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「……セレス、レナ?」
低く抑えた声が響いた瞬間、二人はほっと息をついた。明かりを携えて姿を現したのは、ダリウスだったのだ。彼は周囲を見回し、二人のいる棚のそばまで来ると微笑む。
「驚かせてしまったかな。ここに来るなら、もう少し合図をしてくれればよかったのに」
「す、すみません。時間もあまりなくて、急いでいたので」
セレスは肩の力を抜きながら謝る。ダリウスが敵ではないとわかって、本当に胸をなで下ろす。
「それで、何か見つかったのかね?」
「はい。王家の契約と儀式に関する古い書物を見つけました。詳しい地名は書かれていませんが、どうやら王家の血筋を持つ者だけがたどり着ける“聖地”があるらしくて」
レナが本の内容を手短に説明すると、ダリウスはうなずく。
「やはりそうか。マティアス殿下がその場所へ向かったとすれば、王家ゆかりの別荘を経由して更に奥へと進むだろう。実は私も、その付近に古い魔術的な遺跡があるという話を聞いたことがある」
「魔術的な遺跡……やっぱり普通の旅路ではないのですね」
セレスはダリウスの言葉に何とも言えない胸騒ぎを感じる。儀式や契約が現実のものだとすれば、そこには常人には理解できない何かがあるのかもしれない。
「それで、君たちはどう動くつもりなんだ?」
ダリウスが問いかける。セレスとレナは視線を交わしながら応える。
「リヒト王子様に相談して、少人数で森の先を目指すつもりです。王太子に正式に指名される前に、何としてもマティアス王子を見つけたいから」
「公爵に見つかると面倒なことになるだろう。だが、今はそうするしかないな」
ダリウスは顎に手を当て、少し考え込むような素振りを見せる。そして、意を決したように口を開いた。
「ならば、私も同行しよう。魔術師としての知識があれば、王子の足取りをたどるのに役立つかもしれない」
「え、ダリウス様も来てくださるのですか?」
レナが驚いて問い返す。ダリウスは静かにうなずき、表情を引き締める。
「私だってマティアス殿下に戻ってきてほしいのさ。彼がいないままリヒト殿下が即位すれば、国に混乱をもたらす可能性がある。それに、純粋に私自身が“真実”を見極めたいという好奇心もある」
「ダリウス様……ありがとうございます」
セレスは胸が熱くなる。まさか謎めいた魔術師が自ら名乗りを上げてくれるとは思わなかった。これなら、森の奥で何が起きても心強い。
「それで、そろそろここを出ないか? 警備の交代まであまり時間がない。上手くやりすごして、自室に戻ったほうがいい」
ダリウスの言葉に二人は素直に従う。書庫で見つけた本はリュックに忍ばせ、足音を忍ばせて廊下へ戻った。ランプの灯りを消して暗闇を進むのは緊張するが、ダリウスが魔術の力でうまく陰を作り、兵士の目を欺いてくれる。
「本当に便利な魔術ですね」
セレスが小声で言うと、ダリウスは笑みを漏らす。
「これくらいなら朝飯前さ。もっとも、宮廷魔術師にはあまり派手に魔術を使う権限はないけどね」
そうして何とか無事に階段を昇り、廊下の一角までたどり着く。ここから先は各自散らばって行動すれば、怪しまれずに自室へ戻れるだろう。
「では、明日の夜あたりにリヒト殿下と話し合って、出発の段取りを決めよう。公爵の目を盗むには早朝か深夜の出発がいいだろうね」
ダリウスがそう提案し、セレスとレナはうなずく。もたもたしている時間はない。王太子の指名は数日のうちに確定してしまう。マティアスが戻らないままでは、全てが公爵の思惑どおりになってしまう。
「明日、絶対にリヒト王子様と話します。ダリウス様、本当にありがとうございます」
セレスは感謝の気持ちを込めて、深く頭を下げた。こうして新たな同行者を得た一行は、王子を探す旅に向けて着実に準備を進める。長い夜を越え、運命の歯車が次第に回り出そうとしていた。
