【完結】夕凪のピボット

那月 結音

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Episode3:崇弥の気持ち

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 長皿に鰤の照り焼きを盛りつけ、はじかみ生姜を添える。
 鰹節をまぶしたほうれん草のおひたし。湯気立つあさりの味噌汁。
 つやつやの白米をよそい、きゅうりの浅漬けを小皿に乗せれば、この日の夕食が完成した。
「わっ、今日もすごく美味しそう」
 と、ちょうど風呂上がりの崇弥がダイニングへとやってきた。
 目を輝かせ、感嘆の声を上げる。髪を下ろし、ルームウェアを着たその姿は、やっぱり大学生だ。
「熱い緑茶と冷たい麦茶、どっちがいいですか?」
「うーん……今は冷たいほうがいいかな。俺が淹れるから、瑛茉ちゃんは座ってて。瑛茉ちゃんは何飲みたい?」
「えっ、あ、と……じゃあ、わたしも麦茶を」
「了解」
 崇弥から麦茶の入ったグラスを受け取り、ふたり対座して手を合わせる。
 この日も、終始「美味しい」を連呼しながら、崇弥は一人前を完食してくれた。
 正直、あんなことがあったあとで食べてくれるか不安だったが、それは杞憂に終わった。
「……あまり謝ると萎縮させちゃうってわかってるんだけど、もう一度だけ」
 食後の片づけも終わり、緑茶を飲みながら、ひといきついていたときのこと。
 居住まいを正した崇弥が、真剣な表情でこう切り出した。
「ほんとにごめん。親父がここに来ること、予測してなかったわけじゃないんだ。瑛茉ちゃんを巻き込まないように、もっと気をつけておくべきだった」
「い、いえっ! わたしは本当に大丈夫です。ちょっと驚いたくらいで。……九条さん、お見合いされたんですか?」
「俺はしたつもりも今後するつもりも毛頭ないんだけどね。……ほら。瑛茉ちゃんがうちに来るって決まったあの日。カフェに行く前、実は先方と会ってたんだ。会って、結婚するつもりはないって直接伝えたら、案の定親父が憤慨してその場で大ゲンカ」
「お相手の方は、その……それでも、九条さんとのご結婚を、望んでらっしゃるんですか?」
「みたいだね。あんなはっきり断って、あんな醜い親子ゲンカ見せられたら、普通引くと思うんだけど」
 辟易とした顔で、ため息交じりに崇弥がこぼす。
 九条光学は、伝統的かつ先進的な会社として、業界最大手の地位を築き上げてきた。伝統を重んじることはもちろん、時代の先を見据えた柔軟な発想で、いくつもの不可能を可能にしてきたのだ。
 現在、その先頭に立っているのが、副社長の崇弥。「彼のアイデアなら」と、社内外から絶大な支持を集めている。レンズやカメラの販売量は右肩上がり。事実、崇弥が副社長に就任したこの五年で収益は跳ね上がり、国外の企業や研究機関からも、九条の製品は注目を集めている。
 そんな中、社長である匡士郎が息子に命じたのは、〝西園寺グループ〟の令嬢との見合いという、なんとも時代錯誤なものだった。
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