お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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五話

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「君には悪いと思っている」

 記憶の中のオーギュストが淡々と言う。

「だが、愛することは誰にも止められない」

 誰も愛することができないと言っていた彼が、傍らに女性を一人侍らせて言う。

「むろん、俺の妻が君であることには変わりがない。これまで通り過ごしてもらってかまわない」

 これまで通り。
 それはお飾りの王妃として過ごせということ。

「子の親としての権威も、君のものだ」

 だけど会えるのは月に一度だけ。ただ、王の子の母という名目だけが与えられる。


「冗談じゃない」

 胸に感じた苦しさに、私は吐き捨てるように言う。
 目を開けてあたりを見回して、今まで見ていたのは夢なのだと気づく。

 私がいるのは用意されていたベッドの上。本来なら、オーギュストとの初夜を過ごすためのベッドだった。
 だけどどうせ足を運んでこないのはわかっていたので、まだ結婚する前だからと一人で使わせてもらうことにした。

 オーギュストも面倒でなくてよいと思ってくれたのだろう。王妃のために用意された部屋をそのまま使うことに快諾してくれた。

「王妃としての権限も、権威もいらないわ」

 飢餓に見舞われてからずっと、役立たずの王女だと言われ続けてきた。
 王女としてのプライドなんてその時にへし折れたし、立場だけあっても意味がないのだと気づかされた。

 私がほしいのは、権限でも権威でもない、愛だ。

「だけど……私を愛してくれる人なんているのかしら」

 オーギュストは無理だ。彼には愛する女性ができる。
 だけど王妃になると思われている相手に懸想してくれるような人なんているのだろうか。

 王の不興を買うことを理解しながら愛を貫く――美談にも聞こえてきそうだけど、やっていることは浮気と変わらない。
 オーギュストと愛を誓い合ったわけでも、関係を持ったわけでもないけど、それでも結婚すると目されている相手だ。

「浮気上等な相手も、それはそれでいやね」

 一年という時間を得たわけだけど、ただでさえ愛を得るのは難しいのに、余計な身分までついている。

「本格的に動くのは、彼が彼女を愛してからにするべきかしら」

 一年という時間。それが過ぎれば私はお役ごめんとなる。
 だけど私の生国は帰ってくることに良い顔をしないだろう。

「手に職でもつけようかしら」

 私はこれから結婚の準備を進める身だ。あちこちに出歩いていても、それほど不自然ではないだろう。
 心置きなく過ごせる場所を見つけられても、身の回りのことすらできないのでは生活はままならない。
 あと、お金を稼ぐ手段も必要になる。

 考えれば考えるほど、ただ愛を得るだけというのは難しそうだ。
 一年という時間で自分に何ができるのか考えながら、私は再度眠りについた。
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