媚薬の恋 一途な恋

万実

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この声は?!

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捕まえようとするフィンさんの手をかい潜って、一階を走り抜け、階段へ辿りつき駆け上る。

後から追ってくる大きな足音が聞こえるけど、振り向いちゃダメ。

私は全力で階段を駆け上り、時計塔の二階から三階へとたどり着いた。

はあはあと息を切らして周りを見る。

ここは時計塔の心臓部分で大きな部品や歯車があり、今日アレクが熱心にメンテナンスをした所だ。

けれど、私が逃げる為に助けになるものなんてあるはずもなく。

私は窓際ギリギリに寄り、息を整える。


「意外と速いな。でもこれ以上どこに逃げる?」

そのセリフとともに三階に現れたフィンさんは、ニヤリと薄気味悪く笑い、すぐにも私の目の前にやって来た。

ああ、もうどうしたらいいの?

怖い。

【媚薬】を飲まされたらアレクを好きなことを、あの楽しかった思い出をも忘れてしまうのだろうか?

そんなのはイヤだ。


私はまたフィンさんから逃げるべく、駆け出した。

重心を低くし、再び横をすり抜けようとしたけど、すんでの所で捕まってしまった。

「そう何度も同じ手を食うかよ」

私の右手は後ろ手にギリリと締め上げられ、その痛みに顔を歪める。

「いやあっ!」

力の限り叫び抵抗するけど、右手は更に締め上げられる。

痛みで気が遠くなり、力が抜けていく。

フィンさんは【媚薬】の小瓶を取り出し「そろそろ観念しなよ」と言い、ほくそ笑んだその時。


「止めろ!」


時計塔三階の広い空間に声が響いた。

う、嘘!

この声は······

アレク!!

冷気をその瞳にまとい目の前に立つ彼は、最早先程の無表情ではない。

アレクが目の前にいる。

本当に?

痛みでまぼろしを見てるんじゃないよね。

じっとアレクを見つめると、フィンさんの動きを窺っていたアレクは私の視線に気付いた。

絡み合う視線と視線。

この眼差しはアレク!!

あのアレクが戻ってきた。


私は目頭が熱くなり、涙が溢れそうになった。

フィンさんは眉間に皴を寄せ、「チッ」と舌打ちをすると【媚薬】をしまい込んだ。

そしてアレクに向かって言い放った。

「動くな、この女がどうなってもいいのか」

フィンさんは更に締め上げる力を増し、私は苦悶の声を上げた。

こちらに歩み寄ろうとしていたアレクは、目を見開きその動きを止めると、拳を握りしめて叫んだ。


「ティア·フローレンス!!」

「ええっ?!」


ちょっと待って!

今、ティア·フローレンスって言った?!

私の目の前にいるのはあのアレクではなく、生徒会長なの?

あの眼差しはアレクのはずなのに······。

どうなってるの??

訳がわからなくなってきた。

痛みで頭がおかしくなっているのかもしれない。
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