媚薬の恋 一途な恋

万実

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時計塔

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時計塔はこの学園の敷地内の中央にあり、私達は今、その入口に立っている。

アプリコット色のレンガ造りで、三階建位の高さがある時計塔は、この学園のシンボル的なものだ。

最上部には時計と、大きな金色の鐘が設置されている。

時計塔の管理は生徒会が任されており、通常、一般の生徒は入ることができない。

入口の扉には鍵がかかっており、その鍵は生徒会長と副会長のみが所有を許されている。

私もここに入るのは初めてで、塔の内部がどうなっているのか見たことはない。

「鍵を開けるから待ってて」

アレクが鍵を解錠し、重厚な扉はギイっと音を立てて開いた。
そして、室内の明かりをつけてくれている。

アレクに促され扉を潜ると、そこは想像もしていなかった世界が広がっていた。

ここは何処?図書室!?

そう思うほどのたくさんの蔵書が、目の前に広がる。

一階の広間は、周りがぐるっと本棚になっており、高所用の梯子まで取り付けられている。

「うわあっ!!」

本の大好きな私は、思わずアレクの手を振り切って駆け出した。

なにこれ!
こんな素敵な場所があって良いの!?
時計塔の中が、まさかこんな造りになっているなんて!

私は嬉しくて目をキラキラと輝かせ「すごいすごい」と連発し、この場所に夢中になってしまった。

色んな種類の本が置いてある。

小説や哲学書。図鑑、画集、詩集、旅の本など多種多様だ。
手に取って見てみたいけどいいのかな?

うずうずしながらアレクをチラッと見る。

彼は口に手を当てて、笑いを堪えているように見えた。

「こんなに喜ぶなんて思わなかった」

「私、本が大好きだから。ここはすごいね。時計塔の中が図書室になってるなんて知らなかった」

「そうだろう。ここは僕も気に入ってて、ティアにも是非見てもらいたかったんだ」

「私、ここに住みたいぐらい」

「それいいね!」

アレクも本好きみたいで、そんな所は気が合って嬉しい。彼はどんな本が好きなんだろう?

私は小説が好きで、暇があればずっと読んでいたい程だ。
ここには私の好みの本が置いてあるのか、気になって仕方がない。
私は端から歩いて本棚の本を隈なく見ることにした。

ああ!!

あの本はもしかして?!

あれは私がずっと探していた本ではないか!

私は本棚の一番上段にある一冊の本に目が釘付けになった。

それは青い装丁の美しい本で、題名は『今宵の月は蒼き輝きに満ちて』という。

月の女神と人間の王子の恋物語。

とても人気があって、オペラにまでなった。

随分昔の本で、既に絶版になってしまい、読むことを諦めていたんだけど。

なんとそれが目の前の手の届く所にある!

これは是非とも手にとって読んでみたい。

「アレク、見たい本があるんだ。取ってもいいかな?」

「いいよ。僕が取ろうか?」

「ううん、自分で出来るから」

好奇心旺盛なので、梯子に上って本を取るなんて楽しいことは一度はやってみたいのだ。

私は高所用の梯子をスライドさせ、上り始める。

一番上段って結構高い所にある。一階の天井ギリギリの位置だ。

高所なので気を付けて上り、やっと目的の本を手に取った。

うわあ!

『今宵の月は蒼き輝きに満ちて』が私の手の中にある。
嬉しすぎる!夢じゃないかな?

早く読みたい気持ちを抑え、先ずはここから降りなければ。


本を手に持っているので、片手しか空いていない。

この状態で梯子を降りるのは大変かもしれない。


「ティア!危ない」


アレクの叫びが響いた。

えっ?

あ、やば。

そう思った時にはすでに遅く、私は足を踏み外し目の前が真っ暗になった。
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