってくれるのが何より救いだ。
(寝るの嫌いなわたしでも、こんな夜なら夢中になれる。クライヴさまとエリックとフローレンスがそばにいてくれるなら、怖い夢も見ないかも……)
しばらく休憩したあと、生地を取り出して型抜き作業に入る。アリスは慣れた手つきでハートや星、丸形を次々と抜いていく。一方クライヴは少しぎこちないが、集中力を発揮して形を整えている。
フローレンスは見学だけでは飽き足らず、「私もやるわ」と型を持ち、奇妙な形を作って「これクライヴさまへの特製クッキーよー」などと茶化す。エリックが「ぶっといハートとか、どんなセンスだ」と呆れるが、当人は楽しそうだ。
「ふぁ……こんなににぎやかな夜のキッチン、初めてかも。ディーンさまの夜襲なんて暗いイベントじゃなくて、もっと平和な夜を過ごしたかったんですよね」
「今は平和でよかったな。まさか俺がシャーベット家の深夜キッチンに立つなんて想像もしなかった」
クライヴがエプロン姿で生地をこねる姿は、本当に非日常だ。フローレンスは「写真に収めたい」と言わんばかりに手を叩いて盛り上がる。エリックは黙々と作業を手伝いつつ、心中でアリスへの複雑な感情を抑え込んでいる。
(アリスが望むなら、俺はそれを守る。クライヴが誠実に参加しているなら……まあ、良いだろう)
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やがてオーブンにクッキーを投入し、しばし待つ時間が訪れる。アリスは椅子に腰掛け、少し汗ばんだ額をハンカチで拭う。普段夜にクッキーを作ってもここまで賑やかではないので、心地よい疲労を感じている。
「ふぁ……寝るの嫌いなわたしが言うのも変ですけど、ちょっと眠くなりそう。なんだかんだで深夜は疲れますね」
「仮眠をとるなら、俺が焼き上がりを見張っててもいいが?」とエリックが提案するが、アリスは「大丈夫、最後までがんばりたいです!」と拒否する。クライヴも同意して「これを完成させたい」と笑う。
フローレンスは「楽しそうでなにより。あと十分くらいで焼きあがるわよ」と声をかけ、みんなで再度チェック。オーブンの中から美味しそうな香りが漂い始める。
「わあ……クライヴさまのレモンピール入り、きっとさわやかな味になってますね。エリックはそろそろ焦げないか見てくれませんか?」
「分かった。温度計を確認しよう」
それぞれが役割分担をこなすなか、アリスはふとクライヴを見て微笑む。彼もアリスを見つめ、「ありがとう、こんな時間に呼んでくれて」と小さく囁く。フローレンスとエリックに気づかれないように控えめに。
アリスは心が温かくなるのを感じる。夜という特別な時間を共有できたことで、クライヴとの距離がぐっと近づいた気がする。一方でエリックの姿も視界に入っていて、胸がチクリと痛む。それでも、今はみんなで過ごす“寝るのが嫌いな夜”が心地よい。
「よし、そろそろ焼き上がり……。クライヴさま、どうぞ見てみてください!」
呼びかけに応じてオーブンを開けたクライヴが「おお……すごい」と声を上げる。焼きたての香りと、こんがりとした黄金色――アリスやエリック、フローレンスがそれぞれ笑顔で覗き込む。
こうして、念願の夜更かしクッキー作りが完成した。アリスは熱々のクッキーを皿に並べ、少し冷めるのを待つ。深夜にも関わらず、まるで小さなパーティーのようにキッチンが華やぐ。
(ふぁ……なんだか夢みたいだけど、寝るのは嫌い。起きてよかった……)
アリスは胸中でそう呟き、クライヴと視線を合わせる。エリックとフローレンスが作ったクッキーも混在するが、今はそれを含めて夜を満喫するしかない――苦いか甘いかは、これから味わうのだ。
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