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Episode5:花火の下で
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「花火大会、ですか?」
春学期の試験も無事に終了した、七月末日。
仕事から帰宅した崇弥に見せられたのは、とある花火大会のチラシだった。
「うん、今週の土曜にね。知ってる? 湾岸花火大会」
「あ、聞いたことあります。見たことはないんですけど。有名な花火大会ですよね?」
毎年八月の第一土曜に東京湾で開かれている、大規模な花火大会。打ち上げ総数二万発以上の花火が夜空を彩る光景は、まさに圧巻のひとことだ。
この花火大会には、関東の企業を中心に多くの協賛企業が集まっており、九条光学もその中に名を連ねている。
「当日の撮影や動画の配信に、うちのカメラが使われることになっててね」
「……あっ。もしかして、このチラシの写真も?」
「そうそう、去年うちのカメラで撮ったやつ」
赤、青、黄、緑——繊細な色合いで夜空を彩る、大きな牡丹花火。
チラシに採用された写真、その美しさに、瑛茉はしばらく無言で見惚れてしまった。
「運営会社から、関係者席ふた席用意してるって連絡があったんだけど、よかったら一緒に見に行かない?」
「……え?」
唐突な崇弥からの申し出に、思わず目を丸くする。
「え、と、関係者席って……」
「打ち上げ台の正面にある桟敷席だよ。すごくきれいに見えるんだ」
「で、でも、わたしが行っても大丈夫なんですか? お仕事、ですよね……?」
自分は仕事関係者ではない。ただの学生で、まるきり部外者だ。
瑛茉のこの素朴な疑問に対し、崇弥が笑って答える。
「大丈夫。仕事って言っても、普通に花火観賞するだけだから。……日本の打ち上げ花火、見たことある?」
「あ、はい。小さい頃、故郷の島で」
「来日してからは?」
「ないです。テレビや動画で、少し見る程度で」
写真の花火が、記憶の中の花火と重なる。家族三人の思い出がつぶさに蘇り、瑛茉はひどく懐かしい気持ちになった。
「……一緒に行ってくれませんか?」
改まった口調でこう誘うと、崇弥は瑛茉の顔を覗き込んだ。艶やかな黒眼が、上目がちに瑛茉の瞳を掬い上げる。
興味がある。見てみたい。日本に対して特別な思い入れがある瑛茉の心情を汲みとった、崇弥の配慮だった。
「わ、わたしでよければっ。……よろしく、お願いします」
ほのかに頬を染めながら、瑛茉は小さく頷いた。口元をそっと綻ばせ、ふわりと笑う。
そんな瑛茉の姿を見て、崇弥は満足そうに微笑んだ。
春学期の試験も無事に終了した、七月末日。
仕事から帰宅した崇弥に見せられたのは、とある花火大会のチラシだった。
「うん、今週の土曜にね。知ってる? 湾岸花火大会」
「あ、聞いたことあります。見たことはないんですけど。有名な花火大会ですよね?」
毎年八月の第一土曜に東京湾で開かれている、大規模な花火大会。打ち上げ総数二万発以上の花火が夜空を彩る光景は、まさに圧巻のひとことだ。
この花火大会には、関東の企業を中心に多くの協賛企業が集まっており、九条光学もその中に名を連ねている。
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「……あっ。もしかして、このチラシの写真も?」
「そうそう、去年うちのカメラで撮ったやつ」
赤、青、黄、緑——繊細な色合いで夜空を彩る、大きな牡丹花火。
チラシに採用された写真、その美しさに、瑛茉はしばらく無言で見惚れてしまった。
「運営会社から、関係者席ふた席用意してるって連絡があったんだけど、よかったら一緒に見に行かない?」
「……え?」
唐突な崇弥からの申し出に、思わず目を丸くする。
「え、と、関係者席って……」
「打ち上げ台の正面にある桟敷席だよ。すごくきれいに見えるんだ」
「で、でも、わたしが行っても大丈夫なんですか? お仕事、ですよね……?」
自分は仕事関係者ではない。ただの学生で、まるきり部外者だ。
瑛茉のこの素朴な疑問に対し、崇弥が笑って答える。
「大丈夫。仕事って言っても、普通に花火観賞するだけだから。……日本の打ち上げ花火、見たことある?」
「あ、はい。小さい頃、故郷の島で」
「来日してからは?」
「ないです。テレビや動画で、少し見る程度で」
写真の花火が、記憶の中の花火と重なる。家族三人の思い出がつぶさに蘇り、瑛茉はひどく懐かしい気持ちになった。
「……一緒に行ってくれませんか?」
改まった口調でこう誘うと、崇弥は瑛茉の顔を覗き込んだ。艶やかな黒眼が、上目がちに瑛茉の瞳を掬い上げる。
興味がある。見てみたい。日本に対して特別な思い入れがある瑛茉の心情を汲みとった、崇弥の配慮だった。
「わ、わたしでよければっ。……よろしく、お願いします」
ほのかに頬を染めながら、瑛茉は小さく頷いた。口元をそっと綻ばせ、ふわりと笑う。
そんな瑛茉の姿を見て、崇弥は満足そうに微笑んだ。
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