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第8章 三年二学期
第222話 桜井の課題レポートに涙するサトシ
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「レポート課題の方も、見てもらえますか? 誤字脱字チェックお願いします。あと感想ください。正直、すごく悩んで書きました」
(桜井が悩んだ? ……か)
タイトルには、こうあった。
「世界で生じている搾取労働と国際協力」
真面目なレポートなのに、読み始めてすぐに、サトシは胸の奥がじんわりと熱くなっていくのを感じた。
“しかし、搾取されているのは、「途上国」の人々だけではない。日本でも技能実習生や大学生のアルバイトなどで搾取労働が生じている。実際に地域に目を向けることで、日常にある社会問題に気づくことが大切だ。”
実際に貧困と飢餓に苦しんでいる人も声は届きにくい、現在の問題点を浮き彫りにしたレポートだった。
「先進国と発展途上国」という枠組みで現地や他者を見つめるのではなく、対等な立場で述べられていた。
決して上から目線ではない。
(桜井は本当に、自分の言葉で世界を見ようとしてる……)
サトシは思わず姿勢を正し、読み直した。
指導者として読むべきなのに、一人の読者として、心を動かされてしまっていた。
桜井が食に関心があることが、このレポートに全て繋がっていると、サトシはそう感じた。
幼い弟の食事を作っていたし、サトシの家でも必ず食事は手作りのものだった。
サトシの胃袋とハートをつかんだタマゴ焼き。
英語をヒアリングして作った親子丼。
サトシの要望で実現したピザ。
白金祭でひとり焼き続けた焼きそば。
その時はただの、甘くて笑える思い出だった。
でも今、桜井の書いた言葉を読んでいると、そのエピソードがまるで伏線だったように思えた。
(桜井はもう、次の扉を開けようとしている)
“支援する側の先進国が途上国における貧困の要因を作っている側面もあり、必ずしも「先進国が途上国を支援する」ことだけが正解ではないと考える。”
複雑な問題は、解決方法を見つけるのが難しい。
うわべの結論を持ってくるのではなく、高校生が考えられる言葉でレポートは終わっていた。
サトシは、読み終わったレポートをそっと閉じ、目の前の桜井に視線を向けた。
桜井は緊張した面持ちで、サトシの言葉を待っていた。
サトシは、ページをめくる手を止めて、深く息を吐いた。
「変じゃなかったですか……?」
「いや。むしろ……ちょっと、読んじゃいけないものを読んだ気がした」
「えっ?」
サトシは微笑んだ。
「自分の生徒が、もう、"自分の未来を語る言葉"を持ってる。……感動したんだよ、普通に」
「……え?」
「温かくて、まっすぐで……読んでるこっちが、ちょっと泣きそうになった」
「ええっ、やだ、それ、感動ものじゃないのに……! ただのレポートに、なんで感動して泣いているんですかっ!?」
そう言いながら、桜井の頬が紅潮した。
「サトシ先生がいたから、書けたんです……。わたしが英語を好きになったのは、一年生の夏休みでした。三校合同勉強会をここでやったでしょう。そのとき先生は、『英語は覚えれば一生ものだ』と言いました。その言葉でやる気に火が付いて、英語を勉強していくうちに、世界に興味を持ち、そしてグローバル化の光と影に興味を持ったんです」
「……そんなこと言ったっけ」
「覚えてないなら、それでいいです」
桜井は笑いながら立ち上がった。
「じゃ、ご飯にしよっか」
(俺は桜井のこの言葉に何回癒されただろう。そして、これから何回癒されるのだろう)
「今夜のご飯は何かな?」
「野菜ゴロゴロカレーでーす」
「やった! 俺は満たされている側にいることに感謝しよう」
「ぷっ! さっきまで感動して泣いていたのに?」
「俺の胃袋を満たせば幸せになれる……。身をもって証明したくなってきた」
「フフッ……何それ……、あ、そうだ。明日、郵便局に行くとき、先生に付いてきてもらっちゃダメですか?」
「小学生じゃないんだから、郵便局ぐらい一人で行きなさい」
「……はーい、わかりましたぁ」
二人でカレーを食べながら、サトシは温かい気持ちにあふれていた。
サトシにとって、教え子であり最愛の彼女のレポートは、成長を感じさせるものだった。
「桜井にいろいろ気づかせてもらったよ。“学ぶ”ということは、きっと、“誰かを幸せにしたい”という気持ちとつながっているんだなって。桜井ならきっと大丈夫だ」
「急にどうしちゃったんですか? じゃあ、わたしを幸せにするために、郵便局窓口について学ばせてください」
「さっきも言ったはずだ。それは自分で行きなさい!」
「怒らないでよ。行きますよ、行きます。自分で行くからもう怒らないで」
桜井は、頬をぷーっと膨らませた。
サトシには、その顏さえ愛しかった。
そして次の日、サトシは桜井が一人で郵便局に行けるのか心配で、家を出てから30分ほど時間をつぶして、桜井が家を出るのを待った。
30分後、桜井が家を出ると、サトシは気づかれないように、物陰に隠れながらじっと見守りながら付いて行った。
(よし、ちゃんと郵便局に向かってるな。……あれ、このシチュエーション、何かに似ている……。はじめてのおつかい!)
