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Episode5:花火の下で
④
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海沿いの遊歩道は、打ち上げ時間を待つ人々で賑わっていた。
手を繋いで歩く恋人たち。はしゃぎ通り過ぎる子どもたちを、ベンチに座った老夫婦が微笑ましそうに見つめる。
関係者専用の駐車場に車を停め、崇弥は瑛茉を連れて会場へと向かった。瑛茉の足元を気遣いながら、ゆっくりと歩みを進める。
「ここから少し距離あるんだけど……大丈夫? 足、痛くない?」
「大丈夫です。……はなお? の部分が痛くないものを選んでくださったので」
崇弥の気遣いに、目線を落としながら瑛茉が答える。
瑛茉の履いている下駄は、鼻緒の部分が柔らかく、甲にあたる花緒はまるで布団のようにふかふかしていた。サイズもちょうどいいため、まったくと言っていいほど違和感がない。
浴衣を着たことがない瑛茉のためにと、女将は浴衣を着る際の注意点について丁寧に説明してくれた。
歩幅を小さくすること。椅子に座る際は浅めに腰掛けること。階段の上り下りは、とくに気をつけること。
初めてのことで多少不安もあったけれど、実際に着てみると、想像以上に涼しく快適だった。機能的で意匠的。瑛茉はすっかり浴衣の虜になった。
「九条さんは、スーツなんですね」
「そうなんだよ。暑苦しいったらないんだけどね。立場上、仕方なく」
今日も今日とて、崇弥は上下黒のスーツでかっちりと固めていた。長袖にネクタイに革靴。いくら夏用の薄い素材とはいえ、彼の言うとおり暑そうだ。
「わたし、てっきり九条さんも浴衣だと思い込んでしまって、さっきお店でこれを……スーツでも使えなくはないんですけど」
そう言って、瑛茉は籐のかごバッグからあるものを取り出すと、そっと崇弥に手渡した。目を丸くし、疑問符を飛ばす崇弥に、開封するよう促す。
シンプルかつ丁寧にラッピングされたその中身は、男物の扇子だった。
「きれいな京扇子……藍染だ。……え? これ、俺に?」
「はい。いつもたくさんお世話になってるので……ほんの気持ちです」
扇面に広がる繊細なグラデーション。藍染の清涼感と黒檀の重厚感が織りなすコントラストが、洗練された美をより際立たせている。
まるで、夏の深い夜空のような。
「ほんとにもらっていいの?」
「もちろんです。今までわたしがいただいたものに比べると、全然足りないんですけど」
「ううん、そんなことない。……ありがとう。大切にする」
嬉しそうに目を細めて笑った崇弥に、つられて瑛茉も笑う。
……思ったとおりだ。この扇子の幽玄さは、彼によく似合う。
悩ましい。楽しい。甘酸っぱい。
彼のことを考えながらこれを選んでいるときの気持ちを思い返し、瑛茉はあたたかい気持ちになった。
手を繋いで歩く恋人たち。はしゃぎ通り過ぎる子どもたちを、ベンチに座った老夫婦が微笑ましそうに見つめる。
関係者専用の駐車場に車を停め、崇弥は瑛茉を連れて会場へと向かった。瑛茉の足元を気遣いながら、ゆっくりと歩みを進める。
「ここから少し距離あるんだけど……大丈夫? 足、痛くない?」
「大丈夫です。……はなお? の部分が痛くないものを選んでくださったので」
崇弥の気遣いに、目線を落としながら瑛茉が答える。
瑛茉の履いている下駄は、鼻緒の部分が柔らかく、甲にあたる花緒はまるで布団のようにふかふかしていた。サイズもちょうどいいため、まったくと言っていいほど違和感がない。
浴衣を着たことがない瑛茉のためにと、女将は浴衣を着る際の注意点について丁寧に説明してくれた。
歩幅を小さくすること。椅子に座る際は浅めに腰掛けること。階段の上り下りは、とくに気をつけること。
初めてのことで多少不安もあったけれど、実際に着てみると、想像以上に涼しく快適だった。機能的で意匠的。瑛茉はすっかり浴衣の虜になった。
「九条さんは、スーツなんですね」
「そうなんだよ。暑苦しいったらないんだけどね。立場上、仕方なく」
今日も今日とて、崇弥は上下黒のスーツでかっちりと固めていた。長袖にネクタイに革靴。いくら夏用の薄い素材とはいえ、彼の言うとおり暑そうだ。
「わたし、てっきり九条さんも浴衣だと思い込んでしまって、さっきお店でこれを……スーツでも使えなくはないんですけど」
そう言って、瑛茉は籐のかごバッグからあるものを取り出すと、そっと崇弥に手渡した。目を丸くし、疑問符を飛ばす崇弥に、開封するよう促す。
シンプルかつ丁寧にラッピングされたその中身は、男物の扇子だった。
「きれいな京扇子……藍染だ。……え? これ、俺に?」
「はい。いつもたくさんお世話になってるので……ほんの気持ちです」
扇面に広がる繊細なグラデーション。藍染の清涼感と黒檀の重厚感が織りなすコントラストが、洗練された美をより際立たせている。
まるで、夏の深い夜空のような。
「ほんとにもらっていいの?」
「もちろんです。今までわたしがいただいたものに比べると、全然足りないんですけど」
「ううん、そんなことない。……ありがとう。大切にする」
嬉しそうに目を細めて笑った崇弥に、つられて瑛茉も笑う。
……思ったとおりだ。この扇子の幽玄さは、彼によく似合う。
悩ましい。楽しい。甘酸っぱい。
彼のことを考えながらこれを選んでいるときの気持ちを思い返し、瑛茉はあたたかい気持ちになった。
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