革命のエチュード

鳴真 のわか

文字の大きさ
28 / 28
ラスボス対決編

28.久し振り ──秋人

しおりを挟む
ファミレスの中に入ると、店内が結構賑わっていて驚いた。
行ったことがないとは言わないけど、俺にとってはあまり馴染みがない場所だ。そんなことを言うと陽介がまた妙な顔をしそうだから黙ってたけど…。

「すみません、二人……あ。いや、先に来てました」

陽介が店員と話している声を聞きながら、なんとなく店内を見回してみる。
先に来てる? どこ? どこにいる?

「秋人、こっち」
「あ、うん!」

陽介に手招きされて慌ててその後ろに付いていく。
えぇと、まずは自己紹介……は、べつにいらないか。父さんだもんな。
陽介は母さんと会った時にどうしてたっけ? こんにちはって言ってたかな?

「陽介! こっちだ、こっち!」

考え込みながら俯き加減に歩いていると、よく通る声が鼓膜を刺激した。
はっとして顔を上げると、店のいちばん奥の席にいる彼と目が合う。ソファー席から立ち上がり、笑顔でこっちに手を振っている。
陽介と同じ色の髪と瞳。写真で見た印象よりも年齢を重ねていて、目尻にうっすら皺があって……でも優しく笑う人だ。

「秋人!」

笑顔を深めた彼が俺の名前を呼び、陽介の前を通り過ぎて腕を掴んできた。ストライプの入った淡いグレーのスーツに身を包んでいて、俺よりも十センチは背が高い。
顔を見上げると、陽介よりも深い黒の瞳が俺をまっすぐに捉えた。

「いやぁ、ずっと会いたかったよ。写真で見るよりもママに似てるなぁ」
「は……え、っと…。こんにちは…?」

腕を掴まれていた手で頬に触れられ、思わず後退りそうになって慌てて耐えた。
俺の目を覗き込むように観察して、なにか納得したように頷いている。

「うん、瞳の色も同じで綺麗だな。学校でも相当モテてるだろー?」
「え? いや、そんなこと…」
「ははっ、可愛いな。陽介よりも素直そうだ」
「ちょっと、父さん!」

頬に触れていた彼──父さんの手を払った陽介は、そのまま俺の腕を掴んで椅子に座らせた。

「父さんもとっとと座れよ。こんなとこで突っ立ってたら邪魔になるから」
「相変わらず冷たいな、おまえは~。せっかくの感動の再会なのに」

父さんの話に相槌を打つでもなく無反応のまま、陽介がちらっと俺の方を見て口パクで「ごめん」と謝ってから隣に座ってくる。
陽介の声がいつもより低いと言うか、ぶっきらぼうと言うか…。なんだろう、この感じ。

「えーっと…。秋人、この人が俺たちの父さんだよ。市内の公立高校で美術教師をしてる」
「学校の先生? えっ、すごい…!」

素直に感想をこぼすと、テーブルを挟んだ向かい側に座った父さんがにこっと笑った。

「すごくなんかないよ。それより秋人、なにか食べるか? お腹空いてるだろ」

妙に大きなメニュー表をテーブルの上に広げられ、どうすればいいのかわからなくて陽介の顔を見上げる。
陽介はなぜか眉間に皺を寄せて父さんを睨んでいた。な、なんで…?

「いらない。すぐ帰るから」
「陽介には聞いてない。秋人に聞いてるんだよ」

いや、ほんとになんで!? なんで喧嘩してるみたいなことになってるんだよ、この二人!?
顔合わせてからそんなに話してなくないか…?