低く抑えた声が響いた瞬間、二人はほっと息をついた。明かりを携えて姿を現したのは、ダリウスだったのだ。彼は周囲を見回し、二人のいる棚のそばまで来ると微笑む。
「驚かせてしまったかな。ここに来るなら、もう少し合図をしてくれればよかったのに」
「す、すみません。時間もあまりなくて、急いでいたので」
セレスは肩の力を抜きながら謝る。ダリウスが敵ではないとわかって、本当に胸をなで下ろす。
「それで、何か見つかったのかね?」
「はい。王家の契約と儀式に関する古い書物を見つけました。詳しい地名は書かれていませんが、どうやら王家の血筋を持つ者だけがたどり着ける“聖地”があるらしくて」
レナが本の内容を手短に説明すると、ダリウスはうなずく。
「やはりそうか。マティアス殿下がその場所へ向かったとすれば、王家ゆかりの別荘を経由して更に奥へと進むだろう。実は私も、その付近に古い魔術的な遺跡があるという話を聞いたことがある」
「魔術的な遺跡……やっぱり普通の旅路ではないのですね」
セレスはダリウスの言葉に何とも言えない胸騒ぎを感じる。儀式や契約が現実のものだとすれば、そこには常人には理解できない何かがあるのかもしれない。
「それで、君たちはどう動くつもりなんだ?」
ダリウスが問いかける。セレスとレナは視線を交わしながら応える。
「リヒト王子様に相談して、少人数で森の先を目指すつもりです。王太子に正式に指名される前に、何としてもマティアス王子を見つけたいから」
「公爵に見つかると面倒なことになるだろう。だが、今はそうするしかないな」
ダリウスは顎に手を当て、少し考え込むような素振りを見せる。そして、意を決したように口を開いた。
「ならば、私も同行しよう。魔術師としての知識があれば、王子の足取りをたどるのに役立つかもしれない」
「え、ダリウス様も来てくださるのですか?」
レナが驚いて問い返す。ダリウスは静かにうなずき、表情を引き締める。
「私だってマティアス殿下に戻ってきてほしいのさ。彼がいないままリヒト殿下が即位すれば、国に混乱をもたらす可能性がある。それに、純粋に私自身が“真実”を見極めたいという好奇心もある」
「ダリウス様……ありがとうございます」
セレスは胸が熱くなる。まさか謎めいた魔術師が自ら名乗りを上げてくれるとは思わなかった。これなら、森の奥で何が起きても心強い。
「それで、そろそろここを出ないか? 警備の交代まであまり時間がない。上手くやりすごして、自室に戻ったほうがいい」
ダリウスの言葉に二人は素直に従う。書庫で見つけた本はリュックに忍ばせ、足音を忍ばせて廊下へ戻った。ランプの灯りを消して暗闇を進むのは緊張するが、ダリウスが魔術の力でうまく陰を作り、兵士の目を欺いてくれる。
「本当に便利な魔術ですね」
セレスが小声で言うと、ダリウスは笑みを漏らす。
「これくらいなら朝飯前さ。もっとも、宮廷魔術師にはあまり派手に魔術を使う権限はないけどね」
そうして何とか無事に階段を昇り、廊下の一角までたどり着く。ここから先は各自散らばって行動すれば、怪しまれずに自室へ戻れるだろう。
「では、明日の夜あたりにリヒト殿下と話し合って、出発の段取りを決めよう。公爵の目を盗むには早朝か深夜の出発がいいだろうね」
ダリウスがそう提案し、セレスとレナはうなずく。もたもたしている時間はない。王太子の指名は数日のうちに確定してしまう。マティアスが戻らないままでは、全てが公爵の思惑どおりになってしまう。
「明日、絶対にリヒト王子様と話します。ダリウス様、本当にありがとうございます」
セレスは感謝の気持ちを込めて、深く頭を下げた。こうして新たな同行者を得た一行は、王子を探す旅に向けて着実に準備を進める。長い夜を越え、運命の歯車が次第に回り出そうとしていた。
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