25cmのシンデレラ

野守

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第38話 結婚願望

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 件のウエディングフォトは三日後に正式キャンセルとなった。いったん落ち着いて話し合う時間を持つのか、完全に割れてしまったのか……もちろん詳しく事情なんか聞かない。ものすごく気になるけど。

「職場恋愛だったら気まずいですよねぇ」

我慢できず話題に上げてしまうのが北内さんだ。気持ちは分かるが罪悪感で気が引ける、それが私。どっちが正解かは未だに分からない。

「だって上司とかに報告しちゃった後ですよ。同僚にも広まってるはずですし。延期だけだとしても、『あの二人何かあったよね』って絶対コソコソ言われるんですよ」
「そうねぇ」
「考えただけで針のむしろじゃないですか! 針の筵って使い方あってます?」
「さあねぇ」

北内さんは感情表現豊かな顔のまま温野菜をかじり、小さな声で「味がない」と言った。ドレッシングを忘れたらしい。

「うう、他人事なのに想像しただけで居たたまれない。職場恋愛にリスクは付きものなんでしょうか」
「心配ならやめておいたら? 山東君はしつこくなさそうだし、冷静に話せば分かってくれるかも」
「えっ、何で知ってるんですか!」
「何となく、そうかなって。本当に付き合ってたんだね。別に良いけど」

そんなに傷ついた顔で見ないで欲しい。私がカマをかけたような形になったのは確かだが、分かりやすい行動をしている本人たちにも非はあると思うのだ。いい加減にはっきりさせないと扱いづらくてしょうがない。

「い、言わないでくださいね。他の人たちに」
「はいはい。バレたくないなら気を付けたら?」
「私は気を付けたいんですけど、あっちが雑なんですよ! 『バレたところで、それはそれで』とか言って!」

諦めなさい。そういうもんなのよ。

「はぁ。仕事は忙しいしプライベートも疲れるし、何か癒しが欲しいです。あ、そういえば犬の写真撮りました?」
「いや」
「そっか、まだ会えてないんですね。連休取れないと約束も予定も入れづらいですもんねぇ」

本当は一枚だけある。このあいだ北内さんに言われた後、一応スマホ内を漁ってみたら、お祭りの時の写真が出てたのだ。地元の夏祭りを全力で楽しむ大人が面白過ぎた時の一枚。
 実は昨日も見返してジワジワきたのだが、当然の流れとして告白の件を思い出してしまい、また寝付けない夜に苦労する羽目になった。今夜も同じことをしそうな気がする。私、本当に何をやってるんだろう。

「北内さんて結婚したい?」

ゴボっと変な音がした。

「なっ、何ですか急に!」
「特に深い意味はないけど。職場恋愛の、というかウエディングフォトの件をかなり気にしてるし、自分の将来も真剣に考えてたのかなって」
「いやいやいや、まだそんな段階じゃないです! 待った違うな、段階がどうとかいう話でもないんですけども! したくないとか遊びのつもりはないんですが!」
「分かったから落ち着いて」

私よりも若いのだから、この手の話に花を咲かせる空気感が残っていたりしないのだろうか。学生のノリで。

「ふぅー。えっと、はい。落ち着きました」
「それは良かった。ただの雑談だからね? 無理しなくていいよ」
「ちょっとビックリしただけです。急だったんで。……そうですねぇ、結婚願望自体はありますけど、そんなに急いではいません。この時代ですし。ただ誰かと付き合うってことは、その先の可能性があるってことじゃないですか。『いつかは自分にも来る段階』って考えると他人事でもないと思えちゃって」
「なるほどね」

そうなのだ、交際とは行きつく先があるものだ。ずっとそのままではいられない。

「坂本さんは結婚したいですか?」
「私もよく分からなくなってる。明確に『したくない』って決めてるわけじゃないけど、わざわざ婚活して相手を探そうとは思わないかなぁ。何となく流れで相手が現れたら考えても良いか、くらい」
「その感じ分かります。あ、アレ……ごほん。篠塚様なら性格はともかく、顔と生活面を考えたら優良物件じゃないですか?」

その名前を聞いて真っ先に思い浮かんだのは本物の顔。ちょっとイラっとした。特別な名前が今この場では別のダメ男の呼び名であることに。……私にとっての「篠塚さん」が汚れる気がして。

「性格こそ生活面で大事じゃない? 通い婚でもあるまいし、毎日反りが合わない相手と顔合わせて暮すの。帰宅がストレスっていう最大のマイナスポイントになるじゃない」
「あー、それは嫌かも。籍を入れてあげる代わりに、生活費だけ落としてくれないですかね」
「北内さん、結構スゴイこと言うね」
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