その日、サトシは朝の職員朝礼に遅刻したことは言うまでもない。
(桜井が悩んだ? ……か)
タイトルには、こうあった。
「世界で生じている搾取労働と国際協力」
真面目なレポートなのに、読み始めてすぐに、サトシは胸の奥がじんわりと熱くなっていくのを感じた。
“しかし、搾取されているのは、「途上国」の人々だけではない。日本でも技能実習生や大学生のアルバイトなどで搾取労働が生じている。実際に地域に目を向けることで、日常にある社会問題に気づくことが大切だ。”
実際に貧困と飢餓に苦しんでいる人も声は届きにくい、現在の問題点を浮き彫りにしたレポートだった。
「先進国と発展途上国」という枠組みで現地や他者を見つめるのではなく、対等な立場で述べられていた。
決して上から目線ではない。
(桜井は本当に、自分の言葉で世界を見ようとしてる……)
サトシは思わず姿勢を正し、読み直した。
指導者として読むべきなのに、一人の読者として、心を動かされてしまっていた。
桜井が食に関心があることが、このレポートに全て繋がっていると、サトシはそう感じた。
幼い弟の食事を作っていたし、サトシの家でも必ず食事は手作りのものだった。
サトシの胃袋とハートをつかんだタマゴ焼き。
英語をヒアリングして作った親子丼。
サトシの要望で実現したピザ。
白金祭でひとり焼き続けた焼きそば。
その時はただの、甘くて笑える思い出だった。
でも今、桜井の書いた言葉を読んでいると、そのエピソードがまるで伏線だったように思えた。
(桜井はもう、次の扉を開けようとしている)
“支援する側の先進国が途上国における貧困の要因を作っている側面もあり、必ずしも「先進国が途上国を支援する」ことだけが正解ではないと考える。”
複雑な問題は、解決方法を見つけるのが難しい。
うわべの結論を持ってくるのではなく、高校生が考えられる言葉でレポートは終わっていた。
サトシは、読み終わったレポートをそっと閉じ、目の前の桜井に視線を向けた。
桜井は緊張した面持ちで、サトシの言葉を待っていた。
サトシは、ページをめくる手を止めて、深く息を吐いた。
「変じゃなかったですか……?」
「いや。むしろ……ちょっと、読んじゃいけないものを読んだ気がした」
「えっ?」
サトシは微笑んだ。
「自分の生徒が、もう、"自分の未来を語る言葉"を持ってる。……感動したんだよ、普通に」
「……え?」
「温かくて、まっすぐで……読んでるこっちが、ちょっと泣きそうになった」
「ええっ、やだ、それ、感動ものじゃないのに……! ただのレポートに、なんで感動して泣いているんですかっ!?」
そう言いながら、桜井の頬が紅潮した。
「サトシ先生がいたから、書けたんです……。わたしが英語を好きになったのは、一年生の夏休みでした。三校合同勉強会をここでやったでしょう。そのとき先生は、『英語は覚えれば一生ものだ』と言いました。その言葉でやる気に火が付いて、英語を勉強していくうちに、世界に興味を持ち、そしてグローバル化の光と影に興味を持ったんです」
「……そんなこと言ったっけ」
「覚えてないなら、それでいいです」
桜井は笑いながら立ち上がった。
「じゃ、ご飯にしよっか」
(俺は桜井のこの言葉に何回癒されただろう。そして、これから何回癒されるのだろう)
「今夜のご飯は何かな?」
「野菜ゴロゴロカレーでーす」
「やった! 俺は満たされている側にいることに感謝しよう」
「ぷっ! さっきまで感動して泣いていたのに?」
「俺の胃袋を満たせば幸せになれる……。身をもって証明したくなってきた」
「フフッ……何それ……、あ、そうだ。明日、郵便局に行くとき、先生に付いてきてもらっちゃダメですか?」
「小学生じゃないんだから、郵便局ぐらい一人で行きなさい」
「……はーい、わかりましたぁ」
二人でカレーを食べながら、サトシは温かい気持ちにあふれていた。
サトシにとって、教え子であり最愛の彼女のレポートは、成長を感じさせるものだった。
「桜井にいろいろ気づかせてもらったよ。“学ぶ”ということは、きっと、“誰かを幸せにしたい”という気持ちとつながっているんだなって。桜井ならきっと大丈夫だ」
「急にどうしちゃったんですか? じゃあ、わたしを幸せにするために、郵便局窓口について学ばせてください」
「さっきも言ったはずだ。それは自分で行きなさい!」
「怒らないでよ。行きますよ、行きます。自分で行くからもう怒らないで」
桜井は、頬をぷーっと膨らませた。
サトシには、その顏さえ愛しかった。
そして次の日、サトシは桜井が一人で郵便局に行けるのか心配で、家を出てから30分ほど時間をつぶして、桜井が家を出るのを待った。
30分後、桜井が家を出ると、サトシは気づかれないように、物陰に隠れながらじっと見守りながら付いて行った。
(よし、ちゃんと郵便局に向かってるな。……あれ、このシチュエーション、何かに似ている……。はじめてのおつかい!)
その日、サトシは朝の職員朝礼に遅刻したことは言うまでもない。
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