サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第4章 二年一学期

第124話 スマホいじるサトシ先生

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 桜井のために買った机は、三日後にサトシの家に届く予定だ。
それまでは、リビングのテーブルで桜井は勉強することになった。


サトシは、何かあったら質問できるようにと、リビングのソファーに座ってスマホをいじりながら待機していた。
そして、桜井が勉強しながら時々こっちを見てくるのに、気が付いていた。

(何か質問があったら、自分から言うようになってほしい。俺から余計なことは言わない。できるだけ自主的に勉強させよう)

しばらくすると、桜井はまた問題集に集中しはじめた。

(よし、よし、勉強再開したな)

 ―桜井SIDE

桜井はわからない問題があったので、サトシに質問しようと顔を上げた。
すると、サトシはじっとスマホをいじっている。

(先生って、彼女と一緒にいるのに、平気でスマホいじりする人なんだ)

その横顔を、桜井は質問することを忘れるほど見入ってしまった。

(でも、はぁ~、イケメンだから許す。わたしがこんなに頑張って勉強しているのに、全然お構いなし。でも、絵になっているから鑑賞にはいいわ)



桜井にとって、付き合ってる彼氏が自分に見向きもしないでスマホをいじっているのは、問題無しだった。
返って、美しい横顔を見放題の時間を独り占めしている、それだけで至福のひとときを満喫していた。


 ―サトシSIDE

勉強を再開したかと思ったら、桜井はまたサトシの方をじっと見ていた。

(んんんーー、かれこれ10分くらい見られているんだけど。ここで声をかけたら、自主性を阻害するし。かといって、このままスマホいじっているのも結構疲れるんだけどな)


サトシは、思い切って声をかけることにした。

「ん? 何、桜井」

「いえ、別に何も……」

「わからないところがあったら、いつでも質問しなさい」

「は、はい。どうぞ、スマホをいじっていてください。なんなら、一生スマホいじっていてもいいです」

「一生は困る」


そう言いながら、サトシはスマホをいじって、LINEを開いた。

(ああ、俺のアイコン、初期設定のままだなぁ)

あの、テルテル坊主のような初期設定のイラストだ。

(いいかげん、アイコンを変えようかな。何がいいかな。猫とか犬とか……)

他の人はアイコンを何にしているのかを見て、参考にしようとサトシは思った。

(そういえば、桜井のアイコンって、なんだっけ?)

桜井のアイコンをよく見てみると……

(ん? ラーメン?)




今、サトシの家のテーブルで、一生懸命問題集を解いている女生徒のアイコンは、ラーメンだった。
このシュールな現象にサトシは、吹き出しそうな笑いをぐっとこらえた。
それでも、腹筋はプルプルと震えてくる。
笑ってはいけないと意識すればするほど、ツボにはまって可笑しくてたまらない。
しかも、そのラーメンアイコンの女生徒は時折サトシをじっと見つめてはうっとりとしている。
桜井が自分にうっとりしているのを知りながら、サトシはわざと無視してスマホいじりをしていたのだ。
クールに決めているつもりだったのに、桜井のアイコンを見た瞬間にすべては崩壊した。

(この現象に名前を付けられる人がいたら、ノーベル賞をあげたい)

とすら、サトシは思った。

「一生スマホ見ているなんて無理だ。だめ、苦しい。頼む! いいかげんに何か質問してくれぃ! ハハハハハ……」

サトシはついに吹き出して、ゲラゲラと笑ってしまった。

「先生、何か面白い事でもあったんですか? SNSですか?」

「なんでもない」

「言えない話?」

「いや」

「どうして教えてくれないんですか」

「教えるよ。数学のどこがわからないの?」

「あ、話題をそらした。さては女?」

「そんなわけないだろ……ふふ」

「そうだよね、先生が女の人からのメールで笑うはずないしね」

「俺ってそんなに冷酷?」

「教えてー、教えてー、教えてくれなきゃ、明日の朝ご飯作らないからね!」

「それは困ったな……、怒るなよ」

「だから、何!」

「桜井のLINEのアイコン見て笑ったんだよ。何? ラーメン。プッ、クククク……」

「今さら気づいたんですか? そんなに面白くないでしょ」

「ごめん、ツボった」

「じゃあ、先生のアイコン変えてあげる。貸して!」

「あ、よせ! 返せ!」

桜井はサトシのスマホを取り上げて、ものの十数秒でアイコン設定してしまった。

「はい、これでいいでしょ」

桜井はスマホをサトシに返した。
サトシがアイコンをよく見てみると、

「餃子? なぜ!?」




「前に家に来て餃子食べた時、先生は写真に撮っていたでしょ。ただの餃子じゃないわよ。わたしのお手製餃子だからね。プレミアム餃子よ」

「えええええー! もうちょっと、なんとかならないかのかよーー?」

「いいじゃないですか、食べ物つながりで。ラーメン餃子って最強の組み合わせでしょ!」

「ああ、それも……そうか」

サトシは意外と素直に納得した。
サトシは、桜井の言うことなら何でも納得してしまう傾向にある。
好きすぎて我を忘れているのは、桜井だけではないことを、この男は自覚できていない。
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