25cmのシンデレラ

野守

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第37話 別問題

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「この先でしたね」
「はい。ありがとうございました、送っていただいて」
「いえいえ」

さっきの話を続ける気はないらしい。何事も無く別れてしまうことも出来ただろうけど、私がそれでは駄目だと思った。

「篠塚さん。今日言ってくださったことは嬉しいです。ありがとうございます」
「はい」
「ですが、私には荷が重いです。ごめんなさい」
「そうですか。分かりました」

やっぱり優しくて穏やかな、何度も聞きたくなってしまう喋り方。でも区切りは必要だ。

「ガイドの話も今日で終わりですね。篠塚さんの気持ちが分かった以上、いつまでも引っ張ってはいけません」
「どうしてですか」
「え、だって。交際断っておいて、これ以上会うのは変でしょう」
「どうしてですか」

むしろ私がどうしてと聞きたい。でも篠塚さんは至って真面目な顔で聞いている。

「断られたのは残念ですが、仕方ありません。ただガイドの話とは別問題です。こっちは仕事の契約ですから」
「はい?」
「考えてみてください。職場の同僚に告白してフラれたからといって、会社を辞める人どこにいますか」
「た、確かに?」

何だろう。何かが根本的に違う話なのだが、具体的に説明できない。似て非なる例えで頷きかけてしまう。

「俺の気持ちは伝えましたから、落ち着いて考えてみてください。それで気が変わったら教えてください。気を変えられるようにガイド期間を使って頑張りますので」
「いや、ですから」
「そういう訳で次回もよろしくお願いします。おやすみなさい」
「ちょっと!」

車はさっさと走り去ってしまった。大型犬はこんな時だけ強引だ。噛みついたら放す気は無いらしい。



 始業ギリギリに急いで着替えていたら、さらに後から北内さんが突進してきた。

「おはようございます!」

放り投げるような挨拶とともにロッカーを開ける。彼女も寝坊したのだろうか。
 昨夜はどうにも目が冴えて、なかなか寝付けなかった。もちろん篠塚さんのせいである。

「篠塚さんの……彼女……結婚……篠塚家の妻……いやいやいや」

そんな気の早い話を考えても無駄だ。付き合って別れるかもしれないのだし。いや待った。その前に私、付き合ってみる選択肢が浮上してるの?
 まとまらない考えが疲れた頭の中に浮かんでは消え、でも真夜中の脳内ではっきりした思考はできず、ベッドの中で意味のない時間を過ごしてしまった。そしていつの間にかウトウトして朝になり、最後のスヌーズで危うく起きた。疲労感倍増の朝である。
 見事な早着替えで朝礼に滑り込んだ北内さんは、疲れを全面に出した顔で開館準備を始めた。山東君は遅刻らしい。

「昨日、思い切って遠出しちゃったんですよ。社会人なんて無理しないと遊べないと思って」
「分かる」

同じ考えの人がここにもいたらしい。

「やってみて分かりました、無理はダメですね。仕事で失敗する恐怖を味わう方が嫌です」
「分かる!」

とか言いつつ、喉もと過ぎれば再度やってしまうのが大人というものだ。ガイドの話も同じかもしれない。昨夜はベッドの中で「もう連絡とるのも気まずい!」なんて頭を抱えていたけれど、朝になって落ち着いてみれば、案外「割り切ればイケるかも」とか思い始めている。私も学習しないなぁ。
 今は仕事に集中しようと思いつつも、この職場では無理な話だった。撮影用のドレスや小物に囲まれていれば、否応なしに思い出してしまう。

「坂本さん、ウェディングフォトの……どうしました?」
「何でもない!」

分かりやすく固まった私に不思議そうな顔をしながら、北内さんが本日の予約一覧を手渡してきた。

「十三時よりご予約だったウェディングフォト、ナシになりました」
「延期?」

なぜか目を逸らす北内さん。何となく察した。

「ちょっとお二人の仲に問題発生だとかで、とりあえず延期できないかとお問い合わせが……。いったん保留になってます。完全キャンセルにはならないと良いんですけどね」
「あー」

ごく稀に発生するやつだ。
 いわゆるマリッジブルーというのか、婚期が近づくと喧嘩が増えたり、ちょっとしたこじれが出るカップルはよくいるらしい。でも多くの人はそのまま突っ切って結婚するし、モヤモヤしながらでも撮影をこなしたりする。結婚とは話がまとまった後に中止する方が大変だからだ。
 でも突っ切れないカップルも存在する。何があったかは知らないが、直前になってキャンセルの連絡が入るのだ。両家の事情で延期とか、都合が悪くなったとかの理由が付けられることも多いなかで、今回の二人はやけに正直だといえる。取り繕う余裕も無かったのだろうか。

「大丈夫かな」
「大丈夫ですかね」

結婚って大変らしい。
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