「え、えーっと…。俺、ファミレスってあんまり来たことないから気になるかも! 陽介もいっしょになにか食べよ?」
「来たことない…?」

あ、しまった。言わないでおこうと思ったのに。
でももう遅い。陽介の瞳が困惑の色に染まってしまった。
でもこの空気感をなんとかしたくて、どうにか話を続けようとする。

「全くないってことはないよ、もちろん! えぇーと、ほら……母さんの実家は日本だし? 日本に帰ってきた時に行ったり、とか。たまにな!」
「そっか…。ごめんな、もう少しいい店にすればよかったか?」
「いや、全然! 話しやすいだろ、こういう店の方が!」

申し訳なさそうな顔をさせてしまった…。そんなつもりなかったのに。
俺たちのやりとりを黙って見ていた父さんは、広げたメニュー表を閉じてテーブルの上を滑らせるようにして隅に追いやった。

「なぁ、陽介。キラキラしてただろ? ママの世界」
「…っ!」

すっと目を細めて声のトーンを落とした父さんが話を切り出した。
陽介の身体が小さく震える。まるでなにを言われるのかわかっているかのように。

「俺も昔、ママから同じように言われたことがあるよ。ファミレスってなぁに? ってな。やっぱり住んでる世界が違うんだよなぁ。その世界と、美しさと、そういうのに惚れて結婚したんだけどな。やっぱり上手くいかなかった」

テーブルの下で陽介が拳を作って強く握りしめた。傷でも作ったらいけないと思って手を解き、自分の指を絡めるようにしてやめさせる。
視線は合わない。陽介はずっと父さんの方を見ている。

「あぁ、やっぱり秋人も俺が引き取ればよかったかなぁ。まさかここまで美しく成長するなんて思わなかったよ」
「……秋人のことは母さんが引き取って正解だよ。あんたが引き取ってたらピアニストの将来を殺してただろうな」

聞いたこともない尖った声が聞こえる。
でも高等部に入ってすぐのころ、愛のない行為を繰り返していた時のことを思い出して胸が痛くなった。あの時の陽介もこんなふうに冷たい声で俺の名前を呼んでいたのだ。

「なに言ってるんだよ、陽介にだってピアノを買ってやったし教室にだって通わせただろ? 学校だっていちばん行きたいところに入学させたじゃないか」
「…っだから! 電子ピアノじゃ話にならないってずっと言って…!」

声を荒らげかけた陽介が、はっとしたような顔をして俺を見る。
絡めていた指に力を入れてきて、小さく深呼吸をしてから項垂れた。

「ごめん秋人、大きな声出して…! 秋人に言ってるんじゃないからな」
「う、うん…。俺は大丈夫だよ」

大丈夫じゃないのは陽介の方じゃないか?
ここが寮の部屋だったらすぐにでも抱きしめているところだけど、ぐっと堪えた。
信じてなかったけど、父さんと陽介は仲が良くないって本当だったんだ。ずっと二人で生きてきたのに、どうしてだろう…?
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

優しい死神

未希かずは(Miki)
BL
 ――私も人を救いたい。 自身の役割に心を痛め続ける「死神」。  「英雄と讃えられる闘神×優しすぎる死神」の二神を描いたお話。  二神はある戦場へと共に向かう。そこで出会った二人の若者を死神は救うが、それは神の理を破ることだった。  死神に何かと構いたがる「闘神」との穏やかながら深い愛情を描きました。 シリアスですが、最後はハピエンで終わります! 全五話。完結いたしましたが、現在続きを構想中です。出来上がりましたらこちらに載せようと思いますので、その時にはよろしくお願いします。 素敵な表紙は、絵師の三波わかめさんから頂きました✨ ありがとうございます💕

ないない

一ノ瀬麻紀
BL
エルドと過ごす週末が、トアの何よりの楽しみだった。 もうすぐ一緒に暮らせる──そう思っていた矢先、エルドに遠征依頼が下る。 守りたい気持ちが、かつての記憶を呼び覚ます。 ✤ 『ないない』をテーマに書いたお話です。 メリバです。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

あなたは僕のお父さんですか?

ちょー子
BL
好きになったアーティストが僕の本当のお父さんかもしれません。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

百合の匂い

青埜澄
BL
大学生の佑は、同じバイト先で働く修と親しくなる。 強引で無邪気で、どこか危うい修に振り回されながらも、佑は次第に自分の世界が修で満たされていくのを感じていた。

冬は寒いから

青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。 片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。 そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。 「二番目でもいいから、好きになって」 忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。 冬のラブストーリー。 『主な登場人物』 橋平司 九条冬馬 浜本浩二 ※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。

処理中です...